オリ主×踏み台   作:もぬ

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7話

 今日の学校に、あいつの姿はない。

 それはそうだ。あんなに血を流していたんだから。

 おかげで制服が一着、血まみれでダメになった。

 

「っ……!」

 

 寒さに凍えるように、身体が震えた。

 あいつはあの後、どうなったんだ。無事なのか。

 授業なんて耳に入ってこない。そのことばかりで頭がいっぱいだからだ。

 あいつのことばかりを考えてしまう。この感情の名前はきっと、「許せない」というのだ。

 

「住所? きみ、あの子とはお友達?」

「……いえ」

 

 放課後、職員室を訪ねた。あいつの担任に、住んでいる家を聞く。

 個人情報がどうとかで、教えてくれなさそうな空気だ。オレの住所はあいつに教えたってのに。

 

「じゃあ、友達になりたいの?」

「え……」

「彼は、友達になりたい、って言っていましたよ」

 

 ……たしかに、言っていた。

 オレは……。

 

「教えてあげるから、お見舞いよろしくね」

「あ、あの。今日は、どうして欠席してるんですか?」

「ちょっと頭を打っちゃったから、大事を取ってお休みしたいって」

 

 連絡があるということは、生きてはいる、のか?

 ならオレは……あいつに会って、どうするんだろう。

 

 あいつの家にたどり着くのに、そう苦労はしなかった。割と近所に住んでいたからだ。

 たまたま鉢合わせになることがあったのも説明がつく。

 家はアパートなどではなく、平屋の一軒家だった。あいつには、ちゃんと保護者がいるのだと思われる。

 扉の前まで来たものの、呼び鈴を押すのにためらう。オレはどうしようというのか。重傷だったらどうする。あいつに、ごめんなさいとでも言うのか?

 そんなことで自分は許されるのだろうか。あるいは、彼を許せるのだろうか。

 

「あっ……」

 

 後ろからの声に、振り向く。

 そこにいたのは、高町なのはだった。

 何故ここにいるのか? 決まっている、昨日はなのはもあそこにいたんだ。ケガの様子を見に来たのだろう。

 

「あ、あの……」

 

 なのはが何かを言おうとした。

 だから、その横をすり抜けて、逃げた。

 

「あ……待って!」

 

 声を振り払い、自分の家まで逃げ帰る。

 どうしてこうしてしまったのか、自分では分からなかった。怖い、という気持ちがあったと思う。

 あいつがどうなったのか結局わからないまま、今日という日は終わりだ。明日も明後日も、これからずっと、そうなる気がしてきた。

 自分の部屋で、眠くなるまでぼうっとしている。

 そういえば昨日一昨日と、こんなにつまらない夜が続いたのは、久しぶりかもしれない。だってそろそろ、あいつが来てる時間だ……。

 時計を見ながらそんなことを考えていると、部屋の呼び鈴が鳴った。

 

「こんばんは」

 

 頭に包帯を巻いている以外、いつもとそう変わらない姿がそこにいた。

 

「お前、なんで……」

「それはほら、毎日来るのが個人的にノルマだから」

 

 わけのわからんことを言って、そいつは視線を泳がせた。

 生きてたのか。無事だったのか。元気なのか。……良かった。そんな言葉が喉まで出かかったのを、無理やり飲み込む。

 

「っ……入れよ」

「えっ?」

「あがれって言ったんだ。その……食器! 毎回洗って返すの面倒なんだよ。お前がここで洗っていけ」

「……あ、ああ」

 

 遠慮がちに入ってくる。

 何か言いたいことがあった気がするが、なんか全部忘れた。

 ……きっと、話しているうちに、思い出すだろう。

 

「何突っ立ってる、邪魔だっての。食べないと食器が洗えないだろ」

 

 座るように、指で下を示す。例えるならまるで、初めて好きな女の子の部屋に入ったやつみたいな落ち着かない様子で、そいつは腰を下ろした。

 こいつのことは許せない。お前が、オレを庇って怪我をするなんて、怒りでどうにかなりそうだ。

 けれど、いや、だから……お前と、話をしたいと思ったんだ。

 

 

 それからというもの、夜は一緒に食事をするようになった。

 先に言った通り、食器を洗うのが人生の中で二番目にめんどくさいからな。こいつにやらせておく。一番目は洗濯物を畳むこと。

 黙って食うのも心地が悪いので、とりあえず気になっていたことから聞いていく。

 

「お前、転生者だろ」

「テンセイ者? ってなんだ?」

 

 マジかこいつ!? 今時、転生ものも知らんのか。部活と勉強しかやってないタイプか?

