「おはよう俺の嫁たち!!!!!」
教室のドアを勢いよく開け、朝の挨拶をする。
視線の先は我が校屈指の美少女である3人がいる。
高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか。
「……はあ……うんざりだわ」
「お、おはよう」
「あっ、わたし日直だった」
見ての通り、俺の嫁たちである。
「あんた、あいつ何とかしなさいよ」
「……俺は関係ないだろう」
彼女たちと俺の出会いは、そう、3年前のあの日、施設を破壊して脱出した俺は――あん?
おや、俺の嫁が俺以外の男と話している。
……なんということだ。考えられん。こんなことがあっていいのか。
許せん、人の女に手を出すとはどういう了見だ。
「行きなさいって、ほら!」
「ちょ、押さないでくれ」
そいつは目の前まで出てきて、俺と対面した。
名前は……知らん。モブだ。
アニメに出てきた名ありのキャラクターは大体覚えているが、こんな奴はいなかった。俺と同じ転生者なのかもしれないが……
「なんだよ」
こいつと顔を合わせると酷く腹が立つ。
いつも無表情で覇気がなく、何を考えているか分からない。だというのに、こちらのことは見透かしているような目をする。
原作キャラクターと仲良くしているのも気に食わない。俺の嫁だぞ。俺が先に目を付けたんだ。
「あー、そのだな、なんというか、ええと」
「さっさと言え」
なんでこんなモブの言葉を聞くのに俺が時間を割かなきゃならんのだ。
「うん……前から思っていたんだが……君は、個人を見ていないように思える。モテたいならもうちょっと女の子に目を向けて、思いやった方が良いんじゃないか」
「ああ!? なんだ、てめ、このやろ……!」
真顔で気に障ることを言う……! 頭に血が上るとはこのことだ、どうしてやろうか、この野郎――
――と、チャイムが鳴る。朝礼の時間が来てしまった。
「チッ」
この場は大人しく自分のクラスに戻ることにする。奴の挑発にはもう乗らない。この前構わずやってしまおうとしたら、後で教師共にこってり絞られるハメになったのである。
命拾いしたなモブ。いつか殺すからな。
そんな意を込めて殺気を叩きつけてやった。チビれ。
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「一緒に帰るぞ俺の嫁たち!!!!!」
隣のクラスの教室の扉を開ける。
帰りのホームルームで居眠りしていたら、いつの間にか下校時間になっていた。
特別仲が良いクラスメイトもいないので、誰も起こしてくれなかったらしく、既に教室には俺一人だけ。急いでここへやって来た次第であるが。
「やっぱり、もういないか」
一度、あの3人娘と例のモブの4人で下校しているのを見たことがある。もしかしたら、今日もそうだったのかもしれない。
そう思うとムカムカしてくる。全く、人のハーレムを何だと思っているのか。やれやれだ。明日やっつけてやるとしよう。
「……帰って寝よ」
学校から帰れば、誰もいない我が家が待っている。変身魔法で年齢を誤魔化して借りた安い部屋だ。
小学校の勉強なんて真面目にやる気もしないし、この世界には友人もいない。魔法の勉強も最近はつまらない。そもそも努力は嫌いだ。
やることといったら寝るくらいである。
校門を出て、通学路を20分も歩けば閑散とした住宅街に出る。
晩飯は何にするか、どこかに我がハーレムに相応しい新たな美少女がポップしないものか、この頃デバイスの調子が良くない……などと、とりとめも無いことを考えていると、視界の隅に何か光るモノを捉えた。
「あん?」
青く光る綺麗な石だった。
素人目には、値打ち物の宝石に見える。
「質屋にでも持ってくか」
拾い上げ、夕日にすかして見る。
目を凝らすと、石の中にローマ数字が刻まれているのが分かった。
「んん~~?」
数字の刻まれた蒼い宝石……どこかで聞いたことあるような。見覚えがあるような、ないような。
首を傾けて脳から答えを捻りだすポーズをとった、その時――
ドクン、と。
生き物の鼓動のような音が空間に響いた。
宝石が強く輝き出し、同時に濃密な魔力の気配。石を持つ手は熱く、至近距離からの光に目がくらむ。
そして、ピンと来た。天啓である。
「あっジュエルシードだこれ!!!」
ジュエルシード。
アニメ『魔法少女リリカルなのは』のキーアイテム。
で、願いを叶える宝石だ。
それだけ知っていればやることは一つ。
「金金金……大金大金大金……億万長者……」
光る宝石を握り締めてお願いする。多分光ってる間に3回唱えたらオッケーとかそんな感じだろ。
真っ先に思い浮かんだのは、ここにきて底をつきかけている生活費のことだ。施設を出る時に奪った金はもう残り少ないのである。変身魔法を使ってバイトするという手もあるが、働きたくない。
「いや、待って! やっぱ今の無し」
よーく考えれば金より欲しいものがあった。
至上にして崇高なる望みがあったではないか。
「女女女……美少女美少女美少女」
美少女を我がものとする。
美少女の頭のてっぺんからつま先に至るまで、全てを自分の所有物にしたい――!!
透明に澄み切ったこのピュアな願いが届いたのか、宝石の放つ光はさらに輝きを増し、そして――――、
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異変を感知した少年は、好奇心とも虫の知らせともとれる奇妙な予感に背を押され、その現場に向かっていた。
第六感とでも言うのだろうか。軽い頭痛と共に脳を駆け巡る違和感、それが、ある方向に進むにつれて強くなっていく。
自覚はないが、彼が感じていたのはジュエルシードが発する魔力の波動であった。魔導師として最も重要な基盤となる器官、リンカーコアが、少年には備わっていたのである。
向かう先。近くの空を照らしていた光が収まった。
おそらく、この角を曲がればその場所だ。
そうして、少年が現場に辿り着くと――しかし、そこには先客がいた。
「あ……? お前、たしか……モブか?」
モブ。彼のことをそう呼ぶ人間は一人しかいない。
銀髪に、赤と青のオッドアイという、やたらと派手な容姿をした少年だ。
同じ小学校に通う同級生であるが、この頃何かと突っかかってくる。
ひとつ息をつき、いつものように、穏便にあしらおうとして――
一目見て、心臓を鷲掴みにされた。
声をかけられた彼の表情はいつもの鉄面皮ではなく、驚きに彩られていた。
なぜなら、そこにいたのは、彼の知る
風になびく美しい銀の髪は、さながら天上の織物。長いまつ毛に縁どられた紅と蒼の瞳は、宝石のような煌めきを湛え。
沈む夕日に濡れて佇むその姿は、まるで……
「
「はあ?」
常に気だるげな色をしていた彼の瞳には、今や熱い炎が燃え盛り、これ以上ない情熱に滾っている。
早足で歩み寄って、銀髪の
「結婚してください!!」
「はあ!?」
転生してから数年。現在小学3年生。前世の年齢は忘れた。
そんな男の人生の中で、これが最初で最後の、一目惚れである。
かくして、魔法少女たちをガン無視した暑苦しい恋物語が、幕を開けたとか、開けてないとか、そんな感じだった。