最弱無敗の神装機竜〜『白き英雄』〜   作:瑠夏

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過去最大文字数に執筆した私自身びっくりです!!


第16話 襲撃

 

ゴォオオン!

 

明朝。

鳥の鳴き声や、朝の日差しで目を覚ます日々日常的な朝を迎えるはずの寮に、いや、学園中に大きな鈴の音が鳴り響く。

 

「……敵!?」

シルクは突如聞こえた一番街区の大きな鐘の音で起きた。この鐘の音は時刻を告げる音色ではない。激しく打ち鳴らすような音。この音は敵の襲撃を告げる、警報だ。それを知っていたシルクは即座に意識を覚醒させ、下で寝ているであろうイリアを起こすために体を起こした。だが、その必要がないことにすぐ気づく。

 

「おはようお兄ちゃん。起きてすぐだけど今の警報きいたよね?早く制服に着替えてね」

と、まだ寝間着姿だがすでに起きていて、シルクの制服を持ち待機していた。

 

「おはよ。警報は聞いた。ーーそれより、何でイリアはこんな時間に起きてたんだ?」

 

いつもは起きるのが遅いイリアは必ずシルクに毎朝起こしてもらっている。今のイリアを見れば警報がなる前に起きていたことがわかる。そのため、シルクが疑問に思うのも当然だ。

 

「えっと……、早く起きてお兄ちゃんの布団に入ろうと思って……」

もじもじと答えるイリアを見てやっぱりか、という顔をして額に手を当てるシルク。しかし、そんな事をしてる時間じゃないと、頭を左右に振り、イリアの手にしてある制服を取り、着替え始める。隣にイリアがいるが、緊急事態という事で気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを“たまたま”見てしまったイリアの顔が赤くなっていたのだがシルクが気にする様子はなかった。

 

 

 

 

 

シルクは制服内に装衣を着用し、イリアと共に機竜格納庫へ集まっていた。

 

城塞都市クロスフィード、第四機竜格納庫。

ここは学園の敷地内にあるその建物は、内部が広く、分厚い石壁のシェルターであり、転送前の装甲機竜の保管所だ。有事の際はここが待機場所であり避難場所でもある。

 

全員が格納庫に集まったところで、ライグリィ教官が皆の前に立つ。

 

「警鐘の理由は幻神獣の出現によるもの。報告では大型の種類が一体とのこと」

 

城塞都市から遺跡の間には、三つの砦が存在している。遺跡周辺の警備網と、第一の砦は既に突破され、事態は急を要する話だ。

 

「そして現在は第二、第三の砦に常駐している。数名の機竜使いが討伐に向かっているが、敵は大型だ。突破され、城塞都市にまで被害が及ぶ可能性があるため、我々も部隊を編成し、戦闘へ備える。各自、指令があるまで準備を整え待機せよ」

 

いつになく真剣な声音でライグリィ教官がそう告げる。

 

既に王都ても救援要請をしていると説明もあった。何人かの女生徒は、それを聞いてほっと安堵の息をついていたがーー。

 

「随分と平和ボケしているんだな、この学園のお嬢様たちは」

「ええ、全くよ。王都からの応援なんて、そう簡単に来るなんてないはずよ」

近くにいたクルルシファーの意見もシルクと同様のものだ。

 

「どういこと?」

シルクとクルルシファーの意見を隣で聞いていたイリアは話の内容がよく分からず、首を傾げてしまう。その仕草が、今この場の空気に不釣合いで、思わずシルクとクルルシファーは苦笑してしまう。それを見たイリアは不満げに唇を尖らせてしまう。

 

そんなイリアの頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でる。

 

「ん、くすぐったいよ〜」

くすぐったそうにしているイリアを尻目に撫で続けながら、言葉を選ぶように話をする。

 

「ん〜、そうだな。簡単に言うとまだこの国が出来てすぐだから機竜使いが少ないんだよ。……いや、機竜に乗れる人はいるけど、実戦で使える人がいないって言った方があってるかな?」

「でも、そんなに少なかったら他国から攻められたりしないの?」

イリアはもっともな疑問をシルクへ聞く。

「えっ?……そ、それはーーー」

「それはこの国に『白き英雄』、『黒き英雄』がいると思われているからよ」

どう答えたものかと、戸惑っていたシルクをクルルシファーの凛とした声が遮った。

 

