最弱無敗の神装機竜〜『白き英雄』〜   作:瑠夏

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第14話 デート②

 

 

シルクとイリアは、中央広場の縁石に隣り合わせで腰をかけ、夕陽を眺めていた。もちろん、手をつないだまま。

 

イリアに渡したアップルパイは、城塞都市の屋台でも一番美味しいと評判のもので、お腹を空かしているイリアにとっては嬉しいものだった。

 

「どうだ?イリア」

「ん。甘くてとっても美味しいよ!ありがとう」

イリアのキラキラと輝く笑顔見て、買ってよかったと、ほっと胸をなでおろす。そして自分のアップルパイにかぶりつこうとしたその時。横からひと口食べた跡のあるアップルパイが差し出される。

 

「ん?…………何やってんだ?アップルパイを俺に向けて」

横を見ると満面の笑みでアップルパイを差し出すイリアがいた。

 

「なにって……、あ、あ〜んだよ」

自分で言っていて恥ずかしかったようで、膝同士をくっつけてもじもじと身体を揺らしていた。その様子にシルクは、はぁ。と、ため息をつき少し呆れたような目をして言う。

 

「さっき、なるべくそういう事止めようって言ったばかりだろ?」

そう言うと、目にわかるぐらい、しゅんと落ち込んでしまう。しかし、すぐに顔を上げてトロンとした目でシルクを見上げる。

 

「お兄ちゃん…………だめ……?」

「うぐっ……!」

「……お兄ちゃん」

「…………わ、わかったよ」

 

リリアがそう言った瞬間、眩しほどの笑顔をして「はい!」と、食べかけのアップルパイを顔近くまで持っていく。「はぁ〜、やっぱりイリアには甘くなるな〜俺」と、隣にいるイリアに聞こえない程度に呟き、差し出されたアップルパイを口にする。

 

「あ〜ん。んっ……」

「どう?美味しい?」

「んっ……、ああ、美味しいぞ」

同じ店のアップルパイのため、味は同じだがイリアに食べさせてもらったということがこのアップルパイを更に美味しく感じさせた。

 

シルクは隣で嬉しそうな顔をしたイリアに同じように手に持ったものを向ける。

 

「はむ……、ん?」

幸せそうにアップルパイを頬張ってるイリアは、それを見て首を傾げる。

「ほら、俺だけ食べさせてもらうなんて不公平だろ?だから次は俺もイリアに食べさせてあげる」

「…………」

「ん?おーい、イリア?」

目を点にし、固まったかのように動かないイリアの肩を揺すりながら声をかけるが一向に動く気配がない。どうしたもんかと、指を顎に当て考えていた矢先。

 

「お兄ちゃん!本当に食べさせてくれるの!?」

やっと意識が戻ってきたイリアは、ずいっとリリアに詰め寄り目をキラキラと輝かせ、今までで見てきた中でもとびっきりのいい笑顔を顔に浮かべていた。

 

「あ、ああ。そうだが……」

「お兄ちゃんのあ〜ん。お兄ちゃんの食べかけのアップルパイ。……どうしよ、考えただけでドキドキが止まらないよ〜。はぅ、このままじゃあお兄ちゃんの顔を直視できないよ〜」

誰にも聞こえない程に小さな声でぶつぶつと呟いていたが、隣にいたシルクにはバッチリと聞こえていて苦笑する他なかった。

 

「ほら、いらないのか?」

いつまで経っても自分の世界から帰ってこないイリアにそう言うと、

「はっ!食べます!食べたいです!」

身を乗り出すように顔を近づけるイリアにアップルパイを向ける。

 

「それじゃあ……お、お兄ちゃん。その……、あ〜ん」

おずおずと可愛らしい顔を上げて小さい口を開く。

 

「はい、あ〜ん」

「あ、あ〜ん……、はむ、んっ」

アップルパイを口にしたイリアは味わうように噛みしめて食べた。そして、口の物を飲み込むと、頬がだらしない程緩み、誰がどう見ても幸せそうにしか見えない顔をしていた。

 

「はぅ〜。わたし、もう死んでもいいかも」と、何とも物騒なことを言いだす始末。

 

「そんなこと言ってないで、早く食べるぞ」

シルクは残りのアップルパイを口に詰め込み、飲み込んだ。やっと我に返ったイリアも同じように最後まで食べきり、そして、隣にいるシルクの肩に頭を預け、甘えるように腕へ抱きつく。

 

「おに〜ちゃん」

「はいはい」

「……もう絶対に私の前からいなくならないでね?」

「……どうした?突然………」

「こんなに幸せな思いしたら……、また急にその幸せな時間が終わっちゃうんじゃないかなって、またお兄ちゃんがいなくなっちゃうんじゃないかって……そう思うと怖いの」

さっきまでの幸せそうな顔とは逆にシルクを見上げるその顔、その瞳は不安の色で染まっていた。

 

過去。

家族楽しく幸せな時間を奪われ、一時期兄すらも奪われた。その時と今を重ねてあの時のように自分の大切なものが、人がいなくなるのではないかと、不安を抑えきれないのだろう。今になってだが、イリアの体が震えていることに気づく。

 

(その不安を直ぐにでも取り除いてあげたいが……)

 

その今すぐにでも消えそうな、儚い雰囲気にシルクはどうしようもない衝動に駆られた。腕に絡みついたままのイリアを引き離す。

 

