不定期更新になると思いますが、読んでくれたら幸いです。
アーカディア帝国。それは世界の五分の一を支配する、世界最大の大国。
ここは、そのアーカディア帝国から東方にある島国ーーー古都国。
そこに一人の少年と少女が、辺り一面のお花畑で遊んでいた。少年は、短い黒髪に、体の線が細く、一見は女の子に見えてもおかしくない。少女のほうは、真っ黒な服を着ていて、それがとても似合っている。大人になれば絶対に美人になる!と、確信できるほどの整った顔。そして綺麗なストレートの黒髪を腰まで伸ばし、風でひらひらとなびかせている。
少年少女の外見は5歳くらいだろう。
少年の手には、お花の冠が握られていた。そしてその冠を少女の頭にのせ、少年は、少年へ言う。
「ねえ、夜架ちゃん。大きくなったら僕たち、結婚しようね!」
少女に向けて、満面の笑みで言う。
少女の名は羽々斬夜架。彼女は古都国の姫として生まれ、少年とは家族ぐるみで付き合いがあるため、こうして遊んだりしているのだ。
その言葉に、少女ーーーー羽々斬夜架は、ポカンとしていたが、頭にのせられたお花の冠を手に取り、少年の頭にのせる。
「こういう物は普通、女の子が男の子に渡す物ですわよ?あなたは外見もそうですけど、やることも女の子みたいですわ」
夜架はクスッと笑いながら少年をからかう様な笑みを浮かべた。
そのことに少年は、顔を赤くし、夜架へ抗議の声を上げる。
「もう!夜架ちゃんまでみんなと同じようなこと言わないでよ!僕がなにかやるとすぐにみんな「女の子みたいだね」なんて言って来るんだよ!僕は女の子じゃないよ!男だよ!」
少年は、未だにクスクスと笑っている夜架を見て、頬を膨らませて、プイと、そっぽを向いてしまう。だが、そういった行動が、女の子みたいと言われている原因なのだが、当の本人は気付いていない。
「ふふふ、ごめんなさい。けど、やっぱりあなたは可愛いわ。頬なんか膨らませて………ふふふ」
もう一度笑う夜架にまたも怒りだす少年。
夜架は少年の頬を優しく両手で包み込みむ。
そこで夜架は「先程の返事ですが」と、少し真面目な顔になる。
少年は、少しだけ体を強張らせた。だが、目をそらさず、夜架の瞳を真っ直ぐに見つめる。
すると、夜架は徐々に顔を近づけていく。何だ?と思ったが、すぐにわかることになる。
ちゅっ。
夜架は少年の唇に自分の唇を合わせる。
少年は突然のことに固まっていた。そして、我に返ったとき、自分の状況に気付き、すぐに離れようと後ろへ下がろうとしたができなかった。
何故なら夜架が、既に少年の背中に腕を回し、抱きしめていたからだ。そして、もっと深く、濃厚なキスをする。
「んっ……ちゅぅ………んぅ……」
彼女の舌が口の中に入ってくる。ちゅっちゅと、何度も舌を絡め、キスをする。
「っ!………むぐ!……ちょ!……よる…んっ!」
「んっ……ちゅ、れろ……ぷはっ」
唇が離れていく。その時、両者の口から糸が引いていた。いきなりキスをされた男の子は顔を真っ赤にして、少し息が荒くなっていた。
「よ、夜架ちゃん。……い、いきなりキスなんて…………」
「わたくしのファーストキスですの。しっかり味わっていただけましたか?………それとこれが先程の返事ですわ」
夜架はそう言い、男の子の手をとり、再度キスをする。
「あなたは誰にも渡しませんわ。あなたはわたくしのもの。そして、わたくしもあなたのもの。他の子になんか絶対に渡しません。あなたは一生わたくしが面倒を見て差し上げます。だから、あなたは絶対にわたくし以外の女と仲良くなってはだめですのよ?」
その言った時の彼女の目は光を失っていた。
少年は、それに気付かないまま、「うん!」と首を縦に振り、彼女に抱きついた。
「あ、それなら夜架ちゃんもあんまり僕以外の男の子と仲良くしないでね?」
少年の言葉に夜架は………
「わかっていますわ。わたくしもあなた以外の有象無象な男とは仲良くしませんわ。それをあなたがーーーーシルクがそれを望むなら」
少年の名はシルク・グランフェルト。この島国では貴族として暮らしている。
シルクが左手、夜架が右手を出し、小指を立てる。そして、小指と小指を絡ませ、お互いに笑顔で将来を約束し合う。
だが、この約束はすぐに果たされなくなることをまだ、少年少女は知らない。
♢
数日後
羽々斬夜架が、人を殺したと言う話を聞いた。なんでも、殺した相手は側室が雇った刺客の男。喉に竹串を突き刺して、男を殺したようだった。
暗殺、密殺、謀殺。彼女の家は、王家の家で夜架の城内では、様々な謀略と争いがひしめいていた。
夜架は、周囲の全てから拒絶されていた。
ただ、自身を襲う刺客を返り討ちにし、殺し続けていたせいではなかった。
