【完結】しゅらばらばらばら━斬り増し版━   作:トロ

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お待たせ!


最終話【修羅場LOVER(中)】

 

 最早、太陽の光は遠い。作戦の完了まで残り一時間を切った今、麻帆良から離れた郊外で、明日菜は堪らず外に出て戦火の方角の空を見上げていた。

 鈴の音は幾つも響き渡っていた。その都度、ネギの元へと走り出そうとする体を抑えつけながら、明日菜はひたすらネギ達が無事に全てを終わらせて戻ってくることばかりを祈っていた。

 

「ネギ……」

 

 かつての記憶が体を縛りつけている。守られるばかりで大切な人を死なせてしまった記憶だ。

 だがそれは、無力な己が傍にいたから、彼は死んでしまったのではないかという不安の裏返しでもあった。

 大切な人を死なせたくない。

 しかし、無力な己が行ったところで無駄となる。

 行きたい気持ちと、行ってはいけないという気持ち。相反する二つがない交ぜになって、明日菜は地団駄を踏むように体を小さく震わせた。

 

「私……ううん。でも……」

 

 行くべきか。

 行かざるべきか。

 悩みは待つごとに膨れ上がり、ただ留まり続ける己のふがいなさに嘆く現状。

 

 直後、再びひと際大きな鈴の音色が鼓膜を震わせる。

 

「……ッ!」

 

 瞬間。明日菜を束縛していた見えない鎖すら断ち斬られたのか。ほとんど反射的に明日菜の体は麻帆良に向けて駆けだしていた。

 いつまでも待つことなんて出来るわけがない。未熟な己が駆け付けたところでどうにかなるとは思えないが、それでも明日菜は前に前にと進みだす体を止めることは出来ず、我武者羅に戦いの場へと赴くのであった。

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

 ネギ達がそこに辿りついた時、まずは一人犠牲者が出ていた。

 

「学園長……」

 

 ネギは呆然と首と体が泣き分かれになった近右衛門を呼んだ。

 あまりにも。

 あんまりな結末だった。

 積み上げてきた何かに思うことはない。

 交わした言葉や、育んだ尊敬の念すら意味がない。

 ただ、斬った。

 無情に。

 理由など、斬るから斬った、それだけで。

 それだけで、人は容易く尊敬すべき人間すらも斬れるというのか。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その光景を見た瞬間、ネギは感情の赴くまま掌に束ねた千の雷を握り潰して取りこんだ。

 術式兵装『雷轟無人』。

 ありあまる雷の力を両手に纏ったネギに気付いた青山が視線を向けた瞬間、カシオペアの力によってネギの体がその場から消えた。

 青山の目が見開く。彼の目を持ってすら追うことは叶わない。何故ならそれは時間を移動するという異常なる技。時間の鎖に捕らわれている者では、その速度を見切ることはおろか、影を捉えることすら不可能だ。

 

「な──」

 

「おぉ!」

 

「に……!?」

 

 直後にネギが現れたのは己の真上。気付いたときには、雷轟の力を収束させた雷の光の柱が青山目がけて放たれていた。

 轟と音を立てて突き立つ光は文字通り雷撃の速度。反応させる暇すら与えない神速の一撃は確かに青山の額を僅かに焦がしたが。

 

 凛と歌う斬撃音。

 

「そんな!?」

 

 離れた場所だったからこそその全てを見ることが出来た超は、雷の柱が真ん中から二つに分かれて大地に突き立つ光景に驚愕した。

 カシオペアによる瞬間移動と、雷轟無人による雷の一撃。どちらも青山にとっては初見であり、あのタイミングならばほぼ直撃は確実だと思われた。

 しかし恐ろしきは青山の神速。雷の速度すら上回る刃の冴えが、咄嗟に雷撃を二つに斬り裂いたのである。

 

「師匠! 離れてください!」

 

 だがネギは決して驚いたりはしない。むしろこの程度は予想してすらいた。だからこそ冷静に雷撃を放ち続けながら、側にいるアルビレオに叫ぶ。

 その声に反応したアルビレオは、その場から全力で離れた。近右衛門が死んだという事実に怯む暇すらない。ネギはアルビレオが離れたのを確認すると、さらに左手の籠手にもエネルギーを収束。

 

「食らえ!」

 

 怒涛と降り注ぐ光の柱が、斬り分けられながらもそのエネルギーの出力だけで強引に青山を地面に叩きつけた。

 砂煙と轟音の中に青山が掻き消える。反応出来たとはいえ、やはり初見の技に対して完全に対応できたわけではなかった青山は、雷轟のエネルギーに吹き飛ばされるがまま、辛うじて地面にぶつかる直前に横へと飛んで光柱から脱出する。