「え?……お兄ちゃん!」

弱々しい声。そして、シルクがいなくなるという現実への拒絶感。離されたことでどこかへ行ってしまうと思ったのかシルクにしがみ付こうとする。だが、イリアがしがみ付こうとするより先にシルクが両腕をイリアのな背中に回しキツク抱きしめた。

 

「……お、にい…ちゃん……?」

「大丈夫。……大丈夫だから。前にも言っただろ?俺は絶対にお前の前からいなくなったりしないって。お前を置いて消えたりしないって。だからそんな心配はしなくて大丈夫だ。それにあのネックレス。今も持ってくれているんだろ? だから大丈夫だ」

ただの口約束。気休め程度にしかならない。人は一度覚えた恐怖やトラウマはそう簡単には取り除くことはできない。

 

イリアを安心させるように頭を撫でながら自分はここにいる、と教えるように強く抱きしめ伝える。

 

「…うん。……うん。わかってる。お兄ちゃんがいなくならないってこと……」

イリアは一旦ここで区切り、すがるようにシルクを見つめる。その目には涙が溜まっていて、今にもこぼれ落ちそうだった。

 

「…でも……、でもね!どうしても不安でしょうがないの。また…………、またお兄ちゃんがいなくなりそうで。前にいなくならないって言われても今言われても……わたし、不安で不安で……もう、幸せになるのが怖いの。……お兄ちゃん。お兄ちゃんはいなくならないって誓って。私を安心させて…」

 

イリアは目をそっと閉じる。その仕草でシルクは悟った。イリアがなにを求めているのかを。

 

つまりはキスだ。

 

キスなら昔、それもまだ小さい頃は何度もしていた行為だ。だが、それはあくまで昔。今では昔のようにキスなど簡単にできるものではない。

 

「さ、さすがにそれは……」

当たり前だがシルクは困惑してしまう。

だが、イリアはなにも言わずただ待っているだけ。

 

シルクは戸惑っていたが、震えている妹を見てゆっくりと抱きよせる。

 

そしてーーー。

 

「………え?」

そんな切ないような声を出したのはイリアだった。

 

それは、シルクに原因があった。

 

シルクの唇が触れている場所は、イリアの唇ではなく頬であったからだ。

 

「おにい……ちゃん?」

「ごめんな。さすがに唇にはできない。これで許してくれ」

 

シルクは子供をあやすように頭を撫でる。

まったく納得できていない様子のイリアだが、普段では間違いなくしてくれないキスをしてもらったという事実に、真剣であることがわかったため受け入れた。この兄が、(自分の思うような誓いではなかったが)誓ってくれたことを破るはずがないと、安心することができた。

 

「……それにな、イリア。何度も言うが、お前をひとりには絶対にしない。もう家族を失う苦しみは味わいたくないし、イリアに味合わせたくない。……それに、幸せになるのが怖いなんて思わせてたまるか。俺たちは父さんや母さんの分まで幸せに生きなくちゃダメだろ?もし、それでも怖いと言うのなら、俺がお前を幸せにしてやる。そして、幸せで大丈夫って……幸せでもなにも失わないって……そして、幸せでよかったって心の底から言わせてやるよ」

「…………」

力強く言い切られたその言葉を聞いて、イリアは溢れ出る涙を止めることができなかった。

 

そして、目の前で涙を流すイリアをもう一度抱きしめ、泣き止むまで頭を撫で続ける。

 

 

数分の内に泣き止んみ、リリアの胸の中から顔を上げていた。イリアの目は泣いたことで赤くなっていた。

 

「「…………」」

二人の間に沈黙が訪れる。だが、先にこの沈黙の中、少し遠慮気味にイリアは切り出した。

 

「わたし……お兄ちゃんがいてくれるだけで幸せだよ」

そう言って微笑んだイリアの笑顔は今までで一番美しく、綺麗で、見惚れるほどの素敵すぎる笑顔だった。

「……何言ってんだ、それ以上に幸せだって思わせてやるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく言ったぜ、にいちゃんっ!お前は男だ!」

 

「「…………え?」」

 

イリアの笑顔に見惚れたままのシルクは突然聞こえてきた太い男性の声で現実に引き戻された。そして、周りを見渡せば自分たちを中心に多くの人が集まっていた。その集まりの中には、頬を赤くした人もいれば、ニヤニヤと笑っている人もいる。

 

ここは街の中央広場。人通りが多い場所であり、今は夕方だ。主婦が買い物に出かける時間でもあり昼よりも人は多い。その真ん中で愛を叫んでいたのだから人が注目するのは当たり前だ。シルクとイリアは今頃になってその事に気づいた。

 

「ええ。こんな街のど真ん中で愛を囁くなんて、本当に男だわ」

「ん〜、若いっていいわね〜」

「家族……か、俺も大事にしないとな」

「あんなに力強く幸せにしてみせる!何て言われたら、それこそ女としては最高の幸せよね」

「私もあんな風に幸せにしてみせるって堂々と言われたいな〜」

「お前さん!必ずその子を幸せにしてあげなよ!」

「そうだぞ!その子泣かしたりしたら俺たちが黙ってねーぞっ!」

 

と、至る所から応援の言葉が送られてくる。

応援されている当の二人は顔から火が出そうなほど赤くさせ俯き、ここから逃げる算段を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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