最弱無敗の神装機竜〜『白き英雄』〜   作:瑠夏

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お久しぶりです。

これが今年最後の投稿です。



第21話 デート

 

 

模擬戦が開始してから数分。

臨時講師の三人は一人の男子機竜使いに圧倒されていた。いかに連携攻撃を仕掛けても全て防がれ、高速に動き回るシルクに手も足も出ていなかった。自分よりひとまわりふた回りも年が離れた子供にいいようにやられて、攻撃役である、《ドレイク》使いの男は怒りに震えていた。

 

『調子に乗るのはそこまでだ。ガキめ!』

リーダー格の男はライフルを“シルクとは別の場所に向けた”

 

刹那ーー

 

パァアン!

「なッ……!」

 

「キャアアッ!」

撃ち出された弾は、シルクの後方のにある観客席へ一直線に進んでいった。そのことに、観客席にいた女生徒から悲鳴が上がる。シルクは慌てて振り返る。

 

しかし、銃弾が観客席へ直撃するというところで、誰かが機竜を召喚して防いだ。ここからでは少し距離があったが、シルクには誰が防いだのか分かった。妖精のように美しい、今はシルクの“恋人”であるクルルシファーだ。

 

クルルシファーがシルクに向かって微笑み、そして頷いた。

 

(こっちは気にせずやっていいってことか……ありがたいな)

 

クルルシファーからのメッセージを受け取ったシルクは、リーダー格の男に向き直る。

 

「新王国の軍人である人間が、観客席の生徒をわざと狙うなんて、お前はアホなのか? いや、それ以前に、貴様の機竜使いの腕では人に教えることも、そして軍人であることも失格だ」

声は静かだが、シルクの瞳には確かな怒りが浮かび上がっていた。

 

「……き、貴様のようなガキが、総隊長だからって調子にのるなッ!」

一瞬怯んだも、シルクに対する怒りが上回ったようで、リーダー格の男を始め、臨時講師の三人はもう一度距離を取り攻撃を仕掛ける。

 

だが、結果が変わることはなくシルクには一切のダメージが入らない。しかし、それは予想ないだったようで、《ドレイク》の男の顔に焦りや怒りといった感情は見られなかった。逆に、笑みすら浮かべていた。

 

そこでシルクは、何やら嫌な予感に囚われる。

その予感はすぐに的中する。

 

ぱぁあん!

 

《ドレイク》からライフル弾が放たれる。しかしその軌道はシルクに向かって飛んできているが、シルクを狙った攻撃ではないことに弾が通り過ぎてすぐに気づく。

 

だが、観客席はクルルシファーが守っている。そう安堵したが、シルクそこで大きな間違いに気づいた。何故なら、クルルシファーは今、シルクの“視線の先にいるからだ”。つまり、いま放たれた弾はクルルシファーが守っている場所ではない。それに気づいたときには遅かった。直後、コンクリートが破壊された音と、生徒の悲鳴が同時にシルクの耳に届く。

 

「お前ッ……!」

「おっと、すみません。総隊長の動きが早すぎて当たらないんで先読みして撃ったんですが、外れてしまいました」

 

観客席から騒がしい声が届く。それは悲鳴などではない。シルクがそっちを見ると、壊れたコンクリートの破片が頭に当たり、怪我をして、血を流す生徒がいた。

 

「ふん、これしきの事でぴーぴー騒ぎやがって。これだから平和ボケしたお嬢様たちは困るな。いっその事、もっと大きな怪我を負わして男が上なのだと身体に教えてやろうか」

《ワイバーン》を纏った男が下品に笑いながら言う。それに同感の二人も同じ笑みを浮かべながらうんうんと頷いていた。

 

「おっと、総隊長殿、避けないでくださいよ?防御もダメです。そうしたら……わかっていますね?」

「それじゃ、三人で畳み掛けてこのクソガキいたぶりますか」

「しゃべれない程度に痛めつけておけばいいだろう。次から俺たちに逆らわれないようにしないとな!」

そう言うと、同時に三人は動き出す。ライフル、キャノン、ブレードを構えシルクに一斉に攻撃を仕掛ける。

 

「散々俺たちをバカにしてくれたお礼だ。受け取れガキ!」

「……………」

そこで、シルクの中で何かがキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………え?」

《ワイバーン》を纏っていた男から、小さい、だけどしっかり聞こえるような、困惑した声が口から漏れた。

 

それは何故か?

