最弱無敗の神装機竜〜『白き英雄』〜   作:瑠夏

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第15話 抱える問題

 

 

「はぁ、はぁ……、はぁ……何とかあそこから逃げてこれたな…」

「はぁ…、う、うん。そうだね…はぁ」

ここは学園の門前。

シルクとイリアは中央広場から全力で走って逃げてきた。恥ずかしさのあまりあの場所に居続けることは不可能だった。

 

「…ふぅ。予定より早いけど今日はもう終わろっか」

「はぁ、はぁ。う、うん。もう学園の門前ま来ちゃったしね……名残惜しいけど」

イリアはそう言い、シルクの手を握る。

いつものような繋ぎ方ではなく、指と指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎだ。「今日だけだぞ?」と、シルクもしっかりと握り返し、ゆっくりと自分たちの部屋へと歩き出す。

 

 

 

 

日が完全に落ち、辺りが暗くなった頃。イリアはひとりだけの貸切状態の大浴場にいた。

 

肌は雪のように白く、少し小ぶりだが自分が女であることを証明とする胸。そして、お湯で濡れた綺麗な白髪は、腰のあたりまでぴたっと、張り付いていて、それが艶かしい。

 

 

広い大浴場にひとりきり、普通なら寂しいと思うかもしれないが今のイリアにとっては好都合だった。

 

「は〜〜〜、きもちぃぃい」

体についた石鹸を洗い流し、お湯へ浸かる。

そして、お湯の中で体を伸ばし、今日の疲れを解していた。

 

「そういえばわたし、お兄ちゃんに、頬とはいえ、キス……されたんだよね?」

指先を頬にに当てシルクにキスされたことを思い出し、顔が緩むのを抑えられなくなる。それもそのはず、小さい頃からずっと好きだったシルクにキスされたのだ、嬉しくないはずがない。

 

「それに、わたしを幸せにしてやるって……はぅ〜、思い出しただけでも心臓がドキドキして苦しいよ〜」

だが、この苦しみも今のイリアには心地いいものだった。

 

「それに、幸せにしてやるって……ぷ、プロポーズみたい…」

両手を頬に添え、体をお湯の中でくねくねとさせる。今のイリアは確かに幸せを感じていた。だが、プロポーズというところでさっきまでの明るい雰囲気から一転、暗い雰囲気になってしまった。

 

「プロポーズ……お兄ちゃん、やっぱりまだあの人のことを……」

イリアが思い浮かべたのは、小さい頃のシルクの婚約者だ。その人は消息不明で、 今どこで何をしているのか何ひとつわからない。いや、ひとつ分かっているのは、どこかに幽閉されているということだけだ。

 

(でも、どちらかというと今は好きというより心配が先に来ていてそんなこと思ってないかもしれない)

 

 

イリアはまだ小さい頃、シルクとその婚約者ーー夜架を含めて三人で遊んだことは多々あった。その時からシルクが夜架のことを好きでいたことはイリアも気づいていたことだ。

 

イリアは昔からシルクへ対する想いを胸に仕舞い込んでいたが、その気持ちは今日のキスをきっかけに急激に強くなっていった。子供の頃から必死に我慢していたシルクを独り占めしたいという独占欲が溢れてくるようになった。そして今まで抑えていた分、再び目覚めたこの溢れ出る感情はイリア自身、抑えが効かず、今すぐにでも襲いたい衝動に駆られるが、手を胸の前で組んで必死にそれを耐えるの。

 

 

 

 

 

そして、それとは別にイリアの体の中で、どす黒く、異質な何かが目を覚まし始めた。シルクとイリアにとってそれが、過去、これからの未来を通して、最大級の問題で、想像を絶する壮絶な死闘をすることになるなんて、誰も知る由もない。

 

 

イリアがお風呂へ入りに、大浴場へ行ったあと、シルクは今日起こった出来事を整理するために食堂を訪れていた。

 

夕食の時間はとっくに過ぎていて周囲には人がシルクを除いて誰一人といない。そんな中、端の席でひとり、紅茶の入ったカップを口につけていた。

 

「はぁぁああ。やっちまったな……」

手に持ったカップをテーブルに置き、大きなため息を吐いてから頭を抱えてしまう。思い出すのはイリアにしたキス。そしてーーー

 

「幸せにしてやるって……妹相手になんてこと言ってんだよ俺…」

シルクはこれ機にタガが外れて、キスより先の関係を求めてこないかを危惧していた。

 

「イリアの気持ちは素直に嬉しい。……だけど、俺は妹としかお前を見れない。それに、あいつのこともあるしな……」

 

切姫夜架。彼女はどこかに幽閉されている知り、女王陛下のもとで依頼を過なす日々の中で、遺跡の調査など、国外に出る依頼のときはいろんな場所を探し回った。だが、見つけることはおろか、手掛かりひとつすら得られないでいた。

 

