【完結】しゅらばらばらばら━斬り増し版━   作:トロ

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第六話【叔父と姪とその祖父と】

 周囲の人間にとっての青山とは、寡黙ながらもそれなりに誠実で、少々話し辛いところはあるが、不器用な愚直さをもつ心根は正直な青年である。

 だからといって、孫娘である木乃香に青山のところで暫く養生したいと聞いた時は、近右衛門も流石に、すぐに分かったと言えるわけではなかった。

 

「……訳を聞いてもよいかのぉ?」

 

「青山さんとは、お父様の葬儀の時に知り合うたんや。……少し話しただけやけど、ウチは、本心で話せたと思う。それに今は、知り合いと話とうない」

 

「……ふむ。君としてはどうなのかの青山君?」

 

 続いて木乃香の斜め後ろに立つ青山に問いかける。相変わらずの仏頂面で、表情からは何も感じられぬ無貌のまま、青山は一つ小さく頷いた。

 

「俺は、構いません。いや、むしろそれで良いかとも思っています。……学園長と大事な話をするから、君はその間、席を外してはもらえないだろうか?」

 

 一歩進んで木乃香の隣に立った青山が、彼なりに優しい口調で木乃香に語り掛ける。

 木乃香は一瞬躊躇うように青山に手を伸ばしかけるが、すぐに引っ込めて取り繕った笑みを浮かべると一礼をして部屋を後にした。

 その姿が扉の向こう側に居なくなったのを確認する。何せこれから己が語ることは、彼女に聞かせるのも酷な問題であるのだから。

 

「口下手故に失礼を承知で単刀直入に言わせてもらいます。学園長、彼女に我々のような者達の事情を話していないという事実……些か失望をいたしました」

 

「……聞いたのかね?」

 

「彼女本人から直々に。彼女が何も知らないということを教えてもらいました。しかし、あれ程の膨大な魔力を保有し、関西呪術協会の長の娘という肩書を持ちながら、何故、これまで彼女に何も教えなかったのです?」

 

 青山にしては朗々と読み上げるような語り口だった。無論、責任の一端を担う自分が語るのもおかしい話ではあるが、だが誰かが言わなければならないはずだ。あれ程の才と周囲の教育環境にも恵まれた子であれば、幼少より鍛えることで、今の彼女の年でもフェイトに勝つことは難しくとも、援軍が来るまで持ちこたえることは可能だったはず。

 憤りはそこだ。

 青山は、青山(天才)の肉体を誰よりも知っている。凡夫だったから、天才がどういった者を指すのか知っている。

 その才能を、周囲の甘さが潰した。

 宝石の原石をそのまま放置して、挙句の果てにその輝きを見抜いた第三者に、良い様に弄ばれたのだ。

 

「……父親の、お主の兄の願いでもあったのじゃよ。せめて平穏な生活をというのがの」

 

「でしたらあの魔力が漏れないように体を弄ってでも封印術を刻み付けて、魔法を知らない一般人の家庭に里子として出せばよかった」

 

「親としての責任を全て放棄するなど出来るはずがなかろう……」

 

 実質、実の娘を捨てれば良かったと語る青山の言葉には近右衛門も同意は出来ないどころか、その表情に僅かな怒気が滲んだ。あまりにも無責任すぎる青山の発言だ。それも無理も無いことだろう。

 それでも青山は臆することなく、それどころかさらに踏み込んで近右衛門に告げるのだ。

 

「だが、彼女を無知のまま、無力のまま、只利用されるだけの存在とした責任は……侮辱と承知で言います。学園長と兄さんとその奥様等の、魔法を知りながら彼女の教育に関わった者全てにあります」

 

 青山の言及は極論でしかない。確かに結果としてはそうだろう。しかし、魔法等が用いられる世界の過酷に子どもを巻き込みたくないという思いも親として、そして大人として正しいはずだ。

