オリ主×踏み台   作:もぬ

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3話

 

 熱い。

 

 体の内側が熱い。心臓が焼け付くような錯覚。胸の奥の奥にあるモノが、何かに溶かされている。それはまるで、マグマを飲み込んでしまったかのよう。

 胸で渦巻く溶岩は、やがてそこから全身へと広がっていく。指先に至るまで、血管を満たし、全て焦がしていく。

 ひどい。それじゃあ、死んでしまう。

 そうだ。この身体はそんなものには耐えられない。だからこそ、作り変えるしかないのだ。

 

 

「っ……! はっ、はっ」

 

 視界いっぱいに部屋の天井が映る。

 体を起こし呼吸を整えながら辺りを見回すと、そこは勿論見慣れた自分の部屋だ。

 汗だくで、息苦しくて、気持ちが悪い。どうにもあまりいい睡眠ではなかったらしい。

 カーテンを閉めきっているわけでもないのに、辺りは暗い。まだ夜のようだ。朝日が来る前に目が覚めたのか。

 卓袱台に置いてある、安くで買ったデジタル時計を、目を凝らして見る。

 

「んがっ」

 

 まだ夜の8時……なのだが、日付がひとつ進んでいた。

 丸一日寝ていたってのか。そんなに疲労が溜まっていたとは思えないけれど。

 

 とりあえず起き上がる。よっこらせ。

 寝巻が汗でびっしょりだ。くんくんと臭いを嗅ぐと、まあいい匂いとは言い難い。寝る前に風呂に入らなかったことを思い出す。つまり、丸一日以上身体を洗っていないわけだ。

 のそのそと重い足取りで、風呂場へ向かう。もたつきながら服を脱いで、浴室の鏡に対面すると、そこにいるのは気だるそうな顔をした――女の子だ。

 

「あ……、そうだった」

 

 少女に向かって手を伸ばすと、鏡に触れた指が冷たい感触を伝える。

 一眠りしようが、オレは女のままだ。

 起き抜けの低いテンションがさらに下がる。それに伴って視線が下の方に落ちると、そこにあるのは穢れの無い幼女の身体である。むむ……

 水栓をひねる。

 

「つめたっ!」

 

 雑念を誤魔化すように慌てて栓をひねったので、水をひっかぶる破目になる。でも、まだ熱っぽくて鈍い寝起きの頭には、いい気付けかもしれない。

 明後日の方向にシャワーヘッドを向けてしばし待つ。ぬるいお湯に変わったのを足で確かめて、それを頭から浴びる。

 そのままじっとしていると、余計な考え事をしてしまう。

 

 想像するのは、事件で活躍して、みんなから慕われる俺の姿。物語の主人公のように強くて勇敢な俺は、いつも仲間たちに囲まれて笑っている。

 そんな、よく思い描く想像図。

 それが今、鏡に映る華奢な女の子と、どうしても一致しない。

 見た目はあまり変わっていないけれど、オレには分かる。本当のオレは強くて格好良くて、いつも全能感があって、こんな、つつけば倒れそうな弱々しい女の子じゃない。こんなのはオレじゃないんだ。

 

「……クソっ」

 

 鏡に向かって拳を叩きつける。

 よくマンガか何かでこういうシーンがあるが、鏡が割れたら手を怪我して痛いだろうと思ったので、割れないように軽くやっておいた。

 コン、と間の抜けた音がした。

 

―――――――――――――――

 

 濡れた身体をタオルで拭き、家着を着る。その後、ドライヤーで髪を乾かす。背中まで届く銀髪は、男にしては長いと言えるだろう。

 髪が長いのは、その方がカッコいいと思っていたからだ。長く美しい銀の髪を持つ少年……いやだ、超格好いい。

 しかし今はそのせいで、余計に女の子に見える。そのことに気付くと、苦労して伸ばしたこれがとても鬱陶しく思えた。実のところ、洗うのも乾かすのも非常に面倒なんだ。

 切って、しまおうかな。

 