 

「ッ……」

 

 舞い上がる砂煙から飛び出した青山は、続いてこめかみを焼く気配に反応して、咄嗟に刃を振るった。二度、三度、斬る度に虚空に火花が散る。視線を移した先には、ライフルのスコープ越しにこちらを見る真名が居た。

 戦線に到達と同時、絶好の狙撃ポジションに陣取った彼女の行動は称賛に値するだろう。距離も申し分はなく、一キロほど離れた真名の現在の位置からならば、ほぼ一方的に狙撃を敢行出来るだろう。

 だがそれはあくまで一般的な高位の立つ人が相手の場合。例え足と腕を失ったとはいえ、いや、だからこそ現在の青山は、世界有数の実力者の中でさらに指折りの実力者であり、一キロ程度ならば、数秒もあれば埋めることが出来るのだ。

 右足に気を注ぐ。青山は標的を真名へと移す。ライフルの銃弾自体は然程の脅威ではないが、先程迎撃したとき、真名は的確にこちら動きを阻害するタイミングで狙撃を行い、さらに急所に狙いすら定めていた。

 だからまだ状況が傾きすぎていない今、出鼻をくじくために斬り捨てる。暗黒の瞳に込められる壮絶な気が、遠くにいる真名を射止め、その剣気に真名は呼吸すら忘れて驚愕した。

 

「こいつ……!?」

 

 ──この距離で、斬るのか?

 本能が真名にその事実を確信させた。数秒の後、抵抗することも出来ずに自分は二つに斬られて死ぬ。魂もろとも、龍宮真名という存在そのものが消される予感に、歴戦の猛者である彼女をもってして恐怖が総身を支配した。

 距離など在ってないようなもの。青山の斬撃圏内は麻帆良全域。一足をもって、僅かな一歩で一里の距離を埋め尽くす。

 

「ッ!」

 

 だが瞬動が行われる直前、もう一人のカシオペアの使い手である超が青山と真名の間に転移して立ち塞がった。

 青山の知覚領域を容易に欺く時間軸移動という切り札。それが青山に警戒をさせ、動きを僅かに止めさせる。警戒が生んだ瞬きの時間。だがそれは値千金の価値を持つ時間だ。

 もしも青山が迷わずに突撃をしていれば、その時点で超の命は終わっていただろう。彼女にはこの一瞬で魔法を行える程の技量はなく、近距離では青山と比べようがないのだから。

 故に覚悟を決めて超もろとも斬り伏せようと再び足に力を込めた青山に対して為す術はない。路傍の石よりも頼りなく、超は一秒の時間を稼いだだけで絶命する。

 

「おぉぉぉぉ!」

 

 だがそれを阻むのはこの場でほぼ唯一青山の脅威となりえる存在。雄叫びをあげながら超の前に転移したネギが、僅かな時間でチャージを完了した雷轟の籠手を青山へと突き出した。

 

「行け!」

 

 瞬動に先んじて雷轟の光が二つ、螺旋を巻いて重なりあいながら青山へと放たれた。瞬動では回避出来ぬ。この技には青山ですら斬撃で受け止める以外の方法が存在しないのだ。

 

「ひっ」

 

 青山はそのことに歓喜の笑みを浮かべた。迫る雷轟を凛と斬り裂きながら、充分に自分の敵として成長してみせたネギに称賛を送る。

 技を究めた自分を超える移動速度。そして斬撃にすら匹敵する攻撃の速さと破壊力。戦闘者として理想的な完成度に至ったネギが誇らしく、愛おしい。

 

「でも……」

 

 青山は呼気を一つ行うと、一刀で雷轟の破壊力を無効化した。

 一度目は許そう。だがこの刃の元で、二度目は決して許しはしない。

 

「まだ、足りない」

 

 突きつけるような言葉に、ネギは僅かに委縮する。

 これでは自分には届かないのだ。青山という極地、人間という斬撃へ当てるには、後一つ足りないものが存在する。

 

「覚悟が足りない」

 

 覚悟。あるいは揺るぎない己。

 これまで青山を追い詰めてきた者に共通する己の在り方の答えがネギにはない。

 いや、実際にはネギは未完成という答えを手に入れているのだが、それは所詮未完成。

 答えの出来損ない。

 永劫未完の、何処に理があるというのだろう。

 

「ッ……! あなたがそれを……!」

 

「俺だからそれを言えるんだよネギ君」

 

