八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
そういえば、と五月雨と川内に挟まれて歩きながら思い出す。
あの時から全てが始まったんだったな・・・
今から3年前のある日───
「はい?」
思わず素で聞き返してしまった。何とも間抜けな声だったろう。
「何かおかしな所があったかね?」
「あ、いえ、申し訳ございません」
大規模作戦も終わりを迎えようとしたある日、私は大本営からの呼び出しを受けた。
呼び出したのは少将。
「では、質問がなければこれで終わる。着任は明日の0800だ」
「はっ、着任指令承りました」
少将に告げられたのは、謹慎の解除と元いた鎮守府は解体された事、再度提督としてとある鎮守府へ着任するようにとの指示だった。
だが、と記憶を辿ってみる。
先ほど少将から告げられた鎮守府は過去に解体されている、はずだ。
解体された鎮守府は欠番となり、同じ番号が使われる事は無い。
つまり存在しないはずの鎮守府への着任命令だ。
だが、ここは軍だ。行けと言われれば行くしかない。
正式な辞令及び資料等は先に現地へ送ってあるという。
内心ため息をつく。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。どちらにせよろくな事はなさそうだ。
佐世保管区805鎮守府───
比較的大戦初期に設立された鎮守府で、規模はさほど大きくはなかったらしい。
が、上げていた戦果は規模の割に多かったと聞く。
それがある日、突如司令官が行方不明になった。
その為、大本営の調査が入り結果としてそこは解体処分とされた。
そう、ここまでは大本営が内部通達として告知されている。
まぁ、司令官が行方不明ともなれば当然調査は入るだろうし、司令官が不在なら鎮守府として継続できるはずも無いだろうから解体処分となるのも分からない話ではない。だが…
「提督殿、如何なされましたか?」
車に同乗している憲兵が、何かあったのかという表情を向けていた。どうやら顔に出ていたらしい。
「ああ、うん、大した事じゃないんだけどね」
「はあ・・・」
考えていた事を誤魔化す為に、窓の外に目をやりながら続ける。
「こんな山道を歩いて行けと言われてたら大変だったろうな、とね」
「ははは、まぁこの辺りは都市圏からは遠く離れていますからな。それに司令官の移送と道中の警護は我々の職務です。お気になさらず…前方をご覧ください、まもなく着きますよ」
「はは、ありがとう」
言われて前を見ると、なるほど、少し遠目にそれであると分かるものがあった。
程なくして正門の前に到着すると、車から降りて辺りを見渡す。
やや錆の浮いた大きく分厚い鋼鉄製の両開きの扉。
門柱には恐らく看板があったのだろう。長方形の凹みがある。
中の様子は流石にここからじゃ分からないな。
キョロキョロ見回していると憲兵たちは「我々はこれで」と乗ってきた車で去っていった。
去り際に班長が言った「ご武運を」という言葉が少し引っかかるし、何でこんなにそそくさと逃げるようにかえっていったんだろうな。
それにしても…門衛が居ないどころか人の気配が無いところをみると、解体されたと言うのは本当だったんだろうか。
門の前にぼーっと突っ立っていてもしょうがない、と気を取り直し中に入ることにする。
ふと目をやると、通用門があり、扉が少し空いていた。
門衛もいないな、しょうがない。
「お邪魔しまーす」
と小声で言いながら通用門から中へと入る。
門をくぐると、目の前に広がった景色にぎょっとした。
うん、外からはほとんど見えなかったが想像以上に敷地内は酷い。
全然人の手が入ってなさそうな感じだし、こりゃ掃除が大変だ。まずは草むしりからやるかな、なんてことを考えながら辺りを見回す。
石畳の隙間からは雑草が伸び、植木は伸び放題。
ほとんどの建物の外壁は塗装が所々禿げたり色褪せたり壁が欠けたりしていて、もはや廃墟と言ってもいいんじゃないかな、妖精さんに言えば建物は直してくれそうだけど…
とそこで初めて違和感を覚えた。そうだ、ここに来てから艦娘も妖精も、誰ひとりとして姿を見せていない。
