オリ主×踏み台   作:もぬ

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6話

「ねえ、隣町の地震……」

「地震じゃなくて、大きい木が生えてきたんだよ!」

「やっぱり休みの子も多いね」

 

 教室は、昨日の事件の話題で持ちきりだった。

 テレビも新聞もないため、どういうふうに報道されたのかわからないが……少なくとも、この学校が休みになるほどの大事件ではないらしい。ちょっと遠くまで歩けば、被害が目に見える形で残っているんだけどな。

 聞き耳を立ててみたところ、意外にも死亡者などの深刻な被害者はいないらしい。奇跡的な話だ。

 まあ現に、あの木に襲われたオレも、大したケガじゃない。擦り傷はあちこちにあったが、骨や内臓などに異常は無さそうだったため、いつものように登校した。

 が……別に休んでも良かったな。被害のあったあたりに住んでいた生徒や教師は、どうやら各々の事情で欠席しているようだ。軽傷を負ったか、家でもぶっ壊れたか……気の毒なことだ。

 オレはもっとヤバかったけどな。死ぬところだった。あいつが来てくれなきゃ――

 やめよう。あまり振り返りたくはない。

 

「……お、おはよう。ケガは大丈夫なのか?」

 

 それみろ。来やがった。

 ちら、とそいつの顔を見る。いつもの真顔だが、態度や眉の角度から察するに、オレのことが気になるらしい。

 ……余計なお世話だ。と言いたい。

 

「余計なお世話だ」

 

 言った。

 というか、よくオレの前に顔を見せられたな。神経の図太いやつだ。

 オレは、お前の顔を見ると、昨日自分が言ったことを思い出してやってられん。それくらい察せないものか?

 

「………」

 

 オレがお前に助けられることが、どれだけ屈辱か、お前にはわからないんだろうな。

 

「……す、すまんが、そんなに見つめられると……」

 

 なんでそわそわしてんだ。キモすぎるぞ。

 こいつは思いやりとかないのか? 人の気持ちを想像しなさいよ。

 もう怒鳴る元気もないわ。

 

「おい」

「な、なんだ」

「……今日は、話しかけてくるな」

「………」

 

 はっきり言ってやらないとわからないのだろうから、具体的な指示出しをしてやった。

 

「わかった……今日は陰から見守ろう」

「……はあ」

 

 いやもう関わるなよしばらく。お前はオレの何なんだよ。

 もはや感心すらしてしまう。こいつの面の皮は対物対魔複合4層式バリアか?

 こちらを何度も振り返りながら、あいつはオレのクラスから退散していった。チラチラ見るな。

 

 

 その後、あいつは休み時間の度に、微妙にオレの視界に入ってきた。

 陰に隠れてない。

 

「うわっ! どうしたの……?」

「ねー何してんの? なんて遊び?」

「……すまないが、俺は今忙しい」

 

 教室の扉から半身を出し、オレをじろじろと見ていた。1話の仮面ライダーギャレンか。

 

「何してんのアンタは! 帰るわよ!!」

「あうっ」

 

 放課後にはアリサに頭をはたかれ、そのまま引きずられていくのを見て、つい笑ってしまった。

 ……何を笑ってんだか、オレは。

 

「……帰ろ」

 

 

 下校時には登校時と違い、スクールバスを利用しないことが多い。最近はもっぱら、存分に寄り道をしてジュエルシードの探索をしている。

 いい加減、見つけないといけない。男に戻りたいという気持ちだけではなく、今のこの身体に問題があることが見えてきたからだ。

 昨日までの出来事を振り返る。思い出すのは、木の根っこと戦っているとき、オレが使おうとした射撃魔法や障壁がすぐに消えてしまったことだ。

 元々得意ではないサーチャーはともかく、攻撃魔法や防御魔法、飛行魔法がうまく発動しなくなっている。リンカーコアの質が低下してしまったのだろうか。あるいは、各種魔法への適性が変わってしまった?

 このまま、オレの才能が無くなってしまったら……そんなことは考えたくもない。はやく元の身体に戻らなければ、自分はきっと、ここにはいられない。

 

 人通り少ない路地に差し掛かる。

 試しにもう一度、魔法を使ってみたくなった。昨日の失敗はもしかしたら、デバイスもなしに焦って発動したせいかもしれない。

 指先に弾丸を形成する。ミッドチルダ式の中では最もポピュラーな攻撃魔法であるそれを、シュートバレットという。

 人んちの壁に向かって、ヒビくらいは入れるつもりで威力を設定し、撃ってみる。

 ……弾は、壁に着く前に霧散してしまった。やはり、オレの身体は……。

 2回、3回と威力を上げながら試してみる。結果はどれも同じ……いや、むしろ弾が消えてしまうのが早くなっていた。……どういうことだ?