人を殺すことに何の躊躇もなく、全く動じない異形な精神と尋常ならざる戦いの才能を持っていたからだ。
その話を聞いた後から、夜架とは一度も会うことができずシルクは、ずっとソワソワした様子だ。小さいとはいえ、将来結婚まで約束した相手と会うことはおろか、連絡すら取ることができないのだ。シルクにとっては心配でならないだろう。
♢
連絡が取れないまま4年の月日が経った。連絡は取れなかったが、噂話を耳にすることは多かった。
今では、兵法指南役の剣士から免許皆伝を授かり、城内の者たち全てから畏怖され、『切姫』という忌み名を受け取ったと、言われているらしい。
噂に聞くのはどれもあり得ないような内容ばかりで、信憑性にかける。シルクは、夜架の今の状況が良くわからないため何もしてやることができない。シルクは、そんな自分にどこかイラついている様子だった。
「………お、お兄ちゃん。……だい、じょうぶ?」
そこへ、シルクに声をかける者がいた。
その人物はシルクの妹だった。
妹の名はイリア・グランフェルト。キレイな白髪を腰まで伸ばし、顔は良く整っていて、まだ子供ながら、街などを歩くと男女関係なく見られる程だ。兄であるシルクからしても妹のイリアはとても綺麗で可愛いと思っている。
「大丈夫だよイリア。僕のこと心配してくれてありがとう」
シルクは、イリアの頭を優しく撫でる。
イリアは顔を赤くしながらも、気持ち良さそうに目を細めている。その反応が可愛くて、ついシルクは妹の頭を撫で回す。
「ひゃ!……お、おにいちゃん……や、やめて〜」
と、手をぱたぱたと振り、慌てる。
(かわいいなぁ〜。はぁー……癒されるぅ〜)
妹の慌てる姿を見て1人で和んでいる。当の妹はまだ撫で回され、恥ずかしそうにしている。いい加減かわいそうになってきたので手を頭から離してあげる。
「………むぅぅう……お兄ちゃんの意地悪」
若干涙目のイリアを見て、少しだけ罪悪感が湧く。
「ごめんね。イリアが可愛いからつい止められなくて……」
苦笑いしながらイリアを見た。
イリアの顔が、さっきよりも真っ赤に染まる。
「か、かわいい……わたしが……かわいい!?お、おにいちゃんに…かわいいって言われた!嬉しい!」
えへへと、イリアの顔が緩む。
いつの間にか、さっきまで恋人のことを考えて沈んでいたが、目の前で未だ頬が緩んでいる妹のおかげで気分が少しだがスッキリしていた。
シルクはイリアを優しく、キュッと抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でた。イリアは突然抱きしめられたことに驚き、体が硬直したように固まった。
「ありがとうイリア。おかげで気分がスッキリしたよ」
「はぅ〜………(おにいちゃんに抱きしめられてる!あぅ、おにいちゃんの腕の中暖かいし、そ、それに、おにいちゃんの匂いがすごくする。はぁ〜、幸せ〜、ずっとこうしてて欲しいな〜)」
「ん?どうしたのイリア」
妹が先程から動かないことに怪訝に思い、抱きしめていた手を離そうとすると、
ギュッと、イリアからも抱きついてきた。
「お兄ちゃん。私、お兄ちゃんが辛そうにしてたら私、悲しくなる。お兄ちゃんにはずっと笑っていてほしい。お兄ちゃんが幸せそうに笑ってくれたら私も幸せになれるから、だから……その、えっと……」
話している途中から自分でも何を言っているのかわからなくなったようで、言葉が詰まっている。妹の精一杯の気遣いが嬉しい反面、妹に気を遣わせてしまったと、シルクは自分が情けなく思えた。
「もういいよ。イリアが言いたいことは分かったから。だから、無理に言おうとしなくていい」
その言葉にイリアは、ホッとした様子を見せその後、シルクから離れた。未だ顔が赤い妹を心配になるが、もう寝る時間なので、シルクは踵を返し、部屋へ戻ろうとする。
だが、歩き始めた途端、誰かに止められることになる。相手はわかっている。イリアが、シルクの右袖をチョコンと、掴んでいるからだ。
イリアに「どうした?」と聞いてももじもじして中々話さない。だが、このままではダメだと分かったのか、こちらを涙目で、そして上目使いで言う。
「………き、今日…は、おにいちゃんと一緒に、ね、ねても……いい?」
(あ〜、本当にかわいい!こんなかわいい子が僕の妹なんて、幸せだね!それに、そんなお願いの仕方されたら断れないじゃないか…)
「うん、いいよ。それなら待っといてあげるから枕取っておいで」
「うん!」
ぱたぱたと、走り去っていくイリアの背中を眺めながら、早く恋人と会いたいと思いながらも、今のこの平和な生活がずっと続けばいいなぁと、思った。
だが、この平和な日々はすぐに崩れ去ることになる。
ーーーーーーアーカディア帝国によって。