 だがしかし、この麻帆良学園に通う生徒達のように、幼少時から魔法と関わる者は大勢いる。中には魔法の才も無いと言うのに裏社会に関わらざるを得ない者もいるだろう。近右衛門の考えは、そんな者達が危ない者だと言っているようなものなのだ。例えそのつもりがなくても、傍目から見ればそうとしか見えないだろう。

 故に、青山は苦手と知りながら、慎重に一言ずつ選んで語るのだ。

 

「実は言えぬような深い事情が学園長達にはあるのかもしれませんし、俺はそれらを当然ながら知りません。ですがこちらに来てまだ日が浅く、部外者とも言える俺だからこそ言いましょう。子に危険が及んでほしくない、しかし危険の可能性が自らにあるというのに傍に居たいから、保護の名の下何も教えない……これではペットだ」

 

「青山君……お主がそこまで言うとはのぉ」

 

「無礼の数々、申し訳ありません、だが、本心であります」

 

 悲しげに目を伏せる近衛門に深々と頭を下げる青山。だが決して発言そのものを後悔しているわけではなかった。

 

「……それで、お主は孫を預かってどうするつもりなのじゃ?」

 

 しかし今は木乃香に対する教育方針について議論する時ではない。木乃香が青山の元に行きたいと言い、そして青山もそれを承諾したのならば、近右衛門としては彼が木乃香を預かる動機を知りたいというのは当然であった。

 青山はその問いに一瞬だけ口ごもる。だが逡巡はすぐに終わった。ここで嘘をついてもいずれ知れることなのは確かだからだ。

 

「いずれ、知られること故、告白します」

 

 青山はそう言って、彼にしては珍しく一呼吸おいて気分を落ち着かせた。

 そして、言葉の刃は振り下ろされる。

 

「彼女に我々のこと、そして京都で彼女が何に利用されたのか……何もかもを語りました」

 

「何じゃと!?」

 

 一言一句偽りなく告げられた青山の言葉に、近右衛門はこれまでの侮辱ですら受け止めていたことから一変、思わず椅子から立ち上がる程の驚愕を露わにした。

 僅かとはいえ漏れ出す怒りの念。当然とも言える態度に、青山は動じることなく肯定の意を伝えた。

 

「はい。全てを知りたいと言った彼女のために、俺は真実の全てを語ったのです」

 

「お主は孫娘になんてことを告げたのじゃ!」

 

「だが、俺の姪でもあります、学園長。これまで関わらず、興味もなかったとはいえ、それでも彼女は、俺の姪なのです」

 

 今にも飛びかからんばかりに激昂している近右衛門の声に、食い気味に平坦な言葉を重ねる。あまりにも無機質ながら、迷いも恐れも一切混じっていない、刃物のような青山の言葉に近右衛門は黙らざるをえなかった。

 

「俺は彼女に全てを教えました。故に、その責は当然果たしましょう。決して貴方方のように、中途半端な保護などはいたしません」

 

 斬りつけるように近右衛門達の木乃香への対応を唾棄する青山の迫力に近右衛門は押された。

 言い返そうと思えば幾らでも言葉はある。だがしかし、それを言わせぬ凄味が、今の青山からは滲み出ていた。

 

「青山が名に誓ったのです。俺は、彼女の全てを引き出してみせます。再びあのような事件に巻き込まれても、次こそは自ら抗えるように」

 

「それをさせぬために、儂達は――」

 

「京都に続いて悪魔の襲撃……貴方方は、彼女達を任せるには中途半端すぎます。能力で劣る桜咲刹那を護衛としているのが良い証拠だ」

 

「じゃが青山君! 力に抵抗するために力を振りかざすという考えは、新たな力を生み出すばかりじゃ! そしてその力の連鎖が悲劇を生み出す! その連鎖に孫娘を巻き込むというのか!?」

 