「ま、今はあいつの事を考えても仕方ない。取り敢えず、これからイリアとどう接していくかだな」

カップを手に取り、中にある紅茶を飲み干す。ちょうどその時、食堂のドアが開く。

誰だ?と、ドアの方に目を向ける。そこには学園の制服を着たルクスが、ふらふらと食堂に入ってきた。雑用の仕事で来たのか?と思ったシルクはルクスへ声をかける。

 

「よう。今からここで雑用か?」

「ん?あ、シルク。ううん、今日の依頼はもう終わったよ…………それより、シルクはどうしたの?いつもならイリアちゃんと一緒にいるのに」

ルクスはシルクの事を今気づいたようで手を上げながら言う。

 

「いや〜、ちょっとな……、ひとりで考え事がしたくてさ、今の時間、食堂は人が来ないし紅茶が飲めるからリラックスするにはいいかなって……」

歯切れ悪い回答に、ルクスは眉を顰め、心配そうな瞳でシルクを見る。

 

「……イリアちゃんと、何かあったの?」

「…………」

ルクスは沈黙は肯定と受け取り、シルクへ聞く。

 

「考え事ってイリアちゃんのことか……何があったの?僕でよかったら話くらいは聞くよ?」

「…………そう、だな…。なら、聞いてもらうか」

 

 

シルクはルクスに今日あった出来事を伝えた。そして自分が何に悩んでいるかも。全てを話し終えたシルクは新しい紅茶を飲んだ。

 

それからルクスを見る。

「…………」

ルクスは話を聴き終えてから一度も口を開いていない。シルクは何か話して欲しい反面、何も言わないでほしいという思いもあった。

だが、そんなシルクの願いは叶わずルクスは口を開いた。

 

「……別に今まで通りでいいんじゃないかな?」

「…………え?」

「シルクはイリアちゃんを妹として見ているってことでしょ?」

「……あ、ああ」

「それならいつも通りで大丈夫だよ。……まあ、プロポーズにとれることを言うのはどうかと思うけど…」

「うっ…!そ、それは確かに」

ルクスの鋭い指摘に胸を抉られるような感覚に見舞われた。

 

「難しく考え過ぎ。シルクがそんなんだとイリアちゃんまで気まずくなるよ」

「そうか、俺は難しく考え過ぎてたんだな」

そう小さく呟いたシルクの顔はすっきりしたように晴れやかだった。

 

「それとは別にトラウマの方は一朝一夕でなんとかできるような問題じゃないと思う」

だが、ルクスのこの一言でまた曇ってしまう。

 

「だよな〜。こればっかりはなぁ。……縁起でもないことだけどこの国、もしくはこの学園が滅亡の危機的な感じに陥らないかな〜」

「ほ、本当に縁起でもないね……」

とんでもないことを平然と言い出すシルクにルクスは苦笑するほかない。

 

「イリアに対して心苦しいが、あの子のトラウマを治すのには今一番効果的だと思うからな」

「……どういう事?」

「あの子が怖がっているのは自分が今楽しく過ごしている中で、俺という存在が自分の前からいなくなる事なんだ。ーーールクスには俺たちがアティスマータ新王国……いや、アーカディア帝国に来た時の経緯は話しただろう?」

 

シルクがそう聞くと、ルクスは遠慮気味に首を縦に振る。それはシルクの故郷である古都国を滅ぼし、その際に両親まで命を奪う結果となった、かつて自分の国だったためルクスは負い目を感じていたからだ。

 

シルクには「気にしなくていい」とは言われているが、自国が起こし、それを止めることができなかったルクスの性格状不可能だ。

 

何より、シルクと出会い自分がアーカディア帝国の王子だと伝えた時のシルク目に宿る殺意と、実際に殺そうと襲ってきた出来事を考えると気にしない何て事が出来るはずもない。

 

「あの子にとって幸福の時間で俺たち家族を失ったのがトラウマの原因なら、同じ状況に遭遇したなかで俺がイリアの元へ帰ってあげられたら完全には無理でも、少しでもトラウマを克服できるんじゃないかって。そう思ったんだよ」

 

荒療治になるかもしれない。いや、これは完璧な荒療治になる。過去を思い出し、酷く辛い思いをする可能性は目に見えている。もしかしたら、心が耐え切れず壊れてしまうかもそれない。妹に辛い思いをさせてしまうと思うとシルクの胸は強く、痛く締め付けられる。

 

だが、いつまでも過去に囚われ、怯えながら暮らしていくことは、それこそ全てがつまらなく、毎日が苦痛の日々になる。

 

(そんな思いはさせない)

だからこそ、シルクはイリアをどうにかして救いたいと心底強く願っている。

 

だが、願っているだけで問題が解決するわけではない。そこで、シルクは先の思いを口にした。

 