「うおっ」

 

 ピンポン、だかキンコン、みたいな音が突然、部屋中に鳴り渡った。びっくりして心臓が軽く跳ねる。

 この家の呼び鈴の音だが、ここを訪れる人間など限られている。十中八九相手にしたくない連中である。一人暮らしの大敵だ。

 そういうわけで、うちはテレビもないし新聞も信仰も間に合っているので、居留守を決め込む。

 無言でなるべく気配を殺す。最強の魔導師であるこのオレの気配遮断術とくれば、謎の怪しい施設でスパイアクションをたしなむ程だ。敵を後ろから襲ったりできる。

 ……呼び鈴は定間隔で鳴り続けている。勧誘員に気配遮断は通じないらしい。

 

「しつっこいなあ」

 

 仕方ない。居留守がばれているのなら、直接出てから撃退するまでだ。こういう時、子供の身分にはいい方法がある。今は幼女なので威力も増しているはずだ。

 どれ、間抜けな勧誘員め。ドアノブに手をかけ、ひとつ咳払いをする。

 

「んん……あのね、今お母さんいないのっ」

 

 チェーンをかけたまま扉を少し開け、うまいこと出た鼻にかかるような猫なで声で、親の不在を申し立てる。普通はこれで帰る。

 

「ん?」

 

 ドアの隙間からからのぞき込んでくる奴と、目が合った。そいつは集金人でも、新聞屋でもなく――、

 

「う……うわあああああああ!!!」

 

 うわああああああああああ!!!!

 そいつが誰なのかを認識した瞬間、昨日のことがフラッシュバックした。

 同じくらいの背。顔面の筋肉が仕事をしてない不遜な鉄面皮。

 オレの生涯にことごとく立ちはだかるとにかく目障りな、いや、今や恐ろしい障害――ヤツである。

 

「お、お前! なんでここが!」

「担任の先生に教えてもらった」

「バカな!?」

 

 そんなところから拠点の情報が洩れるとは!?

 

「何しに来やがったこの変態が! か、帰れ!」

 

 昨日の出来事を忘れられるはずもなく、すぐにドアを閉めようとする。

 家は心の最後の砦である。何者にも侵されてはならないのだ。

 

「待って、落ち着いてくれ。別に何もしないよ」

 

 そう言うとこいつは、無害を示すように、両手を顔の高さまで上げて見せた。

 左から順に見ていく。

 片手には書類を挟んだクリアファイル。顔は無表情でムカつく。もう片手には、買い物帰りか何か知らんが、近くのスーパーのレジ袋が提げられている。

 武器の類は無く、手もふさがっている。

 

「だったら、何の用だ」

「学校休んだろう。プリントとか持ってきた」

「は?」

 

 ………なんだそれ。

 お前はオレの友達か、委員長か何かか。というか隣のクラスだろうが。

 

「それと、これ。病気かもしれないと思って、お見舞い」

「あぁ?」

 

 な、なにこれ? 気持ち悪いんだけど……。

 ずい、と差し出された袋には、飲み物や果物、よく目を凝らせば薬のビンなども見て取れた。

 やけに殊勝だ。何を考えているのか分からん。しかし今までこいつとは敵対していたのだ、警戒は簡単には解けない。

 チェーンという最後の砦を自ら落とすわけにはいかないので、そのまま話す。

 

「……そこに置けよ。あとで取る」

「わかった」

 

 言われた通りに、ゆっくりした動きで、持ってきた物を玄関前に置いた。

 そのままそいつは回れ右を――せずに、突っ立ってこっちをじっと見てくる。早く帰ってほしい。殺すぞ。

 なかなか帰らないのでいよいよ魔法をぶっ放しそうになったとき、奴が口を開いた。

 

「あのさ。自炊、してないのか?」

 

 ……なんだってそんなことを聞く。

 してないさ。料理とか面倒くさいから。

 そんなことより――

 

「人ん家を覗くな! 死ね!」

 