もし本当に誰も居ないのなら、秘書艦さえ居ない鎮守府で何をしろというんだろう。
と、そこで大本営で呼び出されたとき少将が言ってた事を思い出した。
そういえば、資料を送ってあるって言ってたな。
届いているとすれば執務室か配達室だな、とりあえず執務室に行ってみよう。
目的地を探して辺りを見回すと、そう遠くない所に見慣れた感じの建物があった。
ちょっとボロいけどあれが執務棟かな?こうやって見ると、どこの鎮守府も建物は大体同じ作りなのかな。等と思いつつ、一つの建物を目指して歩みを進める。
果たして予想通り、目指していたのは執務棟であり、二階の真ん中辺りに目的の部屋があった。
ここまで来る途中で視線らしきものを感じた気がするけど、やっぱり誰かいるんだろう。
執務室のぶ厚い木の扉を開けると、正面にある机の上には一通の大判の封書があった。封印を見るに大本営よりの物らしい。一体誰が置いたんだ。
首をかしげながら封をはがし開けてみると、一通の辞令と十数枚程度の資料らしきものが入っていた。
一枚ずつ手に取り、書いてある内容を確認していく。
指示書には805鎮守府へ提督として着任し艦隊の指揮を取れ、とあった。
これは既に聞いている通りなのでさらっと流して脇へ置く。
次に資料らしきものへと目を通す。
それによると、ここへは数名の艦娘が配属される事になっていて、艦娘のリストと装備品のリストが数枚。
艦娘が配属されるのなら、妖精さんも居るはずだ。まずは一安心という所かな。
流石に艦娘も妖精さんも無しで鎮守府を一から運営するのは、やり方がわからん。
が、ここまで来る間に妖精さんを含めて誰ひとり姿を見ていない。
まだ着いていないのか、もしくは揃って外出中か。
もしそうならなかなかに破天荒な部隊だよな。
次に各種物資の定期補給についてのリスト。
どう見ても通常の量と比較しても少なく見える、艦娘達にちゃんと食わせてあげられるかな。
軍が兵站を軽視するのは過去の大戦の時から変わらないらしい。
当分は遠征中心でやっていかないとうかつな事をしてるとたちまち干上がりそうだ。
他には入渠ドックと工廠の状態のリスト。
それと周辺海域の海図と鎮守府内の建物配置図、鎮守府周辺の地図だった。
ドックと工廠はちゃんと使えるらしいけど、どう見ても建物はボロボロっぽかったし一度見ておかないと不味いな。いざという時入渠出来ませんじゃ洒落にならないし。
施設の確認をしようと資料にあった配置図を片手に、工廠へと足を運ぶ。
外観どおりじゃない事を祈るか・・・
そんな事を思いながら錆の浮いた鋼鉄製の重厚な扉に手をかけ押し開く、と同時に響く砲撃音。
「は?」
扉が盾になる形になり、衝撃で後ろ向きに扉ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされつつ、今の音は12.7cmかな、などど考える。
て言うか、何で撃たれたんだろう・・・
「ぐえっ」
地面にしたたかに背中を打ち付ける。肺の中の空気が全部押し出されたような気がする。
そしてそのまま、あっさりと意識を手放した。
「ちょっとアンタ、何やってるのよ!最初は威嚇するだけで撃つなって言ったでしょう!!」
「だってぇ~・・・」
「ほんにヌシはそそっかしいのう」
「ん~、この人が新しい提督さん?」
「そうみたいね、敷地内に入ったところから見てたけど、ちょっと今までとは毛色が違うわね」
「ん~…判断するには、まだちょ~っと材料が足りないかしらね~」
「しかし、お主も思い切ったことをするのう~」
「まぁまずは私が色々聞いてみるわ~、このままここで死なれてもアレだし、運ぶの手伝ってくれるかなぁ」
「そうじゃの、皆もそれでよいかや?」
後書き、何書きましょうか。
恐らく、キャラ崩壊は多かれ少なかれあるかと思います。
あくまで私自身がそれぞれのキャラに対して持っているイメージが基準となっていますので、他の提督の方々から見れば違和感もあるかと思われます。
あくまでこの作品の中ではこういうキャラなんだなと思っていただければ幸いです。