八重に連なる想い(旧:多分かんこれ) 作:キッド@水雷戦隊司令
五月雨、初春、時雨、夕立の過去について少し触れてあります。
分からなくてもいいやって人は飛ばしてやってください。
「やだ、こないで」
「いやああああああああああ!!」
不意に目が覚めた。まだ頭の片隅で白い服を着た男がちらついていた。
「もう・・・嫌・・・」
ここ数日は見なくなっててちょっと安心してたのに、なんでぇ。
掛けていた毛布ごと膝を抱えて震えていると、そっと頭に手を置かれる。
「ひうっ」
「わらわじゃ、五月雨」
恐る恐る声のした方を向くと、心配そうにこっちを見る初春さんが居た。
いつもはポニーテールにしている髪を下ろしているからかな、なんだか雰囲気がお母さんみたい。
「またあの夢、か?」
「う、うん・・・」
「そうか」
何も言わずそっと抱き寄せるとゆっくり頭をなでてくれる。
初春さんあったかいなぁ。また涙が出てきちゃった。
「うっ、初春、さん、どうし、て?」
「なんじゃ、わらわがここに居るのはおかしな事か?」
「ううん、そう、じゃなくて・・・ごめんなさい」
「心配せずとも、わらわはぬしとずっと一緒じゃ」
「たった二人の生き残りじゃからの、みなの分まで生きねばならん」
「そう、ですよね・・・」
生きる。言葉にするのはすごく簡単。たくさん居た仲間もあの男のせいで皆居なくなって、私と初春さんだけが残った。
お前らだけ何で買い手が付かないといい、機嫌が悪い時に殴られたり蹴られたりしたし、月に何度かは夜中に呼び出されてあの男の相手をさせられた事もあった。
私は、何なんだろう。
提督はいい人だと思う、でも。
抱えていた膝がずれてきていたので、改めて抱えなおす。
初春さんは、何も言わずにずっと撫でてくれていた。
あの男と提督を重ね合わせる。
いい人に見える人が、必ずしも本当にいい人かは分からない。
あの男も、最初はよく良そうな割といい人っぽい感じだった。
もう、騙されるのは嫌。
心の中に黒い感情が渦巻くのが分かる。
私は艦娘。
だけど、あんな目に合わされてまで人間の為に戦う必要はあるの?
私は、何?
わかんない。
頭の中をぐるぐる、ぐるぐる、疑問と黒い感情が渦巻いている。
それを包むように感じる手のぬくもり。
わかんないや。
そこで私の意識が途切れた。
「おっと、危なやのう」
急に五月雨の身体から力が抜け倒れそうになったので、あわてて支える。
悪夢で起きた五月雨は、しばらく支えながら撫でてやるとこうして意識を失うように再び眠りに付く。
初めの頃は下手に慰めようとしたら半狂乱になって、一晩中暴れまわった事もあったのう。
ふふ、と声が漏れる。
わらわと五月雨はあの悪夢が始まった時、偶然に部屋換えがあって同室となった。
同型艦ではないが、今となっては姉妹艦以上の信頼はあるじゃろうな。
おっと、こんな事を言うと子日が怒るかのう。
若葉、初霜、おぬしたちは今頃どこで何をしておるかのう。
みな、生きておれば再び見える事も出来るのじゃが。
と、そこで考えることを打ち切る。
「今夜は大丈夫そうじゃの」
そう呟くと、音を立てぬように戸を開けそっと外へと出る。
背中へと伸びる長い髪を風がそっと撫でる。
「ほう、今宵は良い風が吹いておるな」
ざりっ、ざりっと足元の土が音を立てるが、特に気にせず港に向けて歩みを進める。
港の一番端のさらにその外。鎮守府の敷地のほぼ端っこに位置する場所へとたどり着く。
これも、最早恒例と呼んで差し支えないのかのう。
五月雨を寝かしつけた後は必ずここへと来てしばし海を眺める。
水面に月が映りこみ、波に揉まれて歪にゆがんでいた。
わらわとて五月雨と同じ時を生きてきた。
両手をいつの間にか頭上へと上がっていた月へとかざす。
ふふ、わらわもこの傷と同じじゃ、実に醜い・・・
普段手袋で隠されている手は、大きくいびつな傷跡が無数に付いていた。
「まだ信ずるには至らぬぞ、提督よ」
