オリ主×踏み台   作:もぬ

4 / 11
4話

 

 朝だ。布団の中で目が覚めてすぐ、時計で時間を確認する。

 体内時計はおおむね元に戻ったらしく、いつもの時間に目覚めることが出来ていた。

 身体を確認する。ない。まだ女の身体のままだ。

 

「はあ」

 

 今日こそは学校に行かなければならない。連絡も無しに何日も欠席などしたら、担任から連絡が来る。今は電話代わりにしていたデバイスも壊れているから、そろそろこの家に乗り込んでくるかもしれない。そうなると非常にまずい。あまり詮索されると、オレが親無しだとバレるかもしれないからだ。魔法で誤魔化すのも限界がある。

 意を決し、身支度を整えて、最寄りのバス停へと向かった。

 

「おはようございます!」

「はい、おはよう」

 

 先にバスへと上がったガキが、運転手のおっさんにあいさつをした。朝から元気でやかましいことだ。

 スクールバスの中では、毎日同じ時間に利用しているだけあって、オレの美しすぎる容姿にいちいち好奇の視線を向けてくるやつは、もうあまりいない。こっちだって運転手の顔も覚えた。モブのくせにオレに記憶されるなど、光栄なことと覚えてほしい。……よし、たまにはあいさつでもしてやるか。

 

「……お……おはようござ、います……」

「……! ああ、おはよう」

 

 後ろの方の、隣が空いている席に座る。

 ……なんだろう。いつもより、他のガキどもに見られている気がする。

 あり得ないことだが、女になっていることを見抜かれているような気がして、落ち着かなかった。

 

 学校の玄関で靴を内履きに替え、教室へと向かう。

 いつもなら、原作キャラクターの3人が揃う教室へと足を運ぶところだが……

 今日は、気分じゃない。

 ほら、オレが女になってしまったとバレたら、大変だろうしな。皆驚いて学校生活どころじゃないさ。

 

 階段を上がり、教室がある階へとたどり着く。いつものように廊下を進んでいく。

 すると、向かう先から、あの3人娘が、こちらの方向に歩いてきた。

 

「……!」

 

 どうしよう。なんて話しかける? オレの変調がバレやしないだろうか。いや、2日も休んだのだから、心配してくれたかな。

 どうする? もうそこまで来てる。何故俺はうつむいているんだ? いつものように堂々とすればいい。

 

「……あ……」

 

 3人は、オレの横を通りすぎていった。

 …………ふう、バレなかったようだな。オレは原作キャラクターのみんなの前では、最強でカッコいい俺でないといけない。やはり一刻も早く、男に戻る必要があるだろう。

 

 

 2日ぶりの教室はつまらない。オレが欠席したところで、声をかけてくるクラスメイトはいない。

 

「おはよう」

 

 友人でもないのだから当然だ。不満に思っているわけではなく、事実を確認しているだけである。

 

「おはよう」

 

 そう、オレは孤高の男。小学生なんぞと慣れあう気などない。

 

「おは……」

「って誰だ! うるさいなさっきから!」

「俺だとも」

「なんだお前か……って、ギャアアア!?」

 

 いつの間にか、すぐそこにやつがいた。

 こいつ……なんなの!? というか何故オレに気配を悟らせずここまで近付ける!?

 

「お、おい、金輪際オレに近づくなって言っただろ!」

「ああ、それな……昨日、どうしようか考えたんだ」

 

 無表情のまま、そいつは語ってきた。

 

「君の言うことを聞きたい気持ちもあるんだが、それ以上に君の近くに行きたかった。すまない」

 

 なんてワガママな奴だ……! 死ね!

 

「頼むから、どっか行ってくれ……」

「それはそうと、おはよう」

「………」

「おはよう」

「………」

「おはよう」

 

 まさか、返事をするまでこの無限ループから抜けられないのか……?

 

「おはよう」

「…………ああ」

「おはよう」

「ああ!」

「おは」

「おはよう!!! はい帰れ!!!!」

 

 この返答に満足したのか、奴はキモい表情をしながら、自分の教室へと戻っていった。

 ……あいつがいると思うと、もうあの教室に行きづらくなってきた。どうしたらいい。

 追い払って安堵したのもつかの間。本当の地獄はこれからだった。

 

「国語の教科書かしてくれ」

「ものさし貸してくれ」

「昼ご飯、一緒に食べよう」

「今日は良い天気だな」

「一緒に帰ろう」

 

 ダメだ、もう学校には来れない……。頭がおかしくなる。

 休み時間ごとに話しかけに来るな。クラスメイトのモブどもも変な顔してるだろうが。

 お前はオレが嫌がっているのがわからんのか。このアホが。

 

「てめー、前に言ってたよな。『相手の女の子こと思いやれ』ってよ。その言葉そっくり返すぞ。あっいやオレは女じゃないけどな」

「……なるほど、わかった」

 

 言ってやったぜ。スカッとした。

 

「また明日話しかけよう」

「は?」

「じゃ、また」

 

 無表情のまま爽やかに手を振り、やつはこの場を後にした。

 え? 何もわかってなくない?