 チェーンを外し、ゴミの日を逃して玄関に置いてあったゴミ袋を、思い切り投げつけてやった。中身は奴が見た通り、カップ麺やら惣菜のカラなんかでいっぱいだ。

 素早くプリントと見舞いの品を引き入れ、ドアを閉めた。

 

―――――――――――――――

 

 朝。カーテン越しの陽射しで目が覚める。楽しい一日の始まりを予感させるいい天気だ。

 時計に目をやる。いつもなら、好きな女の子たちに会うのが楽しみで、いそいそと通学の準備をしている時間。

 いつもなら。

 今朝はどうにも気だるい。鈍った思考回路を回しながら、身体はルーチンワークを順調にこなしていく。聖祥小の制服を着ると、服がこすれて痛かった。

 これに袖を通すと、反射的に学校のことが思い浮かぶ。

 

「……今日も、休もうかな」

 

 なんだか気が重いし、体調も万全ではない。そりゃそうだ。女になっている、なんて聞いたこともない病気にかかっているのだから。

 それに、女になってしまったなんて知ったら、オレの嫁たちがどれだけ悲しむことか。ああ、それはまずい。なんと嘆かわしい光景。みんなに会うのは良くないな。

 サボろ。

 そうと決まれば、担任教師に電話しよう。かけないと後でうるさい。

 

「――っ、と」

 

 どこかに伸ばそうとした手が空を切る。

 そもそも、うちに電話線は引いていない。金が勿体ないからである。しかし今までそれで困ることはなかった。

 デバイスを電話代わりに使っていたからだ。電波に割り込みをかけ、通話することが可能だった。

 そして、今は、壊れている。

 

「チッ」

 

 じゃあもういい、無断欠席だ。登校拒否だ。そう決めると、休んでしまうことへの不安があるような、逆に気が楽になったような、複雑な気分になった。

 いつの間にか手に持っていた学生カバンを放り投げ、適当に腰を下ろす。

 

 何をするか。

 万年床で二度寝としゃれこむか。しかし小学生の身体というのはどうもエネルギーが有り余っているようで、二度寝などしたことがない。

 いつもなら休みの日は、美少女たちに出くわすことを期待して街を散策するか、近所の古本屋か図書館で漫画の立ち読みでもするか。そんなところだ。

 ここまで考えて、それらの案を却下する。なぜなら今は、いつもと同じ状況ではない。

 ……そうだ、やることなど決まっている。オレを女にしたジュエルシードを探しに行く。それ以外にない。

 

「決まりだ」

 

 部屋の隅に放っておいてある書物類に目をやる。去年小学校で使っていた教科書に混じって、一際古ぼけたものがあった。

 大昔に使っていた魔法の教科書とノートだ。しばらく開いていなかったので、少し埃っぽい。つまみあげて軽くはたき、机に広げる。

 ジュエルシード探し――今必要なのは、探査の魔法だ。

 

 さて。

 魔法の発動にあたって必要なのは、知識と計算と魔力と根性。

 これらのうち、知識と計算を肩代わりしてくれるのがデバイスである。それが手元にない今、自分の脳みそから魔法を捻りださねばならない。

 さんざ使った戦闘用魔法はよく記憶しており、発動に支障はないが、探知はどうにも苦手でほとんど使った試しがない。あんな地味な仕事は他のやつにやらせておけばいい、そう思っていた。

 ……というわけで、デバイスの代わりとなるカンニングペーパーを用意するか、今から訓練して修得する必要があるのだ。

 面倒すぎる。

 

 ノートをぱらぱらとめくり、探索魔法のページを探す。

 昔のオレときたら、ノートの整理が下手でたまらん。延々と魔法式を書き綴ってあるだけで、なんの魔法だか分かりやしない。読み返しても理解できるように書けよな。

 

「……あった、これだ」

 