「たった二機だけで約三千機の装甲機竜を破壊した化物。そんなのがいれば攻めてこれるはずがないでしょ?」

『白き英雄』『黒き英雄』。この伝説は新王国の貴族も、他国も信じているものは少ない。それもそうだ、いくら神装機竜の使い手であろうと、たった二機だけで三千もの相手を倒しきる事なんて出来ない、それが他国の認識だ。ならば何故、このアティスマータ新王国に攻めてこないのか、理由は『白き英雄』『黒き英雄』が原因だ。理由としては矛盾しているが、実際、三千機の装甲機竜が破壊されたのは事実。そのため、下手に攻め入りその二機が出てきた場合、受ける被害がどれ程になるか想像できない。最低でも三千機の以上の兵力を出撃させなければならないため、どこの国も新王国に攻めることができない。

 

「……まあ、他国が攻めてくることなんてないだろ」

「そっか〜……あっ、ありがとうございます。エインフォルク先輩」

「いいのよ。それに私のことはクルルシファーでいいわよ?」

「わかりました、クルルシファー先輩」

と、二人のやりとりを見守っていたシルクの背中に声が掛かる。

 

「おーい、シルっち。そんなとこにいないで早く行くよ」

振り返れば、三和音が三人揃っていて、その中でティルファーが手を振りながらシルクを呼んでいた。

 

「行くってどこへ?」

「何処へって、私たち『騎士団』は緊急時には率先して出張らないといけないの」

軍の機竜使いがほとんど出払った今、幻神獣に対抗できる戦力は少ない。

 

「ここから演習場に行って、そのまま幻神獣討伐を討伐しに行くの」

「そうだったんだ」

「『騎士団』に所属すれば厚遇が受けられるが、何も楽しい話ばかりじゃない」

シャリスがくすりと笑顔を返し、そのまま出ていった。

 

「そっか、なら行かないといけないか…………クルルシファーさんは行かないの?」

「私のような外国からの留学生には、校則で独自の戦闘基準が定められているのよ」

表情を変えず、淡々と語る。

「幻神獣との直接対決に、私が関わる義務はないわ。自分から望めば手伝えるけど、私の国からは文句を言われるし、そのつもりはないわ」

クルルシファーは北の大国、ユミルからの留学生だ。他国との危機に率先して戦い、命と機竜を失うなどもってのほか、ということだろう。

 

「なるほど……それじゃあ、いつまでもティルファーや他のみんなを待たせちゃいけないから、もう行くわーーっとその前に」

演習場へ行こうとした足を止め、不安そうにシルクを見つめるイリアへと向き直る。

 

 

「聞いた通りだ。だからイリア、行ってくるな」

「…………うん。絶対、無事に帰ってきてね」

イリアの声は震えていて、その顔には上手くいっていないが、笑顔があった。

 

「任せろ!絶対に帰ってきてやる!ーー昨日、誓いしただろ?だから安心して待っとけよ」

耳元で小さく呟いたそれはしっかりイリアに届いていた。証拠に、昨日のことを思い出したのか顔をリンゴのように赤くしていた。

 

最後に、頭を少し乱暴に撫でて、シルクはこの第四機竜格納庫から出て行こうと足を外へ向けたのと同時に、誰かに右肩を掴まれ止まられるーーーーールクスだ。

 

「なんだ?話なら後にしてくれ、流石にこれ以上俺が遅れるとリーシャ様に殴られちまう」

ニカっと笑いながらそう言うシルクはこんな時でも平常運転であったが、ルクスの表情を見ると真剣な顔つきになる。

「……シルク。『騎士団』に入れなかった僕が言うのはあれだけど……、リーシャ様や『騎士団』のみんなのこと、頼んだよ」

「……任せろ」

ルクスの胸元に拳をぽんと、当て、最後に笑みを浮かべながら、今度こそ演習場へと向かった。

 

 

 

 

「この前みたいに、泣いて止めないのね」

「ひゃぅ!」

シルクを見送ったクルルシファーは、未だ顔を赤くし、恥ずかしがっているイリアの耳元へボソッと呟やく。イリアは突然のことに可愛らしい悲鳴を上げる。

 