青く輝く光が指の隙間から差し込み、紫の髪と瞳を怪しく照らす。
「いやああああああああああ!!」
かすかに聞こえてくる悲鳴とも取れる声に目が覚める。
この声は五月雨だね。
「ねえ、時雨」
「なんだい?」
「あの提督さんが来てから大丈夫っぽかったのに」
「そうだね、多分昼間に話した事のせいじゃないかな」
「やっぱり時雨もそう思うっぽい?」
「他に理由は無いと思うよ」
「ねえ、夕立」
「ぽい?」
「夕立は、あの提督の事どう思う?」
「ん~・・・」
夕立は人の心の機微に物凄く聡い。そして思った事をそのまま口にする。
それが原因で元居た鎮守府では提督に疎まれた。
だけど、彼女の人を見る目は確かだ。動物的勘といっても差し支えないと思う。
だからこそ、ボクは彼女が他の人に下す評価を全面的に信じている。
「優しい人。だけど、時々すごく哀しい目をしてる」
「哀しい目?」
「うん、凄く凄く哀しい目」
「あんな目をする人は、提督さんと初春さんと五月雨ちゃん位しか知らないっぽい」
「勘違いじゃないのかい?」
「うん、間違いないよ」
夕立がここまで言い切るんって事は、きっとそうなんだろうけど。
「ちょっと想像できないかな」
「時雨は疑り深いっぽい」
「人間なんて信じれるわけ無いじゃないか」
ボク達が元々居た鎮守府の提督は上昇志向が強く、失敗すると酷くしかられた。
酷い子だと、殴る蹴るってのがあたり前だったらしい。
確か、睦月って子が特に目の敵にされていたっけ・・・
あまりの扱いの酷さに耐えかね、ボクは夕立と他にも何人かの子達と一緒に遠征の帰り道を使って脱走した。
念には念を入れ、細心の注意を払って準備を重ねていたにもかかわらず途中で気づかれて追っ手がかかった。
当然だろうね、あの男にとって艦娘脱走なんて汚点は到底耐えられる筈がない。
追っ手になったのは第一艦隊。
金剛さんを筆頭とする戦艦と正規空母、重巡2隻に軽巡という本気の編成だった。
あの男と同じ目をした金剛さん。恋は盲目ってよく言うけどさ・・・
蹂躙と呼ぶに相応しい攻撃を受けて、全員が後1発でも受ければ轟沈って所で慌てて戻っていったんだっけ。何でも鎮守府に憲兵が来たとか何とか言ってたけど、ざまみろだよね。
海の真ん中で全員大破、僕も半分沈みかけてたし、このまま全員海に沈むのも悪くないかなって思ってた時「ねえ、時雨と夕立だけでも行ってもらおうよ」って。
全員でボク達を曳航して、力尽きた子から順に目の前で沈んでいって・・・
そんな嬉しそうな申し訳なさそうな顔しないでよ、全部ボクのせいなのに。
結局、最後までボク達を引っ張ってくれた旗艦の子も、ここの浜までが限界だったらしくボクと夕立の目の前で光に消えた。
その後の事は良く覚えてないけど、次に記憶があるのはここの入渠ドックだっけ。
妖精さんが心配そうにボクたちの周りを言ったりきたり忙しそうにしていたのを覚えてる。
「時雨、どうしたの?」
「なんでもないよ、ちょっと思い出してただけ」
「あの日の事?」
「他に何かあるかい?」
「それもそうね」
自嘲気味に夕立が呟く。
「私達、生きてるっていえるのかなあ」
「彼女達の分まで、ボク達が生きないとね」
「そうね、それがあの子との約束だもんね」
「そうさ、ボク達は絶対忘れちゃいけない」
そして、いつかあの男にせめて一矢報いてやる。
ボクたち艦娘は年老いる事はないんだから、まだ時間はあるさ。
自分で書いておいてなんですが。
俗に言うブラック鎮守府を想定して書いてます。
ブラックってどういうのだろう。
艦娘の扱い?犯罪?
正直あんまり気分のいいものではなのですが作者としては避けて通れないので頑張って書きたいと思います。
一気に書ければいいのでしょうが、そこまでの文章力が無いためストレスフルという謎の状態に。
ご褒美を目指して頑張ります。
うちの鎮守府は今日も平和です。
「提督!仕事してくださいね」