坂の上の彼女   作:烈火信仁

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初めまして!幕末から明治にかけての歴史に女体化させた人物たちを絡ませた物語です。
楽しんでみていただければ幸いです。読み終わったあと、短くても一向に構いませんので評価、感想をいただければ幸いです。よろしくお願いします。


来訪と出会い

気が付けば、そこは山の中腹に現出した戦場のど真ん中だった。

 

「…………ちょっと待てぇ!」

 

ちょんまげ姿の侍さんや軍服来た兵士らしき人たちが銃やら刀やらを手に手に殺りあっている。そんな映画撮影か何かでなければ説明がつかない事象が発生している現場に、少年、大山義男は立っていた。

 

なぜ、こんなところに自分は突っ立っているのか。義男は思い出してみようとしたが記憶の中に多い当たる節はない。

 

最後の記憶といえば、苦手な数学の追試勉強を終え、完全に脳を疲弊させながら明日の高校通学の準備を済ませ、部屋のベットに倒れこむように入り、眠りに入ったというものである。少なくとも、制服着て外に出た覚えなどないし、ましてや映画の撮影セットの現場に乱入しようなどと考えたこともない、というかまず近場の撮影場所など知らない。

 

だが義男がいくら周りの奇奇怪怪な状況が理解できなくても、彼を囲む現実は決して判断ができるまで待ってはくれない。

 

「死ね! 」

 

「うお!? 危なっ!」

 

明らかに目立つ服装、というか古風すぎる周りの人々の服装ゆえに浮いている義男は当然目をつけられることなる。

 

殺気を全身に漲らせた侍の振るう刀の太刀筋を、危うく避けた護は全力でその場から逃走を図った。

 

走りながら周りに目をやれば、日本刀を振りかざして戦ういかにも侍といった風体の人から町人が鉢巻巻いて銃を持っているとしか思えない風体の人まで様々な人々が戦っている。さらにふと目をやれば、木々の波が切れる場所から海が見え、かすかながら向こうがわに巨大な島影も確認できる。いやよく見ればそれは島ではなかった。それは本土の対岸だったのだ。つまり義男が見た海は陸と陸とにはさまれた海峡だったのである。

義男は東京に住んでいる。もちろん東京も海に面していないわけではない。だが、少なくとも海峡など存在しない。海峡が存在する場所など国土の北の果てか、南の果てぐらいなはずで、そんなところに一高校生が思い付きで、自前の資金を使って向かおうなど普通は思わないし、まず明日が普通に平日なことを考えると不可能なはずである。

 

では、なぜ自分は海峡が見える様な土地でいきなり突っ立った状態で意識を取り戻したのか?いくら考えても義男には理由が分からなかった。

 

映画撮影?それをまずは考えた。だが目の間で繰り広げられる血みどろの戦いを前にして義男はとてもその可能性を信じられなくなっていた。首が切断されて地面に落ちる、頭部に小さな穴が開いたと思ったら後頭部が割れたスイカのように飛び散り地面に倒れ伏す人たち、響き渡る銃撃音に砲撃音、爆発したように吹き上がる地面、あちこちに転がりうめき声をあげる手足を失った男たち、そんなあまりにもリアルすぎる光景は義男の目に焼き付いた。その現実は、彼に自分の周りの光景を作りものだと一笑に付すことを許しはしなかった。

 

となると、導き出されるのは、これは本当に戦争で、自分はその戦場のど真ん中にいるというものであるが、常識で考えればそれこそありえない。

 

現代日本においては、戦争も紛争も内紛も存在しない。まずその大原則がある。約70年前の大戦後、日本の国土で国民同士が殺しあうような戦いなど起きた、ためしはなかった。確かに安保闘争など警察と一般人がぶつかり合うことはあったが、義男の目の前で繰り広げられているような凄惨な戦いは起きたことない。

 

第一、 仮に現代に日本の国土で争いが発生したとしても刀で斬りあったり、素人の義人でも分かるほどの旧式な銃で殺しあうなどというのは常識で考えておかしすぎる。

 

そんなことが国土において最後に起きた時代があるとすれば、幕末、戊辰戦争ぐらいなももので……………

 

そこまで考えたところで、ふと義男はあることに気づいた。

 

この周りで繰り広げられている戦闘を自分は見たことがある。

 

そう、折しも今年の巨峰ドラマは幕末から明治にかけての時代を題材にした作品で、歴史好きな義男も毎週必ず見ていたのだが、その中のワンシーンにいま目の前に広がる光景を義男は目にしていたのである。

 

(確か……….そうだ、この光景は小倉口の戦いだ!先週の話が確かそこの…….)

 

ようやく目の前の光景の正体が分かった義男だったが、その新しい事実は決して義男に事態を理解するための手助けをするものではなく、むしろ彼をさらなる謎の中に誘い込むようなものだった。

 

もし、目の目の光景が本当に義男がテレビで見た小倉口の戦いのものであるとすれば、今義男がいるのは約150年前もの昔の戦場ということになる。

 

つまり、義男は150年前にタイムスリップしたということになるわけだが……..

 

(いや、ないないないないない!さすがにそれはない!きっとこれは夢だ、夢なんだ!)

 

そう走りながら心の中で叫びつつ、頬をつねってみたり頭を叩いてみたりする義男だったが、激痛や痛みが走るだけで目が覚める様子は一向にない。

 

その痛みはただ目の前に広がる光景が現実であることを証明するものでしかなかった。

 

(いやだって、なんでここに!?というかなんで僕が!?)

 

考えたくないその可能性に行き当って、完全に混乱状態に陥った義男は思わず足を止めてしまった、そして戦場においてはその一瞬のスキが命取りとなる。

 

逃げるための動き、その行動が止まったことにより、一時的に戦場からその存在が薄れていた義男が再び異質な存在として目立ってしまったのだ。

 

当然ながらそれは戦場で互いに殺しあう双方の当事者たちからということである。

 

「いたぞ! 」

 

 

「討ち取れ!」

 

周りからにわかに湧き上がってきた叫びにわれに返り、義男は慌てて再び足を動かそうとするが、それより早く一人の武者が正面から義男に向かって斬りかかってきた。

「覚悟! 」

 

その距離約2メートル、迫るは真正面からの外しようのない日本刀による斬撃、某仮想世界の中を行き来する人類最後の救世主でもなんでもない義男にはその一撃を躱すすべなどあるはずもなく、また某最強の剣術使いのように真剣白羽取りなど絶対に不可能である。

 

迫るは死、もたらされるのは出血、肉体の破損、生命の損失、もはや自力ではこの運命は変えようがない。

 

そう、自力では。

 

刹那、義男が見たのは白い人だった。

 

いや正確には白い女性だ、さらにいえば白い少女である。

 

髪は白く、白い袴に白い防具を身に纏い、白いさやを腰に携え、左目に白い眼帯を付け、純白の柄を返り血で染めたその少女は、美しくも儚げな声色で義人に告げた。

 

「もう、大丈夫 」

 

次の瞬間、義人の目の前で、武者は少女が振るった一太刀により喉を切り裂かれ声にならない叫びと共に地面に倒れ伏せた。

 

極めて冷静に、それでいて容赦なく、その倒れ伏せた武者の頭部に刀を突き刺しとどめをさした少女は、そのまだ幼さが残る顔を義人に向けた。

 

「君は………いったい? 」

 

目の前で繰り広げられた出来事に呆然としながらもなんとか問いかけた義男に対し少女は静かに答えた。

 

「私は……なきと 」

 

「なきと.....? 」

 

「そう、私は……..報国隊隊士、なきと」

 

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