「……クルルシファー先輩?」

「この数日の間で何かあったのかしら?」

クルルシファーは全てを見透かしたような目でイリアを見つめていた。

 

「……誓いを、くれました」

「……誓いって、何をもらったの?」

「それは……、ひ、秘密です!ですけど、誓いをくれたから、少し不安だけど……我慢、できます」

 

クルルシファーに聞かれた質問に対してイリアは恥ずかしながらも最後まで答えた。

 

「そう。ーーそれならその誓い、シルクくんが帰ってきたら聞こうかしら?」

クルルシファーは小さくそう呟いたが、誰の耳にも届くことがなく、広い格納庫内に消えていった。

 

 

「遅いぞ!緊急事態なんだから迅速に動け!」

演習場につくと、既に装甲機竜を纏ったリーシャから注意を受ける。

 

「大方、君の妹が原因なのだろう?」

「ここに来る前に、なにやら話してたもんね〜」

「Yes.妹が不安がっているところに漬け込んできたのですね、変態鬼畜野郎」

三和音の三人が次々に言う。

 

「確かにイリアと話していましたが……って、ノクトはいつまでそのネタを引っ張るつもりっ!?」

シルクのツッコミに、『騎士団』全員がわらい、硬すぎた雰囲気がいい感じに和らいだ。

そして、

「よし、お喋りはこの辺で……幻神獣討伐だ、油断するなよ!」

リーシャの言葉でメンバー全員が気を引き締め直し、返事を返す。

 

『はい!』

「では、行くぞ!」

リーシャの合図で、『騎士団』が浮上していく。シルクは即座に《ワイバーン》を召喚し、続くように演習場を飛び去った。

 

 

シルクは『騎士団』を率いるように先頭を飛んでいるリーシャの機竜を見ていた。リーシャが使っているのは神装機竜《ティアマト》ではない。《キメラティック・ワイバーン》、リーシャ自身が考えた世界初のオリジナル機竜だ。それは二種類の機竜の融合。操作には機攻殻剣が二本必要で、操作難易度は神装機竜並らしく、現在扱えるのはこの優秀な『騎士団』の中でもリーシャだけなのだそうだ。

 

装甲機竜は遺跡で発見されてから十余年が過ぎた今も、具体的な原理は解明されておらず、部品を取り付けるか交換するかの調整しかできていない。全く別の機竜を作るレベルの改造となると、本当に世界初。

 

(とんでもないお姫様だな)

まだ学生の身でそれをやってのけたリーシャの技術は相当なものだろう。

シルクはもう一度《キメラティック・ワイバーン》を視界に入れ、そう思った。

 

 

(けど、まさかこんな都合よく敵が現れてくれるなんて嬉しいね〜)

 

命の危険がある状況下で、シルクはあろう事か内心ガッツポーズを決めていた。

規模は少し物足りないが、今はまさにシルクが望んでいた事態だ。

不謹慎だ! と言われればその通りだが、シルクにとってイリアは最優先。これを気にイリアの持つ問題を一つ取り除ける可能性があると分かれば必然的に嬉しくなってしまう。

 

すると、

 

「シルク、こんな時に何を笑っている」

案の定、前を飛ぶリーシャから咎めの言葉が届く。

見咎められたシルクは、自分が笑っていたことに言われて今、気づいた。

 

「不謹慎だが、この状況は嬉しくてな……」

「嬉しい? お前ふざけているのか?」

語尾を強めるリーシャの瞳には明らかに怒りが見て取れた。

リーシャだけでなく、『騎士団』のメンバーも同様だ。

 

(怒るのは当たり前か。何たって命を貼るんだからな。そんな中で嬉しい、何て巫山戯た言葉が出れば誰だってキレるだろう)

 

「ふざけているわけじゃないさ。これから命を賭けってときに余計な」

「だったらーー」

「イリアのためだ」

リーシャの追求を遮る形でシルクが口を出す。

いつになく真剣な顔をしたシルクの顔を見ると、巫山戯ていないことなど一目瞭然だ。

 