 

「この世界に生まれ変わって来て、前世の記憶がある人間ってことだよ」

「ああ、そういうこと。君もそうだったのか」

 

 なんか嬉しそうだな。オレは嬉しくねーよ。オレだけが特別だと思ってたのに。

 

「漫画とかラノベとか読まないクチか? かーっ、どうりでそりが合わない」

「ワンピースなら最終巻まで読んだよ」

「は? ワンピースはまだ連載中だろ」

 

 適当なこと言って合わせるんじゃねえ。こういうやつは嫌いだ。

 

「いや、本当だが……連載はずいぶん前に終わっただろう」

「??」

 

 なんでそんな、誰でもわかるしょうもない嘘をつく? 意味あるのか。

 やがてこいつは、妙に真面目な顔になり、続けた。

 

「どうやら、俺が死んだのは君が亡くなったのより少し未来になるようだ」

「……つまり?」

「君は連載中の時代から、俺は連載終了後の時代から、今のここに生まれ変わったってことだと思う」

「ま、マジ?」

 

 な、なるほど。それは……面白い話だ。自分はもう知ることのできない、あの地球の未来を、こいつは知っていることになる。前世の世界はつまらないものだったが、こればっかりは興味がある。

 例えば、何より今気になるのは……

 

「ワンピース最後どうなるの?」

「ええと、最後はルフィが……あっ」

「何だ!?」

「俺と結婚してくれたら教えよう」

「こいつ……!!」

 

 良い顔するんじゃねえ、ムカつく! 誰がするもんか……誰が……くっ! どうなるんだルフィが……!

 はらわたが煮えくり返るとはこのこと……!

 クソ! いずれ聞き出してやる。

 話題を変えてしまおう。そのうち遠回しに、オレの死んだときより未来のことを零すかもしれないし。

 

「ええと……お前、歳はいくつだったんだ」

「まあ、今の年齢と足したらもうおじさんかな」

 

 そんなこと言って、嘘だね絶対。

 大人の割には行動が非常識すぎる。まずこんなロリコンのおじさんが存在してはいけない。オレより下だね絶対。元は中学生か小学生のガキに違いない。

 

「あ、そういえばお前……なんか武術やってるのか? そこそこの運動神経だけど」

 

 地球の生まれでデバイスとかもないみたいだが、動きが速い。思い返すと、気配遮断の技術があり、ジュエルシードを感知している様子もあった。

 小学生の身でできることではない。転生者らしく、レアスキルでも持っているのか。

 

「剣道を習っているけど。それとたまに、高町の家でも稽古をつけてもらうときがある」

「それが原因か……」

 

 なんか納得してしまった……。よく知らんけど、高町家の人たちは御神流? とかいう剣術を修めていて、神速とかいう高速移動みたいな必殺技があるらしい。そんな奴らに稽古つけてもらってるのかコイツ。

 じゃあ思いっきり近接タイプか。ベルカ式とかあってそうだな。いや、ミッド式の魔力刃だけでもまあまあ戦えるんじゃないか。

 

「魔法は使えないのか?」

「ああ。スクライアから、リンカーコア? とやらの質はかなり良さそうだと言われはしたが、どうにも理屈がわからない」

「ふうん……」

 

 ちら、と。書物類を適当に積み上げてある、部屋の片隅を見る。

 

「俺のことなんかより、君のことを教えてくれよ」

「おっ……フゥーン、よくぞ言った! 聞け、オレの輝かしい半生を。数年前、ミッドチルダの違法な実験施設で誕生したオレは……」

 