「確かに……荒療治になるけど一番効果的かもしれない」

ルクスもこの意見には賛成する。この問題に関しては、ルクスもイリアとはシルク同様付き合いが長い。それに加え、まだ妹のアイリが病気で寝込んでいた時期にお見舞いや、アイリの世話をしてもらっていたこともあり今までも気にしていたことだ。

 

「けど、そう簡単にこの学園が落とされるようなことはないだろうーーー残念だが」

「それには僕も同感かな。学園には〈ティアマト〉を駆るリーシャ様や『騎士団』のみんながいるからね。それに、敵が攻めてきたら攻めてきたで一大事なことだけどね。ーーー最後のは言っちゃダメだよ」

 

ルクスの言葉にシルクは「違いない」と返した。

 

「ありがとうな。おかげで頭の中、少し整理できたわ」

シルクはルクスへ向き直り、頭を下げた。

「いいよ別に。お互い様だよ」

「そう言ってもらえると助かる」

 

そう言うとシルクはコップに残った紅茶を飲み干すと席から立ちあがり食堂を後にした。

 

それを見送ったルクスは食堂に誰もいないことに気づき、食堂を出ようと椅子から腰を上げる。その時、シルクが座っていた席に空になったカップが置いてあり、その下に一枚の紙が置いてあることに気づいた。

 

「なんだこれ?」

ルクスはその紙を裏返し、その紙に書いてある内容を見た瞬間、その紙を破り捨てた。

 

「シルクのヤツ!恩を仇で返したなぁぁあああッ!!」

ルクスは滅多に怒ることがない。今のルクスをアイリが見るときっと驚くだろう。

そして、ルクスが破り捨てたその紙の内容は、

『これはお礼の気持ち。素直に受け取ってくれ』

 

ただそれだけが綴られていた。

 

 

ルクスへ後片付けをお礼にプレゼントしたシルクはどこへもよることもなく寮の自室へ戻った。

 

ドアを開くと、部屋は電気がついておらず誰もいないことが窺えた。

 

「イリアはまだお風呂か……」

シルクは部屋の電気を付け、椅子に座り寛ぐ。

 

「はぁ……。問題ごとが多過ぎるなぁ。…………いや、多いんじゃない、問題が大き過ぎるんだ」

イリアが抱える問題はあまりにも大き過ぎる。今回のトラウマの件以上に厄介な問題が。

 

「けど、他の問題はあの男を見つけるか、俺達の前に奴から姿を表すかのどちらか出ないと解決が不可能ときた……ほんと、厄介だッ」

 

あの男とは、イリアとシルクがこの世で最も恨むべき男である。

古都国がアーカディア帝国の侵略を受けていた際、シルク達の家を襲った謎の機竜使いの男。

 

あの男が何者で、あの機竜がどんな神装機竜なのかは不明だが、これから先絶対に避けては通れない相手になるのは間違いない。

 

シルクは無意識のうちに手を強く握りしめていた。

 

「それにあいつは母さんと父さんの仇でもある。必ず見つけ出してこの手でぶっ飛ばさないと気が済まない……!」

 

復讐心がないわけではない。出来ることならこの手であの男を無茶苦茶に殺してやりたいとシルクは思っている。

 

しかし、復讐したところで残るのは虚しさと殺された側の親しき人に同じ憎しみや恨みといった負の感情を残すだけ。そうすればまた復讐は繰り返される。

 

クーデーターが終わった後にシルクが気づいたことだ。自分が復讐をすれば次はされる側に回る。それを知った今だからこそ、憎い相手でも殺すという選択肢はなかった。

 

「お兄ちゃん? どうしたの?」

随分と思考に意識を持っていたようだ。イリアが部屋に入ってきたにも関わらず声を変えられるまで気づくことが出来なかったほどに。

 

そして、当のイリアは心配そうにシルクの顔を見ていた。

 

風呂上がりということもあり、イリアから石鹸のいい匂いが鼻をくすぐる。

 

「なんでもないさ。……それより、今日は疲れただろう? もうお互い寝よう」

シルクはいらぬ心配をかけさせないよう普段通りに振る舞う。

 

(今のイリアに昔の事を思い出してたんだ。なんて言えるわけないしな)

 

「うん。わかった。お休みなさい、お兄ちゃん」

「……ああ、おやすみイリア」

素直にベットに入っていったイリアを少し驚きの表情で見ていたが、先ほどのシルクの様子を見て気を遣わせてしまったのかもしれない。

 

シルクは気を遣わせてしまったことを申し訳なく思いながらも、「ありがとう」とイリアに感謝した。

 

 

 

イリアの抱える問題を全て取り除くのは骨が折れるだろう。一朝一夕で解決できるほど容易いものではない。

それを理解しているシルクは、思考を中断し今日は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先、シルクは好敵手である赤龍帝、そして謎の男との会合する。赤龍帝、謎の男、決して避けて通れぬ壮絶な死闘が始まる。

そしてそれが、遠くないうちに起こるなどシルクは知る由もない。

 

 

 

 

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