【完結】しゅらばらばらばら━斬り増し版━   作:トロ

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第二話【覚悟の証明】

 麻帆良学園は本来なら学園祭前で賑わう時期でありながら、今は空虚な静寂が学園内を満たしていた。

 今年、いや、歴史上を見ても最大規模の災厄が降り注いだ京都。この復興のために麻帆良学園の学生達の過半数以上の人間が名乗りを上げて、現地に向けて足を運んだからである。

 切っ掛けは大したこともない。

 ただ、学園内部で上がった小さな主張が、波紋のように響き渡って全校生徒、ひいては学園の教師陣にも浸透した結果だろう。

 それこそ、驚く程の速度で。

 小さな主張。ネギ・スプリングフィールドと超鈴音による計画遂行は、そんな些細なところからまずは始まりを告げていた。

 

 時間は、近衛詠春の葬儀が行われてから数日後、麻帆良学園にネギが戻ってからとなる。

 

 

 

「僕はあなたの計画に乗ります。超さん」

 

 超鈴音にとって待望の一言がネギの口から伝えられた。

 放課後、超が事前にネギへと伝えていた自身への接触方法を使い、葬儀の夜ぶりに二人は一対一で対峙していた。

 場所は麻帆良の教師陣の監視の目が届かない空き教室の一つ。分かりやすいお題目や雑談も、それこそ挨拶すらも抜きにして、対峙早々ネギは己の心を吐露した。

 

「正直、僕には今だ何が正しくて何が悪いことなのかの判断はつきません……それでも、行動することに意味があり、ただ安寧と腐るしかない現状に留まるのがおかしいということだけはわかっているつもりです」

 

 ネギが出した答えはシンプルながらも確固たる決意のこもったものだ。勿論、行動することが正しいと思っているわけではないし、現状に踏みとどまることの過酷さだってわかっているつもりだ。

 だが、だからこそ主張する。現状は腐る一方だと、行動し、道なき暗黒を切り開かなければ。

 

「でないと、また、京都の惨劇は何処かで起きます」

 

 それは最早、確信に近い予感だった。

 一握りの者ではあるが、魔法使いは個人の戦力だけで、場合によっては現代の軍事力に匹敵、あるいは大国すら上回る力を保有している。そして、そんな者達が全力を振り絞らなければならない妖魔が幾つも存在する。

 であれば、いずれまた京都の惨劇が繰り返されるのは自明の理とも言えた。修行を経て、力を得てきた実感がわいてきたネギだからこそようやく得られた答えとも言える。

 極端な話。今朝まで笑いあっていた友人が、ミサイルを上回る火力を誇る化け物かもしれない。

 その恐ろしさ。

 その脅威。

 知らしめ、警告し、そして理解を求めずにどうするというのか。

 当然、脅威だけを知らしめるわけではない。魔法と言うものの危険性を伝えた上で、魔法を用いた平和を作り上げる。より良き未来のため、魔法の脅威と有効性を知らしめるという超の案は、ネギには理解できるものであった。

 

「……その意志に敬意を表するネ。ありがとうネギ先生。いや、同士よ」

 

 超は悩み抜いた上にネギが出した答えに、頭を下げてその両手を握り返すことで感謝の意を伝えた。

 五分五分。いや、部の悪い賭けであった。

 京都からこれまで、著しい成長を見せるネギを己の陣営に組み込むこと、これは青山という化け物が麻帆良に居る今を打開するには絶対の条件だった。

 だがネギは英雄、サウザンドマスターの息子。立派な魔法使いたれと、そう育てられた少年であり、であれば魔法を知らしめるという己の考えを間違っていると言う可能性が、京都の一件があったうえで、尚も高かった。

 だがそれも杞憂だったのかもしれない。ネギはよく考えた上で超を選んでくれた。

 ともすれば、拍子抜け。本当は、断られてから丸めこむ方法を考えていた超は、ネギを見誤っていた自分の線慮に失笑した。

 

「超さん?」

 

「いや……何でもないネ。ネギ先生」

 

 ただ、嬉しいだけだ。そう言って、浮かんだ笑みをいっそう深い笑みで誤魔化した超は、表情を引き締めると「では、改めてネギ先生にはその他同士の面々を紹介するネ」そう言って黒板に近づいた。

 そのまま馴れた手つきでチョーク入れの下に手を添えると、そこにあったくぼみに指を入れて指の腹を添える。

 すると、巧妙に隠されていた指紋認証装置が起動し、直後、黒板の中央部分が動き、地下へと続く道を開いた。

 奥へと続く道は、下へ下へと広がっている。光源は足元を照らす程度にしかなく、螺旋を描いて伸びている階段は、まるで底なしのように見えた。

 

「……これは」

 

「準備してきたことの一環ネ。他にも学園内に幾つも経路を用意しているヨ」

 

「なんだか悪の秘密結社みたいですね」

 

