八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
何時ものように龍田達を港から見送った後の帰り道。
「提督よ、そろそろ建造できるのは無いか?」
そう私の隣を歩いていた初春が切り出した。
「そうだね、4人とも結構錬度はあがってきてるし、頃合いと言えば頃合いなんだけど・・・」
歯切れの悪い私の言葉に五月雨が小首をかしげる。
「えっと、何か問題でもあるんでしょうか?」
「うちはまだ第三艦隊運用許可貰ってないよね?」
そう、鎮守府としては1からのスタートとなる為、第一艦隊と第二艦隊の2艦隊しかまだ運用許可が下りていないのだ。
「そういえば、そうですね・・・」
「まぁ、龍田達だけに任せっきりってわけにもいかないし、少しずつやっていこう」
「交代要員は絶対必要だからな」
「はいっ、ずっとだと疲れちゃいますもんね」
「そういう事、それじゃ二人とも技師長の所へ行こう」
「はーいっ」「了解じゃ」
「ん、まだ設計は終わってないよ?」
「ああいや、今日は別件ですって」
「ん?他にまだ何かあったっけ?」
「今日は建造をお願いしようと思って」
「ほほーう・・・」
そういうと技師長は目を光らせた。
「何か目つきが怖いですよ・・・?」
そう言うと頬をぽりぽりと掻きながら
「いや、私って元々建造妖精だから、建造頼まれるのがやっぱり嬉しくってね」
「そうだったんですか、じゃあ生き抜きも兼ねてお願いできますか?」
「もちろんだよ、じゃあどっちがやるんだい?」
技師長に言われて二人は同時に顔を見合わせた。
「別にどっちかがずっとやらなきゃいけない訳じゃないんだし、毎日交代でやってみたら?」
「じゃあ、私からでいいですか!?」
目をきらきらさせながら私と技師長を交互に見る五月雨を見て、初春が軽くため息を付いた。
「それじゃ、今日は五月雨がやっておいで、初春は次頼むね」
「しょうがないのう・・・」
そういうと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「五月雨や、転んで工廠内を壊すでないぞ?」
「ひっどーい、私そんなにドジじゃないです~」
ぷく~とほっぺたを膨らませる五月雨の頭を撫でてやる。
「ははは、じゃあ頑張っておいで」
「えへへ、はいっ頑張りますねっ」
「むぅ・・・」
あの~、初春さん?五月雨を撫でてる間中すねを蹴らないでください痛いです。
「それで、何を作るか伝えてあるのか?」
そういえば、まだ何を建造して欲しいか伝えてなかったな。
「じとー・・・」
いや、口で言うのは止めましょうよ、可愛いですけど・・・
「うちはまだ資材が少ないから、最低数量で建造してもらっておいてくれるかな」
「最低量でですね?分かりました~」
「という事は、駆逐や軽巡の増員ね?」
「ええ、まだ第三艦隊運用の許可は貰ってないですが、交代要員も含めて24人くらいは最低居て欲しいですから」
「分かったわ、被っちゃった場合はどうするの?」
「その場合は近代化改修に回してください」
「じゃあ、被りは無しって事ね」
「はい、それでお願いします」
「提督、回数はどうしましょう?」
「今は特に開発資材の余裕が無いから、2回までに抑えておいて」
「わかりましたっ」
「それじゃ五月雨、技師長にしっかり教えて貰って頑張りなさい」
「はいっ、私頑張っちゃいます!」
ふんすと鼻息も荒くガッツポーズを取る五月雨。
張り切りすぎて怪我するなよ・・・?
