【完結】しゅらばらばらばら━斬り増し版━   作:トロ

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エピローグ【しゅらばらばらばら】

 

 まるで先程までの激闘が嘘のように静かな修行場で、明日菜とネギは転移前の最後の休養を取っていた。

 響とエヴァンジェリンの戦いをその目で確かめる。それがどれだけ危険なことか分かっているからこそ、こうして外界との時間がずれている修行場の特異性を使うことで疲弊した体力の回復に努めていた。

 普段よりも時間をさらに加速させることによって、現在外での十分がこの場での三日に相当するまでになっている。無論これが水晶内部の時間加速の限界という理由もあるが、仮に十分を百日にすることが出来たとしてもネギは三日以上の時間を取るつもりはなかった。

 何故ならば――。

 

「僕が逃げてって言ったら、明日菜さんは逃げてくれますか?」

 

 ネギは唐突にそんなことを明日菜に問いかけた。

 

「ふぁ?」

 

 リスのように頬を膨らませながらサンドイッチを頬張っていた明日菜は、その問いに目を数度瞬かせると、次の瞬間テーブル越しのネギに身を乗り出して拳骨を叩き込んだ。

 

「ふぁひふぁふぁふぁほほほひっへふほよ」

 

「汚い! サンドイッチのカスを飛ばさないでくださいよ!」

 

 言われて、乙女としての羞恥心に頬を染めながら、乙女とは言えぬ勢いで口の中のサンドイッチを咀嚼し、ジュースで一気に喉へと押し込んだ明日菜は眼力鋭くネギを睨みつけた。

 

「……何馬鹿なこと言ってるのよ! 次そんなこと言ったらぶん殴るからね!」

 

「相変わらず口より手が早いですね明日菜さん」

 

「あ?」

 

「いや、そういうところですって明日菜さん」

 

 これ見よがしに拳を掲げる明日菜に辟易しつつ、ネギは行儀よくカップに口つけて一呼吸置いた。自分よりも一度明日菜の頭を冷やすためだったのだが、どうせまた怒り出すんだろうなぁと考えながらもネギは真剣な表情を浮かべた。

 

「真面目な話です。もしも僕が逃げてって言ったら明日菜さんは逃げてくれますか?」

 

「嫌よ。お断りね」

 

 迷いのない明日菜の返事がネギには嬉しかった。言葉は少なくとも、明日菜はこんな自分の相棒として尽くしてくれようとしている。

 しかし、だからこそ。

 明日菜がネギと共に居ようとしてくれるように、ネギは明日菜に生きていてもらいたいのだ。

 

「でもいきなりどうしたのよ」

 

 ネギの考えを読んだわけではないのだが、明日菜はなんとなく不穏な雰囲気を感じ取った。まるでネギが何処か遠くに消えて行ってしまいそうで、今ここで繋ぎ止めなければならないという衝動に駆り立てられる。

 

「大丈夫です」

 

 そんな明日菜を安心させるようにネギは微笑んだ。だがその淡い微笑みが余計に明日菜の不安を肥大させていく。

 

「……もしかして、エヴァと、青山さんのこと?」

 

 明日菜は僅かな時間とはいえ目の当たりにしたエヴァンジェリンと響の力を思い出して身震いした。

 恐怖はあるが、それと同じくらいの高揚があるのも事実だった。極まった個人の力が及ぼす影響の最高峰。あの二人こそが世界で唯一の頂点であると言われても納得できる程の力の発露。

 

「ねぇネギ。私は傍にいるよ」

 

 目の前の少年が一人だけで進まないよう、共に歩むと誓った。その誓いは嘘ではない。

 だから、そんな悲しげな顔をしないでほしい。

 弱気になりそうな相棒を奮い立たせるのは自分の役目だと、明日菜は胸を張って破顔一笑した。

 

「私は何があっても一緒に戦ってあげる。だから大丈夫」

 

「明日菜、さん……」

 

