ソードアート・オンライン -シスコン投剣使い-(仮称)   作:石っこ

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自分でもなに書いてるのか解らなくなってきた冗長な回。


EP-08 裏切り

 狩り続けてしばらく。キリトの発言通り遅れを取り戻すのはそう難しいことではなかった。今まで必要だった索敵時間が減ったおかげだろう。代わりに休憩する時間もほとんどないに等しく、連戦続きで彼らの疲労の蓄積度合いは相当に高かった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 キリトが荒く息をつきながら、服の袖で頬を拭う。実際汗をかいているわけでもないのだから、無意味な行動ではあるが、癖のようなものなのだから仕方ない。現実と違って肉体的疲労は感じづらくても、精神的疲労はダイレクトに反映されてくるのだ。

 

 キリトは、自分が疲れていたというのもあるが皆に休憩を促すと、近場に腰を下ろした。周辺のモンスターは手あたり次第に狩ったし、そうそう危険はないはずだ。仮にPOPしたとしても、POPしたばかりのモンスターが索敵能力を発揮するまでには多少のラグがある。エフェクトは派手であるし、確実に発見できると考えれば逃げ切るのも容易だろうと当たりをつけたのだ。

 

「花付き……出ないね」

 

 キリトに続くように彼の近くに腰を下ろしたコペルはそう話しかけた。声音にはありありと疲労の色が見てとれ、キリトの判断が間違っていないということを窺わせた。その言葉を聞くと軽く溜息をつき、首を振って

 

「ああ……もしかしたら、ベータから修正が入ったのかもな」

 

 少しばかり苦々しい表情になりながら言ったキリトに、同意するようにコペルも頷きを返す。

 

「かもね。これだけ狩っているのに出現しないというのはベータと比べて明らかに……」

「弱気だな」

 

 キリトとコペルの会話に割って入ってくるような声があった。彼らの疲労感満載の声に比べて、それは幾分か余裕さが感じられる。キリトは彼のその余裕さにどことない安心感を覚えるとともに、少しだけ警戒心を強めた。

 

「まあ、確かに疲れてきたけどな」

 

 肩をすくめながら、並んで座るキリトとコペルの正面の位置にハルカは座った。だらけきったように態勢を崩して座る姿に、ふたりは苦笑いを浮かべた。

 

「ハルカはまだまだ余裕そうだね」

「全くだ」

 

 若干引き気味になりながら言うコペルと憮然とした態度で不満気に言うキリト。それは自分よりも精神的に強いハルカへの嫉妬も混ざっていたのだろう。

 それを聞いたハルカは、ちょっぴり驚いたような顔をふたりに向けると先ほどまでの強気そうな表情を崩す。その瞬間チラリと見えた、深みが見えない悲しみが浮かんだような顔にキリトは息をつめた。コペルの方はそこまでハルカに注意を払っていなかったようで、気付かなかったようだが、ハルカから余裕そうな表情が消えたことには気付いたようだ。

 

 一瞬沈黙の帳がおりかけたが、ハルカはその間を嫌うように大袈裟な身ぶりを加えながら、口を開いた。

 

「おれだって余裕じゃないさ。誰かさんたちにタゲを任されたりな」

 

 一瞬浮かべた沈鬱な表情はどこへやら、おどけた様子でそういったハルカにコペルはまたも苦笑い。キリトもさっきの表情は自分の気のせいだったのか と考えを改めた。

 ちなみにハルカが言ったタゲを取らされたというのは、狩りでの出来事に由来している。遅れを取り戻そうと索敵時間の削減を計った3人は、自分たちの人数よりも多めなネペントの集団にも戦闘を挑んだのだ。その際に余ったネペントたちを相手どることになったのがハルカ――というわけだ。

 

 ハルカがタゲ取りを任されたのは、この中で最も適していたからだ。彼の持つ≪投剣≫スキルの性質上、一体に接近して死角からもう一体に襲われる――なんてことを避けることができる。広い視界で戦闘ができるというのは多対一では、重要なことだった。

 しかし、両方が見れるうえ、距離をとって戦うことができるといっても、必要とされる集中力はキリトやコペルよりも大きい。距離を離しすぎればこちらのターゲットを外しどちらかに向かう可能性があるからだ。それと接近戦を仕掛けるわけにもいかないという関係上、与えるダメージが少なく、敵を倒すことができずキリトかコペルの増援待ちというのもある。

 

