シルクはよく、街に足を運んでいる。その理由はこの街にあった。この街の人々は皆、笑顔がある。ひとつ前のアーカディア帝国では見れなかった光景だ。みんな生き生きと暮らしている。シルクは旧帝国で暮らしていた時期があったため、当時の人々がどのような顔で暮らしていたか知っている。女性の扱いが酷く、モノみたいに扱っていた。そのため今のように男女関係なく一緒に過ごしているのを見ると嬉しくなる。
だが、国が変わっても旧帝国の考え方を変えられない人もいる。王都の兵士などがいい例である。そのため、女が目立つとああいった男と女の喧嘩が発生したりする。装甲機竜の争いなら適性は女性が上であるため男に勝てもするが、生身の争いごとになると女性は非力だ。だから、そこを突いて女性に生身の戦いを仕掛けることが多くあるのだ。
「そう言えば、さっき会ったセリスって人スゴく綺麗で、美人な人だったなぁ〜」
シルクは頭で今し方会った、少女のことを思い浮かべていた。色白の肌に、腰までかかる鮮やかな金髪と、底なしに深い翡翠の瞳。そして、はち切れんばかりの豊かな胸を持つ少女。端正、という表現ではあまりに足りないその美貌に、シルクは一瞬だけだが目を奪われた。そして美貌だけでなく、実力もあり、いつか彼女の剣術は、数年の内にシルクと同じレベルにまで到達すると思わせるほどだった。次は機竜を使って戦ってみたいとシルクは心の底から思った。
(ん?ってか、セリスって……もしかして、四大貴族ラルグリス家の長女、セリスティア・ラルグリスか?)
シルクが今もまだセリスについて考えていると、目の前を二つの影が通り過ぎた。一つの影は虎模様の猫で、それを全力で、小柄な少年の影が追っていた。
(ん?今のは………もしかして)
シルクは、今自分の前を走り過ぎていった少年に見覚えがあった。それを確認するため、少年を追って走りだす。
少年を追いかけて一時間近くが経過した。
今し方、追いかけていた少年を見失ってしまった。
仕方ないと、元の道を戻ろうとしたシルクだが、自分のすぐ近くから誰かの話し声が聞こえてきた。
「ーーーよし!ここまでだぞ!」
周りを見渡すと、建物の上につい先ほどまで追いかけていた、小柄な銀髪の少年がいた。そして、猫から何かを取り戻していたところだった。
なにやら大事なものだったらしく、取り戻せたことに胸を撫で下ろしていた。その姿を見たシルクの悪戯心が疼き、少年にバレないよう気配を消しゆっくりと近づく。
そしてーーーーー
「よっ!久しぶりだな、ルクス」
ルクスと呼ばれる少年は、不意に後ろから話しかけられ、ビクッ!としたが、こちらへ振り向き、声の主を確認すると目を大きく見開いた。
「え………?も、もしかして……し、シルク?……本当にシルクなのッ⁉︎」
ルクスは今、目の前にいる人物に心底驚いた。
「ああ、そうだよ」
「ッ……!シルク!ずっと連絡取れなくて心配してたんだぞ!突然いなくなって、僕たちがどれだけ心配したと思ってるんだ!」
ルクスは突然自分たちの目の前から消えたことに憤慨していた。
「わ、悪かったって。こっちにも事情があったんだからさ」
シルクはルクスの様子に苦笑いしながらそう返した。その後も、何かと言ってくるルクスの話を聞きながら、自分がこんなにも心配かけていたなんてこれっぽっちも思っていなかったシルクは、申し訳なく感じた。
ごめん、と、何度も謝るシルクを見て、ルクスはため息をつき「もういいよ」と、シルクを許した。それからは、二人で今までどうしてたかお互いに話し合った。
もう日が落ちかけていたため、シルクはもう帰ることにした。シルクは少し名残惜しいと思っていたがそれはルクスも同じようだ。
シルクは踵を返し歩いて行った。少し進んだところで後ろから妙な音が聞こえた。シルクは振り返る。
ピシッ!
