ソードアート・オンライン -シスコン投剣使い-(仮称)   作:石っこ

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鬱展開プラス短め。
さっそくスランプ気味。


EP-11 妹の思い

 

 アルゴの交渉の結果、手に入った金額は1万500コル。1万前後が限界といっていたところからすると、限界まで値を引きあげたようだ。その交渉力を考えると、やはり自分でやらなくて正解だったと、ハルカはほくそ笑んだ。

交渉の手数料としてアルゴに500コル払った。元々1万の超過分はアルゴにくれてやるつもりだったからだ。効率が良いのを目指すハルカとしては、珍しいことであると思うかもしれないが、この行動にも充分な意味がある。今後、ハルカがアルゴに頼ることはまず間違いなく多くなるだろう。その時のために心証をできるだけ良くしておきたかった。

 

アルゴは突然手の平に置かれた500コルに、きょとんとした顔をして少々の間ハルカを見つめたが、それが自分に対する手間賃だと理解すると薄い笑みを浮かべた。

 

「ありがたくいただいておくヨ。それじゃナ」

 

 お互いにするべきことも終わり、そうして2人は別れたのだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 大金を持ったハルカは、少しの焦りを感じていた。覚悟はしていたことだが、ポンと手元に金が入ってくるといつ誰に奪われやしないかと気になってしまう。ましてやこのSAOに関しては、プレイヤー同士の戦闘を禁止する項目が一切ない。街は安全エリアであるといえど、疑心暗鬼はそう簡単には治まらなかった。

 

 ――結局。大金を持って怯えるくらいなら、早く装備を整えてしまおうという結論に達したハルカは、自分のメイン武器を買った。店売りであるため、売ったばかりの《アニールブレード》とは比べるべくもない性能だが。とはいっても、そう大きく開きがあるわけでもない。予備のつもりの2本目を買おうとして、ハルカはふと考えた。

 

 ―――これは面白いんじゃないか? 店売りの片手用曲剣と自分の腰辺りに差してあるスローイングピックを交互に見つめながら思考する。これが果たして成功するのか、成功するとしてその効果は充分に見合うものか。

 考えた結果は、見合うはずだという結論だった。いかんせん確信がないが駄目だったら駄目だったで、その余分な剣も使いきってしまえばよいのだ。

 

 そうしてハルカは2本におさめておく予定だった剣を、4本も買ったのだった。

 

 

 自分の考えがはまるかどうか試しにフィールドに向かうハルカ。その視界の端にある宿屋が映った。それに気づくと前へ前へと動かしていた足を急停止。

 思わず立ち止まって、通り越してしまったその建築物の方へと振り向いた。

 

「…………」

 

 その宿屋――シリカがいるはずの宿屋を見て、ハルカはなんともいえない気分になった。彼はこの道を通るつもりはなかった。決意が鈍ってしまうと思っていたから。事実、今こうして立ち止まってしまっている。さきほど食事をとれる場所を探してこの世界初の食事をしたのだが、その場所からフィールドへの最短ルートにたまたまこの場所があったのだ。

 

 シリカがいるはずの部屋は明かりがついていなかった。まだ時刻は昼なので、当たり前といえば当たり前なのだが、ハルカにはそれがどうしようもなく不安に感じた。

 いつもならすぐ向かっている。今も、すぐにでも向かってしまいそうな足を意思で留めている状態だ。これは意地。決意を鈍らせまいとする自分を貫きとおすための戦い。

 

「おれはこのゲームをクリアするって……決めたんだろ」

 

 自分に言い聞かせるようにつぶやく。向かおうとする力が弱まった。

 

「珪子を現実に戻すって……決めたんだろ」

 

 更に言葉を紡いでいく。その度に力が弱まるのを感じた。

 

「妹を死なせやしないって……決めたんじゃないのか!」

 

 一際強く声を出した。その声は当然周りにも聞こえ、突然独り言をしはじめたフードの男――ハルカに注目が集まる。それと同時にハルカの決意も再び固まった。

 

「キミ――」

 

 ハルカが少し苦しそうにしていたことになんとなく気付いた一人のプレイヤーが、心配そうに声をかけた。しかしハルカはそれに気づくこともなく、背を翻すとフィールドに向かって足早に去って行った。その足取りは、どうしてかはわからないが見た者を不安にさせた――。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 同時にハルカを見つめる者がいた。宿屋に向かいかけた足を止めて俯いた兄を、窓から見ていた――シリカである。

 

「お兄ちゃん……」

 

 シリカはか弱い声で泣くように声を出した。兄がゲームをクリアするために動くと言い残して出て行ったあと、シリカは『ここで待っててくれ』という兄の言葉通り待っていた。1日の終わりにはきっと兄は帰ってくるはずだという思いで。

 結局ハルカは帰ってくることなく、そして今も宿に向かいかけた足を止めてフィールドの方へと走り去って行ってしまった。

 

「私のこと……嫌いになったのかな」

 

 シリカは自分は兄に好かれていたのだという自負がある。現実でも日頃あれだけスキンシップを取られれば誰でもわかることだ。

 だが、今となってはわからなくなってどうしようもないほどの不安に襲われていた。デスゲームと知らされた時に自分が見せた体たらく。兄の悲痛な面持ちと紡がれた言葉に動揺して、泣きそうになってしまった弱さ。しかもそれをハルカに見せてしまったことを忘れられない。

 

 そんな様子を見せたことででもしかして嫌われてしまったのではないか、という考えがどうしても頭から抜けなかった。それは独りになるということ。

 

 フィールドに出てみたこともあった。すでに何度も戦って、見慣れたはずのモンスターである《フレンジーボア》がなにか得体のしれないモノに見えた。遭遇した時にいい様のない恐怖感に襲われて、足が震えた。勝てるはずなのに、負けるわけないのに。そうわかっていても結局は逃げ出してしまった。

 

 条件が違えばこんなことにはならなかっただろう。もし、ハルカが沈痛な表情で事態の重さをシリカにわからせていなければ、彼女は問題なくモンスターと戦えたはずだ。もし、ハルカが一緒に行動していれば、シリカが尻ごみすることもなく安心していれたはずだ。

死というよくわからないものに突然直面させられ、さらに襲われる孤独感。若干12歳の少女へと与えられる試練にしては、あまりにも酷すぎた。

 

 自分を置いて遠くへ去っていく背中を見つめ続けて、シリカはむせび泣いたのだった……

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