 つまりどういうことかというと、一番きつい役どころなうえに増援を待たなければならないストレスの溜まる仕事をやらされることになったということだ。

 

「……ただ、おれにはやらなきゃいけないことがあるからな」

 

 ぼそりと呟いたハルカの言葉は誰に届くこともなく、静かな森の中へと消えていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

辺りも暗くなってきており、もうしばらく狩ってそれでも出ないようなら今日は諦めるという結論を出して、ハルカたちは立ちあがった。いくら休憩をはさんでいるといえども、そう簡単に疲労は抜けきるものではない。本音を言えば、この場の誰もが多かれ少なかれ止めてしまいたい気持ちを持っていた。

 

また、問題はそれだけでなく、武器の耐久度のこともある。長い狩りで磨り減った値は破損するまでそう遠くないくらいにはきていた。唯一ハルカだけは≪投剣≫スキルもダメージ源となっていることもあってか、彼らに比べたら幾分かマシではあるが。

 

「待て……」

 

 先行して索敵をしていたキリトが、横に手を広げて後を追っていたハルカとコペルをとどめる。今までは効率を重視するためもあり、戦えそうな数の相手を見つけたら、即戦闘に入っていたためこの行動の変化に彼らは首を傾げた。

 

「どうした、キリト」

 

 ハルカは、コペルと自分の感じた思いを伝えるように疑問の言葉をつむいだ。しかし、キリトはそれに返答をせず、こちらに振り向くと親指を立てて後ろの方を指した。

 そちらを見たコペルは目を見開いた。対してハルカは彼らほどの感動はないが、やっとか という疲れたような言葉を小さく吐き出したのだった。

 

「花付き……!」

 

 そこにはこの3人が散々探し続けていた『花付き』のネペントがいたのだ。それを確認するとすぐさま突っ込みそうになったコペルだったが、ハルカはその奥エリを掴むとぐいっと引きよせた。

 

「ぐっ」

 

 突然、事故ではあるものの首を絞められる形になったコペルが、短い呻き声を上げる。続いて地面に引き倒され、わずかにHPが減少した。それをやった側――ハルカは感情の読みとれない瞳で彼を見続けた。自分が何をされたのか理解して、沸騰するような怒りを覚えたコペルだったが、あまりにも冷たいその瞳にゾクッと背筋が凍る。

 

「……キリト、続きだ。呼びとめたからには理由があるんだろう」

「あ、ああ……」

 

 いつものハルカから比べて、幾分か低いトーンの声がキリトの耳に届く。ハルカが仕方ないこととはいえ、コペルを止めるためにした行動にキリトも動揺を隠せずにいた。

 

「あそこら辺をもうちょっと注意して見てくれ」

「げほっ、げほっ……あそこっていっても、暗くて見えないじゃないか」

 

 数度咳こんで息を整えたコペルがキリトに問う。しかし、言われたことに素直に従い奥に眼をむけてみると、

 

「実付き……?」

 

 ネペントの中でも最もあいたくない状態のモノがいた。彼らの上に生成される実を壊すと、臭気をまき散らし辺り一帯のネペントを引き寄せるのだ。そんなことになれば、安全の保証は一切できない。それどころか死の色が濃厚ですらある。

 

 コペルは知らず知らずのうちにゴクリと喉を鳴らした。それはやっと見つけた『花付き』のネペントに。あるいは自分の中に出た恐るべき発想に。

先ほどしてしまったことの(多少ではあるが感じていた)罪悪感から、コペルの方に目を向けていたハルカは彼の異常な様子に気がついたが、その異常さがうまく自分自身にも説明できないので、仕方なく保留することにした。

 

「ああ、実付きだ。『花付き』が出たのはいいんだが、もし一歩間違って実付きの実を割ってしまったら――笑い話にもならない」

 

 キリトが何をいいたいのか彼らは一瞬で察した。つまり実付きのタゲとりを誰がやるべきか――という議論だ。ハルカの中ではすでにキリトに『花付き』をやらせるという結論は出ていたので迷うことはなかった。コペルの方を見ると――

 

(……何かに苦悩している?)