「では無力でいろと? 迫る脅威に無知でいろと? 次は大丈夫という保証は? ……あり得ない。膨大な力を秘めながら、扱い方を知らぬ彼女が今後平穏無事であることはないのです学園長。英雄の息子であるネギ君がそうであるように、その名と、その身は、同等の栄光と等しく同等の災禍を引き寄せる。そして、今の彼女は宝の持ち腐れ。栄光は望めず、災禍ばかりが彼女を襲うでしょう」

 

「そ、それは儂達が身近で守って……」

 

「また彼女の力を利用しようという者が現れた時に、近くに貴方や俺、そして他の方々が居る保障なんて何処にもないのです。ならば、必要なのは力だ。眠った才覚に相応しい力のみが、彼女の未来を救済するのです」

 

 それでも近右衛門の表情は強張ったままだ。だがそんな彼の感情もまた正しいものであると青山は思っていた。

 確かにここまで青山は彼らを否定する言葉を語り尽くしてきたが、だがそんな理屈を抜きにした思いこそ親の情。言葉で言い尽くせる愛など、愛ではなく、理屈を超えて子を守りたいという感情も、人間らしい感情の発露だ。

 ならば、理詰めで木乃香の現状を断ずる己は、木乃香を愛してなどはいないのか。

 いや、この胸に宿る気持ちもまた、愛。

 才に惚れた、外道の恋慕。

 故に近衛木乃香を愛していると、それだけは断言できるのだ。

 

「……清掃員の数も減った現状、人員が確保されるまでは俺は暫く暇をもらいます。では、これにて」

 

 青山は無理に説得するつもりはなかった。ただ、自分が木乃香を鍛え上げるということだけを伝えるつもりであり、そもそも許可が出ようが出まいが、暇を貰って暫く山にこもるつもりだったのだ。

 だから青山は一礼をすると、苦悶の表情を浮かべる近右衛門に背を向けてその場を後にする。

 迷いなど一切見られない青山を止める言葉を近右衛門はもたない。いや、あくまで理詰めで言うならば、近右衛門にも青山を咎める言葉は無数と思いつく。

 結局、青山がしようとしていることも、力を与えて自ら災禍へ飛び込ませるようなことに等しい。どっちもどっちなのだ。いや、青山として鍛え上げるつもりでいる青山のほうが、近右衛門に比べて卑劣外道なのは言うまでもないことだろう。

 しかし両者には意志の違いがあった。近右衛門はその高潔な心故に、極端なやり方で木乃香を守ろうとすることも出来ず、青山はその恐ろしき故に、極端なやり方を躊躇なく選び、実行することが出来る。

 これはどちらの意志が弱いということではない。

 単純に、近右衛門は正義という立場に立つ人間で、青山は正義と悪を超えた狂気の域に立つ修羅であるということだけ。

 むしろ、善悪を振り切った青山の在り方こそ、本来なら非難されて然るべきだ。

 だが近右衛門には分からない。いや、この世界の殆どの人間が青山を誤解しているからこそ断ずることは出来ない。

 だから近右衛門は、去っていく青山を見送るしか出来ない。

 それでも最後に一つだけ、聞くべきことがあった。

 

「孫は……木乃香は、儂らをどう思っている?」

 

 さらに老け込んだような弱弱しい声に、青山は振り返り際に一言。

 

「騙された、と。それだけです」

 

 返ってきた残酷は、これまでのツケを払うには十分すぎる一言であったのは、間違いなかった。

 

 

 

 

 

 学園長室を出た俺を迎えてくれたのは、既に大きな旅行用カバンを持参している木乃香ちゃんであった。

 荷造りをさっさと済ませていたところに、彼女が本気なのだという意志を感じる。だがまぁしかし、親戚とはいえまだ数度しか会ったことのない男の家にこれからお世話になるというのに、こうも無防備な姿を見てしまうと、どうにも今後の彼女が心配だ。

 

「青山さん?」

 

「いや、なんでもない」

 

「なら、えぇですわ」

 

 陰鬱な気配は変わっていないが、儚くも笑みを浮かべられるだけ、少しは立ち直ったのだろう。

 

「しかし、ネギ君達には寂しがるな」

 