「それじゃ、指示書は後で初春に持って行かせますねので頼みます」
「分かった、任せといて」
そういってトンと胸を叩く姿は実に頼もしい。
五月雨の手を引いて奥へと向かう姿はまるで仲のいい姉妹の様に見え、私は思わず目を細めた。
執務室に初春と戻っては来たものの、実を言うとやらなければならない事というのは殆ど無かった。
なんせ定期的に補給船で送られてくる資材は日常品を含めても僅かな量でしかなく、検品と受領処理なんかもあっという間だ。
そこで私は空いた時間を使って、訓練スケジュールを立てることにした。
「出撃ではなく、訓練とな?」
「うん、そうだよ」
「今、遠征に出てる龍田達もか?」
「そうだね、五月雨に建造して貰ってる子たちも含めて今後は全員でやって貰うつもりだよ」
「わらわ達がそんなに頼りないか?」
「いや深海棲艦と戦うという事に関しては、艦娘である初春達以上に頼りになる存在は無いよ」
「なら尚更、何故じゃ?」
「そうだねぇ・・・」
そう言って、彼女に1つの質問を投げかける。
「じゃあもし、海域に出撃していて、事前に司令官と打ち合わせて想定していた事以外の異常事態が発生した場合、どうする?」
「それは、もちろん司令官に連絡を取って対応策を請う」
「うん、それが普通の艦隊運用だね」
私の答えに引っかかりを感じたのか、初春が聞きとがめる。
「おぬしは、それではダメだというのか?」
「結論から先に言うなら、その通りダメだ」
「それは何故じゃ?」
「司令官というものは、私も含めて現場を直接見てないんだ。それなのに異常事態に対して適切な対応策なんて出せる筈が無い」
「現場を見て、今そこで何が起きているのか正確に知っているのは、実際に事象を目の当たりにしている艦娘達だけだ」
「それに、そういうレベルの異常事態なら一刻の猶予を争う筈だ」
「だから私は、海に出ているみんなに考えてもらって最適な方法を見つけて欲しいんだよ」
「おぬしは、指揮をせぬというのか?」
「いや、私も必要に応じて指示は出すし、必要だと思えば命令も出す」
「だけど、私が出来るのはせいぜい進撃するか撤退するかの判断位だ」
「だから、出撃した先で初春達がこれ以上は無理と判断したら、その時点で迷わず帰って来い」
「何故じゃ?作戦遂行は絶対の筈であろう」
「その作戦が原因でみんなが沈むのであれば、それはもはや作戦ではない」
「死ぬ気でやれば何とかなるという言葉もあるが、あれは心構えの話であって実際に命を掛けろという意味じゃないよ」
「そんな命を懸けなきゃならないような根性論は、丸めてゴミ箱にポイだ」
そして初春に向けてにやりと笑う。
「それに、実際その通りにやって私を含めたみんなの度肝を抜いてくれた艦娘達を私は知ってるよ」
眉根を思い切りよせ眉間にしわを寄せる初春。
「そんな話聞いた事ないんじゃが・・・」
そうだなぁ・・・と言いつつ執務室内にある端末へと向かうと、とある演習記録を引っ張り出した。
「ああ、まだ残ってた・・・よかったよかった」
「演習の記録?」
そういいながら横から覗き込む初春。
「何じゃこの結果は!!」
それを見た初春は、大声で叫んだ。
・・・私の耳元で。
「つつ・・・耳元は勘弁して欲しいね・・・」
「すまぬ・・・じゃが提督、この内容は本当なのか?」
「大本営の公式演習記録だから、改竄なんてされてないよ?」
「まさか・・・ありえぬ・・・」
錬度自体はそこそことはいえ正規空母1戦艦2重巡1に軽巡1、潜水艦1という艦隊に対し、迎え撃つのは軽空母一隻を入れた駆逐艦が旗艦の水雷戦隊。
結果は誰が見ても一目瞭然のはずだろうが、記録では水雷戦隊がA勝利を刻んでいる。
「これはね・・・私が以前に指揮官をしていた子達が残した記録なんだよ」
勝利者として名を連ねていたのは島風、川内、鳳翔、睦月、春雨、弥生の6名だった。
みんな、あの時は錬度以上の実力を発揮してくれたもんな・・・。
「提督、おぬし・・・」
おっと、今は感傷に浸ってる時じゃないな。
「ま、自分で考える事が当たり前になればこういう事も出来るって証明、かな」
「という事で、人数と資材に余裕が出来てきたらみんなにやって貰うから、初春もそのつもりでいてね?」
「う、うむ・・・」
そう返事する初春の返事は上の空で、その目はいつまでも演習記録を映した画面を見ていた。
後書きです。
はい、提督がどこかで見たことあるような設定になってしまいましたが、敢えて言い訳をするなら元々こういう考え方の人物です。
と言うか、この提督の思考パターンは実は作者のモノだったりします。
そしてこの演習結果も、実際に私が着任している鎮守府の艦娘が出した結果だったりします。
初春「登場人物考えるのが苦手じゃからといって、自分を出すのはどうかと思うぞ?」
ほっといてください!
それくらい苦手なんです!
初春「救いようが無い奴じゃな・・・」
あの、泣いていいですか?