 そのページには、『Area Search』と小さく書きなぐってあった。

 苦手な項目だけは、他よりは丁寧に書いていたらしい。

 エリアサーチは、探査機能を付加した光球――サーチャーを飛ばしてマッピングや物探しをする魔法である。これを使ってあの憎たらしい青い石ころを見つけ出してやろうという寸法だ。

 ノートにある模範の式をいじくりまわし、サーチャーが『手のひらより小さい』『魔力を持つ物体』を捉えると反応するように条件付ける。非常に初歩的な代物だが、これでいい。この程度ならオレでも扱えるはずだ。

 

 アンチョコを見ながら魔法の発動プロセスに入る。

 胸の中にある熱い塊を、ぐっと手で揉み込むようなイメージ。リンカーコアを励起させ、身体に魔力を満たしていく。

 

「うっ……!?」

 

 途端に、吐き気がした。

 頭がくらくらして、乗り物酔いか風邪にかかったときみたいだ。……貧血か何かだろうか。落ち着くまで、しばし待つ。

 気を取り直し、書きだした魔法式を頭の中でなぞっていく。

 やがて座布団の上であぐらをかくオレの尻から、ミッドチルダ式の丸い魔法陣が生えてくる。この幾何学模様が、現実の物理法則に干渉するための手助けをしてくれる。ミッドチルダ式魔法のキモだ。

 四畳半しかない部屋を、紫色に発光する魔法陣が埋める。

 ところで、この部屋の広さより大きい魔法陣を出したら、隣ん家の床に陣がはみ出して近所迷惑になったりしないだろうか。しないか。

 

 目の前の空間に向かって手をかざし、集中する。

 今から形成するのは、探索の機能を付けるための魔力スフィアだ。すなわち、サーチャーの元である。

 決められた手順を頭で描きつつ、自前の魔力でもってそれを現実に形にしていく。

 探索魔法の適性が低いとはいえ、ここまでなら簡単にできる。魔導師なら当たり前だ。慣れた要領で球に魔力を込めていく。

 しかし――、

 

「……あ?」

 

 完成しつつあった光球は、突然破裂して、そのまま霧散してしまった。

 ……何かの間違いだ。

 もう一度最初から始めてみる。

 

「よし」

 

 今度は成功した。

 デバイスなしで魔法を使うのが久しぶり過ぎて、勘が鈍っているのだろうか?

 まあいい、後はいろいろと機能を付け足して、サーチャーの完成……なのだが。

 魔法は式と魔力があればすんなり発動できる……というわけではなく、魔法の種類によって『適性』という問題が発生する。これは才能や資質と言い換えても良い。適性があれば効率よく運用でき、なければ最悪、発動することすら出来ない。

 適性の低い人間――オレが探索魔法を使うとどうなるか。その答えがこれだ。

 まずサーチャーが1個しか出ない。さらに、術者から遠く離れるとサーチャーとしての機能を失い消滅してしまうので、非常に近距離しか探れない。いま適当に動かしてみたところ、15メートル程が限界とみえる。

 まあ、いくら天才でも、向き不向きはあるということだ。

 

 ため息をつきつつ、紫色に光る球を引き連れて早速表に出る。

 このたった1個のサーチャーを頭の真上10メートルほどの地点に浮かせる。このままブラブラ歩き回れば、そのうち頭上の光球が宝を見つけてくれる、はずだ。多分。

 少なくともこんな魔法でも無いよりはるかにマシだというのは間違いない。目視より広い範囲を探るだけの機能は付与できたのだ。

 

「はあ」

 

 他人に劣ってしまう分野があるというのは実に屈辱だ。こんなつまらないことより、早くオレの強さを誰かに見せつけたい。

 だがその前に、男に戻らなければ。女じゃハーレム築けないからな。

 まずはアレを拾った場所を目指し、オレは制服のまま、手ぶらで歩き始めた。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 ジュエルシードは見つからず、無駄にお散歩をしただけの朝昼を過ぎ、時刻は夕刻。