 同居人が突然いなくなるのだ。普段からこっそり確認していた俺は彼女達の仲が良かったことを知っているため、ネギ君達に少々申し訳なく思う気持ちがある。

 

「んーん……えぇんです。ウチもそうやけど、明日菜達も最近はヨソヨソしくて、気まずうしてたしなぁ。まぁ、どうして気まずうしてたんか……ふふっ、ウチが何も知らへん思うとるんやから、当然か」

 

「……木乃香ちゃん。何度も言うが、ネギ君と神楽坂さんは、おそらく君のことを知ったのはつい最近のことだ。だから、あまり二人を責めたてるようなことを言うのはお互いにとって良くない」

 

 僅かに怒りを込めて呟く木乃香ちゃんに、何度となく言った言葉を繰り返す。

 そして木乃香ちゃんも頭では分かっているのだろう。卑屈に顔を歪め、「そうですね」と答えるが、心の方は納得出来ていないのだろう。

 いや、ネギ君や神楽坂さんはまだいい。それよりも彼女の憤りは学園長と、そして――。

 

「でも、せっちゃんは全部、最初から知ってたんや」

 

 せっちゃん。それは、彼女を護衛しているあの少女のことだろう。

 桜咲刹那。

 俺と同じ神鳴流の使い手で、名目上は木乃香ちゃんを護衛するために影から見守っていた少女。

 個人的には、友好関係をあえて築くことなく、一つの防衛機構として影からこっそり木乃香ちゃんを守るスタンスは、仕事人としてむしろ好感を持てるのだが、どうにも木乃香ちゃんは彼女を大事な友人だと思っていた様子。

 聞けば、今よりもっと幼いころは親友と呼べる間柄だったとのこと。うーん、子どもの時は主従関係なんて理解できないだろうからなぁ。なんで仲良くなってんだよと、桜咲さんに突っ込むのは野暮だろう。

 

「……桜咲刹那、か」

 

 正直、彼女について俺は、学園長や兄さんに比べるまでもなく、というかまるで憤りを感じていなかった。

 何せ彼女は木乃香ちゃんと同じ子どもである。そんな細かいところに気付いて、そして戦い方を教えろというのも酷な話。

 それに木乃香ちゃんの日常に関わることなく、ただ護衛の仕事に徹する姿勢を見て、俺は不満どころか好感を覚えているのだ。積極的に関わりながら、真実を隠すばかりの学園長達と比べるのもおこがましい。

 幼少の時、親友となった相手であろうが、主従の関係に徹するプロ。ネギ君護衛を請け負っている身としては(最近は護衛出来ていないというかする必要もないけど)、尊敬すべき相手である。京都でも、彼女は未熟ながらもフェイト達から木乃香ちゃんを守るために、身を挺して頑張っていた。戦闘面では色々と言いたいことはあるが、それでも護衛の姿勢や心構えは見習うべきだ。

 ということで個人的に桜咲さんには何も思っていないこともあるが、それとは別に木乃香ちゃんの怒りだって何の意味無く空ぶるだろうと俺は予想していた。

 あそこまで徹することが出来るのだ。きっと桜咲さんなら木乃香ちゃんに嘘つき呼ばわりされても「いや、仕事なので」くらいにしか思わず、木乃香ちゃんの怒りを粛々と受け止め、軽く流すだけで終わるに違いない。

 何せプロだ。

 戦いのプロではないが、護衛のプロなのだ。

 凄いよなぁ。

 若者風に言うならマジリスペクトというやつである。

 なんてね。

 

 ……これで実は木乃香ちゃんに未練たらたらでしたーとかだったら呆れるのだが。

 

「それはないよなぁ……」

 

「え?」

 

「いや、ただの独り言だ」

 

 あの桜咲さんに限ってありえないだろう。

 まぁ彼女を積極的に『覗いた』わけではないので、彼女への評価が完全に正しいとは自分でも思っていないのだが、そう外れてはいないだろう。

 そうこう思案を膨らませている間に、学園を出た俺達は夕暮れ空に目を焦がしながら並んで歩いていた。

 