 その言葉は、ずっと待っていた言葉だったのかもしれない。

 ……誰かに話したくて仕方なかったことを今日、オレはたくさん話した。一大冒険譚なので、休憩を挟みつつ。

 話題を逸らされたことに気付いたのは、小学生にはずいぶん遅い時間になってからだった。いつの間にか食器も洗い終わっている。感心する早業である。

 

「……と、そんな感じでこれから魔導師として伝説をつくっていくわけだが……こうなってからは、なんか魔法の調子が悪いかな」

 

 こうなってから、というのは勿論、非力な幼女になってしまってからということだ。本来ならあんな無様な戦いはしない。

 ……こいつに怪我をさせることも、なかったはずだ。

 

「じゃあ君は、元の男の身体に戻りたいんだな」

「当然だろ」

「なら、高町と協力しよう」

 

 ちくり、とした。

 高町なのはと協力なんて、願ってもない。というか、いつ参加したらカッコいいだろうかなんて、ここ数年間よく想像していた。

 ここ最近で、なのはと会ったときのことを思い出す。

 

「……いや、いい」

 

 今のオレに、何ができる? 今までの戦果はどうだ。あちこち打って擦りむいて、あげくこいつの背中に傷をつくっただけだ。

 こんな姿を見せて何になる?

 

「そうは言っても、事情は話す必要があるだろう。スクライアと高町はジュエルシードを集めているんだから、君の話は手がかりになるかもしれない。うまくいけば、戻る方法も見つかるかも」

「お、おい……話すって」

「君がジュエルシードと接触したということだけだよ。他のことは言わない」

 

 真面目な態度……誠意、っていうのかな。言葉と表情で、そいつを見せつけられる。

 こいつは、オレにかまってくる。

 家にまで押しかける。攻撃から助け、庇い、オレに協力しようとしている。

 だけど、こいつがオレにかまってくる理由は……わかっている。あの日からずっと、口にしている。

 

「お前、さ。オレが男に戻ってもいいのか?」

「? 何か良くないことでもあるのか」

「いや……」

 

 お前は、オレが男に戻ったら……もうここには来ないのか?

 そんなことは、聞けるはずもない。

 

「じゃあ、今日は帰る。明日は何か進展があるといいね」

「……ああ、ちょっと待て。これ持ってけ」

 

 その辺に転がっていた金属製のカードを、拾って投げつける。

 

「デバイスだ。壊れて使い物にならんから、銃弾避けにでもしろよ」

 

 ついでに、本の山を崩して、目的のものを拾い上げる。

 

「あと魔法の教本。オレはもういらんからこれで勉強しろよ」

 

 原作に関わるなら、せいぜいこれで、まともな戦力になれ。雑魚がうろうろしてもどうにもならないぞ。

 魔法を学べばわかることだが、原作キャラは魔法に関して天才の部類ばかりだ。オレには負けるがな。

 

「い、いいのか? 俺のために……」

「お前のため? ハッハッハ、違うね。お前はなのはを補助する戦力となって、オレを女にしたジュエルシードを見つけてくるんだよ」

「……わかった! 君に頼られるなんて、嬉しいな」

「頼ってねえ! オレ様の手足となってボロボロになるまで働けって言ってんの」

「わかった!」

 

 わかってない。

 

 

 

 ある日のことだ。

 いつもと違ってそいつの肩には、1匹の小動物がいた。

 

「彼は異世界人だ。君の力になってくれるはずだ」

「ユーノ・スクライアです。よろしく」

 

 賢そうな顔をしたフェレットは、流暢な人語をくりだした。

 以前に会ったときはそれどころじゃなかったから、感想も何もなかったが。こうして対面するとファンタジーでいいな。この世界の魔法ってあんまりメルヘンがないんだよな。

 

「ああ、淫獣の……」

「インジュ……? うまく翻訳できていないのかな。彼女は何と?」

「さあ……」

 