「あの子がずっと抱え込んでいた問題を解消できる可能性が見えたんだ。どうしても嬉しくなったんだ。ーーーー笑っていた自覚はなかったんだがな」

最後にそう付け加えシルクは口を閉ざす。

 

「そうか……。解消、されるといいな」」

 

リーシャの目には先ほどのように怒りは消えていた。『騎士団』のメンバーも、非難の眼差しが柔らかいものに変わっている。

 

「だが、ここから先は戦場だ。最悪死ぬ場合すらある。だから、嬉しいからといって舞い上がって気をぬくんじゃないぞ?」

 

リーシャは、嬉しさのあまり気を抜かないよう釘をさす。

 

「ああ、わかっているさ」

幻神獣の危険性は、この中で一番シルクが熟知しているだろう。それ故に、気を抜いて油断するなどあるはずもなく、そしてあってはならないことだ。

シルクはそれに一言返すだけで、それ以降は黙って飛翔した。

 

 

 

城塞都市から離れた広い荒野。かつては、いくつかの村や集落があったが、十余年前に出現した遺跡、幻神獣の影響でその全てが滅び、残ったのは残骸だけだ。

 

幻神獣は既に第二の砦を突破しており、王都の軍は部隊を再編成している最中なため、城塞都市に向かう幻神獣を止めるのは、『騎士団』の活躍にかかっている。

 

 

「こいつがーー例の幻神獣か?」

上空から『騎士団』のメンバー十数名は、幻神獣を確認する。

 

足はない。ゼリーのような台形の巨体から、尖塔の如き二本の腕が左右から伸び、眼球らしき紫の球体が二つ、天辺近くに浮いている。

 

知性を持たないといわれる、スライム型。

しかし、幻神獣は情報通り巨大で、城ひとつを呑み込むほどに大きかった。半透明な体の奥には赤黒い球体ーー核と呼ばれるものが見えていた。

 

幻神獣を見つけたことで皆が厳戒態勢にはいる。シルクもいつでも動けるよう構えながら、リーダーであるリーシャからの指示を待った。

 

リーシャが《キメラティック・ワイバーン》で幻神獣の核を狙い撃ったが、スライムの粘液が飛び散るだけで、核にまで届くことはなかった。

 

「ッ……!?」

そして、地面に飛び散った粘液が草に降りかかるとあっという間に溶けてしまった。

 

シャリスが竜声を使ってリーシャへ次の指示を仰いだ。

 

「で、作戦はどうする?部隊長殿」

隣で滞空するシャリスの問いに、リーシャは鼻を鳴らし、

『決まっている。わたし一人でダメならここにいる全員で核を狙い撃つ。全員幻神獣から距離をとってエネルギーを最大まで溜めろ。わたしの合図とともに一斉に撃て』

リーシャは竜声を使い『騎士団』たちにそう伝えた。

 

直後ーーー

 

ーーィイイィィイイイイ!

 

どこからか、奇妙な笛の音が辺りに響いた。

(何だ、この変な音は?ーー)

シルクが頭の片隅でそう思ったとき、目の前な幻神獣に、異変が起きた。狙っていた赤黒い核が、破滅を孕んだ泡のように、急激に膨れ上がる。

 

「ゴァァアアァアアアア!」

直後、幻神獣自ら弾け飛んだ。

核の爆発。

予想以上の高熱と衝撃が、視界ごと塗りつぶして押し寄せる。

『障壁展開だ!機竜咆哮も使え!』

リーシャの叫びが、轟音にかき消されて吹き飛んだ。

 

さすがの事態に対処が遅れ、衝撃に呑まる寸前の女生徒が何人かいた。

 

それを見たシルクは一瞬で女生徒たちの前へ加速し、

 

「機竜咆哮!」

女生徒たちを襲うはずだった衝撃は間一髪に入ったシルクのおかげで、何とか免れた。

「大丈夫か?怪我とかしてないか?」

「……え、ええ。わたくしには怪我ひとつありませんわ。そ、その、助かりましたわ」

「わたしも怪我ありません。助けてくれて、あ、ありがとう、ございます」

金髪のいかにもお嬢様といった女生徒と、イリアよりも小柄で気の弱そうな女の子が頭を下げた。

 