 

理由は男の機竜にあった。エネルギーを送る幻創機核と、その付近の装甲が酷く破壊されていた。

 

「な、なんだよ……いったい何が起こったんだよ!」

幻創機核を失ったことで、飛ぶためのエネルギーが送られてこない。そのため空中の《ワイアーム》は態勢が崩れ、制御が効かなくなる。

 

「うるさい。黙れ」

「ヒッ…………!」

シルクは背筋が凍るような、そして言葉だけで斬れそうなほどに鋭い声を出す。

 

パニックを起こしてうるさい男を、殴りつけ地面へ減り込ませ気絶させる。

 

一瞬の出来事に、残りの二人は唖然とする。それは周囲の生徒たちも同じだ。あのルクス、リーシャ、ティルファー、そしてあのクルルシファーですら目を剥いて驚いていた。

 

残った二人は、ようやく今の出来事を理解したようで、顔を真っ青に染めていく。彼らは今気づいたのだ。自分たちは、絶対に触れてはいけないものに触れたのだと。

 

「う、うわぁぁぁぁあああああ」

「……ま、待て!迂闊に近づーーー」

恐怖のあまり、無茶苦茶に飛び込んでいく《ワイバーン》の男を止めるが、遅かった。

 

バキン!

 

『神速制御』。肉体操作と精神操作の二つの制御で、一瞬の一動作のみ、目にも止まらぬ神速の絶技。

 

それに加え、シルクの機動力がプラスされるため、もう何があったのか視界で捉えることが不可能な程だ。

 

『神速制御』を打たれた《ワイバーン》はブレード、両腕と順に全壊していき、勢いで壁にぶつかり、そこから崩れ落ちる。

 

「……ば、バカな……。こんなガキに、あの一瞬で……?」

先ほどまでの勢いはどうしたのか、空中で固まったかのように動かない。

 

だが、シルクが《ドレイク》を狙う態勢に入ると、弾かれたようにライフルの弾を連発する。

 

シルクはブレードを使わず、ただ動くだけで全てを交わしていく。

 

「なぜだ、何故当たらないッッ!?」

いくら弾数があろうと、シルククラスの機竜使いとなれば全くもって苦にしない。

 

「くそぉぉおおッッ!来るなぁぁああ!」

止まらない。何発撃ってもシルクは止まらない。

 

間近に迫ったシルクはまずライフルを斬り捨てる。そのあとは無防備に空いている腹めがけて蹴りを繰り出す。

 

「ボハァ……!」

蹴りの威力に吹き飛ぶが、シルクがそれに追いつき、次は頭上からブレードの平らな部分で叩き落す。

 

演習場内に衝突音が響き渡る。

土煙が晴れると、男は倒れていた。機竜のいたるところがボロボロに剥がれ落ちて、既に機竜としての仕事を果たしていなかった。

 

「無様な姿だな。それにさっきまでの威勢はどうした? まさかあれだけの口をきいてこれで終わりとかないよな?」

シルクは完全に冷え切った目で男を見ていた。

 

「うッ……」

返ってきたのは呻き声だけ。

 

その様子を見たシルクはもう興味を無くし、クルルシファーたちが集まっている場所に戻った。

 

「お疲れ様。流石ね、恋人がこんなに強くて、嬉しいわ」

戻ってきたシルクに、クルルシファーがわざとらしく声をかける。

「それはこっちのセリフさ。俺が戦えたのはわざと狙う銃弾から守ってくれる優秀な恋人がいたからさ」

慌てず、取り乱さず、シルクはクルルシファーを見つめて言った。

 

