最弱無敗の神装機竜〜『白き英雄』〜   作:瑠夏

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第9話 王立士官学園

夢を見ていた。

 

クーデターが起こる少し前、シルクは一人、空を見上げていた。世界最大の大国、アーカディア帝国。ここはシルクの故郷、古都国を滅ぼした国だ。シルクはこの国に、憎しみを抱いていた。このクーデターに参加する理由は妹のイリアのためでもあるが、この国に復讐するためでもあった。

 

『いいのか?こんな下らんことに参加して。正直、あの銀髪の少年だけでもクーデターは成功すると思うが?』

 

「いや、これは俺の気持ちの問題さ。憎いこの国を滅ぼしたいだけさ」

 

「あ、それと…………」

 

シルクは白い剣を一瞥し、ニヤッと笑う。

「いつか現れるライバルのために実践経験を積まないとな」

『クーデターがもうすぐ始まると言うのにお前と言うヤツは……』

 

機攻殻剣の中にいるドラゴンが苦笑する。

 

 

今、シルクと話しているのは横に置いてある白い剣、機攻殻剣だ。

 

 

機攻殻剣と話をしているところを見られると変な子を見る目で見られるだろう。そのため、当初はそれは大層に驚いた。いつものように神装機竜を扱う特訓をしていたら突如、頭の中に誰かの声が響いたのだ。『今代は貴様が私の使い手か』と。誰からだ?と、周りを見渡してもそこには誰もいない。だが、頭の中に声は届く。

 

その日はそれ以降声が聞こえてくることはなかった。だが、その次の日。そしてまた次の日と毎日謎の声は語りかけてくる。後にわかったが、謎の声はシルクの持つ機攻殻剣からだった。信じ難いことだが、これは事実のようで、声の主は自分をドラゴンと言った。

 

大昔、二匹の白と赤のドラゴンが喧嘩を始めた。その二匹はあまりにも暴れたため、神なのか、怪物なのか、に目をつけられ滅ぼされてしまった。だけど、気がつけば自分は剣になっていることに気づいた。そして、自分がこうして生きているということはもう片方のやつも生きているとわかり、剣になった後も人間を媒介に二匹は争い続けた。当時は、まだ装甲機竜は発見されていなかったため、秘密に裏での出来事だそうだ。

 

 

そして、最初の『今代は貴様が私の使い手か』とは、そのまんまの意味で、今代の所有者がシルクなのだ。いつかは自分のライバルと戦う運命にある。そのことを意識しながらも、シルクにとって今一番大切なことは帝国を滅ぼし、イリアに少しでも安全な暮らしをさせること。

 

『そろそろ時間のようだな』

「ああ、頼むぜーーー」

 

 

「ん……」

朝の日差しが窓から差し込んでくる。

目を覚ましたシルクはゆっくりと体を起こす。そしてベットから降りようとしたが、右袖をイリアが掴んでいたためできなかった。

 

そのため、もう一度ベッドへ入り、イリアの頬に手を添えながら横になる。それから少しの間イリアの寝顔をシルクは見ていた。

 

ドンドン!

 

しかし、部屋がノックされたことでその時間が終わりを告げる。

 

「イリア。もう朝ですよ?早くしないと遅刻してしまいます。あと、シルクさんも起きてください。今日からあなたもこの学園に通うんですから」

 

「Yes.イリアは準備が遅いですから、今から起きないと遅刻してしまいます」

 

「そうだよー。早くしないと先生におこられるよー。っということでもう入るね?」

三和音の二年生、ティルファーと、一年生のアイリの声が、扉越しに聞こえてくる。

 

(ってティルファーは何勝手にはいろうとしてんだ。ま、鍵がかかってーー)

 

「はぁ。まったく、ほら、早く起きなさいイリア」

「おうおう、どうやら昨日はお楽しみだったようだね」

「Yes.頬に手を置いて、寝ている妹を襲うつもりだったのですか?この鬼畜野郎」

 

アイリは呆れているようで、シルクには何も言わない。だが、後の二人が酷い。

 

「って、鍵かけてないのかよ!」

そのツッコミに答えたのはイリアを起こしていたアイリだった。

 

「これです」

そう言ってアイリは手に持っていた鍵を見せる。

「イリアの部屋には今まで誰もいませんでしたから、寝過ごさないよう学園長から合鍵を渡されて、起こすようお願いされているんです」

 

「まじか……」

「へっへっへ。残念だったね。部屋で妹を襲うつもりでいたんだろうけど」

「Yes.イリアの身は私たちが守ります」

シルクは何かこの二人に怨みを買うことをしたのだろうかと本気で悩みそうだった。

 

「それより、俺がこの学園に通うって……大丈夫なのか?」

シルクが心配しているのは決闘の原因であるリーズシャルテのことだ。リーズシャルテはシルクたち男の編入を認めていなかった。編入を決める決闘も幻神獣の出現によって中断されたままだ。

 

「それなら心配いりません」

アイリはイリアの肩を揺らしながら言った。

「昨日の幻神獣。兄さんとシルクさんはリーズシャルテ様を認めるほどの力を見せました。シルクさんが寮に戻った頃にリーズシャルテ様があの場にいた全員に編入を認めると言ったんですよ?」

 

アイリは珍しく、少し嬉しそうに笑みながら話した。多分、ルクスと一緒にいれることが嬉しいのだろう。

 