 彼女じゃねえ、彼と言いなさい。

 クソ淫獣というイメージだったが、フェレットが喋って身振り手振りで人間っぽい動きをするのをみると、その、わりとかわいい、ではある。

 いや! こいつは変身して女子の着替えを覗くような奴だぞ。見た目に騙されるな。

 

「ユーノくんよ、人にあいさつするときは、ちゃんと本当の姿になるべきじゃないか?」

「ん?」

「そ、そうだね。失礼しました」

 

 本来の醜い男の姿に戻ってもらおうじゃないか。フッフッフ、もう魔法少女の動物ポジには戻れなくしてやるぞ。

 魔法陣が現れ、目に優しい緑色の光に包まれたフェレットのシルエットが、やがて大きく変化していく。

 

「改めて、ユーノ・スクライアです」

「………お、おう。よろしくな」

 

 か、可愛いじゃねえか、顔……。女だったら嫁にしている。

 でも、男なんだよなあ。なんでオレの部屋、男まみれになっているんだろうか。嫁しか入れないと決めていたのに。

 

「スクライア、人間だったのか……!?」

「あ、あれ? この姿で会うのは初めてだっけ?」

 

 いいよそのくだりは。その驚きは魔法少女がやるから可愛いんだぞ。

 

「そんなことより……君には謝らなくちゃ。事情はある程度聞きました。僕がジュエルシードを発掘してしまったせいで……本当に、ごめんなさい」

「………」

 

 対面したユーノは、オレに向かって頭を下げた。

 ……そうだな。

 ジュエルシードで女になったりしなければ。今頃オレはどれだけ活躍していたことか。

 こんなやつに助けられたり、こんなやつを庇って、乏しい魔力で怖い思いをすることも……この部屋に誰かを入れることも、なかっただろう。

 

「……いいよ、別に。お前が地球にバラ撒いたんじゃないんだろ」

「でも……!」

「いいって言ってんだろ、やめろその態度」

 

 面倒くさいやつだ。わかったからさっさと力を貸してくれよ。

 そうして卑屈で申し訳なさそうにするユーノを二人がかりでたしなめるのに、それから結構かかった。

 

「じゃあまず、君がジュエルシードに触れたときのことを、詳しく聞きたいんだけど……」

「ああ……先に言っとくけど、女の子には言うなよ?」

 

 うまい嘘が思いつかなかったので、どんな願い事をしたかは正直に話した。

 嫌な顔をされるかと思ったが、二人そろって妙に真剣な顔で聞いていたため、話している側だけなんか恥ずかしくなった。

 

「というわけで、気付いたら女の身体になってたわけ。……おい、大丈夫か?」

 

 話の途中くらいから、ユーノの顔色が悪い。

 

「あ、うん」

「なにか分かったのか?」

「うん。推測になるけど……」

 

 自分を落ち着けるかのように、一呼吸おくユーノ。そんなに勿体ぶられると、ついごくりと喉をならしてしまう。

 

「もしかするとそのときから、君の体内にはずっと、発動中のジュエルシードがある、かも……」

「は?」

 

 意味を頭が理解する前に、気付けば、手を胸に当てていた。

 

「ついこの前、子猫にジュエルシードがとりついてしまった事件があったんだけど……子猫は怪物にはならず、ただサイズが大きな乗り物くらいになったんだ」

 

 思い出す。それはたしか、フェイト・テスタロッサが初登場したときのエピソードだ。

 子猫に害はなく、苦も無く封印できるはずだったが、なのははもうひとりの魔法少女であるフェイトと、ジュエルシードを巡って戦闘になる。

 

「それは子猫の『早く大きくなりたい』という願いが変に作用して、ああいう姿になったのだと考えているんだけど……これは、君にも当てはまることじゃないだろうか」

 

 それは、そうだ。ジュエルシードが願いを歪めて叶えるとき、必ず持ち主のすぐそばでピカピカ光ってないとおかしい。

 どこにも見当たらないなら、例えば、オレの中で。

 

「じゃあ、今もここに、ジュエルシードが……?」

「うん……心当たりはない?」

 

 ユーノの顔色が悪いのもわかる。発動中のジュエルシードなんて、いつ爆発するかわからない爆弾だ。それが、オレの体内にある。

 恐ろしい話だが……慌てるな、落ち着け。これからはしっかり考えて、慎重に動くべきだ。

 ユーノの推測には思い当たるフシがある。例えば、ジュエルシードモンスターが現れたとき、リンカーコアのある胸のあたりが熱くなることがあった。また、以前ジュエルシードの生み出した樹木からやたら標的にされたこともある。これらの現象はジュエルシードが、オレの中のものと互いに反応していたから、と考えることができるだろうか?