また聞こえてきた不穏な音はルクスの立っている場所から聞こえてきた。
「えっ………?」
「あ、これはまずいな」
シルクがそう呟いた瞬間ーーーー
ルクスの足場が崩れ去った。
「うわあぁああっっ!」
ルクスが落ちていくのを見ていたシルクは、即座にルクスが落ちた穴を覗いた。
直後ーーーーー
バシャァァアアアッ!!!!
ルクスが水の中に落ちた。いや、水ではなくお湯だろう。さっきからずっと穴からは湯気が出てきている。
(で、人影が見えるってことは………ここは風呂だな)
穴からは湯気が出ていてこの場所が風呂場だというのにルクスは気づいていない。
ルクスは、瓦礫から一人の少女を助けたが、助けたとき、少女の上に覆い被さってしまったのだ。
「いつまでわたしの上に乗っている気だこの痴れ者があぁぁああっ!」
ルクスが覆い被さっていた少女がルクスに向かってそう叫ぶ。すると、周りにいた少女たちも今の状況を理解したのか、
「キャアアァァアッッ!」
無数の甲高い悲鳴が、浴場のなかに反響する。
「す、すみませんでしたあぁぁぁあ!」
風呂桶や、石鹸など様々な物を投げられ、ルクスは洗い場の方へ撤退する。
(災難だな、ルクスよ)
シルクは自分も巻き込まれないように屋根を降り、立ち去ろうとーーー
「あら、もう覗きは終了なの?」
ーーーしたのだが、一人の少女に呼び止められる。シルクは声の主のほうへ振り返った。
「……………」
美しい少女だった。
すらりとした細身の体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳。
まるで、完璧な美術品のように、少女は緊張も緩みも見せず、シルクの前に立っていた。
今日会ったセリスとはまた違った美しさだ。
「…………あ、……いや〜、覗いていたつもりはないんだけどね」
あまりの美しさに反応するのが遅れてしまった。
「そう?わたしからは覗いているようにしか見えなかったわ」
「いや!本当に覗いていたんじゃないんだ!友人がここから落ちて、無事か確認しただけだ!………そ、それにここが女子風呂だとは思わなかったし……」
「そう。でも、あなたは今、確認したと言った。つまり、確認するためには覗くしかない。知らなかったとはいえ……ね?」
「うっ……」
痛いとをつかれ、どもってしまう。
「顔は結構好みだけど、残念だわ。犯罪者を逃すわけにはいかないの」
この少女の中では、シルクは犯罪者になっているようだ。
(まあ、覗きは犯罪だからしょうがないかもしれないけどさ)
「大人しく捕まってくれないかしら?」
「いや、それはできないな」
「そう。まあ、あなたが何て言おうと、私が捕まえるだけよ」
少女がそう言った瞬間ーーーー
ドカンッ!
後ろから二つの大きな影が現れた。
その二つは装甲機竜を纏った知らない少女たちだった。
「いたよ!もう一人!」
「Yes.覗き魔は捕まえます」
と、シルクを捕まえようと襲ってくる。
なぜシルクがいることを知っているのか疑問だが、しょうがなく相対するため腰から機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜いた。
機竜を展開されると思ったのか、一人がシルク目掛けて突進する。しかしシルクは機攻殻剣(ソード・デバイス)で受け、いなし、そして一閃。すると、相手の機竜の一部が破損する。
「「「なっ!?」」」
その場にいた、シルク以外の少女たちが唖然とした。
「今ので大体実力の差がわかっただろ?君達では俺には勝てないよ」
今のを見た三人は今まで以上にシルクを警戒した。
一触即発の雰囲気になる。
だが、それを止める者がいた。
「……お、お兄ちゃん………?」
「ッ……⁉︎」
「………も、もしかして………………本当に、お兄ちゃん?」
シルクはこの声の主を知っている。
昔、離れ離れになったときからずっと聞きたいと思っていた声。別れてから一度として聴くことのなかった、そして、ずっと聞きたいと思い続けた声がシルクの後ろから発せられた。
震える体をゆっくりと動かし振り向く。幻聴
ではないことを祈りながら。
そしてーーーーーーー
「………………………イリア」
キレイな白髪を腰まで伸ばし、まだ幼さが残るが、整った顔立ち。ちょっと小ぶりだが、しっかりと膨らんだ胸。
そこには、ずっと会いたかった最愛の妹ーーーーイリア・グランフェルトがいた。