「だから言ってよ。何か感じたんでしょ? それで……」

 

「そこからは、僕に言わせてください」

 

 ネギは観念したように一度溜息をつくと、何もかも悟ったように澄んだ笑みをみせる明日菜に吊られて頬を緩めた。

 

「すみません。僕はこの期に及んでまだ一人で全部を背負い込もうとしてました」

 

「気にしなくてもいいわよ。考えるのはアンタ。身体を張るのは私。でも、歩くのは一緒なんだから」

 

 だから全てを話してほしい。

 隠し隠され、騙し騙されるような関係ではもうないはずだ。

 

「私も、分かってるよ」

 

「明日菜さん……」

 

「きっと、ね」

 

 この戦いの果てに待ち受けるもの。

 もしも出向いた先で待ち受けるのは冷血の化け物であれば、きっと明日菜とネギは力を合わせて、か細い勝機を得ようと最期まで抗うだろう。

 だがもしも相手があの響であったのならば――。

 

「分かってる。だから、話して。それが終ったらさ、一緒に騒ぐわよ!」

 

「……そうですね。うん、その通りだ」

 

 迷いごと断ち切るような明日菜の笑顔を見て、ネギもまた訪れる未来を思うのではなく、今ここで隣に立ってくれる少女との一時を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 風が流れた。

 心まで凍り付くような冷たい風は、涙すら枯れる程に無情で、そこには最早何もかもがないのであると突きつけているかのようであった。

 だがそこに響は立っている。掌の中で砕け散った氷の欠片を握り締めて、慟哭すらも出来ずに立ち竦み、惑う瞳は行く当てを求めて周囲をさ迷った。

 何もかもだった。

 斬撃を斬り、己という個人を極め続けていく果て、共に寄り添い歩んでくれた恋人を失った今になって、響は己が何もかもを失ったのだと知ってしまった。

 

「そうか」

 

 これが絶望だ。

 響は強くなりすぎた。あくまで総軍としての力を発揮していたエヴァンジェリンとは違って、響は個の在り方で世界一つを相手取り、斬り捨てるという偉業を成し遂げたのだ。

 その意味することはつまり、青山響は世界一つでは対処出来ない何かに成り果てたということ。

 全身が疲労し、流してしまった血潮は足りず、気は残滓も残っていないというのに。

 その状態でも響を打倒する存在はこの世に存在しないだろう。何故なら響はこの状態でエヴァンジェリンを斬れてしまった。斬れないと思えた物を、斬れないと信じられたくせに斬ることを叶えたのだから。

 だから、響にはもう斬れないものは――。

 

「でも、俺は……」

 

 脳裏を過った思いを否定するように響は頭を振った。

 仮に。

 もしも響が只の青山だったのなら、こんな葛藤は抱かなかっただろう。純粋に斬ることだけに腐心し、斬るために斬る故に斬れるからこそ斬ってきたあの日々に立っていたかつての自分ならば。

 例え世界を斬ったとしても、永遠に斬ることを求めていられたはずだ。

 だが既に響は己の中の青山すらも斬った。そして、青山を斬った斬撃すらも斬った。

 では、何だ?

 この体と魂は、修羅道を歩みながら、人間に在り続ける己の存在は何だ?

 分からない。

 もう、分からない。

 

「……エヴァンジェリン」

 

 だってもう、君が居ない。

 心に芽吹いた愛おしさすら、この身を焦がす致死の猛毒だというのか。

 

「だけど、まだだ」

 

 地面に伏せた顔を上げた響は、殆ど掠れた視界の隅に歪む人影を見つけた。

 全てを斬った。

 愛おしさすら斬り捨てた。

 だけど、まだ君が居る。

 

「君を、君達を、待っていた」

 

 この絶望を終わらせろ。

 それだけが、我が身に残された唯一無二の希望なり。

 

「これが、青山……」

 