「さて、本格的な稽古は明日からとして……日も落ちる前に火を起こしたいから、俺に掴まってくれ」

 

 このペースでは日が落ちるどころか明日の朝になってしまう。そうなる前に、木乃香ちゃんの負担にならない程度の虚空瞬動でささっと行くべく、隣の木乃香ちゃんに俺は手を差し伸べた。

 

「えっと……お願いします?」

 

 訳も分からずと言った様子だが、おずおずと伸ばされた手が俺の手に重なる。その手を壊さないように、だが離さないように握って胸に引き寄せると、その膝に空いている左手を回して持ち上げた。

 

「あ、青山さん?」

 

「悪いが、少しだけ我慢してくれ」

 

 突然のことに荷物を手放した木乃香ちゃんはしどろもどろ慌てている。まぁこんな男に、移動のためとはいえお姫様抱っこされているのだ。嫌がられるのも無理はない。

 だが嫌がられるのは慣れているので特に気にせず、足先で木乃香ちゃんの荷物の取っ手をひっかけ軽く上に放り、見事慌てる木乃香ちゃんのお腹に、ふんわりと着地させた。

 

「むぐっ……」

 

「すまない。衝撃はあまり出さないように心がけたつもりだが」

 

「……顔ぶつけたわ」

 

 恨みがましい感じで見上げてくる木乃香ちゃんに「すまない」と一言。さて、周囲に人の気配はないが、いつまでもこの状態を続けていると不審者扱いは確定なので、俺は両足に気を充実させて。

 

「では、行こう」

 

「へ?」

 

 ふんわりと上空へと飛び上った。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「あ、すまない」

 

「と、飛ぶなら先に言うてよ!?」

 

 これは、申し訳ないことをした。

 Gがかからないようにのんびり飛んだつもりだったが、一般人にとってはジェットコースター気分の速度。覚悟もなくそんな速度で空を飛んだとなれば目じりに涙を溜めて、声を震わせながらこちらを非難するのも無理はない。

 当然、さらに非難を積もうとした木乃香ちゃんだが、口を半分開いたところで、目に染みる夕焼けの景色に彼女はすっかり魅了されていた。

 地上から数百メートル。大体東京タワーくらいの高さまで飛び、後は虚空を蹴りながら帰路を急ぐ。

 その間、木乃香ちゃんは山の影に消えていく夕焼けと、朱色に染められた麻帆良学園の美しい街並みを眺め続けていた。

 

「綺麗やなぁ……」

 

「そうだな」

 

 まるで、真っ赤に染まった刃の軌跡にそっくりだ。

 半分しか見えぬ夕焼けを見ながら、その美しさを俺もまた共有する。

 

「まるで、君みたいだ」

 

「え?」

 

「君は、夜を告げる夕暮れのような子だから」

 

 かつて、春の太陽が如き少女だった。

 だが今は、あらゆる悲劇によって悲哀に押し潰され、孤独に沈む夕暮れになった。

 そして夕暮れの後に訪れるのは、光差さない夜の空。

 俺が愛する、冷え冷えと鋼。

 

「青山さん……それはちょっと、恥ずかしすぎますわ」

 

 そんな俺の高揚も、木乃香ちゃんの痛烈な一言で一気に萎んでいってしまった。

 

「そうか」

 

「はい。ナルシストみたいでアカン思います」

 

「……猛省しよう」

 

 これはもう恥ずかしい。幾ら感極まったからってあの台詞は流石に無いよなぁ。木乃香ちゃんが呆れた様子なのが見なくても分かるが、それでも顔を合わせるのも恥ずかしいため、視線は前を向いたまま帰路を急ぐ。

 そんな俺の焦りが面白かったのか。木乃香ちゃんは出会ってから初めて、小さくだが肩を震わせて静かに笑った。

 

 

 

 


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