 冗談混じりにネギがそう言うと、超は何処か嬉しそうに喉を鳴らし、「まさにその通りアルヨ」とからかうようにネギへと笑いかけたのだった。

 

「それはともかく、仲間になったのだから我々の仲間を紹介しよう。ついて来るヨ」

 

 超が先導して階段を下りて行く。ネギは僅かに逡巡したものの、どんどん先へと進むその背中に誘われるがまま階段へと一歩を踏み出した。

 直後、ネギが入ったことで入り口が再び閉じる。特に驚くこともなかったが、閉じ込められたなぁとどうでもいいことを思いながら、ネギは超の背中を追った。

 道中、特に会話はなかった。語るべきことはあの夜と、そして今さっきに殆ど離し尽くした。

 雄弁である必要はない。少ない言葉だからこそ、こめられた意志こそ、言葉以上に雄弁と二人の心を語っていたのだから。

 歩いてからどの程度の時間が過ぎただろうか。暗がりの奥へ奥へ、肌を突き刺す冷気に体を小さく震わせた頃、ようやくネギの前を行く超が足をとめた。

 

「ここネ」

 

 長は目の前のドアをゆっくりと開いた。

 ネギは突如広がった光に手を翳して目を細めた。眩いばかりの光は、地下へと潜っていたにしてはあまりにも暖かい。

 数秒して、光に目が慣れたネギがドアの向こうにある光景を見た。

 

「うわぁ……」

 

 そこに広がっていた光景は驚嘆する他ない。学園の地下二あるとは思えないくらいに広大なドームには、無数の人造人間や四足の戦車が整列し、さらにその奥にある森林や湖には、超巨大ロボットが幾つも鎮座していた。

 

「小さいのは田中さんという、まぁ戦闘用に特化した茶々丸さんの先行量産型と考えていただければいいネ……そしてあそこにあるのは、かつて、大戦のときに封じられていた鬼神。京都に封じられていたリョウメンスクナと比べると、能力は半分にも届かないが、それでも麻帆良の一部を除いた魔法使いを足止めするには充分ネ」

 

「そして、一部の魔法使いを──青山さんを相手にするのが……」

 

「それは私の役目だよ、小僧……いや、ネギ先生」

 

 ネギは背後から響いた邪悪な声に振り返った。そこに居たのは、かつてネギに圧倒的な恐怖を叩きつけた張本人の一人、エヴァンジェリンと茶々丸、そしてクラスメートである龍宮真名と葉加瀬聡美が立っていた。

 驚くネギの前に、代表するようにエヴァンジェリンが歩み寄る。大橋の一件からヘドロのような瞳になってしまった少女は、見定めるようにネギを上から下まで舐めまわすように見つめ、満足したのかニタリと笑んだ。

 

「へぇ……最近は随分と面白くなってきたと思ってはいたが、こうして改めて見ると……育ってるじゃないかネギ先生」

 

「……エヴァンジェリンさん」

 

「だが駄目だ。青山は私が殺す。これは既に超とも契約済みだから諦めろ」

 

 エヴァンジェリンの言い草は、まるでネギが好んで青山と戦いたがるとでも言いたそうなものだった。それに不快感をあらわにしたネギは、表情を歪めて、しかしそれでも正義の魔法使いの一人として「殺すのはいけませんよ」とだけははっきりと言った。

 以前なら呆れただろう。あの大橋と同じようにネギが言ったのならエヴァンジェリンは悪態の一つでも返したかもしれない。

 だがエヴァンジェリンは笑みをさらに深くするだけにとどめた。殺すなと告げながら、同時にその瞳が如実に「それも仕方ないのかな」という別の回答を訴えているのに気付いたからだ。

 

「……超。どうやら貴様の人選、思いの外悪くはないみたいだぞ?」

 

「私もそう思っているヨ」

 

 ネギを間に挟み、超とエヴァンジェリンは意味深に視線を交わした。その視線の意味に気付かぬネギが首を傾げると、割って入ってきた真名がその手をネギに差し出した。

 

「驚きはあるが……君が加わってくれて私も嬉しいよ」

 

「は、はい……えと、もしかして龍宮さんも」

 

「あぁ、魔法使いではないが……それに関係する人間の一人だと思ってくれ。何、少しばかりだが戦闘も行えるからね、遠くから君やエヴァンジェリンをサポートするさ」

 

「私には必要ない」

 

「これは失礼」

 

 真名は肩を竦めつつも、ネギの手をとって握手をした。

 

「言いたいことは多数あるだろうが、葉加瀬共々よろしく頼むよ」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 真名の後ろで聡美が勢いよく頭を下げた。

 釣られてネギも軽く会釈を返して、真名の言うとおり、聞きたいことがむくむくと込み上げてくる。

 だがまずは教師として、ネギには言わなければならないことがあった。

 

「……龍宮さん、葉加瀬さん。危ないので、この件から手を引いてください」

 