 全身が傷だらけで、立っているだけでふらついている。蒼く透き通った両目はこちらを正しく見ているかも定かではなく、両手には愛用していた刀も存在しない。

 だがここにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは居ない。

 ならば青山響は斬ったのだろう。あらゆる障害を斬り捨てて、最後の刹那に振りぬいた一閃にて、あの恐るべき化け物を斬ったのだ。

 

「これほど、とは……」

 

 ネギと明日菜を連れて転移してきたアルビレオは、満身創痍の響が行った所業を想像して、魂の奥底からこみ上げる恐怖に喉を引きつらせた。

 いや、例えアルビレオでなくとも、周囲一帯の光景を見れば否が応でも分かる。地平線を超えて影響を及ぼしている氷獄の残滓は、およそ不死の生物であるエヴァンジェリンをして自壊を厭わぬ力の結果。世界樹どころか、その魔力を媒体にしてあらゆる場所から搾取した命を乗せた化け物の執念は、歴史を紐解いても足下に匹敵する存在すら見つからないだろう。

 だが青山響はここに居る。

 満身創痍で尚、ここに立って、自分達を待っている。

 知らず、後退ってしまったことを恥じるような余裕はアルビレオには無かった。

 世界中のありとあらゆる人材と技術を投入しても届くか分からないような化け物と成り果てたエヴァンジェリンを、たった一人で相手取り、遂には勝利する。

 最早、英雄が起こした奇跡と呼ぶことすらできない。

 異常だ。

 青山響は、異常だ。

 

「行きましょう、明日菜さん」

 

「ハッ、言われずとも」

 

 だが、対峙するだけで歴戦の戦士が恐れ戦く存在へと、アルビレオの横を抜けて二つの影が前に出た。

 

「ネギ君。明日菜さん……」

 

「今までお世話になりました。マスター」

 

「師匠、ここ暫く、なんだかんだで楽しかったわ」

 

 何か言おうとしたアルビレオの言葉を遮って、ネギと明日菜は振り返ることなくそう告げた。

 彼の前に立っている二人の背中には迷いなどなかった。まるで、これが自分達の運命であると言わんばかりに、背を伸ばし威風堂々と、風を切って一歩を踏み出した彼らの強さに、アルビレオは後悔とも悲哀ともつかない表情を浮かべて俯いた。

 

「逃げなさい。今なら貴方方だけは逃がせる」

 

 だからこそ口から飛び出した弱気な言葉は、純粋に弟子を思うアルビレオの優しさからだった。

 

「もう、アレには誰も届かない」

 

 ネギと明日菜が動き始めた足を止めた。それはきっと、アルビレオが響を見た瞬間に悟った真実を二人もまた悟っていたからに違いない。

 例え自分達の体力が万全の状態で、全ての気を使い尽くし、いつ倒れてもおかしくない響が相手でも、勝てる見込みは砂漠に落とした砂粒を探すより至難である。

 覆すことなど出来ない明確な事実。無論、ネギと明日菜が弱いと言っているわけではない。むしろ木乃香との戦いを経た今の二人ならば、より強く輝きを増した翼で、修羅外道の極みにすら匹敵したはずだ。

 だが、アレはもう違う。

 

「勝てるはずがないです……! 貴方達が今対峙しているのは、もう我々が……この世界ではどうにもならない存在なのです……!」

 

 世界中の命を束ねたエヴァンジェリンは、そのやり方は別として、きっと世界そのものが遣わした響という異端への切り札であったに違いない。

 それすらも届かず、むしろエヴァンジェリンと戦うことで響の斬撃は言語を絶する領域を踏破してしまった。

 結果、世界そのものが敗北した。

 ならば残された生命体に許されるのは、青山響という脅威が自然死するまで永遠に逃げ続けることのみ。

 アレを見れば誰にでも理解出来るはずだ。

 アレがそういう存在だと誰もが認めてしまうはずだというのに。

 

「でも、行くわ」

 

「えぇ、それでも、僕らは行きます」

 

 しかし何故、ネギと明日菜は前を向ける?

