「なんだか、さっきのチノちゃん、少し暗い顔してたわね」
「はい、とても悲しそうな表情をしてました」
と美波とアナスタシアが小声で話すと、厨房から料理を携えてきたマスターが
「お待ちどうさま。ボルシチとサラートオリヴィエとペリメニです。まあ、すべて,保存の効く缶詰やここで栽培と生産された野菜等を使っていますので、味については少し自信がありません」
「「有り難う御座います。ではいつものようにタバコでお会計しますね」」
此処では、現金よりもタバコ等の物々交換方式が需要があった。
「分かりました。あと飲み物ですが、余り酒類のストックが足りませんのでおかわりが出来ませんが、バルチカ(ロシアの酒)かウォッカもしくは、キセリ(葛湯の様なとろみのある果汁ジュース)のどちらにしますか?」
「では私は、ウォッカを下さい」
「私は、バルチカにして下さい」
「かしこまりました。ウォッカの種類はどうしますか?」
「スミノフアイスありますか?」
「はい丁度これが最後です」
と酒類が入っている戸棚からバルチカとスミノフアイスを取り出し、グラスになみなみと注ぎ、二人の前に差し出した。
「ではごゆっくり。又何かありましたら遠慮なく言って下さい」
「「有り難う御座います」」
と言うとマスターは二人が話しやすいように横によけコップを拭く作業を始めた。
「では、アーニャちゃん、乾杯しようか」
「ええ、では今日の日の感謝と人類の勝利に」
「「乾杯」」
とグラスの当たる心地よい響きが二人の間に木霊した。
暫く二人で会話をしながら料理に舌鼓を打っていると、少しずつ照明が落されていき、奥のステージと証明が徐々に明るくなると一人のマイクを持った男性にスポットライトがあたり、マイクから声をだした。
「今宵も紳士淑女の皆様にお集まり頂き、誠にありがとうございます。今夜は、今夜限りの特別プログラムを開催いたします。では今夜の特別ゲスト。中東の歌姫 我が基地の聖母マリナ・イスマイールさんで『Hana』 『エトワール』2曲続けてどうぞ。
「いい曲ね」
「はい、とっても優しい歌声です」
「なんだか久しぶりに二人で歌いましょうか」
「それは名案ですね。でも私、今手元にCDがありません。部屋に取りにいかないと」
「大丈夫。わたしのMP3にちゃんと入っているから」
と美波が懐から少し型の古い音楽再生機を取り出すと、身を屈めて素早く音響係にそれを手渡すとすぐさま戻ってきた。
「この後に飛び入り参加OKだって、アーニャちゃん久しぶりだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です。時々曲に合わせて踊っています」
「それなら大丈夫ね。じゃあ準備しましょう」
「はい」
と二人は簡単に髪を整えたが、どうしてもメイク等が無かったが、マスターが手招きすると、
「これを中の厨房鏡で使って下さい」
と言うと何処からメイク道具一式が入った袋を渡した。
「どうしたんですか。これ」
「いえ、小声で話されているのを聞いたので、近くにいる従業員に応援を頼み持ってきてもらったのです。あと、それを聞いた従業員もそのうちステージで踊りたいと言って雲隠れしてしまいましたよ」
「そうなのですか。では、ありがたく使わせて貰います」
と軽く会釈しながら、厨房内に二人はこそこそと隠れながら消えていった。それを見たマスターが、
「やっぱり、女性は笑顔が一番だな。こんな世界になっても輝いていける。そうですよね。お父さん」
と誰にも聞こえないように呟くと、立て掛けていた写真立てにそれぞれの前に供えてあったコップの中の水を継ぎ足して行った。その写真は、様々な所で撮られた笑顔や照れ隠しをした若い女性達やここに集まった人たちの大切な思い出の写真だった。
「マリナさん、ありがとうございました。さて、ここでサプライズゲストの登場です。『審判の日』という災厄の日の時に遠く日本から偶々ここロシアに初の海外公演をする為にやってきた人気Jポップグループ。その名は『ラブライカ』さんです。曲は『Memories』それではどうぞ」
とステージが淡い青色に照らし出されて、美波とアナスタシアは、初めてステージに上がる様な少し緊張した気持ちで歌い始めたが、徐々に前のライブと同じようになっていき、周りの観客も盛り上がってきた。
「「みなさん、有り難う御座いました!」」
とエア顔で歌い切った二人は感謝を述べた。すると観客からアンコールが聞こえ、それぞれの持ち歌(美波は『ヴィーナスシンドローム』、アナスタシアは『You're star shine on me』)を追加で歌い、その後マリアさん、ラブライカの歌に触発された様に他の観客やそこの従業員達も次々と様々な歌を歌い盛り上がった。
「素晴らしい歌でしたよ」
とカウンターに戻った2人にマスターが労うように言葉を掛け、二人の前にカクテルを差し出した。
「これは、私の奢りですので、気に為さらないで下さい。私からのささやかながらの贈り物です。カクテルの名は『スウィートホーム』。昔とあるバーテンダーから教えて貰いました」
「「ありがとうございます」」
