八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
「そういえば、何でだろう」
執務室で一人書類を眺めていた私は、誰に言うともなく呟く。
私が着任してからまだほんの数日しか経っていないが、ずいぶんバタバタしてたな。
あちこち荒れ放題で最初は鎮守府とは呼べない程だったのが、みんなが頑張って掃除や片づけをしてくれたおかげでずいぶん綺麗になった。
水雷戦隊の最初の任務が鎮守府内の草むしりとか、普通ありえないよな。
書類から目を外し、部屋を見回しながら一人ずつ顔を思い出していく。
時々とんでもなく怖いけど、しっかり者の龍田。
言葉遣いはきついけど、根は優しい叢雲。
落ち着いた立ち居振る舞いで、皆を纏めてくれている初春。
クールで、誰よりも広い視点で物事を見れる時雨。
自由奔放を地で行っているけど、ムードメーカーな夕立。
少々臆病でおっちょこちょいだけど、ひたむきで一途な五月雨。
まだ日も浅いしちゃんと理解できたわけじゃないけど、それでも私から見ればみんなとてもいい子達だ。
食堂と厨房の改装工事も無事終わり今では彼女達と一緒に厨房に立つ事もあるし、私の仕事も基本的に書類に目を通すだけなので、食事は食堂へ行って一緒に摂るようにしている。
そういえば、ドーナツ作った時はちょっとした争奪戦になったな・・・
多めに用意しておいて本当に良かったよ。
夕立と五月雨なんか野生化しかかってたもんな。
まだかなりぎこちなかったりおびえたような表情をしたりと不安要素は山ほどあるけど、ここに来た当初と比べれば少しは打ち解けられたかなぁ。
みんなの顔を思い出しながら、手元の書類に改めて目を通していく。
本営から定期的に来る補給船の輸送物資リストだ。
日用品に食料は、今の人数を考えれば十分にあると言える。
だけど・・・
通常の鎮守府を運営していくには明らかに少なすぎる資材。
この量だと、水雷戦隊を何度か出撃させただけで枯渇していまいかねない。
全くのゼロでないだけまだマシ、と言えるのだろうけど。
早急に遠征計画を立てて兵站の確保を行わないと、もし仮に深海棲艦が鎮守府を襲うような事があれば、その時点で詰みだ。
私は顔をしかめる。
うん、ちょっとこれは不味いよね。
そういえば、私が来るまでは龍田が仕切ってたんだっけか。
どうやって遣り繰りしていたのか聞いてみよう。
コンコン、コン。
龍田を探そうと執務室を出ようとすると、ドアがノックされる。
「入って良いよ」
「お邪魔するわね~・・・って、どこか行くつもりだったの~?」
入ってきたのは龍田だった。
ほらそこ、ご都合主義とか言わない。
「丁度良かった、龍田にちょっと聞きたいことがあったんだ」
「あら~、何かしら?」
「私が来るまで、補給や入渠に使う資材はどうしてたんだい?」
「どういう意味かしら~」
「これをちょっと見て欲しいんだよね」
そういうと、龍田と一緒に机まで戻り一枚の書類を手渡す。
「あら、これは補給船の物資リストね~」
「そうなんだけど、燃料や弾薬といった資材がどう見ても少なすぎるんだよね」
「そうね~」
「で、龍田達は出撃や遠征はどうしていたのかな、と」
そこまで言うと龍田は手元の書類から目を離し私の方を見た。
「一切しなかったわ~」
「だって、私達には艤装がないもの~」
「はあ!?」
思わず立ち上がって叫ぶ。
艤装が無い艦娘?ちょっと待て、落ち着け、理解が追いつかないぞ。
「私達、艤装ないのよね~」
カツカツ、と龍田が私の横まで来るとそのまま窓の外へと向く。
「この鎮守府に今居る艦娘は、全員艤装を奪われてるのよ~」
「奪われてるって、一体誰に?」
「大本営によ~?」
艤装───
艦娘であれば、どのような艦種であっても必ず背負い、あるいは身につけている、ある意味彼女たち自身と言っても差し支えのない装備品だ。
それは艦のマストであり艦橋であり、あるいは甲板であり、そこには兵装も含まれる。
艤装のない艦娘など存在しない筈だ。
棄てられた───龍田は自分たちを指してそう言った。
今も艦娘は貴重な戦力であるというのが大本営の見解だ。
艦娘本人の意思で、あるいは各鎮守府のローカルルールとして同名艦が被った場合等で解体を受け人間として新しい人生を歩んでいく艦娘は少なくない。
だけど、艦娘が棄てられると言う事自体がおかしい。
ふと、初春が言っていた事を思い出す。
『じゃがそもそもここは普通の鎮守府では無かったからの』
確かに彼女は、ここが普通ではなかったと言った。
『今はまだ語れぬ、が、いずれ機会があればまた』
私から問い詰めて聞き出さない方がいい、そう思わせるような言い回しだったな。
妖精さんとコミュニケーションが取れれば彼女達の艤装を作ってもらう事も可能なんだろうけど、姿が見えないんじゃ居るか居ないか分からないしな。
「分かった、ありがとう」
「あら~、もう終わり?じゃあ私から一ついいかな~」
「何か聞きたいことでもあるの?」
龍田がすっと目を細める。
「ええ、提督は艤装のない私達でも遠征に行かせたいのかな~とね」
「結論から言えば、ノーだ」
「あら、それは何故~?遠征は安全でしょ?」
「確かに遠征は危険が無いと言われている、だけど」
「だけど?」
「遠征からの帰投中に深海棲艦からの襲撃を受けたという話を聞いた事がある」
「ええっ!?」
「噂程度でしかないが、火の無い所に煙は立たないって言うしね」
「100%の保障が無い以上、自分の身を守る術を持たない皆を海に行かせたりは出来ないよ」
「ずいぶんと臆病なのね~」
「そうだな」
龍田の横に並んで経つと、同じように窓の外へと目を向ける。
「だけど、私はもう二度と誰一人沈めない」
左手首にリストバンド状に巻いた黒いリボンに手を添える。
「そう、絶対にだ」
「その為なら、例え臆病と謗られようと何とも思わんよ」
いつの間にか日が傾き始めていた。
夕日が海に反射し、ガラス越しに二人を照らす。
水面に映る反射光が、まるでかすかに残った希望のように儚く頼りなく揺れていた。
それは見ようによっては、揺れ動く光の道標のようにも見えた。
前回の投稿からかなり日が空いてしまった気がします。
まずはごめんなさい。
それと、作者の予想をはるかに上回るペースでUAが増えていて歓喜の踊りを踊ってしまいそうなくらいに嬉しいです。
この場を借りてお礼申し上げます。
増えるUA見てニヨニヨなんてしてませんからね?ホントですよ?
してませんよ?
「ボクの事書いてないじゃないか、君には失望したよ」
「さあ、どこから撃とうかしら?」
もう少し後の方でちゃんと書きます、忘れてたわけじゃないんですごめんなさい。
「アンタ…ま、いいわ もう…」