 ……じゃあ、この前のモンスターもオレを狙っていたというわけで。こいつは本当に、オレと居たせいで、要らない怪我をしたってことだ。

 

「………」

「これ以上のことは管理局や医療機関の設備でもないと、はっきりとはわからないかな……でも、このケースなら、対処もひとつ考えられるよ」

「本当か!」

「管理局? ってなんだ?」

 

 人が本当に真面目な話をしているときに、素っ頓狂な声で割り込んでくる奴が一人。

 聞いてた? 今ものすごく大変な話になっているんだよ? え!? 胸の中に爆弾が!? って状況なんだよ。お前も次元震に巻き込んでやろうか?

 ほらもう、ユーノが律儀に答えるだろうが。

 

「ええと、時空管理局、っていうんだけど。こっちでいう警察とか軍隊みたいな……いろんな世界を守ってる、治安維持組織……って言ったらわかる?」

「人の世界に勝手に来て自分のところの法律を強制したり、この星は我々が管理するなどとのたまう腐った侵略組織だ」

「ええっ! い、いやいや……」

「なんだよ。あってるだろうが?」

「その、今時珍しい過激な考えというか……」

「ああん?」

「なんでもないです……」

「結局よくわからんが、あまりスクライアをいじめないでくれ」

 

 いじめてねー。無知なお前のために真実を語ってるだけだぞ。というかこの話をふったのはお前だぞ。

 ……少し緊張がほぐれた。気を取り直して、ユーノに続きを促す。

 

「ユーノ、対処っていうのは?」

「ジュエルシードの暴走や発動を抑えるために、いつもなのはがしていること。封印魔法だ」

「……! なるほど」

 

 封印魔法。危険物に強制停止をかけたり、事前に機能を抑制しておくための魔法だ。また、アニメを見た感じだと、なのはとレイジングハートのそれには、暴走体の中からジュエルシードを抜き取る効果が付加されているはずだ。

 なるほど、なるほど。まさしくこの状況を解決するためにある魔法だ。これしかない。

 淫獣を家にいれた甲斐があったな。いや淫獣というのも悪い気がしてきた。これからはユーノのことを、けだものと呼ぼう。

 

「サンキューな、けだ……ユーノ」

「ならさっそく、高町を呼ぼうか?」

「そうだね。一刻も早く行動した方が良い」

 

 今、なのはにまた会って、しかも頼みごとをするのは気後れするが……身体が戻ればきっと、何もかもうまくいくんだ。

 

 場所を移動して、臨海公園の高台に来た。

 人気があまりなく、ここでなのははよく魔法の練習をするらしい。

 とはいえ、魔法を管理外世界の人間に見られるのは絶対に避けるべきことだ。人目につかないよう、ユーノが狭い範囲の結界を張る。

 なのはには、ジュエルシードのせいで性別が変わってしまったことを……話してしまった。

 

「そうなんだ。なんか、いつもと違うなって思ってた」

 

 リアクション薄め。

 今までオレの嫁だと呼んできたが、彼女にとってオレは、隣のクラスの生徒でしか……いや、やめよう、そんなことを考えるのは。

 身体を元に戻すのが先決だ。

 

「レイジングハート!」

 

 なのはの掛け声で、セットアップを終えたレイジングハート……魔導師の杖が、桃色の翼を展開する。

 リリカルマジカル、なんて可愛らしい声と共に、光のリボンがオレに迫ってきた。アニメの後半ではめっきり見なくなったな、こういうメルヘン要素。

 リボンがオレの身体に巻き付き、突き刺さる。痛みはなく、封印処理が始まった。

 

「うっ……!?」

 

 見た目は魔法少女らしいものだが、中身はそうじゃなかった。

 あ、頭の中に、自分のものじゃない魔力とプログラムが流れ込んでくる……! なのはのものとはいえ、気分が、あ、う、これは、人間に撃っていい魔法なのか!?

