迷いの森で変な女の子拾っちゃいました。   作:シズりん

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第3話

ーーゴールドマインーー

 

広大なバファル帝国の中央に位置するベイル高原の北側にあるその村は、名前が示す通り金鉱がある。ここで採れる良質な金は、財政に難をもつバファル帝国にとって重要な財源の一つであるため、別名皇帝の金庫とも言われている。

しかし元々が鉱夫達が集まり出来た村である為、人口は少なく無骨な鉱夫達が村の大半を占めている。

そのゴールドマインの村にある倉庫から炎が上がっていた。

 

村に入って直ぐ、グレイの視界に飛び込んで来たのは、倉庫のまえで逃げ遅れた少女に襲いかかろうとするモンスターの姿だった。

グレイとモンスターまでの距離は優に4、50メートルはあるだろう。

グレイの持つ刀では明らかに範囲外だ。しかしグレイは腰から一振りの刀を抜くと、少しだけ両膝を曲げて飛びかかるような姿勢をとった。

 

その技の名前は『清流剣』と言う。

 

まるで澄み切った小川の流れのように一分の隙も乱れもなく、目標に向かうその姿から名付けられたその技は、数ある剣技の中でも奥義とされている。初足から神速に達するその技の標的になった運の悪いモノは自分が斬られたことさえも気付かない。ただ通り過ぎる風を感じるだけだと言われている。

 

そんな神速でモンスターから少女を救ったグレイは目を疑うような光景を目にしていた。グレイが斬るより先にモンスターの額と心臓に光り輝く矢が刺さっており、既に絶命していたのだ。

 

グレイは少女に手を貸し助け起こしながら遥か後方にいるクローディアの方を見ると、彼女は周りの景色を物珍しそうに目を輝かせて見ながらグレイの方へと歩いて来た。

 

「最近の人の生活って華やかなんですね。バーベキューのことはババア(オウル)から聞いてはいましたが、まさか建物ごと燃やすなんて思ってもみませんでしたよ。」

「そんなわきゃねーだろ!!」

「え?でもオウルは炎が大きいほど人は萌えるのよ〜って言ってましたよ?」

「良いかクローディア。一つオウルについて教えておいてやろう。魔女と呼ばれるようなヒトの言うことは話半分ぐらいに聞いておけ。あの人種は基本的に自分が楽しければ何でも良いってヒトなんだ……そう言えば本当に君は彼女(オウル)に似ているな。クローディア、君は彼女について何処まで知っているんだ?」

「何処までと言うと?」

「例えば彼女の正体についてとかだ。」

「正体ですか?大魔法使い。」

「まぁそうなんだが、それ以外は?」

「ババア」

「…それ以外」

「フルタイムでバーサク状態。」

「…それ以外」

「テレビの前で寝転んで、お尻をかきながら見るメロドラマが好き。」

「もういい…。」

 

 

真面目に答える気がないのか、または本当に知らないのか。とにかくこれ以上聞いていると、世紀の大魔女のイメージが壊れそうなので、グレイは彼女から聞き出す事を諦めた。

 

改めて村を見回すと、消火活動を終えて安堵のため息を吐いているのがそこかしこに見える。どうやらモンスターも今ので最後だったようだ。

「あの……助けてくれてありがとうございます。」

 

グレイが助けた少女の瞳からも既に恐怖は消え去り、今は助かったことを喜んでいるようだ。

 

「大丈夫か?一体何があったんだ?」

「それが、突然モンスターが現れて…金塊をしまう倉庫を襲ってきたんです。」

「モンスターが金塊を?」

「最近はモンスターもお金が好きなんですね?」

 

町娘との会話に無理矢理混ざり込むクローディア。

 

「そうなの?」

「そんな訳はない。この娘の言うことは取り敢えず無視してくれ。」

 

プスッ

 

「良いんですか?」

「構わないよ。それよりその手に持ったのが金塊か?」

「はい。何とか一つだけモンスターから奪い返した物です。」

 

グレイは、町娘から受け取った金塊には確かにバファル帝国の印があった。

プスップスッ

 

「ところで…本当に大丈夫なんですか?」

「何がだ?」

「お尻に矢が刺さってますよ?3本も。」

「ん?おわー!!俺の尻に矢が刺さってる!!何すんだクローディア!!」

「私を無視するからですよ!!」

「今大事な話しをしているんだから邪魔をしないでくれ!」

 

ギャーギャーとケンカを始めるグレイとクローディア。

 

 

 

 

静かな村が騒然としたその時だった。

 

「二人共武器を捨てて手を頭の上にあげろ!!」

野太い男の怒号が聞こえたかと思うと、二人の周囲を大勢の兵士が取り囲んでいた。

 

その兵士の壁を掻き分けて現れた兵士の士官は、長い紙を読み上げるように言った。

 