 

 帰り道。

 商店街の方によって、その……女児用の……胸が痛くならないようにするための……あれを……拘束具を買ってきた。

 なくても動かなければ我慢できるが、正直、体育の時間とかもうやってられん。買ったブツは、男に戻ったあかつきには魔法で焼き尽くしたい。

 

「ん? あれは……」

 

 距離が離れていてもすぐわかる。モブとは違うオーラ……高町なのはだ。

 心が浮き立つ。声をかけようとして……やめた。隣には厄介なあいつもいる。

 二人は、さっきまで談笑していたかと思うと、何やら顔を見合わせて、走り出した。

 ……なんだ? やけに真剣な様子だ。ついていってみるか。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 二人を見失わないように追いかけていると、すぐに息が切れた。

 おかしい。女になったときに、ここまで体力が落ちたのか?

 二人が神社の境内へ続くクソ長い階段を上り始めたのを見て、オレは足を止めた。……キツい。

 こんな階段、いちいち上るのはアホだ。飛行魔法……高速で飛び回るのはデバイスがなきゃやめるべきだが、浮遊くらいなら身一つでできる。

 人に見られないよう、山の斜面……茂みのほうから、ふわふわ浮いて上を目指すことにした。

 

「あれ、なんか安定しないな……」

 

 どうにも、意図した方向へ進む力が安定しない。

 木を掴んだり、蹴ったりしながら山を進む。

 境内へ辿り着く頃には、階段を使わなかったことを後悔していた。余計に疲れた。

 藪の中から、あいつらの様子を見る。

 

「……!」

 

 二人の前には、グロテスクな犬の化け物みたいなやつが立ちふさがっていた。

 ジュエルシードモンスターか。……危険だが、魔法が万全に使えれば大したことはないだろう。

 そうだ。どれ、かっこよく助けてやるか。なのはもオレのことを見直すだろう。

 そう思って、機をうかがうことにした。

 そうして、すぐに気づく。

 あいつが、邪魔だった。

 魔法の使えないモブだが、モンスターの注意をうまく引いている。なのはやフェレットに牙が向かないように立ちまわっていた。運動神経は良いらしい。

 心臓が熱い。

 なぜ、なぜなのはのそばにはあいつがいる? なぜあそこにいるのがオレじゃないんだ?

 憎らしい。妬ましい。……許せない。

 心臓が燃えるように熱い。

 研ぎ澄まされた視覚が、やつの輪郭をはっきり捉える。あれだけ動いているのに、表情はいつも通りの間抜けな仏頂面。昨日、一昨日と、間近で見せられたそれだ。

 やつに向けた指の先に、紫色の弾丸が現れる。気が狂いそうだ。こいつをぶちこんで、あいつを……

 

――明日も、届けに来るから。

 

「……腹、減ったな」

 

 あんなやつ、いつでも倒せる。今日は気分じゃない。

 気が向いたときに、ボコボコにしてやるさ。

 なのはがジュエルシードを封印し、二人が去るのを見届けてから、オレはゆっくりと階段を下りた。

 ……下りるのがまたキツイ。もうこの神社には来ねえ。

 

 

 その日の夜。教本の浮遊魔法のページを眺めていると、部屋のチャイムが鳴った。

 来たか。

 

「こんばんは」

「何か用か。帰れ」

「今日は肉じゃがだよ。うまくできた」

「言い忘れたが、オレは別に病人じゃない。お前に施しを受ける理由はない」

「作り過ぎたんだよ。助けると思って」

「……まあ、どうしてもというなら、もらおうか」

 

 ドアの隙間から、やつの差し出した包みを奪い取る。

 

「結婚……」

「今後その単語を口にしたら、殺してやる」

「………」

 

 大体お前、まともに会話もしたことないのに結婚結婚ってなんだ。もしオレが元から女だったとしても、同じようにドン引きしてるわ。

 コミュニケーションを勉強しやがれ。

 

「なあ」

 

 鉄面皮が話しかけてくる。なんだ。あと一言だけ聞いてやる。

 

「じゃあ、君と友達になりたい」

「え?」

 

 ……何て言ったんだ、今? 

 友達、って言ったのか。

 それはオレにとって、もう、ずっと聞いていない言葉だ。

 

「……だーれがお前なんかと友達になるか! 言っとくけどな、オレはお前が嫌いだ」

 

 ……なんでこんなことを、言ってしまったんだろう。

 いや。いやいや。オレはこいつは嫌いだ。正直に返して何が悪い。

 

「そうか」

 

 そう言ってそいつは、ふっと口角を1ミリほど上げて、笑った。

 初めて見る表情だった。こいつ……こんな顔も出来るのか。

 

「キモッ」

 

 とりあえずキモいので高速で扉を閉めた。

 明日もあいつの顔を見ることになるのか。しんどいな。

 貰った包みを食卓に置いて、オレは明日の学校で使うものをカバンに詰め込んだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。