八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
不定期タグは外せそうに無いです。
汐風着任という前代未聞の一大珍事が起きてから一週間程経ったある日。
「ええええ!?」
工廠に提督の叫び声が響き渡った。
「私は技術者よ、冗談なら言うけど嘘は言わないわ」
技師長から艤装の設計が出来上がったと連絡を受けた提督は、工廠の事務室に来ていた。
「しょうがないでしょう、あの子達には普通の艤装じゃダメなんだから」
恐らくは寝る間も惜しんで設計をしてくれたのだろう。
目の下に黒いものを浮かび上がらせながらもやりきったといった感じで表情には自信が溢れている。
「と言っても、基本は元の艤装とほとんど変わらないわ」
「と言うと?」
「あの子達のバイタルに合わせて材質を変え重量負荷を減らす以外には、艤装そのものの変更はないの」
「という事は、この大量の鋼材とボーキサイトは…」
「制御装置を作るのに使うのよ」
制御装置───
特異な力の過剰行使や感情のゆらぎによって内包する相反する力のバランスが崩れ、その結果深海棲艦化が進む。
ならば、深海棲艦としての力を抑えるようにすればいいのだ、と言うのが技師長の出した結果だった。
「もちろん万能じゃないわ、限界はある」
装置によって抑えられる限界を超えてしまったら、あっという間に症状が進行してしまうわ、という技師長。
「まるで、悪性のガンみたいなものだな」
「あら、似たような物じゃない」
放置すると悪化する所や私達じゃ根治出来ないとこなんかもそっくり、と眉をひそめる技師長に確かにその通りだと頷く。
「もちろん装置そのものは艤装に乗るくらい小さくなるわ、その代わり製造する為に専用の設備が必要なのよ」
なるほど、言われれば納得の理由である。
今も昔も、ワンオフ品が馬鹿高い理由のひとつは型押しで作れないからなのだから。
「分かりました、資材は鎮守府の在庫を使っていいのでお願いします」
「みんなの補給はどうするつもり?」
「私だけのほほんと見てるわけにもいきませんからね。意地でも確保します」
「そう…大丈夫と受け取っておくわ」
「お願いします、それとブラックじゃないんですからきちんと休みは取ってください」
そうね、この件が終わったら少し休暇でも貰おうかしら、と言いつつ奥に入っていく技師長に一礼すると提督も執務室へと帰っていった。
「何じゃと!?」
執務室から初春のと五月雨の叫び声が上がる。
「そんなにかかるんですかっ!?」
執務室に戻った提督は今の秘書艦で当事者でもある二人にさっき技師長から聞いた内容を告げた。
そしてそれを聞いた二人は消費する資材の量に飛び上がったのだった。
「わざわざ私達の為なんかに…」
そう言いながら二人は黙り込んでしまった。
「そういう自分を卑下するような物言いは、感心しないな」
「だって!遠征も出撃も何もかもみんなに任せっきりだし、私なんてしょっちゅうドジ踏んでばっかりだし、何のお役にも立ててないじゃないですか!ただ毎日提督のお側に居るだけなんですよ!?それなのに…」
「五月雨、おぬし…」
何か言いかけた初春だったがそれっきり口を閉ざしてしまった。
きっと、多かれ少なかれ五月雨と同じような気持ちを持っていたんだろう。
確かに今回必要となる資材は膨大な量だ。
戦艦を10隻建造してお釣りが来る。
今の鎮守府にある在庫では丸ごと吹っ飛んでしまう。
安易にゴーサインを出せば鎮守府そのものが傾きかけないのだ。
「何だよお前ら、揃いも揃ってしみったれた事言ってんじゃねぇ!!」
ノックもなく執務室のドアが開いた。
「天龍!?」
「おっと、俺だけじゃねえぜ?」
そう言う天龍の後には、鎮守府にいる全員の顔があった。
「五月雨にお初ちゃん、そんな事考えてたの?」