 威力を最小限にして撃ってみる。

 今度は、壁まで届いてから、消えた。

 

「なっ……」

「!?」

 

 背後から人の声がして、背筋が凍る。

 夢中になり過ぎたか……! 管理外世界の人間に魔法を見られると、時空管理局の連中に取り締まられちまう。どうごまかそうか。

 

「なんだ……」

 

 振り返ると、そこにいたのは、いつものあいつだった。

 ほっと胸を撫で下ろす。こいつに魔法を見られたところで問題あるまい。全く、モブすぎて存在感がないから、後ろにいたことに気付かなかったよ。

 ……いや、待てよ。なんでこいつと帰り道が一緒になる? 先に帰ったんじゃないのか。

 もしかして。オレのあとをつけていたのか? もうマジのストーカーじゃねえか。

 

「おい……いい加減にしないと、さすがにしかるべきところに相談するぞ」

「魔法が使えるのか……!? 高町みたいに」

「あん?」

 

 ………いまさらそこに驚く?

 こいつ、転生者だよな。オレの顔を見たら、すぐ同類だってわかるだろうに。こんな絶世の美少年はあのアニメにはいない。ユーノやクロノなんてフツメンだ。

 原作のことを知らないのか?

 

「スクライアみたいな異世界人なのか? ジュエルシードを集めているのか?」

 

 慌てて質問を重ねてくる、その様子を見るに。

 こいつ、原作を知らないな。オレが転生者だとも気付いていない。

 だとすれば、オレに言い寄ってくるのも少し合点がいく。今の顔は原作キャラ並みに可愛いからな、あの3人娘が好きなアニメのキャラなんだという眼鏡が無ければ、オレも銀髪美少女の方に行くかもしれん。

 理解したとて、こいつに寄られるのを納得はしないが。

 こいつはオレのことを何も知らない。同級生Aだと思っていたわけだ。そこに今、ミッドチルダ人というステータスが乗っかってくる。

 ……リリカルなのはを知らないなんて、こいつ本当に転生者なのか? 一体どんな身の上なんだ。

 そういえばオレも、こいつのことは、何も知らない。

 

「なあ、そうなのか?」

「……ああ」

 

 どう返すか迷ったが、いちいち隠し通すのも面倒だし、こいつが原作に関わっていくならば、いずれわかることだ。

 

「なぜジュエルシードのことを知っている?」

 

 表情が変わった。

 咎めるような、いや、見定めるような視線。今更になってこいつは、オレの立ち位置を探っている。

 なぜそんなことを聞く? 何を疑っている? どう答えるべきなんだ。

 想像してみる。こいつにとってのジュエルシードは多分、ユーノの落し物で、大変な危険物だ。別の探索者が現れるのは想定外なのだろう。

 ……何者なのか怪しまれているようだが、今ではオレも巻き込まれた側だ。そんな目を向けられると腹が立つ。まあ元から原作に関わる気は満々だったが。

 事情を教えてやるから、拝聴しろ。

 

「それはだな……」

「っ! これは……!?」

 

 人が答えてやろうとしたのを遮り、そいつは突然オレの手を掴んできた。

 

「な、なんだよ!」

 

 同時に、急に胸の内が熱を帯び、鼓動がやけに体に響く。

 

「ジュエルシードの気配だ。わからないのか?」

「わ、わかるか、そんなもの!」

「……こっちに来る! 逃げよう!!」

「うわっ……」

 

 手を引かれる。

 ……走りにくい! 手を振り払い、先を行くやつについていく。

 

「君、封印ってやつはできないのか!?」

 

 認めたくはないが、封印なんてものはデバイスがなけりゃ難しい。

 それどころか、デバイスがあったとしても、いまのオレには……。

 

「……いや……」

「なら、高町がいなきゃどうしようもない! 連絡はしたから、それまでなんとか逃げ切ろう」

 

 ……念話で助けを呼んだか。

 オレがなのはに助けられる、なんて……ずっと想像していた未来と、まったくの逆だ。

 しかし今は、こいつの言う通りどうしようもない。身体が戻るまで、オレはジュエルシードモンスターなんぞに背を向けなきゃならないのか……。

 

「ハアッ、ハァ……!」

 

 こいつ、進むのが、速すぎる。

 ついていくのがやっとだ。

 しばらくして、オレは、足を止めてしまった。

 

「大丈夫か?」

「先に……行けよ、オレは、ちょっと、やすむ」

「おぶって行くよ」

「それは、いやだ」

 

 大体、どこに逃げても、こっちに向かっているなら、いつか追いつかれる。

 こうなったら、迎え撃つ方が楽じゃないか? なのはが来るまで適当にしのぎつつ時間を稼ぐ。こいつの動きなら可能なはずだ。オレの方も、防御魔法なら、射撃魔法よりは多少は保つ。