 ネギの言葉に被せるようにして青山は喋った。

 以前とは逆だ。青山の言い分を断じたネギとの立ち位置は入れ替わっている。だがそれは厳密にはかつての再現ではなく、決定的な違いが一つ。

 

「俺は、俺を知っているぞ」

 

 青山は、惑い迷ったりはしない。

 

「だから、言おう。君には覚悟が足りていない」

 

 突きつける刃と言葉、その言葉は短くとも、確実にネギの心に食い込んでいく。

 答えを持った者の覚悟。善悪を超えて自分の解答にのみ突き動かされるという究極の自己中心的覚悟。

 青山に足りていて、ネギに足りていないのはそんな利己主義であった。

 

「己の領分を知っているならば、何を躊躇うことがある。仲間を守るのかい? 世界を救いたいのかい? 成程、素晴らしい正義だ。俺もそれに協力したい」

 

「だったら──」

 

「斬るんだ」

 

 ネギの呼びかけすら断ち斬って、青山は冷酷に語る。

 

「俺は陽だまりを守るために人々の礎になりたい。斬るんだ。同じ志を持つ同僚と肩を並べて笑い合いたい。斬るんだ。尊敬すべき先人の教えに感銘したい。斬るんだ。大切な家族と共に過ごしたい。斬るんだ。愛すべき人といつまでも寄り添っていたい。斬るんだ」

 

 斬るんだ。

 初めて口にされたその祝詞(呪詛)は、まさに青山が得た解答の全てを物語っていた。

 斬ることは全てに先行する。麻帆良に来てからこの言葉を聞いたのは、唯一タカミチ唯一人だった。その時すら酒の席、しかも青山が刀を持っていなかったため、そこまでの凄みを孕んではいなかったが。

 今回のそれは世界に向けて解き放たれている。ただただ自分を中心にした言い分は、何処までも善悪とは無縁の位置にあるために、震えるくらいに透明だった。

 

「う……」

 

 ネギの後ろに控えていた超が口元を抑えて蹲った。この中ではまだ常人に近い感性をもつ超には青山の言葉が孕む魔に耐えきれなかったのだ。

 込み上げる吐瀉物で手を汚し、体中に走る悪寒に震えあがりながら、超はここでようやく青山という存在を理解する。

 

「……なんて様」

 

 その男には悪意はない。そして同時に善性もまるでない。

 限りなく透明で神聖的な汚物の塊であり、どこまでも濁り腐った美形の結晶。あらゆる善悪を斬るという解答で汚染しながら浄化する極限の自我。

 青山。

 これが青山なのだ。

 

「っと……」

 

 直後、片足のバランスを崩した青山の体がよろけた。幾ら青山とはいえ、つい先ほど片腕片足を失ったばかり、ここまでの猛攻をしのぎ切り、あまつさえ反撃すら行おうとしていたことが異常だった。

 青山も己の体の変調には気付いているのだろう。だが驚いた様子は見せずに、失った腕と足に視線を落とす。

 

「ん……」

 

 大切なのはバランスだ。失った分を補うような体の動きを考える。右足から頭までに一本の杭を刺したイメージ。体の軸は筋肉を操作してずらし、まずは軽く素振り。

 音が後から聞こえる斬撃を数度繰り返し、まるで手の延長線のように馴染む証を改めて握り直す。

 

「ぬぅぱ」

 

 ネギ達が警戒しているのを気にせずに、奇声をあげつつさらに一振り。今度は先程よりもさらに速度が上がっている。だが速度よりも大切なのは動き。独楽のようにその場でくるくると回り、微妙に位置をずらしながら上下左右。ありとあらゆる空間に刃を走らせた。

 

「ぬぅい。ぬぱぁん」

 

 その奇声は、青山が感じた刃の動きの擬音であった。軽くありながら重く。鋭いながら分厚い。刃の冴えは一振りを経てさらに改善されていき、ネギ達が演舞のような動きに見惚れ始める頃には、青山の体は失った四肢の分を補う動きを完全に収めていた。

 

「……ぬぱって言った。これでいいか」

 

 工夫がなった青山は、誇るように証を空に突き立てて再度ネギへと向き直る。

 その瞳は光を飲みこむ黒でありながら、纏う空気は清々しいまでに透明だ。また一つ、終わりの中で得られた新たな在り方に、青山は無邪気な笑みすら浮かべている。

 ──来るのか?

