八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
龍田に呼ばれて工廠の入り口まで来たんだけど、なんだこれ。
普通、建物には扉があるよね?何で扉が無いんだろう。
いや、デザインとして敢えて付けていない建物も勿論あるんだけど、これはどう見ても扉があった跡だと思うんだよな。
もしや、これはバカには見えない的な扉だっていうの?
いやいや、流石にないない。
「中にも入らずに、そんな所で何をしてるのかなぁ~?」
「うひぁひゅ!」
「ぷっ」
突然後ろから声をかけられて、思わず変な叫び声を上げてしまった。
「どうせ、しょうもない事を考えてたんでしょ~」
「い、いやいやいや、そんな事はないですよ?」
「バカには見えない扉とか何とか考えてたんじゃないですか~」
「何で分かったんですか!?」
「だって顔に書いてありましたから~」
「んなっ!?」
「うふふ~」
まだ殆ど分からないけど、ほんの少しだけ龍田の事が分かった気がする。
この龍田は、本当に恐ろしいほどに周りを良く見て先の展開をよく読んでる。
全ての龍田がこうじゃないんだろうけど、少なくともここに居る龍田の観察眼と洞察力では、並の司令官じゃ到底扱いきれないだろう。
そして、人間は弱い。
自分より能力のある者を妬み、疎み、恐怖する。
なるほど、棄てられたってのはそういう事なのかな。
という事は、他の子たちも多かれ少なかれ何かあるはず。
「・・・く、・・・いとく」
「提督~?」
「ん?」
「何度声をかけても返事がないから、立ったまま寝てるのかと思ったわ~」
「ごめんごめん、考え事始めるとどうも没頭してしまうらしいんだ」
「しょうがないわね~、じゃあまた説明するからちゃんと聞いてくださいね~」
龍田が言うには、ここの鎮守府には妖精さんが居ないらしい。
いや、正確には姿が見えなくなってしまった、らしい。
居なくなってしまったわけじゃないと言い切れるのは、装備開発用の機械類、建造用のドック、入渠用のドック、全てが稼動可能な状態にある為だ。
一つずつ龍田と一緒に見て回ったが、確かに全てが動かせる状態だった。
じゃあ何で消えてしまったんだろう。
いや、もしかしたら消えたんじゃなくて───
───そうね、多分その想像であってると思うよ。
「ん?龍田何か言った?」
「いいえ~、私は何も~?」
───ふふ、見極めさせてもらうね。
工廠の中を吹き抜ける風に乗って、また声が聞こえた気がしたが見回してもやはり誰も居なかった。
「龍田、こんな所におったのか。って、提督も一緒なのじゃな」
「おや?初春じゃないか」
「あ、あの。こんにちは・・・」
「こんにちは、五月雨も一緒なんだね。二人揃ってどうしたの?」
「龍田に聞いてみようかと思っておったのじゃが、提督も居るなら話は早いの」
「ん?何かあったの?」
「いや、先ほど食堂と厨房を見ておったじゃろう」
「そういや、二人して珍しそうに見てたね」
「うむ、その後作業してる人から少し聞いた事があっての」
うん?あいつまた変な事吹き込んだんじゃないだろうな。腕はいいんだけど相変わらず口の悪さはどうにかならんもんかな。
「あの改装工事、提督が設計から費用負担まで全部やったというのはほんとかや?」
げ、あいつばらしやがったのか!
「何ゆえおぬしがそこまでする?龍田じゃなくとも何か裏があると勘ぐらずにはおれんぞ」
「あー、別に裏があるってわけじゃないんだよ」
「昨晩使ってみて、だいぶ使いにくかったからね」
「まぁ、確かにわらわ達もかなり不便はしておったのう」
「だろうね」
「じゃが、それだけではあるまい?」
「ん~、言わなきゃダメ?」
「ダメじゃ」
「ちょっと恥ずかしいんだけどな」
「なら、なお更聞かせてもらわなきゃね~」
「あの、私も知りたいです」
「三人ともなのか、まぁたいした理由じゃないんだけどね」
「単に、君たちに毎日を快適に過ごして欲しい、ただそれだけだよ」
「それにしては、投資が多すぎる気がするわよ~?」
「そりゃ自分が納得いく出来じゃなのに、君たちにはさあどうぞとは言えないからね」
三人に背中を向けながら続ける。
「前にも言ったけど君たちは大切な仲間で、ここは私を含めて全員の家なんだ」
「帰ってきたいと思えない家には住まわせたくないし、一緒に暮らしていく以上絶対に衝突はあるだろうけど、基本笑顔で過ごしてもらいたい」
「つまり、私の単なるわがままなんだよね」
後ろ手に組んだ袖を誰かが引っ張る。
振り返った先に居たのは五月雨だった。
「あの、提督・・・」
「なんだい?」
「わ、私、一生懸命頑張りますね!」
そういうなり、走り去って言ってしま・・・
「きゃん」
あ、入り口でこけた。
立ち上がると、また走っていく。
「あらあら、これは~」
「そうじゃのう、これは・・・」
「二人とも一体どうしたの?」
「五月雨があんなにハッキリと物を言ったのはいつ振りじゃろうか」
「そうね~、とっても珍しいのよ~」
五月雨って、そんなに引っ込み思案な艦娘だっけ?
「実はのう・・・」
初春がぽつりと漏らす。
「五月雨とわらわは、この鎮守府の設立当初からここに居るんじゃ」
「ええっ!?」
「私も聞いた時はびっくりしたわ~」
「そんな事ってありえるの?」
「普通ならありえぬ話じゃ、解体された鎮守府に居た艦娘は例外なく初期化され再配置される、じゃがそもそもここ普通の鎮守府では無かったからの」
「普通じゃない?」
「今はまだ語れぬ、が、いずれ機会があればまた」
気が付くと初春は、工廠のドックから見える海の遥か彼方をぼんやりと見ていた。
どうやら私が思っていた以上に深い闇を抱えているみたいだ。
無理に聞き出してもろくな結果にはならない。
彼女たちが心を開いてくれれば、多分話してくれるだろうと今は信じよう。
ここがみんなの再出発の場所になれば、こんな嬉しい事はない。
───そう、それが私と彼女達の願い。
作者です。
最近仕事が忙しかったせいかものすごく筆が遅いです。
誰かターボつきキーボードくださ「代わりの作者はどこかしら~」