どうしてこうなったのかは分からない。
兵士の詰所の中。
既に日はおち、部屋の中を照らすランプの中の炎がゆらいでいる。
四角いテーブルを挟んで目の前に座る男は、手元にある数枚の紙と一組の男女を交互に見ている。
「グレイもう一度聞くぞ?何故あんな事をしたんだ?」
「俺はやっていない。と言うかお前は何故俺の名をしっている?」
「俺だよ!ジャンだよ。」
「…知らんな。」
ジャンと名乗った男はグレイと同世代の二十歳の男性。彼はバファル帝国の首都にある親衛隊の部隊長である。
「何言ってるんだよーグレイ!お前は俺を助ける為に罪を被って軍を辞めたんじゃないかぁ。」
「そうなんですか?」
「記憶にないな。」
軽薄そうな物言いのジャンの言葉にクローディアが反応し、グレイが無愛想に応える。こんなやり取りがすでに一時間近く繰り返されていた。
いい加減前に進まない会話に、ジャンは軽く息を吐き肩の力を抜くと、今度は親衛隊部隊長ではなくグレイのかつての友として語りかけた。
「なぁグレイ。俺だってお前がゴールドマインの金庫を襲ったなんて思っちゃいないんだ。だがモンスターが金を盗むなんて聞いたことがない。いい加減何があったのか話してくれないか?」
何があったか?グレイは目を瞑り今日の出来事を頭の中で振り返る。
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「どうした?もう疲れたのか?」
「・・・」
グレイの少し後ろを無言で歩いているクローディアは、まだ迷いの森を出て数時間しか経っていないにも関わらず肩で息をしている。
先程から少し離れては小走りに寄ってくる。そうかと思えばやたらと離れたところで景色を見ている彼女の行動は、グレイには理解できないものであったが、ずっと迷いの森で育った彼女が初めて見る外の世界に魅かれるのも仕方のないことかもしれない。しかし森での一件で仲間は野営の道具一式を持って逃亡してしまった。
いくらクローディアが普通の女の子とは違う環境で育ったとはいえ、まさかテントも無しに野宿させる訳にもいかない。空を見上げれば既に太陽はベイル高原の連なる山々に隠れようとし、空は夜に向かって、赤から黒へのグラデーションの紫色に染まったキャンパスに、輝く星々を散りばめ始めている。
夜になると活動が活発になるモンスターも多い事から、急遽最寄りの村であるゴールドマインへと目的地を変更することを余儀無くされることになったグレイ一行はベイル高原を歩いているのだが…このペースでは先が思い遣られる。グレイは軽くため息を吐き立ち止まると、振り返りゼーゼー言っているクローディアに話しかける。
「そんな体力では世界を巡るにはキツイぞ?今ならまだ間に合う。迷いの森へ帰るか?」
「・・・」
そんなグレイの言葉にクローディアは、女神のような微笑みを浮かべながら右手で来い来いとジェスチャーをする。休憩でも要求してくるのだろうか?案外可愛いところもあるんだな。グレイは鼻で軽く笑う。
「どうした?クローディア。休憩でも「ショーリューケン!!」ヒデブッ!!」
パカーン!
と乾いた音を立てて、クローディアのアッパーカットが笑いながら近づいたグレイの顔面に炸裂する。
「い、痛てぇ!!何すんだよ?」
「何すんだじゃありませんよ!!アホですか貴方は!サクサクサクサクと歩くのが早すぎなんですよ!!身長差があるんですから追付ける訳がないじゃないですか!!バカですか貴方は!バカバカバカ!」
「4回も言いやがったな!」
「煩いバカ!!」
「また言いやがった!」
頬を膨らませて怒っているクローディアは、涙目で顎をさすっているグレイをみて、可笑しな人ねとクスッと笑うが、その言葉はグレイには届かなかった。
「ところで…人は大きな火を囲うのが好きとババア(オウル)に聞いていたのですが…」
「火を囲う?あぁキャンプファイアとかバーベキューのことか?まぁ好きと言えば好きな人が多いとはおもうぞ?あとは…ガレサステップにも昔は火の周りを数十人で周る儀式もあったそうだ。まぁ最もソレは邪神への奉納の儀式だそうだが。」
「そうなんですか…。」
そう言うとクローディアは自分の顎に手をあてて、首を傾げて考えるポーズをとっている。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、アレもそうなのかなと思いまして。」
グレイはクローディアが指差した先を見ると、ゴールドマインの村のある方から黒煙を伴って炎が上がっていた。