 エリアサーチがうまく発動できないのはオレではなく魔法が悪いという結論にたどり着き、ノートに向かってああでもない、こうでもないと魔法式の改ざんに勤しんでいた時。

 そいつは、またしてもやって来た。

 ドアを数センチだけ開き、隙間からヤツの姿を確認する。

 

「……何しに来た」

「昨日と同じだよ。お見舞い」

 

 その言葉通り、昨日と同じように右手にはプリント。左手には――なんだろう。

 

「体調悪くても食べられるようにと思って、雑炊にした。さっき出来たものだから、今ならおいしい」

 

 そう言って、左手の、手ぬぐいで包まれたタッパーを差し出してきた。弁当箱を持ち運ぶのによくやるやつだ。

 雑炊にした、って……こいつ、自分で作ったのか?

 思わず、手を伸ばして受け取る。言葉通り、それはまだしっかりと熱を保っていた。

 

「……お前。昨日からなんでオレに、その」

 

 オレに、構うのか。そう続ける前に口をつぐむ。

 オレとこいつは、こんな関係じゃない。互いに関わりたくない相手。それはいつも、他でもないこいつの目が語っていたことだ。

 表情を窺おうとして視線を上げると、やつはこっちを真っ直ぐに見ていて、目が合ってしまう。今日は何故か、目が合うのは心地が悪くて、オレはすぐに視線をそらした。

 

「君のことが好きだからだが。それはそうと、結婚してください」

「………」

 

 素早くドアのチェーンをかける。そういや掛け忘れてた。

 

 やっぱり本気だったのか……。

 ぞっとする。

 先日はやつの突然の奇行に心底動揺したが、なるほど。オレが女になってしまったことの弊害だったわけだ。

 女のオレを見たこいつは、あまりの神々しさに惚れてしまったということらしい。はっは。

 正気か。

 オレは男だぞ。今は女かもしれないが、この前までは間違いなく男だった。それはあいつも知っているはず――、

 いや。

 もしかして、知らないのでは?

 元から女だったと認識されているんじゃないだろうか。

 そうだ、そうに違いない。誤解を解いて、こいつには帰ってもらわねば。それがコイツのためでもある。終生の敵を気遣うオレ、超善人。主人公のようなおおらかな心である。

 間違いを正すべく、懇切丁寧に説明してやる。

 

「おい? お前は何か勘違いをしているようだが、オレは男なんだ。今は女になってるけど、本当は男なんだよ、わかる?」

「はあ。それが何か?」

 

 そして返ってきたのは、人を小馬鹿にしたような態度であった。眉がわずかにㇵの字になっており、そんなことを聞いて何になるの? みたいな無表情。

 すごく殺したい。

 

「それで、俺と結婚してくれますか」

「NOに決まってるだろっ!! 金輪際オレに近づくな!」

 

 やつの変態性と己の無力さに打たれながら、オレは玄関の戸を閉めた。

 勘弁してくれ。

 

「明日も、届けに来るから」

 

 薄いドアを通り抜けて、あいつの声が聞こえた。

 

 

 

 やつは存在が罪みたいなものだが、料理に罪は無い。

 

「う、美味い……!? 馬鹿な!」

 

 病人に食わせるにしては味が濃いが、惣菜や冷凍食品よりずっと美味い。

 このオレがあいつに劣る点があるなど。くそ、許せん。それはそうと美味しい。ムカつく。

 

「オレじゃなくて、あいつが美少女だったらよかったんだ」

 

 ……今のはナシ。

 大体、今まで関わりも無かったくせにオレが美少女になった瞬間言い寄ってくるとか、ムカつくぜ。きっと女と見れば手当たり次第に声をかけているに違いない。なんて軽い野郎だ、育ちの悪さが知れるね。

 

「ご馳走様……あっ」

 

 いや、これは、あれだ。

 作り手への感謝とかじゃなくて、この……そう、この米とかを育てた大地とかへの感謝である。

 

「………」

 

 空になった食器を、シンクに片付ける。

 人の手料理なんか食べたのは、ここでは生まれて初めてのことだった。

 

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