 纏う気配が変わった青山と相対するネギと超、そしてスコープ越しにそれを見る真名が息を飲む。

 そうして数秒。睨みあう両者が張り詰めた空気を斬り裂こうとした瞬間だった。

 

「……下がりなさい、ネギ君」

 

「師匠!?」

 

 上空より、アルビレオが両者の間に降り立って青山と向き合った。

 

「……」

 

 青山は無粋にも割り込んできたアルビレオに対して、僅かに嫌悪を滲ませた視線を向けた。ここからもう一手、『ネギ完成させるひと押し』をしようとしていたのを邪魔されたためだ。

 だがそんな青山の事情などアルビレオには関係ないし、そもそもそんなことを知ればいっそう割り込むしかなかっただろう。

 大切な友人が残した息子にして、大切な弟子。

 過ごした時間は短くとも、アルビレオにとってネギは命を賭けてでも守らなければならぬ大切な存在であった。

 

「師匠……ここは僕が」

 

 だがそんなアルビレオの覚悟をもってすらネギを止めることは出来ない。

 それはあまりにも単純な理由。

 

「……師匠では、アレには届きません」

 

 最早、アルビレオでは青山と戦う実力が伴っていなかった。

 

「……辛辣ですね。だが、そうなのでしょう」

 

 アルビレオは自嘲の笑みを浮かべながら、無情にも告げられた戦力外の通告を肯定した。

 明確な事実だ。だがこれはアルビレオ本人の実力が足りていないという言えば、些か誤りがある。

 アルビレオの戦い方はあくまで遠距離専門だ。もしも青山と戦うのならば、こんな視認出来る距離からではなく、真名と同じく遥かに距離を隔てた場所から戦う必要がある。

 土俵が違うのだ。

 そして彼にはこの土俵で戦える能力が伴っていない。

 それだけ。

 だがしかし、最も危険なこの場所にネギを残すわけにはいかなかった。

 

「ネギ君。私から君に、最後のレッスンです」

 

「……師匠?」

 

 ネギはこんな状況にも関わらず、いつもの修行のときと同じく、気軽なアルビレオの言葉に疑問を浮かべた。

 だがアルビレオはあくまでいつも通り、いつもと同じように彼のアーティファクト『イノチノシヘン』を展開した。

 この状況下で何故今更。ネギは驚き、超と青山は初めて見るアルビレオのアーティファクトに警戒の念を覚えた。

 ここで青山が突撃しなかったのは、警戒とは別に心に咲いた好奇心の花と、最後のひと押しがここにあるのではないかという直感からである。

 だからイノチノシヘンはその効果を発揮する。螺旋を描きながら空を舞う無数の本の一つをアルビレオは手にとって、青山が目の前にいるにも関わらず隣のネギに視線を移した。

 

「私のこのアーティファクトは、特定人物の身体能力と外見的特徴の再生です……だがもう一つだけあなたに教えていなかった能力があります。それは、この半生の書を作成した時点での人物のありとあらゆる全て、全人格の完全再生です。尤も、使用した場合その書は失われ、さらに再生は十分間しかもたないのですが」

 

 渦を巻く魔力の奔流。そこに隠されていくアルビレオが持つ半生の書が浮かび上がり、徐々にその輝きを増していく。

 ネギはアルビレオが何故今更そんなことを言うのかわからなかった。唖然とするネギを他所にアルビレオは寂しげな微笑みを一つ。

 

「では本題です。十年前、とある友人に自分にもしものことがあった場合、まだ見ぬ息子のために言葉を残したいと頼まれたのですが」

 

 瞬間、ネギの心臓が大きく跳ね上がった。息子に残す言葉。そして十年前。

 全てのピースはネギしか知らない。ネギにとっては、ここが死地であることすら忘れさせる言葉と共に、アルビレオはネギの頭を軽く撫でると、こちらの様子をうかがう青山に一歩踏み出した。

 

「もし、私が危険だと感じた出来事が迫った場合……躊躇いなく『俺』を使えとも言われたのです」

 

 世界有数の実力を持つアルビレオが危険と判断する状況。彼一人ではどうしようも出来ない脅威。

 修羅、青山。

 ならばそれに抗うにはどうする?

 誰ならばこの修羅と戦うことが出来る?