 

 ハルカはそんな感情を読み取った。それはシリカ――珪子のことで心を悩ませた自分に動機こそ一緒とは思えないものの……深刻度合いはそっくりで。そうであるがゆえにハルカは不安になった。『花付き』が見つかって喜ぶべき状況であるはずなのに、何を憂うことがあるのだろうか。そんなことを考えている間にコペルは何かを決心したようで、先ほどの暗い表情など微塵も伺えない顔になると、

 

「実付きは僕が相手する――ハルカとキリトはそれぞれどちらかが周囲の警戒、そして『花付き』の討伐をしてほしい」

 

 今まで特にしたことなかった『警戒』という任に、思わず怪訝な表情を浮かべかけるハルカ。それを察したようでハルカが核心に近づく前に、用意しておいた理由を話し始めた。

 

「ネペントの実が割れる条件は何も僕らの攻撃に限ったことじゃないんだ。そんなことはほとんどないんだけど、他のネペントのツタが当たっても割れる。だからその危険性を最大限失くしたいんだ」

 

 そう言われると納得せざるを得ず、ハルカとキリトは頷いた。

 

「――おれは周囲の警戒をしよう。キリトは『花付き』を倒してアイテムを手に入れるといい。なにせ……これを最初に始めてたのはお前だからな」

「ああ――なんか、すまないな」

 

 行きずりの関係であるはずなのに、すでに大分親近感を覚え始めていたキリトは本当にすまなそうな顔をしてそんなことを言った。しかし、見捨てて置いてきた友――クラインのことを思い出すと、自分にはこんなこと許されるはずがない。という強い強迫観念に似たようなものに囚われた。

 

 そんなこともあってこの奇妙な3人組で常にリーダーを任される形になっていたキリトが、なかなか作戦開始の合図をしないので代わりにハルカが合図することにした。

 

「――行くぞ!」

 

 それぞれ自分の役目を果たしにモンスターのところへ殺到する。ハルカだけは倒さなければならないという決まったモンスターがいないので手持無沙汰ではある。

 しかし、コペルの懸念は当たったようで数秒後にはハルカに余裕はなくなった。

 視界にはキリト達とほど近いところで2体のネペントが確認できたのだ。

 ハルカはちらりとキリトとコペルの方を流し見ると、増援は期待できそうにないと見当をつける。

 

「先手必勝……!」

 

 2体同時に相手し続けるのは厳しい。ならば片方を倒してしまえばいい。ネペントは視覚的な器官がなく、気付かれず接近するのは相当難しいのだが、忍ばなければ気付かれてもギリギリ先手をうてるだけの余裕が持てる。つまり無理に忍びよろうとせず突っ込んだ方が良いということだ。

 

「ふっ!」

 

 剣を青色のライトエフェクトが覆う。もう何度と繰り返してきた≪ホリゾンタル≫の構えだ。キリトに教わった、自分でさらに威力を上げる――つまり動きに逆らわず力を乗せることも実践する。空気を切り裂く鋭い唸りをあげて、刃はネペントの弱点部分を的確に切り裂いた。

 

 ハルカの使う曲剣カテゴリは、剣によっては刺突系は使用不可に近く、刀身に反りがあるため通常よりもリーチが短くなる傾向にあった。代わりに切断系のスキルに恩恵がある。その恩恵をあまさず活かした、必殺の一撃は一発でネペントを斬り伏せた。

 

 まさか自分でも一撃で終わるとは思わず、驚きかけたハルカだったが自分のしたことに自分で驚いて隙を晒すなど、そんな馬鹿な真似はしたくない。急いでもう一体の方に振り向きつつ、キリトとコペルの方の戦況を探る。『花付き』と実付きは通常のネペントよりもわずかにステータスが高いので、ハルカよりも時間がかかりそうに思えた。

 

 自分に任された仕事は警戒であるのだが、警戒するよりも危険分子である実付き本体を素早く倒した方がよいのではないか、と思いなおしたハルカは、急ぎ目の前の――花付きでもなければ実付きでもないネペントに意識を向けた。

 

 石を拾いつつ接近しながらそれを投げる。勿論その際にキチンとソードスキルの発動モーションを取っておくことは忘れない。≪投剣≫スキル――≪シングルシュート≫は狙い寸分違わず、弱点である茎へと衝突した。たかが石ころ、されど石ころといったところで通常一発程度では微々たるダメージにすらならないのだが、弱点にあてれば目に見える程度には減少するのだ。

 

 それを繰り返しつつ3個目の石を当てて、走り込んだそのままの勢いでソードスキルのモーションを作る。一切止まらずモーションを起こすのは中々に難しいことで、ハルカもついぶっつけ本番でやってしまったのだが、淡い青色はしっかりと剣を包み込み、ハルカの身体を半自動的に動かした。