「我々はバファル帝国警備兵だ。君達は完全に包囲されている。無駄な抵抗は止めて大人しく投降するんだ。」

「何を言ってるんだお前等は。俺たちは別に…」

「君達にはゴールドマイン襲撃の容疑がかけられている。君達には黙秘権がある。ここでの発言は後で法廷で不利に…」

 

罪状とお決まりのセリフを吐きながら近寄ってくる士官は足を止めた。ふと、隣から冷ややかな殺気を感じみてみると、キリキリキリと音を立てて、指に数本の矢を持ったくクローディアが今にも兵士達を射ろうとしているのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待てクローディア!!何をする気だ?」

「何って……敵を殲滅しようかと。」

「敵じゃねーよ!殺す気か!」

「別に生命まで取る気はありませんよ?峰射ちしますから。大丈夫です。」

「だいじょばねーよ!微妙に言い方を変えてもダメだっつーの!だいいち弓に峰打ちなんかねーよ!」

 

 

 

全くヤレヤレってやつだ。周りを包囲していた兵士の奴らが殺気立ち始めたじゃないか。

このままでは本当に戦闘になっちまう。そうなったら俺たちは帝国からお尋ね者になってしまう。

仕方がない。ここは俺が何とか収めるしかないか。

半ば呆れたようすでグレイは、一歩前に出て士官に向かって声を張り上げた。

 

「落ち着け。ちゃんと説明をする。この金はここにいる村娘がモンスターから命懸けで奪い返した金だ。」

「適当な事を言うな!村娘など何処にいると言うのだ!?」

 

士官が怒鳴りつけるように言う。

グレイは言われて初めて隣にいたはずの村娘がいない事に気が付いた。

 

「あの村娘はどこに?」

「村娘?あぁ、あのゴブリンが化けていた少女なら、あそこですよ?」

 

そう言ってクローディアが指差した遠く先には、先程まで村娘が着ていた服を纏ったゴブリンが、ウヒャヒャヒャと不快な笑い声をあげながら逃げ去る後ろ姿が見えた。

 

結局グレイ達は、証言者(モンスター)に逃げられてしまったため、兵士により捕縛され、馬車で一晩かけてメルビルへと護送されたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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ーーーーーー

 

 

 

 

「と言った経緯だ。」

 

淡々と語るグレイをジャンは呆れ半分に見ていた。

 

「グレイ。相変わらずお前は残念な奴だな。」

「ほっとけ!それより俺たちはこれからどうなるんだ?」

「令状通りなら、グレイ並びにクローディア…。先ずは親衛隊隊長のネビル様に尋問され、最後は皇帝陛下の裁決に委ねられることになるだろう。」

「そうか。」

「所でグレイ。さっきからずっと気になっていたんだが…その美しい娘はなんだ?お前の仲間は、ゴッツイ聖戦士と、可愛いらしい魔道士だったよな?」

「え?美しいって私の事ですか?嫌ですわ?本当のこととは言え、そんなハッキリ言われては……照れちゃいますよ。」

「いやいや、本当に貴女はお美しいですよ。で?グレイ。彼女はお前のなんなんだ?」

「なんなんですか?」

 

 

対面に座り尋問していた筈のジャンの隣に、何故か供に尋問されるはずのクローディアが、机に身を乗り出してジャンと供にグレイを問い詰める。

 

なんでお前が一緒になって聞いて来るんだよ。何だも何も、お前はオウルに預けられた女の子以外の何物でもない。

それがグレイの脳裏に浮かんだ最初の言葉だったが、直ぐにそれを飲み込んだ。

目の前のジャンを含め、マルディアスの人々は知らないだろうが、迷いの森にいた大魔女とされるオウル…アレは本当に危険だ。グレイ自身も目の当たりにするまで、この世界にあのような大魔女がいるとは思っていなかったのだが、あの見つめられただけで足がすくむような桁外れな魔力は大魔女に間違いない。

そんな大魔女から頼まれたなんて言ったら、ジャンが先ず考えるのは頼み事をされるような仲なのかと疑われるのがオチだ。

近年ローザリアとの小競り合いが増えたバファル帝国にとって大魔女という戦力は、まさに喉から手が出る程に欲しいに違いない。

 

でもあの大魔女が絡むと絶対にロクなことにならない。

目隠しした状態で核弾頭を担いで綱渡りをする方が余程安全だ。関わってはいけない。俺の経験が脳内でサイレンを鳴らしている。

 

だが、そんなことより何よりも、『彼女はオウルから預かった女の子ただそれだけだ』と考えた瞬時に目の前のクローディアの輝くような瞳の虹彩が消え失せたことだ。

考えたくはないが、クローディアは人の心を覗けるのではないだろうか?そしてこの解答はお気に召さないと。

グレイは本能で気付いたのだ。

 

