あたしは、ごしゅじんさまのせなかをみていた。
あいつと大切なご主人様が話している。大切な主であるウォルスさまとの会話を、息を潜めて聞いている。
あたしは知ってるの。ウォルスさまは、一番の人から「最後」を貰うんだって事を。
その「最後」をウォルスさまは、あいつに要求している・・・!
なんであの人間に求めるの?
森で拾っただけじゃないの!
面白そうだから、育てただけじゃないの!
あたしが「一番」になれないって解ってる。そこまでばかじゃない。
けど、けど、なんであいつなの?!
あいつは、「滅び」をもたらす。
人間のクセに、子供のクセに、あんなに魔力をもっていた。
あの家に入れるのは反対だった。けどご主人様は絶対だから、言うとおりにするしかなかったの。
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あたしはヤモリだった。
すごく昔に、住んでいた黒森でへびに食べられそうになった。
追い詰められて、鎌首をもたげたへびが大きな口を開けてあたしに飛びつこうとしたその時だった。
――――ぐしゃ。
きれいな足が蛇の頭を踏みつけていた。
「目障りだ。」
少し低めの声は魔力を秘めていて、聞いたあたしの心をとかす。
見上げたら、くすんだ金色の髪をしたすごくきれいな不死者がこっちを見下ろしていたの。
森の烏が言っていた「ルビー」っていう赤いきれいな宝石がこの世界にはあるって。
赤いきれいな目を見てたら、これが「ルビー」っていう石なんじゃないかと思って。
見惚れていたら、あたしを助けてくれたきれいな不死者はくるりと背中をむけてさっさと何処かへ行こうとしていて。だから追いかけた。
あのきれいな不死者にお礼を言いたかったから。
ありがとうございますって、言いたかったから。
いっしょうけんめい、おいかけた。
そうしてたどり着いたのは森の奥の小さな家で。
狐たちが噂をしていた家は本当にあったんだって思った。
でも扉は閉まっていて、魔法が邪魔をしていて、中に入れなかった。
あたしはヤモリなの。ヤモリは家を守るものなの。
だから家の外で家を守ったの。
はじめは飛んでくる虫を食べることくらいしか出来なかったけど、少しずつ大きなモノも追い払える様になっていった。
魔法のせいで家に近づけなかったけど、それもいつの間にか家の窓や扉に張り付くことが出来るようになっていた。
出会って随分と月日がすぎた三日月の夜、きれいな不死者が扉をあけて立っていた。
扉が開いた瞬間、ぽとりと地面に落っこちたあたしにむかって。
「おいで。」
家に入れてくれた。色々な話をしてくれた。
きれいな不死者は「ウォルス」っていう名前だって、教えてくれたの。
ウォルスさま。
なんどもなんども名前を繰り返すあたしを見ながらこう言った。
家に張り巡らせた結界とあたしの持つ魔力が少しずつ同化していった。だから結界が無意味になったのだと。
今家の中に入ったから、次はウォルスさまの魔力の干渉をうけてしまうだろうって。
テーブルの上であたしはウォルスさまを見上げる。
くすんだ金髪を無造作にかきあげながら笑う。美しいくちびるが弧をつくる。
「私に続があると印をつけるか。」
言いながらぷつっと髪の毛を一本抜いた。抜いた金糸を何重にもあたしの首に巻きつけて、最後に背中でちょうちょう結びをしてくれたの。
自分では見えないけど、きっと月の光で金糸はキラキラと光っているんだ。
なみだが出そうなくらいにうれしくて、おれいを言おうとしたら。
「お前は奇麗だな。」
何を言われたかわからなくて、固まってしまった。
ウォルスさまはテーブルの上にある、きらきら光る小さな石を親指と人差指でつまむと、窓へとかざした。
「雲母(マイカ)の様な皮膚だ。」
きらきらな石を元にもどすと、その人差指であたしのあたまをちょこちょことなでてくれたの。
「だからお前は『マイカ』だ。」
名まえを下さった。
それだけじゃない。ウォルスさまの魔力のえいきょうで、いずれ「ひとがた」を取れるようになるだろうって言ったの。
それは、本当だった――――
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あたしはヤモリにもどって必死にあいつの元へとむかった。
あいつがウォルスさま何かしようとしたら、後ろからおそって殺すために。
会話にむちゅうになっているあいつは気付かないだろう。ばかじゃないの。
日が当たる場所は通れないから、境界線ぎりぎりのルートをとって。
あいつの後ろでひとがたを取り様子をうかがう。
聞きたくない言葉ばかり聞こえてくる。
言葉があたしの心を斬りさく。
ウォルスさまの声があたしの足をつかむから、うごけないよ。
そして――――
「バーン・ストーム!」
ウォルスさまは炎につつまれた。
「ウォルスさま!!」
あいつを追いこしてウォルスさまに駆け寄るあたしの腕を、あいつが掴む。
いたい!はなせ!!
「マイカ!」
あいつがあたしの名前を言った。
あたしの名前を呼んでいいのはウォルスさまだけなの!今までがまんしてきたのよ!!
「ウォルスさまあぁぁぁlーーーーー!!」
叫びながら掴まれた反対の腕をひっしで伸ばす。
掴まれた腕を振りほどこうとするけど、離れない。
離せ、ウォルスさまのもとへ行けないじゃないのよ!
炎のなかでウォルスさまはあたしを見た。そして手を差し伸べてくれた。
「マイカ。」
あの紅いくちびるが、うごく。
「来るか?」
音はしない。
はい、ウォルスさま。
ひとがたではなく家守のすがたで、今まいります。
ヤモリのあたしは乗っかっていたあいつの手から地面へと降りて、ウォルスさまへと駆ける。
ざまあみろ!
おまえはウォルスさまの一番だ。だからウォルスさまは「最後」をおまえに求めた。
けれど、一番だから一緒にいけないの。
一番だから、ウォルスさまはおまえと一緒には絶対にいかないの。
あたしは一番でないから、一緒に逝けるのよ!
あたしへと伸ばされた白い手にむかって、じめんを蹴ってあたしは飛ぶ。
ウォルスさま、ウォルスさま、ウォルスさま。
あたしの大切な大切なごしゅじんさま――――