ソードアート・オンライン -シスコン投剣使い-(仮称) 作:石っこ
「そういえば……妹よ。お前なんか……その、ちょっとおかしくないか?」
とりあえずフィールドへと歩きながら遥はそう尋ねた。ハルカはシリカへの――つまり珪子に対する感覚に強烈な違和感をおぼえたのだ。どうとは説明しがたいのだが、確かにある。そう確信できるだけの自信が遥にはあった。
「えっ? そ、そんなことないと思うけど……」
「いいや。なんかおかしい、絶対おかしい。おれの記憶とどこかがずれてる……」
あからさまに動揺しはじめたシリカだったが、しかしハルカはそれには気付くことなく無遠慮にシリカをじろじろと見始めた。シリカはハルカのその真剣な表情に気圧されるように一歩後ろへと下がった。
「顔……はいつも通りの可愛さにちょっとした改良が施されてる。そんなのはとっくに気付いてるからそれじゃない……」
「あぁうぅ……」
対するシリカは兄からに視線に耐えきれなくなったように赤くなりはじめた。ハルカがシリカが現実から多少変更した部分をぎりぎり聞こえるくらいの音量で呟いているせいもあるだろうが、些細なことだ。自分の身体をじっくり見られるというのは緊張してしまうし、とても恥ずかしい。
ハルカはシリカがなにも言わないのをいいことに顔、瞳、下半身と上半身の身体のバランス、ひいては現実と比較した脂肪のつき具合と様々なものを確認していった。すでにシリカの顔は羞恥で真っ赤に染まっており、歩みは止まり茹でダコのようになっていた。
「ここでもない……。となると? ……そうか!」
「うぅ……」
ハルカはようやく違和感の正体に気付き、胸につっかえていた物が取れたような気分になった。それがあまりにも気分よく、うんうんと一人で頷いて勝手に先行しかける。数歩歩いてから彼は後ろからシリカが追いかけてこないことに気付き、シリカの方に振り向いた。そして相も変わらず両の手で顔を覆いっぱなしの妹を疑問に思いながら口を開いた。
「……どうかしたか?」
あくまでも平常運転な兄にシリカは思わずうらみがましい視線を向けながらも、アバターを変えたのは自分自身なのとあまり
「べつに……。それで結局お兄ちゃんが気付いたことってなんだったの?」
「おお、そうだそうだ!」
うまくシリカにはぐらかされたような感じのハルカだったが、続いた言葉がシリカを驚愕させた。今まさにはぐらかそうとしていたことを突かれたためでもある。
「シリカは15mm身長伸ばして設定したんだな。変えない方がいいとおれは思うんだけどなぁ……」
シリカは無意識下で行われていた体温の上昇さえもピタリと止まったような気がした。自分の兄は今何と言ったのだろう? それを認めたくないかのように自分の中でぐるぐるとよくわからない何かがうずまく。
「いや、まさかシリカが身長を変えるとは思わなかったぞ。んー、だからシリカを見つけるのに手間取ったのかな」
ハルカは いや、失敗失敗。これからはそういった思考も考慮するようにしないと などと心理学者のような面持ちで小さく呟いた。シリカにとってはそんな言葉は意味もないし、あまりに驚いて届きもしなかったが。
「き、気付いたの!?」
「そりゃ15mmも伸びりゃ気付くだろ」
目の前の兄はこともなげにいったが、それが実際にどんなに難しいことか。例えば現実なら家具の大きさや廊下における頭の位置とかで判断しやすいかもしれない。つまり天井があれば、ということだ。しかしここは上には広大な空がありシリカの身長の変化を解りやすくするものなど一切ない。つまり彼は自らの記憶だけでシリカの15mm程度の変化を自信を持ってあてたのだ。
シリカも兄に言われたし、最初はアバターの設定をいじくるつもりはなかった。よくわからないというのもあったし、兄の言うことに信頼を置いていたからだ。しかしその思いは身長という項目を見た瞬間崩れ去ってしまった。シリカは自身の身長がクラスでも低いというのを自覚している。――ちょっとした願望くらい持ってしまうのも無理はなかった。
そんなやりとりでシリカの気分はちょっと落ちてしまったものの、歩けば目的地へは自ずと辿り着いてしまうものだ。数分もするころには彼らは町を出て、フィールドへと到着していた。
辺りは草原で周りに視線をやれば他のプレイヤーもチラホラと見える。そのうち戦闘しているのが3PTほどか。他は休憩していたり、他に敵はいないか探していたりと過ごし方は様々だ。
「シリカ。ちょっとここから離れようか。ここじゃ人が集まりすぎてモンスターと戦えるとは思えない」
「そ、そうだね……」
ハルカの声かけにようやく頭を上げて周りを見たシリカは、ぎょっとした表情になってすぐさまハルカへと返事をした。シリカがびっくりしてしまうのも無理はない。もともと人づきあいがさして得意の方ではないのだ。――まあ、それはハルカも同様のことではあるが――