「気にしないで、仲間を守るのは当然だろ?」

なんの裏表もない笑顔に二人は頬を赤く染めてしまう。

だが、シルクは幻神獣の爆発の際に発生した高熱のせいだと結論ずけ、気にすることはなかった。

 

 

シルクは他のメンバーの無事を確認するために辺りを見回す。

 

「くッ……あ、」

「う、あ……くッ…」

 

どうやら全員が無事というわけではないようだ。何名かはあの爆発で飛び散ったスライムが付着し装甲やブレードなどが溶けていた。その上自爆の際に起きた衝撃が重なり、かなりのダメージを受けたことは簡単にわかる。

 

「……くッ!『騎士団』の小隊は全機待機だ!一度態勢を立て直す。武器が使えない者はいったんさがれ!」

 

『ほう、随分王女ヅラが板についてきたじゃないか、リーズシャルテよ』

 

リーシャの指示に、待機していた中、ふいに竜声を通じて、しわがれた声が聞こえてきた。

 

新王国の警備部隊に所属する機竜使い。灰色の機竜を纏った男二人が幻神獣の上空に佇んでいるのが見えた。

 

『だがな。お前はそんな器ではない。そのような誇りなどないのだよ』

『お前は俺たち男に傅くただの雌犬だ……昔も今も……な』

 

「……ッ!?」

 

途端、リーシャの身体が何かに怯えるように震え始めた。

 

(お姫様は何に怯えてる?)

シルクがそう思った瞬間、震えていてうまく動けないリーシャに、二人の男が砲撃を撃つ。

 

『姫様!』

『リーシャ様!』

 

『騎士団』から悲鳴が上がる。

 

二つの砲撃。リーシャ目掛けて打ち出されたそれは、後ろから放たれた機竜咆哮が二つの砲撃の真ん中に直撃し、左右に軌道をずらした。

 

「チッ……、邪魔が入っーーッ!?」

「どうした? いきなーーうそ……だろ?」

機竜使いの二人は砲撃をズラした相手を見た瞬間、目を大きく見開き、絶句した。

 

「よう、こんな所で何やってんだ?ベルベット・バルト、それにレオンハルト・ラウール」

 

「「ッ……!」」

 

ベルベット・バルト、レオンハルト・ラウール。二人の名を口にしたシルクの声は、普段の軽い様子とは一転。低く、突き刺さるような鋭さを帯びた声だった。

 

『王都の兵士が何故この国の王者様を狙った?説明はしてくれるんだよな?二人とも』

『……わ、我々は、帝都からでございます、シルク・グランフェルト殿。アーカディア帝国近衛騎士団長としてまいりました』

『わたしも同じく、アーカディア帝国近衛騎士副団長として参りました』

 

『ッ……!?』

ベルベット、レオンハルトが竜声から発せられた言葉の意味を理解した『騎士団』一同が、はっと息を呑む。

 

帝国が滅んだ後。帝国側にいた機竜使いは牢獄へ入れられた。しかし、新王国へ忠誠を誓い、身の潔白を証明された人間は新王国の機竜使いとして再び士官となったがーー

 

『つまり、お前らは新王国を裏切ったんだな?』

『いえ、我々は裏切ってなどいませんよ。正道に立ち直っただけであります。力を得て』

さっきまでの、どこか萎縮していた雰囲気は既になく、今は勝ち誇ったような声が竜声を介して、頭を流れる。

 

『しかし、ひとつ質問をよろしいですか?』

『……いいぞ』

『何故あなたがこのような場所におられるのですか?わたしはグランフェルト殿は女王陛下からの依頼で遺跡の調査に向かったとお聞きしていましたが』

 

「……なにっ!?母上から直々だと……?どういうことだ!」

隣でシルクたちの会話を見守っていたリーシャだが、母の名前が出てきた途端、顔色を変えてシルクの襟元を掴む。

 

「り、リーシャ様、く、苦しい!」

「はっ……!す、すまない」

取り乱したことを謝罪し、リーシャ手を離す。

 

「で、どういうことだ?お前は母上の知り合いなのか?」

「え〜と……、まあ、別にバレても何もないしいいかな?」

「何をぶつぶつ言っている、早く教えろ!」

なかなか言わないシルクに腹を立てたリーシャの語尾が強くなる。

 