「そっか。……あれ?ルクスって確か、整備士として働くんじゃなかったのか?」

ふと思った疑問。それに答えたのはまたしてもアイリだった。

 

「それは、リーズシャルテ様が決めたそうです。詳しいことまではわかりませんが」

「そっか〜」

 

「ちょっと、時間やばいよ!」

ティルファーの慌てた声に、いつの間にか話し込んでいてイリアを起こす手が止まっていたアイリも本来の目的を思い出し、さっきまで優しく起こしていたが今は乱暴に起こしていた。

 

「シルっちはこの制服持って部屋の端っこに行ってて!」

「Yes.あなたが近くにいるとイリアが怠けて遅刻してしまいます」

酷い言われようにシルクは膝をつきそうになる。だけど、今はそんなことしている時間はないと気づいたのか、何とか踏ん張り、ティルファーから渡された制服を持って部屋の端っこに移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

イリアは起きたあと、見当たらないシルクを探すために、部屋を飛び出した。

 

さらに準備に時間がかかったのは言うまでもない。

 

 

 

「ーーというわけで、彼らが今日からこの学園に通うことになった、シルク・グランフェルトとルクス・アーカディアだ。皆、慣れないことも多々あるだろうが、よろしく頼む」

 

何とか遅刻することはなかった。

イリアが部屋を飛び出したのと同時にシルクはそれを呼び止めて、なんとか学園に向かった。

 

ここは学園の校舎二階、二年生の教室だ。

担当クラスの女教官、ライグリィ・バルハートの紹介を受けた。

 

「えっと、シルク・グランフェルトです。よ、よろしくお願いします」

「ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします……」

少しぎこちないが二人は挨拶をする。

小さなざわめきとひそひそ声が教室の中に満ちる。

 

それはそうだろう。

長年、男尊女卑の風潮を敷いてきた旧帝国の王子なのだから、五年前に体制が変わったとはいえ、彼女たちにとっては、未だに警戒の対象だ。シルクも同じで、やはり男ということで警戒されている。

 

(うわ…視線きつい)

(ああ……、帰りたい)

シルクとルクスは今の状況に参っていた。

 

「……あ。ルーちゃんだ」

二人して挫けそうな状況で、ふいにそんな声が聞こえた。

 

「ーーえ?」

教室の窓際の席にいた、桜色の髪を持つ少女。ふわりとした髪は、二つのリボンでまとめられ、少女のぼんやりとした雰囲気に、よく合っている。

 

「久しぶり、だね」

柔らかな声で少女はルクスに微笑みかける。

その間延びした喋り方と、独特の空気に、ルクスは覚えがあった。

「えっと、もしかして、フィルフィ……?」

「うん、そうだよ?」

ルクスの問いに、少女が頷き、確信する。

 

フィルフィ・アイングラム。

大商家、アイングラム財閥の次女にして、ルクスの幼馴染みである少女。更には、学園長ーーレリィ・アイングラムの実妹だ。

ルクスは実際に会うのは、七年ぶりだろうか。

 

当時、旧帝国と付き合いのあったアイングラム家で、歳が同じということもあり幼い頃に一緒に遊んだことを、ルクスは覚えている。

「学園に通うんだ?嬉しいな。よろしくね、ルーちゃん」

 

フィルフィは感情表現が苦手な女の子で、口数がそう多くない素直な性格だということを、ルクスは知っている。

 

「あ、うん。こちらこそ、よろしく」

「へ〜、ルーちゃん。……ねぇ〜」

ルクスは隣に立つシルクが、悪戯っぽく笑っていた。

 

……ま、まずい!シルクのこの笑顔は、何か獲物を見つけたときに浮かべる笑顔だ…!

 

ルクスはシルクと知り合ってから、こういう笑みを浮かべたシルクに散々いじられてきた。

 

「ルーちゃんなんて、ずいぶん可愛い愛称で呼ばれているんだな。ルーちゃん」

「は、はは。まさか、僕がそんな呼び方されてるわけないじゃないか」

ルクスは必死に抵抗する。このままどうにかして逃げ切ろうと、頭で考える。

だが、そんなルクスに、トドメを刺すものがいた。

「私、ルーちゃんと知り合ってからずっとルーちゃんって呼んでるよ?」

まさかのトドメにルクスはガクッと膝から崩れ落ちそうになる。

 

「残念。暴露されたなルーちゃん。……あ、もしかしてルクスもフィルフィさんのことフィーちゃん。なんて呼んでたりして……って、そんなことはないか」

途端、ルクスの肩が一瞬だが大きく揺れる。

 

その反応を見たシルクは、

「…………まじで?」

冗談で言ったことが当たっていたことに驚きを隠せなかった。

 

くすくすと、教室中から笑い声が漏れる。

「かわいー」

「フィーちゃんだって」

「二人って、そういう仲だったんだ?」

そんな声がいくつも聞こえ、ルクスは顔が真っ赤になった。

は、恥ずかし過ぎるっ……!

 

「く、くくく………!」

いつの間にか生真面目そうなライグリィ教官まで、笑いを押し殺していた。

 

ルクスはこの状況を作った張本人を睨む。だが、その本人は、お腹を抱えて笑っていた。

 

ルクスは今すぐ逃げ出したい衝動を堪えた。

「……むう」

目を覚まして、その様子を不機嫌そうにルクスを見ているリーズシャルテ。そして、シルクを見る、もうひとりの女生徒の視線に、二人が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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