 真名の手を放して、ネギは二人にそう告げた。これからネギと超が行うことは、青山が関わる以上、死人が出てもおかしくないものだ。そんなことにクラスメートを関わらせることは、担任の教師としても、魔法使いとしてもネギには許容できるものではなかった。

 それに対して真名は困ったように苦笑。聡美は失礼な、と言わんばかりに胸を張った。

 

「悪いがそれは聞けない相談だよネギ先生。尤も、葉加瀬に関しては兵器設計とその他計画に必要なあれこれの支援をしてもらうだけで、直接に関わることはないから安心してほしい」

 

「ですが、龍宮さんは……」

 

「少なくとも、君以上には戦いを経験してきているつもりだよ」

 

 そう言う真名の佇まいは、成程、クウネルとの実戦特訓で無数に戦った戦闘者特有の雰囲気がある。

 ネギはそれでも何かを言おうとして、首を横に振って己を律した。

 理由はともあれ。そう、理由はともあれ、彼女もまた、己の意志でここにいる。その決意が本物であるならば、ネギがとやかく言うのは失礼でしかないだろう。

 

「さて」

 

 話がひと段落ついたところで、超は両掌を打ち鳴らして視線を集めた。

 

「話もまとまったところで、そろそろ計画について話し合うこととするネ。ここにいるものには周知のことだが、我々の最終目的は、来る学園祭の最終日、世界樹の魔力が最大までたまったのを見計らって、願望機としての役割を持つ世界樹の魔力を用い、世界に魔法があってもおかしくないという認識を持たせることにある。これは計画の最初期段階だが、同時に、最終目標である魔法と科学の共存へと至る最も重要な段階ネ」

 

 改めて計画のことについて話始める超。具体的な例を用いて語るのは、計画の詳細を知らぬネギのためであり、そして計画始動を直前に控えた今、改めて一同に覚悟を問う演説であった。

 超が話す計画内容は、魔法は秘匿するべきという考えの魔法使いでは対応できないものだった。学園祭に出る一般生徒の前で堂々とここに居る戦力を使用して世界樹を占拠するというものだ。

 超と聡美の解説では、ここにあるロボットは人体に危害を加えるものではないが、充分に魔法使い側を無力化する術があるという。

 

「そのための切り札が……学園祭期間のみに使える時間跳躍弾と、時間航行機ネ。弾丸のほうは、接触した対象を計画が終了した後の未来にまで飛ばす能力、航行機はそのまんま、使用者を瞬間的な空間跳躍、正確には未来にある別の空間に転移させることが可能ネ。この二つとロボによる強襲制圧にて……」

 

「待ってください」

 

 唐突に、ネギは超の話に割って入ってきた。超は別段不快になることもなく、いや、むしろそれが当然だと言わんばかりの表情でネギに続きを促した。

 

「確かに超さんの計画なら、魔法使い側の大半は身動きを封じられます。ですが計画の最終段階。つまり世界樹の制圧を見れば、何を願うかは抜きにしても、危険だと察した皆さんはなりふり構わず動くでしょう」

 

「それで?」

 

「青山さんが動きます。それが、最悪です」

 

 最早。

 最早、ネギにとって、青山こそ恐ろしい者だった。

 京都の一件、直接的な被害をもたらしたのはリョウメンスクナとフェイト・アーウェルンクスであったが、ネギが、あそこに居た誰もが恐ろしいと感じたのは、前者の一体と一人ではなく、彼らに真っ向から立ち向かい、ついには打倒、斬って捨てた青山に他ならなかった。

 

「青山さんが動けば……死人が出るような、そんな気がするんです」

 

 確証はなかった。しかし、京都での出会い、そして葬儀の夜の会合で激痛を発した眼が、雄弁に青山という修羅の脅威を訴えている。

 何より、場所は違えど、今やネギ自身も道を『歩き終えている』故に、青山の恐ろしさはエヴァンジェリンと同じくらいに把握していた。

 未完成という終わり。終わりがない終わりに立った少年から見て、斬撃に生きるという修羅は理解できるからこそ決して相容れない。

 そんな相手を、一般人が居る場所で解き放つ恐れがある。それは、何よりも恐ろしいことに他ならないと思うのだ。

 

「だから、僕はその案には頷けません。確かに超さんの計画の果てには、回避出来ぬ流血が待っているでしょう。だからと言って、回避出来る流血を享受するというのは間違っています」

 

「……では、他に代えのプランがあるのかネ?」

 

 超は試すように問いかけた。その挑戦的な視線に怯むことなく、ネギは真っ向から頷きを返す。

 

「今思いついたわけではなく、超さんの話を聞いてからこれまで、僕なりに考えたプランなのですが……とりあえず、学園の皆さんには、学際中全員ここから出て行ってもらいます」

 

 そんな滅茶苦茶な発言を皮きりに、ネギは噛みしめるように彼なりに考えてきた計画について、話しだした。

 

 

 

 

 

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