 

「あ、ぐ……!」

「ゆ、ユーノくん、どうしよう、様子が……」

「ストップ! やめよう、ジュエルシードが現れない……!」

 

 不快なものの流入が止まった。膝をつき、息を整えようと喘ぐ。

 

「アプローチを変えてみよう。なのは、ディバインバスターで、強制停止と排出を試そう」

「その、大丈夫なの?」

 

 ユーノ……さらっと恐ろしい提案をしたな。だが、純粋にオレの問題を解決するためなんだろう。

 

「やってくれ」

 

 立ち上がって、待ち構える。

 なのはは躊躇した様子だったが、やがてレイジングハートを砲撃用とみえる形態に変えた。

 

「ディバイイン……バスターッ!!」

 

 桃色の光に飲み込まれる。身体が光に押され、吹き飛ばされるもんかと踏ん張る。

 ……生ディバインバスターの威力! 今まで魔力による攻撃はまともに受けたことが無かったけど、これが……!

 意識が飛びかけて、身体から力が抜けていく感覚。

 気が付くと自分は、草むらに倒れていた。

 

「おわった、のか……?」

 

 身体が動かない。寝すぎたときの、意識ははっきりしているのに身体が眠っているときの感覚と似ている。

 身体の端から力を入れていき、上半身をなんとか起き上がらせる。これがいわゆる、魔力ダメージによるノックアウトか。

 

「ごめん、失敗だ……」

 

 ユーノの声を聴いて、自分の身体をあちこち探る。

 ああ……戻っていない。

 

「なのはの魔法の出力でも出てこないってことは、君の体内にジュエルシードはない、ってことかも……」

「そんな……」

「……事件が解決したら管理局に連絡するから、そのときに事情を話して、検査をしてもらおうよ。君はそれまで安静にしていてほしい」

「………」

「あ、もちろん、他に何か解決法が思いついたら、真っ先に君を訪ねるよ。ね、なのは」

「う、うん」

 

 管理局には、関わるわけにはいかない。逮捕されるに決まっている。

 何か、方法はないのだろうか。次にオレはどうすればいいんだ。

 

「大丈夫だ。きっとそのうち、いい方向に回るよ」

「……うるせー」

 

 今まで黙って眺めていたやつにも、声をかけられた。

 他人事だと思って、無根拠にそんなことを言うな。

 

「そうだ。今度みんなで温泉旅行に行くんだけど、良かったら一緒に」

 

 ……励ましているつもりか。

 そんなやつの背後には、なのはがピクリと反応するのが見えた。

 温泉旅行ってあれか。アニメにあったやつだな。原作3人娘とその家族で行くやつ。夜にはフェイトやアルフと、ジュエルシードをかけて戦闘になる。

 ……ちょっと前までのオレは、呼ばれなくても行くつもりだったが……

 

「……いい。旅行は嫌いだから」

「そうか。じゃあ、俺もいかない」

 

 馬鹿かこいつ。じゃあってなんだよ。

 オレのせいでお前が行かなくなったら、なのはたちに嫌われちゃうだろうが。

 

「いいから温泉には行けよ。それとちょっと耳かせ」

「?」

(……温泉でもジュエルシードがあって、なのはのライバルも現れる。気をつけろよ)

「……!」

 

 話は終わりだ。なのはが待ってるんだから早く行けよ。オレはちょっと、休憩してから帰る。

 しっしっと追い払うジェスチャーをする。が、やつは片耳を手で押さえて変な表情をしている。

 

「……い、今の耳打ち、もう一回やってくれないか? なんか、良い……」

 

 ビンタしといた。

 

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