 

「んんっ! それにしても、シルク、お前は本当に強いな。軍の機竜使い三人を相手に瞬殺とは、おかげでスッキリしたぞ!」

「うんうん! みんなシルっちに感謝してるよ。もちろん、私も含めてね」

リーシャとティルファーが、シルクの肩に手を置きながら満足そうにしていた。

 

「それよりシルク? 僕に何か言うことはないの?」

突然ルクスが、只ならぬ雰囲気を纏ってシルクに近づく。

 

「な、何かってなんだ?」

「何かって、そんなの……僕が放課後に機竜の操作を教えるってことだよ! 僕は放課後、依頼があるのに、その上放課後に操作の指導なんてできるわけないだろ! もし、教えるならその時はシルクも一緒に手伝ってもらうから」

珍しく声を荒げるルクスに、シルクは一歩後ずさってしまう。

 

「い、いや〜。それは無理だろ。俺は依頼があるから……」

「何か言ったかな?」

「……い、いいえ。なんにも言ってません」

 

「それならシルクも放課後にルクスと一緒に教えるといい」

「そうね。わたしの『恋人』さん。頑張ってね」

「シルっち、ファイトだよ!」

上から、リーシャ、クルルシファー、ティルファーが楽しそうに言った。

自分が巻いた種。この場にいた誰もが、シルクを助ける者は存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

シルクは、ルクスと一緒に補修に来た生徒たちに操作について教えていくのだった。

 

 

 

「はあー、疲れたぁー」

長いため息をつき、寮のベッドに倒れ込む。今は、妹のイリアはお風呂に入っていて、部屋にはシルク一人きりだ。

 

今日は、王都から来た臨時講師との問題、そして放課後の特訓にいつもの雑用。シルクの精神は疲弊していた。そのため、シルクはベッドに倒れこんだのと同時に、瞼が重くなる。イリアが来るまで起きていようと、眠気と奮闘するも、疲れが残る今の状態で勝つことはできなかった。次第に瞼は閉じ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

「……んにゅ、おにいちゃん……わたしのもの………すぅ、すぅ」

そんな可愛らしい少女の声でシルクは目が覚めた。どうやら、あのまま眠ってしまっていたらしい。

 

いつの間にかシルクのベッドに潜り込み、シルクの腕の中で、幸せそうに寝ているイリアがいた。さっきのは寝言のようだ。

 

シルクは寝ているイリアの頭を撫でる。

 

「ごめんな。今日はかまってあげられなくて」

寝ている相手に言っているため、当然返事は返ってこない。ただ、撫でられて気持ち良さそうに身じろぎするくらいだ。

 

「お休み」

最後に、おでこにそっとキスをして、シルクはもう一度瞼を閉じ眠りについた。

 

 

シルクがクルルシファーの『恋人』になってから早くも三日が過ぎた。彼女の依頼をこなすため、機竜使いの演習や、昼食を一緒に取り、それらしい生活を続けていた。

 

(まあ、そのせいでイリアが夜に激しく甘えてくるようになってしまったが……)

 

そのおかげもあり、

 

「それにしても、クルルシファーさんが羨ましいですわ」

「でも、争奪戦を制したのも彼女ですし、仕方ないかもしれないわね」

「ええ。悔しいけど、お似合いなのよね。見た目も実力もーー」

と、同級生の女生徒たちに囁かれるようになった。

 

ちなみに、もう一組であるルクスのところはと言うと、

 

 

「おい、天然娘。お前は昼食を一緒にとっただろう。だから放課後は私に譲れ」

「ダメ。ルーちゃんとこれから美味しいお菓子を食べに行くから、諦めてお姫様」

「ふざけるな! お前が諦めろ! あー、もう! めんどくさいなー。わたしのおやつをやるから、今回は大人しくさがっていろ」

 