再び歩いてある程度離れたところで止まる。ハルカは手を水平にして額につけると、出口付近のプレイヤー集団との距離を目測で計った。
(ざっと1kmってとこか)
これなら帰る時もおそらく問題はあるまい。仮にモンスターが大量湧きして襲われたとしても、走って逃げれば十分に助けてもらえるだろう。そう当たりをつけるとハルカはシリカへとモンスターを探すよう声をかけて、次いで自身も探し始めた。
「あ! いたよ!」
先に発見したのはシリカで、ちょっといいところを見せたかったハルカは多少落ち込みはしたものの本来の目的はそれではないし、即座に切り替えた。視界に表示されるモンスター名は《フレンジーボア》。見た目ちょっと凶暴そうなイノシシ……といったところだろうか。
「ねえ、向かってくるけどどうすればいいの!?」
見つけたはいいが初戦闘ということもあり、シリカは少々混乱しているようだった。ハルカは手をひらひらと振ってまず自分が行くことを示し、余裕があるように見せることでシリカの混乱を回復させた。
もっとも当然ながらハルカも初戦闘であることに変わりはなく、緊張が拭いきれず体が少し硬くなっているように感じた。
(確かソードスキルの発動方法は……)
スキルごとに指定された発動モーションに身体をあわせて、その状態で溜めをつくればあとはシステムアシストがかかる……だったか と脳内で、道中会話が途切れたついでに見ていた戦闘に関してのヘルプ項目に書かれていたことを思い出す。
ハルカはそれだけ情報があれば充分か と考えると背負っていた剣を引きぬいた。
《ソードアート・オンライン》ではまずメインとなる武装のスキルを選択するのがほぼ必須だ。例えば
その中でハルカは片手用曲剣を選んだ。背中から引き抜かれる剣は《スモールシミター》という銘だ。どうやら使う武器カテゴリを選んだ際に配布される武器はスモール○○というのが固定であり性能もほぼ同じであるはずなのだが、自分の持つ剣が他人のものに比べるとやけに頼りなく見えた。それは反りがあるためリーチが短くみえるためだろうか。
――それとも目の前にイノシシの体格と比較してあまりに小さく思えただけだったのか。ハルカは現実で刃物を使ってイノシシを狩る場合どれぐらいの大きさを用意するのかはわからない。もっとも現代ではそんな狩りが行われている場所などそうそうないが。
思考をするのもここまでですでに目の前にはイノシシの体が視界一杯に広がっていた。――いや、思考しすぎていたせいですでに回避は間に合わないところまできていたといえる。取り得る防御行動を即座に考え実行に移す。構えていた剣を面で受けるようにイノシシと体の間に差し込み、衝突と同時に自分も後ろに飛びつつ剣の構える向きを斜めに変更。
「お兄ちゃん!?」
吹き飛ばされるようになったハルカを見てシリカから思わず悲鳴に近い声が上がった。
心配そうなシリカの声に親指をグッとたてて返すと、ハルカは今度こそ目の前の危険に集中することにした。さきほどのイノシシの攻撃で削れたHPは受け方がよかったのかたったの5%ほど。ほぼ直撃だったのがここまで抑えられたのは幸運だったと安堵から思わず息をつく。
相手であるイノシシもようやく戦闘態勢へと移行したハルカは警戒しはじめたのか、荒い鼻息を洩らしながら足でガリガリと地を削って突進の態勢を作っているため、うまくハルカが落ちつくだけの間ができた。
重い空気で満たされた数瞬の緊張の後、《フレンジーボア》が地を蹴った。先ほどと同様のスピードでハルカへと突進する。ハルカはその延長線上から体を2歩分ずらして、姿勢をつくった。
――片手剣汎用水平攻撃技《ホリゾンタル》――
ハルカの体は青い光に包まれ、《フレンジーボア》との交錯の際に解き放たれた。身体の光が次いで手元にある曲剣へと渡り、システムによって通常ありえないような速度で斬りはらわれた。システムアシストの力で後押しされたスモールシミターはしっかりと、イノシシの体の側面を刃でなぞるように切り裂いた。
《フレンジーボア》のHPが0になると、その体はズシンと地に沈んだ。
「ま、こんな風にやればいいんじゃないかな妹よ」
一撃で終わってしまったため一瞬ポカーンとしかけたハルカではあったが、急いで体裁を取り繕うと格好つけてそう言い放った。
それを見たシリカはくすくすと朝にも見せた控えめな笑顔をつくるのだった。
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シリカは片手用短剣系だったためハルカより接近する必要があり、ちょっぴり危険度は上だったがそこはハルカが間に入って防御したりすることで大した問題はでなかった。
「そういえばお兄ちゃん。私たちって片手しかつかってないのに盾って使わないの?」
「あ」
肝心なところで抜けていたハルカだった。
ソードスキルとか間違ってる点がありそうなので、ちょっと怖いですね……。そういえば珪子=シリカとすぐに繋げれられる人ってどれくらいいるのでしょうか。