棘   作:moon

6 / 9
続・棘 J.Dウォルスの掲げた右手

地上から遠く離れた天空城で、私(わたくし)は姉の最後を見た。

 

天より穿たれた黒森の穴は、バルコニーに立って上空から見ても目視は不可能だわ。そこいらの不死者であれば。でも、私には見えるの。何故なら魂の半分を持つ私のお姉様がそこにいるのだから。

そして私は「黒森の魔女」と対なす「天空の魔女」だから。

 

炎に包まれたお姉様は不意に空を見上げる。私との視線がぶつかり、微笑んだ。二人で顔を見合わせて笑いあった遠い遠い昔が蘇る。

髑髏が付いた杖を空へと掲げて手を離す。轟音と共に一際大きな炎が黒森から天空へと一直線に伸びて、空へと、いいえ私へと迫ってくる。

私が視線で追う杖は炎の勢いを借りたまま止まる事を知らず、やがて私の真正面までくるとぴたりと静止した。

 

しゃれこうべが口を開く。

J.D. お別れだ――――

残酷な言葉を放った。私は左手を伸ばして杖を手にすると、お姉様の魔法の残り香を、手の平から私の内部へと取り込んだ。

私と同じ声で、魅惑の音で、お姉様の最後の言葉が私を捕らえる。私を捕らえたまま、黒森の炎は消えた。

私はぎり、と唇を噛んで拳に力を込める。お姉様はひどい。私を捕らえたままで、自分はさっさと滅びに身をまかせてしまう。

お姉様は昔から自分が愛する者から滅びを受けると決めていたけど、私に滅びを求めはしなかった。

 

それはいい。何故なら、不死者であればあらゆる意味で最大の存在は「不死者王」なのだから。

いくら私達でも、ブラムス様から死を賜るなどいう事は有り得ない。あの方は己が不死者達の頂点に立っているという意識はお持ちなのかも知れないけれど、その権利を行使しようとはなさらないから。仮に不死者王に挑んだのであれば、結果として滅ぼされるという点にのみ、その手にかかるという可能性が発生する。でもお姉様は不死者王に挑むなんて事はしないわ。

では誰がお姉様を滅ぼす?私はお姉様を滅ぼそうなどとは思わない。離れてしまった距離を短くしようとは思わないし、何より愛する存在を消そうとは思わない。

双子の妹である私と全く同じ姿はとても美しい。見ていて惚れ惚れするもの。お姉様と同じ声は魔力に溢れ、聞いた者の精神と魂を溶かすのよ。

だから、お姉様に滅びをもたらす者なんて、存在しないと思っていた。

少し前までは、そう思っていた。

 

----------

 

炎が消えた地面で、あの人間が膝を突き、両手を灰の上で握り締めている。まるで獣の様に喚き散らす。声と同時に咆哮する魔力が力場の空気を振るわせる。

人間風情が、私のお姉様を滅ぼした。

私のお姉様の愛する者があの薄汚い存在だというのか?

私より喚き散らすゴミの方がお姉様は大切だというのか?

私の愛する姉を、たかが人間如きが奪ったわ。

永遠に――――

 

赦されざる者、ソロン。

ウォルスお姉様を奪ったばかりか、その身にあり余る加護を受けているのも、私は非常に気に入らない。

最後に「ソロン」とお姉様がお前の名を呼んだ瞬間、お前に守護魔法が発動した。

お姉様は立体魔方陣の大家でもある。気付かれない様に密やかにあれだけの魔方陣を発動させた。私は妹だから長い間お姉様と一緒にいて、ある程度手の内が理解できるから察知出来た。けれど私以外の者は魔法の気配すら気付かないでしょう。現に守護を受けている本人も全く気付いていないのだから。

守護陣は、一度だけ全ての攻撃から対象者を完璧に守る術式なのね。よくもこれだけの術を陣に仕込んだものだと感心してしまうわ。しかも守護陣は、お姉様のように美しい。あの人間の数センチ上を対象者の形で覆っている。これだけ見ても、お姉様がどれだけあの人間を大切に思っていたかが解る。解りたくもないのに、あの人間は見せ付けるのよ!

 

私は頭を上げた。フードが後ろへと流れて、お姉様と同じ髪の色が顕になり、不死者の赤い双眸は空を見る。

私は微笑み、噛んでいた唇を開いた。

 

----------

 

お前とウォルスお姉様の絆を絶つ。

 

「我、久遠の絆を絶たんと欲すれば」

 

お姉様の守護陣に守られているお前は・・・目障りなのよ。

 

「言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう。」

 

左手で杖を握り締め、右手を空へと掲げる。

右手のはるか上に現われた槍は風を斬る音と共に回転し、目標をあの人間に定めた。

 

「ファイナルチェリオ!!」

 

嗤いながら右手を勢いよく下へと振りぬく。同時に黒い槍はあの人間の男目掛けて一直線に急降下した。

 

まがりなりにもお姉様が「賢者の資質あり」と見込んで育てた人間だから、そうそう命の危機に晒される事はなと思うけれど。何事もなければ、たった一度だけ発動する守護陣が、いつまでもどこまでもあの人間を守るという事実に、我慢がならない。

だから今、その一度を使ってあげるのよ。感謝なさいな。

お姉様が見込んだ人間にはそんな守護魔法など必要ないわ。自力で何とかするのが筋でしょう?

 

お姉様は、知っていた。

私があの守護魔法に気付き、攻撃魔法で守護魔法を消去する事を。

私は、知っていた。

たった一度の守護は、私の攻撃に対する防御である事を。

 

 

私(わたくし)は天空城の中へと戻る。判りきっている結果など見たくはないから。

お姉様と同じ顔なのに、今の私の顔は醜いわ。

 

もっとお姉様みたいに美しくしなければ――――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定