 

目の前の少女は何かやばい。迷いの森のアレと同類だとーーーー

 

 

 

 

「か、彼女は…俺のこ、婚約者なんだ。」

「婚約者ぁ!?」

 

ジャンは素っ頓狂な声をあげて驚いた。隣のクローディアは、妥協できる解答だったのか、普段の女神のような微笑みを浮かべて椅子に座っている。

 

「グレイお前婚約者なんていたのかぁ?」

「あぁ。ずっと黙っていたがな。」

 

物珍しそうにジャンは隣に座っているクローディアを見てニヤニヤと笑う。そんなジャンはグレイからみても若干気持ち悪い。だが当の本人クローディアは鼻歌を歌いだすのではないかというほど機嫌が良いらしく、大人しく座って微笑んでいる。

どうやら選択肢は間違わなかったらしい。

グレイはホッと胸を撫で下ろした。

 

「グレイが羨ましいぜ。俺もモニカに散々アプローチかけてるんだが、こっちはサッパリだ。」

「フッ。モニカは不誠実な男を嫌うからな。お前のような見た目も含めて軽い男は相手にしないさ。」

「なんだよ!やっぱりお前覚えてるじゃないか。」

 

 

二人の男の笑い声が狭い取り調べ室に響くと、途端に先ほど迄の張り詰めた空気が和らいでいく。

 

 

 

「何事だ!?騒々しい。」

 

そんな談笑を遮ったのは、30代半ばの如何にも大臣が生やしていそうなヒゲを蓄えた男だった。

 

「ネビル様!」

ジャンにネビルと呼ばれた男はジャンを含む警備隊の上部組織、親衛隊の隊長である。常に皇帝のすぐ隣に控えている彼は帝国の安全を一身に担う。

 

「ジャン。お前がどうしてもと言うから取り調べを任せたのだぞ?何を遊んでいるのだ。」

「申し訳ありません。」

「改めて名乗ろう。私の名はネビルだ。久しぶりだなグレイ。」

「…。」

 

ネビルは机の上におかれた調書に目を通すと、おもむろに二人を見回す。

「この二人だけか?調書には熊と狼とあるが。」

「はっ!獣は街に入れる訳にもいかないので、城壁に繋いであります。」

 

 

「ジョンにネビル!ブラウとシルベンを獣と言うのは止めて!!二人は私の友達です。」

 

 

 

ジャンとネビルの会話を、先ほどまでとは打って変わり不機嫌な表情で聞いていたクローディアは、二人を指差して怒り出した。

 

「お嬢さん。友達を獣と言ったのは謝るが、俺の名前はジョンじゃなくてジャンだ。」

「私も初対面の少女に呼び捨てにされる謂れは……ん?その指輪は!?娘、それを少し見せてくれないか?」

 

そう言うとネビルはクローディアの指輪とクローディアの顔とを交互に見始めた。

「……これは!?いやまさかな。しかし面影が無いことも無いか?しかし……まさか……」

 

 

ズビシッ!!

 

「ミギャャーー!!」

 

 

独り言をブツブツ言いながらクローディアの顔をマジマジと覗き込むネビルに、クローディアは目潰しを食らわした。

 

「ぐ、ググググレイ!!幾らお前の婚約者でもネビル様に目潰しするなんて見逃せないぜ!?」

「お、おおおお前クローディア!?何て事を!!」

 

「え?だってこの宇宙人顏がイヤラシイ目付きで私を見るからつい…。」

 

慌てる二人に対し、やたらと普通に答えたクローディアは舌を出して愛らしく笑う。

 

「ま、待てジャン。大丈夫だ。それよりお嬢さん、この指輪はどこで手に入れたんだい?」

「これですか?これはババア(オウル)が、家族の証しだから捨てちゃダメよ〜?とか言って昔貰ったものです。」

「それって、あの大魔法使いの?」

「はい。」

「やはり!」

 

それだけ言うと、ネビルは再び暫く考え込む。

 

「……よし!二人の裁決は陛下に預けよう。それより、調書を見る限り二人は昨晩から何も食べてないのではないか?」

「やっとそこに気付いてくれたか。」

「まったくですよね?グレイ。本当に気が回らないんですから。」

「ハハ。それは済まなかったな。ジャン!この二人に食事を振舞って置くように。私は陛下の元へ行く。」

「ハッ!」

 

そう言ってネビルは取り調べ室を出て行った。

 

「さて、お二人さん。何か食べたいものはあるかな?」

「フッ、愚問だなジャン。取り調べ室とくれば食べるものは決まっている。なぁ?クローディア。」

「そうですね。」

 

「「カツドゥーーン!プリーズ!!」」

 

 

 

 

こうして二人は取調室で一夜を明かすことになった。

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