 答えはそう。

 答えはあまりにも簡単で。

 そして、簡単だからこそ、その答えは何よりも難しい。

 

「では青山さん……」

 

 アルビレオは青山に語りかける。

 だが青山はその言葉に返す余裕すらなかった。

 本能が感じているのだ。滂沱と荒れ狂う魔力の奔流の中、青山と同じく、あらゆる闘争をくぐり抜け、しかし青山とは決して交わることがない本物が現れる予感。

 それはつまり。

 その存在は単純明快。

 

「『英雄』こそ、貴方の相手には相応しい」

 

 邪道の極地があるのなら。

 正道の極地こそ、その男。

 アルビレオは虚空の半生の書を掴むと、そのページを開いて一枚の栞のようなものを取りだした。その栞自体が魔力の発生源だとでもいうのか。爆発音のような音と光の残滓を垂れ流して引き抜かれた栞が瞬いた直後。

 

 閃光。

 

 光が空を突き抜け遥か上空へと飛んでいく。その光の柱が放つ衝撃波に、青山も含めた誰もが気圧された刹那。

 

「ッ!?」

 

 唯一、青山のみが咄嗟に反応出来た。

 光の柱を砕いて現れた影、その影はアルビレオと同じ服装をしながら、脱げたフードより見える顔は決してアルビレオと同じではない。

 

「おぉ!」

 

 威勢の良い気合いと共に、信じられない規模の魔力が光を割って現れた男の腕に集まった。威力ならばネギの雷轟に劣るだろうその光、しかしそれは今のネギには無い鋼の如き信念が束ねられており。

 轟と男が青山目がけて飛びかかる。虚空瞬動。瞬きの余地すら与えぬ速度で、あの青山へと肉薄する。

 

 そして、光を束ねた右拳と、あらゆるものを斬り裂く証の刃が激突した。

 

「うわ!?」

 

 直後、発生した衝撃波にネギと超は抵抗もすること叶わず吹き飛ばされた。だが即座に体勢を立て直したネギは、視界の奥、あの青山の斬撃を素手でいなす男の背中を確かに見た。

 

「う、ぁ……」

 

 言葉すらなかった。眼前の光景を信じられぬ。それは見据える先を見たネギの暗黒に染まった眼にすら光を灯す程に衝撃的で。

 だが何処か納得出来るような気がした。

 荒れ狂う魔力と気が激突する中心。光の化身とも言える程眩しくて綺麗なその男こそ。

 ネギが誰よりも望んだ背中。

 いつか追いつくと誓ったその背中。

 

「本当に……とうさ──」

 

 ネギの言葉すらかき消す程の魔力が充実する。さらに上昇した力に青山が対応するよりも速く、男はあろうことか青山の体をその場から吹き飛ばして見せた。

 

「ッッ!?」

 

 青山が驚きに震える。何とか証の刀身で拳を受け止めてみせたが、斬撃に染まったはずの証すらたわませる威力に目を見張らざるを得ない。

 いや、違うな。青山は瞬時にその考えを否定する。

 青山が着地するのと、男がネギの元に下がるのは同時だった。青山は自分には眩しいくらい真っ直ぐな瞳を見て、思う。

 

「……そうか」

 

 成程。と得心する。

 証がたわまされたのは間違いない。

 それは青山とは別種の存在だ。

 人間が持つ可能性を極めたのが青山ならば。

 今ネギの隣に立つ男は、人間の『在り方を極めた』男。

 それこそつまり。

 幾つもの邪道を正してきた、正の極み。

 

「英雄……」

 

 あぁきっと、その言葉こそ、彼という男には相応しい。

 

「呼んだのはテメェか?」

 

 男は隣に立つネギを見ることなく、油断せずに青山を見ながら言う。

 

「あ……はい!」

 

 ネギはあまりにも唐突すぎる展開について行けずにいたが、しかしそれでも真っ直ぐに男を見上げて返事をした。

 そうか。そう男は呟くと、何処か嬉しそうに、だが状況が状況なために悲しそうに、あらゆる善と悪をまとめて飲み干す笑顔を浮かべて、乱雑にネギの頭を撫でまわした。

 

「わわ!」

 

「へっ、だったらお前がネギか……ったく、アルの野郎。何がどうなったらこんな状況になるのかね」

 

 そうぼやいた男は、暗黒の体現者たる青山すら照らしつける輝きをそのままに、時間がないのはわかっているが、せめてこれだけはと思って口を開いた。

 

「ネギ。会いたかったぜ」

 

 極限状態の今だから、本当は語りあう余地など何処にもないけれど。

 それでも。

 だからこそ、ネギは思う。

 

「一緒に、戦いましょう! 父さん!」

 

 ネギと同じ色の髪と、何処か似た雰囲気の顔をした男。

 その男こそ世界を救った本物の英雄。

 千の魔法を扱うと言われた現代の伝説。

 その名前こそ。

 

「おう。しっかりついてこいよ!」

 

 『千の呪文の男―サウザンドマスター─』ナギ・スプリングフィールド。

 歴史上最強の英雄とその息子。今、これ以上を望むことが出来ない究極のタッグが、最高の気力を漲らせて、最悪の修羅へと戦いを挑むのであった。

 

 






こんなんオリ主やない! ただのオリボスや!

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