「あ〜、俺さ、簡単に言うと女王陛下専属の騎士みたいなものなんだよ。実際は色々事情があって複雑なんだが」

 

「…………母上専属の騎士?」

リーシャだけでなく『騎士団』一同が驚きのあまり唖然とする。

 

『まさか、リーズシャルテ王女陛下はご存知ではなかったのですねーーーお?そろそろですね』

『待ちくたびれたよ。まあ、グランフェルト殿がいたのは予想外だったけど、どの道アーカディア帝国の邪魔になる。いつか殺す予定だったからちょうど良かったじゃん』

レオンハルトの口調が変わる。これが本来のレオンハルトの素の口調だ。

 

『ほう、俺を殺せると思ってんのか?』

シルクは目を細め、殺気を放ちながらブレードを構えた。

それを見たベルベットとレオンハルトは余裕の表情だった。

 

『殺せますとも、今回我々が用意した戦力はあなたなど容易く殺すことのできる』

『そういうことだ。ってことでシルク・グランフェルト。ここで死ねよ、お前』

そう言ったレオンハルトの顔は醜く歪んでいた。

 

『さあ、孵れ。卵よ』

ベルベットは手に持ってある笛を吹く。聞いたこともない不快な音が、荒れた大地に鳴り響く。

直後。

 

破裂して飛び散った幻神獣の液体の表面に着いてある無数の油膜がぷくりと浮かぶ。小さな泡は、ぷつぷつと急激に大きくなり一斉に弾け飛んだ。

「あれはーー!?」

シルクも含めこの場にいた『騎士団』全員が驚愕に目を見開く。

出てきたのは黒い金属の鳥人。

 

先日、学園を襲った、ガーゴイル。その群れが、幻神獣の体内から大量に生まれていた。

ぷつぷつと、絶望の音が休むことなくなり続ける。

 

『ちょ、ちょっと待ってよ……』

『あんな数……!私たち、二体以上の幻神獣となんて戦ったことないのに……』

『どうしよう……、聞いてないよ、こんなのーー』

『そもそも、軍の警備隊まで敵なんて……』

 

日が昇り始めた朝焼けの空を、黒い金属の羽が覆っていく。

 

幻神獣、ガーゴイルの数、およそ五十体。

一人前の機竜使いが約二百人近くの敵勢力が、その場に生まれた。更に、軍の警備隊、百機の機竜使いが後ろで待機している。

 

「……ははは。これは、ヤバイな……」

シルクは目の前の敵勢力に思わず苦笑してしまう。

 

「ーー目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。《ティアマト》!」

 

リーシャが破損した《キメラティック・ワイバーン》との接続を解除し、神装機竜《ティアマト》を纏う。

 

シルクは圧倒的な戦力差に怯えているメンバーを軽く一瞥する。《ティアマト》を纏ったリーシャの隣まで移動し、

 

「ここで逃げても結局は羽があるから追ってこられる。ってことはここで全滅させないといけない訳だが……どうします? リーシャ様」

「どうするも何も、あの幻神獣どもがいる限りベルベットたちの元へは行くのは不可能だ。ならばーー」

 

「俺たちで幻神獣を撹乱して、その隙にリーシャ様の『七つの竜頭』で滅ぼす、って感じか……」

 

「……そうなるな。だが無理をするなよ、これは他の全員にも言えることだがな。特に、お前にもしもの事があればお前の妹に何言われるかわからないからな」

「ははは。そうだな、でもその時は俺も何言われるかわからん」

 

シルクとリーシャはこの絶望的な状況でも諦めるつもりはない。それが、『騎士団』一同が感じ取ったのか皆、戦意を感じるようになった。皆も諦めるつもりはないのだろう。

 

そして、リーシャは『七つの竜頭』を構え、

 

『よし! お前たち、準備はいいな? まず先に幻神獣を葬るぞ!』

竜声を介して『騎士団』の頭にに凛とした声が響く。

 

『はい!』

士気を取り戻し、全員で幻神獣を見据える。

こうして、圧倒的な不利の中、城塞都市を死守する戦いが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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