 

 強引に振られた剣に、速度と重さを上乗せすることはできない。しかし、狙いどころを調整する程度ならすることができ、胴に似た部分にいっていた狙いを茎の辺りまで変化させた。防衛手段など持っていないネペントはそれをただ受けることしかできず、絶叫に似た叫び声をあげてその体を光の粒子に変えていった。

 

 戦闘を終わらせてコペルの援護に行こうとしたハルカだったが、ふとあちらを見ればキリトの戦闘も終わりそうではないか。どう考えてもハルカがコペルの元に向かうより、キリトが倒したうえでコペルの援護をする方が速そうだった。

 

 余計なことだったかな とハルカは安堵の息をつく。丁度視線の先では散々彼らを手こずらせた『花付き』が四散していくところだった。

 コペルのもとに近付いていくキリトをゆっくりと追いながらハルカは思う。言葉だけでも祝ってやるか と。

 ――しかしその考えは叶うことはなかった。

 

パァン! と風船が割れるような破裂音が辺りに響く。ハルカには一瞬何が起きたのかわからなかった。逆にいえば、状況確認を一瞬で済ませた。

 

「ッ―――!」

 

 先ほどまでのんびりとしていた足を急かせる。あの音が何を示すかなど簡単なことだった。実が割れた。それだけだ。ただ、――コペルが実を割ったように見えたが――

 なぜ? どうして? などといった疑問は放棄してまず生き残るために実が割れた際になにが起きるかを冷静に思いだす。

 

(強烈な臭気を放ち、周囲のネペントどもを引き寄せる――。だとすれば発生した直後に逃げれば間に合うのか? また、その実の効果範囲は? もしかするとおれに届いていないのでは?)

 

 ふと、キリトを見捨ててしまおうという考えが彼の頭をよぎった。ついさっきまで祝ってやろうとさえ考えていたというのに、随分な変わりように自分でも嫌気がさす。

 だがそれでも、彼にとっては魅力的な提案すぎた。少なくともこの場で迷って足を止めてしまう程度には。

 

「そうだ……おれは……おれはこんなところで死ぬわけには――」

 

 その先を思考することはできなかった。なぜならハルカの背はツタで打たれ、無様に地面を転がったからだ。2,3回転ほどすると、ハルカはこんな半端なところで甘い誘惑に負け、歩みを止めてしまった己を呪った。ほとんど痛みはないので問題なく体を起こすが、HPバーを見ればそうも言ってられない。それはすでに5割をきっており、死に近付いていることを否が応でも感じさせた。

 

「…………」

 

 さきほどの反省を活かすように、ハルカは無言で剣を構える。ハルカの視界に入るネペントはたったの3体だ。周囲のネペント達が集まる……はずだが、今まで狩ってきた影響か頭数はそう多くないようだった。不幸中の幸い――といったところであろう。

 

 彼の視界の片隅には一人のプレイヤーが映った。それはキリトだった。すぐ近くにいたはずのコペルの姿はなく、周辺を把握できるレーダーにも表示されない。

 

「まさか……」

 

 彼の頭を嫌な予感がよぎった。それとともに破裂音がした時の状況を思い出す。記憶の中では確かにコペルが実を割るシーンが鮮明に思い描けた。

 ――何らかの方法で逃げ出した?

 

 ハルカが感じたその疑問に答える者はいなかった。

 

考え事の時間はこれで終了とばかりに、ネペント達が動き出した。ただし統率性はなくあくまでバラバラに。それに味方のネペントが攻撃する時に邪魔にならないよう移動する、といった考え方もないようで、動きまわれば1対1の状況をなんとか作りだすことができた。とはいってもその時間は長くはなく、すぐに横やりが入って引き離されてしまう。

 

 引き離されても石を投げるだけであるので、なんとかならないことはないが、長期戦になればなるほど今までにたまった疲れが どっ と押し寄せてくる。こんな状況で感じている場合じゃないと、心に鞭を打つものの効果はあまりなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 結果でいえば殲滅には完了し、この場から離れる際に単独でいた『花付き』を見つけることもでき、依頼の達成もできた。しかし、キリトとは離れてしまった。最初は視界に入るくらいの距離だったのだが、戦闘をしていくうちに移動が多くなって見失ってしまったのだ。

 

 最後の力を振り絞ってなんとか村の中まで入ると、ハルカは地面に倒れ込みそのまま意識を闇に沈めた。

 

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