とカクテルを一口、口に含むと、2人はそれぞれ感想を述べた。
「なんだか、とても優しい味ですね。気持ちがとても温かくなりますね」
なんだか祖母の家に止まった時の気持ちになります。ホッとします」
「ありがとうございます」
と和やかな空気が流れていると後ろから声を掛けられた。
「二人とも素晴らしい歌声でしたよ」
二人は後ろを振り返るとマリナが微笑みながら、ゆっくりと空いているカウンター席に腰を下ろし、
「マスター。紅茶かコーヒー用意できますか?お二人も一緒にどう?」
「「いただきます」」
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
とマスターが言った後準備に取り掛かった。
「改めて、素晴らしい歌声でしたよ。私よりも心の底から歌えるという気持ちが現れているようでした」
「「ありがとうございます」」
「では、少しだけお話ししましょう」
とマリアと美波とアナスタシアが今までの出来事等を楽しく語り合っていると、後ろから男性の声が聞こえた。
「マリナ・イスマイール」
「刹那。如何したのですか?」
とマリナが振り向くと何処と無く癖のある黒髪と中東系の顔立ちの男性が両手に抱えた袋を持ち立っていた。彼の名は、刹那・F・セイエイ。この人類軍の基地の前身の一つである『ソレスタルビーイング』という私設武装組織のメンバーの一人である。この組織のメンバーの本名は上層部のほんの一握りしか知らない。その為コードネームであるが本名だと感じ街をしてる人が殆どである。
「これをバーのマスターに渡して欲しい」
「これ如何したのですか?」
と袋の中身は今では貴重となった大量のコーヒー豆の袋と各種食料品の缶詰だった。
「今回の調査のついでに遺棄された町の中で見つけた」
「ありがとう。刹那」
「では、用は済んだ」
と刹那はマリナから立ち去ろうとすると厨房から出てきたマスターが紅茶とジャムをソーサーに置き丁寧に持ってきた。
「おや、刹那君、珍しいですね。今日はどうしたのですか」
「刹那がこれを持ってきてくれたんですよ」
とマリナが袋をカウンターに置くとマスターが中身を確認し、顔を綻ばした。
「これは素晴らしい物ですね。此れを探し出すのは大変だったでしょう。そうだ、何か作りましょうか。勿論奢りですよ」
「別にいい。要件はこれだけだから休ませて貰う」
「そうですか。でもとても感謝してますよ」
と言うと足早に刹那がドアから出ようとすると、
「おい、刹那。良いのかよ姫さん。ほっといて」
「別に自分には関係ない」
「おいおい、全くこれだから」
とドアの方で刹那と同じ班のロックオン・ストラトスが質問するが、刹那はいつもの口調で簡単に述べた後部屋から出て行った。
「いつもの無愛想な刹那ですね。でも少し羽を休めてもいいのに」
とマリナが小声でつぶやき、それが聞こえたのかロックオンが隣に座り、マスターにコーヒーを頼み、
「ま、何時もと変わらずで、けっこうだけどよ。何時か壊れそうで怖いな。まあ独り身の俺が言っても意味が無いがね」
「あら、なら弟さんは、結構あの子と上手くいってるのね」
「まあ、そうだな。今日も先にあの娘に会うとか言って先に行っちまったんだ」
とマリナとロックオンが身寄り話しているとマスターがコーヒーを持ってきて、それをロックオンが先払いとばかりに懐から手に入れたばかりのタバコを二三積み上げそのままカウンターに置くと、コーヒーを片手に「準備があるから」と言ってここから出て行った。
「さて、私達もそろそろ引き上げようかしら」
「そうですね。今日はとても楽しい一刻でした」
とアナスタシアと美波はロシアンティーをゆっくりと楽しみ、それぞれ懐から貴重品の葉巻とタバコを取り出し、マスターに手渡しお勘定を済ませ、マリナにも
「「先に失礼します」」
と述べマスターとマリナがそれぞれ
「またのご来店お持ちしています」
「来てくださいね」
と言い。二人はそろってこの部屋から出て行った。
喫茶店兼酒保から出た二人は、
暫く廊下を歩き、エレベーターの手前で、ふと美波が思い出したように歩みを止めた。
「御免なさいアーニャちゃん、私いまから整備場に行かないと」
「え、そうなのですか?そしたら、面会時間間に合わなくなりますよ」
「うん、御免アーニャちゃん。今日は一人で行って欲しいけど、駄目かな」
「分かりました。今日は私一人だけで面会してきます」
「本当にごめんね。明日午前中は、空中監視と警戒シフトの事すっかり忘れてたの。今回はKa-50じゃなくてSu-51だから、今から少し手直しとか調整しないといけないから」
「大丈夫ですよ美波。私は、一人でも面会に行ってきます」
と言いながら二人はまた別々の階に向かった。
アナスタシアは目的の階で降りてしばらく歩くと赤十字の部屋があり、ドアの前に医務室と書かれたプレートが掛かっていた。
「失礼します」
と言いながら、部屋に入り、面会用紙に記入した後、目的の人物がいるベットに向かい
「お久しぶりです。プロデューサー」
※個々の歴史では、試作機計画機計画案機(陸海含み)等のが正式採用されたり、その進化発展形等も登場していますのでご注意を