腕を腰に当て睨んでいる叢雲。
「僕達をもう少し信じて欲しいものだね」
澄まし顔の時雨。
「私達は、二人が好きだから頑張ってるっぽい」
肩をすくめる夕立。
「そうよ~、二人が役立たずなんて考えてる子なんてここには居ないわよ~」
龍田の言葉に全員がウンウンと頷く。
「みんな…」
「ああ、提督の片腕としてこの鎮守府内を仕切ってくれてる二人にそんな事言う奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやる!」
右腕を上げ力こぶを作るポーズをする天龍。
おいおい天龍、それはちょっと物騒だぞ。
「それによ、提督と二人が俺達に仕込んだ常に考えて動けって奴の成果、見せてやるよ」
「きっと一悶着あるだろうって思ってたから~、この際みんなの意見も聞いてもらえるかしら~」
その言葉に目を丸くする。
どうやら、思ってた以上にみんな成長してくれていたようだ。
五月雨も初春も目が真っ赤になってる。
やれやれ、私は何も見えてなかったかな…。
「よっしゃ、ならこれで話は決まりだなっ」
龍田から、皆で立てたという長期遠征計画の説明を受けた提督はいくつか懸念材料を指摘した。
しかし既に答えを用意してあったかの如く、すぐに誰かが修正案を提示してくる。
何度かそれを繰り返した後に、提督はしぶしぶ承認を下した。
翌日の朝。
「そんじゃ、第1班出発するぜ!」
「おー!!」
右手を突き上げる天龍に応えるように威勢のいい声が上がる。
「やれやれ、完全に一本取られた気分だね、私がいなくてもやっていけるんじゃないか?」
「だっ、ダメです!提督はいなくなっちゃダメですよ!」
提督の服の裾にしがみついて一生懸命訴える五月雨の頭を撫でながら大丈夫だよと伝える。
そんな光景をジト目で見ながら出港していった1班は、遠征の成果として大成功という表現では到底収まらないない量の資材を持ち帰り、全員が提督に頭なでなでを要求したという…。
天龍達が考えて来た案というのは、鎮守府の総出で短時間だけど最も効率のいい遠征のみを集中して行うというものだった。
それも、目標達成までの間24時間休みなしに交代で。
効率はいいけど量が少ないなら回数でカバーすればいいという至ってシンプルな理由だ。
提督は最初に夜間出港の危険性を危惧した。
だが、そこは全員予想済みだったようで、川内や夕立といった夜戦を得手とする艦娘が旗艦となり、随伴する者も比較的練度の高い一時改装を終えた者のみが務めることになっていた。
なら昼間はというと、天龍と龍田を中心とした軽巡が二人一組になり、まだ一時改装を終えてない駆逐艦たちを引率するといった具合だ。
最大限効率を追い求めた上で、安全を要求する提督を納得させる。
提督の性格をよく見抜いた艦娘達の勝利であるといえる。
そんなある夜、最早半分日常と化していた遠征の帰り道。
「何あれ?」
その日、夜間遠征の旗艦を受け持っていた川内は遥か水平線の彼方に奇妙なものを見つけた。
「川内、どうしたんだい」
「時雨見えるかな、あっちの水平線」
「何だろう、海がぼんやり光ってるね」
「なんか音も聞こえてくるしさ」
「音っていうか、これ音楽じゃないかな?」
「見に行ってみない?」
「やめときなよ、そっちは深海棲艦の反応がいっぱいだよ」
「え?うわホントだ、確かにこの数は無理かも」
「一応提督に報告だけはしておこうよ」
「そうだね~、でもアレなんだろうね」
そんな話をしながら帰りの道のりを急ぐ彼女達だった。
汐風「ちょっと、私の出番あれで終わりなんですの!?」
作者「書くと長くなるんで」
汐風「書けばよろしいじゃないですの!貴方風呂敷広げすぎですわよ!?」
作者「うっ…書いててかなり耳に痛いですね、これ…」
汐風「だったら書かなければよろしいのに…おバカさん…」