 うるさい心臓を落ち着けるべく、息を整える。

 昨日のようにはいかない……こいつのように、回避することを意識して――、

 

「危ない!!!」

 

 どん、と、突き飛ばされる。

 不意の一撃に、尻もちをついてしまった。

 

「いてえな! なにしやが、る……」

 

 最初に目が行ったのは、目の前まで追いついてきたジュエルシードモンスターの姿だ。

 毛むくじゃらのまっくろくろすけ。でかいマリモみたい。ただその身体には、鋭い爪を持つ腕が2つ生えていた。

 次に。

 オレを庇ったそいつが、背中から血を流して倒れているのを見た。

 怪物の爪にやられたのが見てわかる。オレの肩の切り傷なんて、比じゃないくらいの怪我だ。

 

「……バカ、野郎が。モブが首を突っ込むからだぞ」

 

 そうだ。アニメではあっさり倒していた敵たちだけれど、魔法も無しに襲われれば、決して無事ではいられない。

 

「……お前、死ぬのか?」

 

 答えは、返ってこない。

 

「っ! ああああッ!!」

 

 化け物が、跳ねて突っ込んでくるのが見えて、オレは前に出た。

 左腕を前に突き出し、盾を出現させる。ラウンドシールド……ミッド式魔法陣の形を模した、魔力の盾だ。

 

「ぐうっ……!?」

 

 敵の体当たりをまともに喰らうと、とんでもない力に押された。

 そして、紫色の盾が、ぴしりぴしりとひび割れていく。これではダメだ。シールドタイプの魔法は受け止めるのではなく、弾いて逸らすのが一番いい使い方だ。今の防御力じゃ、こいつの頭突きなんて、真っ向から受け止められはしない。だけど……!

 ぞくり、と。自分の失敗に気付き総毛立つ。このまま相手の攻撃をそらして受け流すことは可能だ。だが、オレの後ろには……あいつがいる。

 左腕で受け止めながら、右腕を構える。

 環状魔法陣――紫色に発光する帯がいくつも右腕の周りに浮かび上がり、腕を砲台へと変える。

 

「だあああっ!!」

 

 そのまま、ぶん殴るように、砲撃を撃ち放った。

 光と音が、狭い路地を埋める。

 

「う、うう、痛い」

 

 なぜかはわからないが、射撃魔法と違い、モンスターを粉々にすることはできた。

 ただしうまく制御できなかったのか、右腕が焼けるように痛い。

 

「……おい、おいしっかりしろ……!」

 

 横たわるやつに駆け寄る。……額まで血が垂れてきている。頭を強く打ったのだろうか、意識が無い。

 オレは、治癒魔法など使えない。どうしたら……

 

「びょ、病院……」

 

 自分の非力さと知識のなさにもたつきながら、意識のないそいつを背負う。ちゃんと背負えるまでがあまりにも遅くて、泣きそうだった。

 ひょこひょこと、街の方へ向かって歩き出す。

 

「GAAAAAAAAAAA―――――!!!」

「ひっ……!?」

 

 後ろから咆哮が聞こえる。ジュエルシードモンスターだ。消し飛ばすには威力が足りなかったらしい。暴走を止めるまで、モンスターは再生し続ける。

 どうしたらいいんだ。もう逃げられない。

 ……こいつを置いていけば、オレは助かるかもしれない。

 

「……あっ!?」

 

 慣れない二人分の体重に、貧弱になった自分の脚は、いとも簡単に膝を折った。

 再生を終えたモンスターが来る。転んでしまったオレは、背中を敵に向けたまま、なけなしの力でバリアを張った。

 ……自分一人を守れれば十分だと思っていたそれは、二人の人間を守るには、致命的に防御範囲が狭い。

 バリアの範囲外に出ないように、横たわるあいつの身体を引き寄せ、両腕でその頭を抱える。

 嫌な音と衝撃が、何度も連続して襲ってくる。あの両腕で、バリアを壊そうとしているんだ。

 

「う、く……! 誰か……誰か! こいつが死んじまう……!」

 

 それは……それは、ダメだ。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

 声がして、顔を上げる。

 桃色の閃光が空から落ちてきて、オレの目を焼いた。

 

「封印!!」

 

 瞬く間に、怪物の姿は消えていく。なんでもなかったように、あっさりと。

 ……終わった、のか。

 

「これは……今すぐ治療しないと!」

 

 フェレット……ユーノがオレのところに来て、深刻そうな声で言った。

 視線を感じて、また顔を上げる。血で汚れたオレを見るなのはの目は、怯えるような目つきだった。

 目がしっかり合うのは、初めてだった。

 


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