と、いつもと同じやりとりを繰り返している。その光景はこの三日間続いたため、クラスメイトたちは苦笑しながらも、暖かく見守っていた。

 

 

シルクも皆と同じに見ていると、クルルシファーがシルクの席の前に立つ。

 

「今日はこれから、私とデートをして欲しいの」

いつものように涼しげな微笑みで、クルルシファーがそう言ってきた。

それも、まだクラスメイトが大勢いる、教室の中でだ。

 

「で、デート? って、何でわざわざここで言うんだッ!?」

やはりと言うか、教室に残っていた生徒たち全員の視線がシルクとクルルシファーに注目した。

 

「今思いついたから、言ってしまったのだけどーー迷惑だった?」

「いや、そんなことーーないけど」

「そう、ありがとう。嬉しいわ」

(本当に、クルルシファーさんに勝てる気がしないわ。……でも今回のは)

 

「今の発言、わざと?」

教室から廊下に出ると、シルクはそう切り出した。

 

「もちろんよ。ちゃんと『本物』だと思わせておかないと、そろそろやってくるエインフォルク家の従者に偽物だと疑われてしまうわ」

 

(そこまでしなくてもいいんじゃないか?)

 

二人はデートの準備をするため、一旦寮に戻り準備をする。シルクは学園の制服のまま、腰に《ワイバーン》の機攻殻剣をぶら下げる。

 

「……シルク君?どうして機攻殻剣なんか持ってきているの?」

クルルシファーはシルクの格好を見ると、訝しげな視線を向けた。当然だろう。デートと言っているのに腰に剣なんかぶら下げてきたら誰だって変に思うだろう。

 

「これは自衛のためだよ。貴族の子を狙った誘拐なんかよく起きることだからな。だから、俺の『恋人』を守るために持ってきたんだよ」

「……そう。ありがとう」

「『恋人』を守るのは当然のことだ」

これは一本とったか?と、シルクは内心ガッツポーズを決めた。

 

 

 

三十分ほど歩くと、城塞都市の中でも比較的裕福な客相手の商業区画だった。

 

目につくのは高級なレストラン、仕立屋、修道院、施寮院など。この都市に住んでいる機竜使いの貴族たちも多い。

 

「面白いわね」

隣を歩くクルルシファーが、ふいにぽつりと呟いた。

「私、こういうところあまり来ないの」

「へぇー。クルルシファーさんならこういう上品な街の雰囲気に、よく似合うと思うけどーー」

「それはないわ。だってーー私は貴族という人たちが好きじゃないから」

「……………」

それきり、会話が止まる。

 

(貴族が好きじゃない?一体、どういう意味だ……?)

シルクが疑問を浮かべたとき、何かに気づいた。前を歩くクルルシファーの手をシルクは取る。

 

「ッ!?ど、どうしたのかしら?急に手なんか繋いで……」

珍しいことに、いつも冷静なクルルシファーが驚いた表情を浮かべていた。シルクとしては今のクルルシファーをおちょくりたいと思っていたのだが、それはすぐに諦める。

 

「クルルシファーさん、黙ってついてきて。後ろ、つけられてるから」

「……わかったわ」

シルクの言葉に、驚きの表情が消えて冷たいものに変わる。シルクはクルルシファーの手を引きながら、細い道を抜けていく。その瞬間。シルクたちの後ろを、誰かが言っていよ距離を保ってついてきているのがわかる。

道を抜けると、そこは誰にも使われていない荒地が広がっていた。

 

(よし、ここでなら多少は機竜を使うことができるだろう)

 

シルクはそのまま奥まで進む。一番奥まで行くと、ちょうどシルクたちをつけていた人物が五人現れた。五人はシルクたちを逃さないよう、逃げ道を塞ぐように陣形を組む。

 

「《ドレイク》が五機か、問題ないな」

シルクはそう言って、クルルシファーを自分の背中に隠し、機攻殻剣を鞘から引き抜きぬいた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?


では、みなさん、良いお年を。
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