 迷いを捨てたわけではないだろう。

 勝利を信じているわけではないだろう。

 生きて帰れると思っているわけでは、ないだろう。

 だが、それでも。

 

 それでもと吼えるのが、ネギと明日菜が手にしたたった一つの冴えたやり方ならば――。

 

「ネギ」

 

「はい、明日菜さん」

 

 立ち止まることも、引き返すこともない。既にアルビレオの手を離れて舞い上がった二人で一つの英雄は、共に懐かせた強がりを武器に、最期にして最強の修羅の前に立つことを決めたのだ。

 

「……私では、もう貴方達を止めることは出来ないのですね」

 

 アルビレオはゆっくりと離れていく背中に悲しげな眼差しを送った。

 それこそ今更の話であったはずだ。彼らが響とエヴァンジェリンの待つ戦場に赴くと決めた時から、例え誰が待ち構えていようと彼らは胸を張って前に出ていただろう。

 分かっていながら、アルビレオは心の何処かに滲んでいた弱気を吐き出さずにはいられなかった。

 弱さを見せた以上、自分はここには居られない。

 最期に深々と頭を下げたアルビレオは、修羅場に赴く弟子たちの背中を見届けて、地球へと転移する。

 そして――。

 

「ネギ・スプリングフィールド……! 神楽坂明日菜……!」

 

「青山……!」

「響……!」

 

 一方はか細い希望を託すように。

 一方は総身を潰す絶望に抗うように。

 修羅と英雄。

 共に過酷を超えた両者が、全てを奪われた修羅場の残骸を舞台に、遂に会合を果たした。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 数秒、三人の間で言葉を発する者はいなかった。

 明日菜は完全開放されたハマノツルギを構えてネギの前に立ち、ネギはアルビレオが転移した瞬間に展開した術式兵装『雷轟世界』の分身体を傍に控えさせて立っている。

 

「ふ、ふふ……」

 

 不意に、響が肩を揺らして笑みを浮かべた。

 その意図を探ろうともせず、油断せずに構えている二人を見て、いっそう笑みが溢れてくる。

 初めて出会った日から待ち続けた。

 彼はいずれこの身に届く才覚を秘めているのだという確信があった。

 そして今、彼はここに居る。しかも、殆ど彼に匹敵するだろう少女を相棒として、英雄という修羅とは真逆の光を宿してみせたのだ。

 ――青山では、斬れないかもしれない。

 人の可能性を極めた青山だけでは、体調が万全で証かひなのどちらかが手元にあっても、よくて相討ちに持ち込めるかどうか。

 そう思うと笑いがこみ上げてくる。

 これだ。

 これこそ己が待ち望んでいた天賦の才。

 修羅外道と対を為す英雄という素晴らしき存在ならばこの絶望を終わらせられる。

 

『強く、なりすぎた』

 

「ッ……!」

 

 直後、響の思考に走ったのはエヴァンジェリンが残した一言。

 

 ――そして。

 

 ――あぁ、そして。

 

 

 青山響の絶望が、始まる。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 明日菜が響の心に生じた一瞬の隙を見出して突貫する。

 『青山の瞬動に匹敵する』踏み込みは、響に浮かんだ迷いの間を縫って間合いを埋めた。

 振り上げた刃は当然振り下ろされている。防御などは意識しなかった。ネギと共に歩んだ短くも濃密な日々。神楽坂明日菜として過ごしてきたこれまでを全て乗せた斬撃は、阻む者を何もかも切断して未来を切り開く光の軌跡。

 

 瞬間、明日菜の体が上半身と下半身に分かれて吹き飛んだ。

 

「え?」

 

 何故?

 目の前で起きた疑問。

 茫然と見下ろした先、手には真紅と臓腑の暖かさが残っていて。

 

「それでも僕はッ!」

 

 両手を掲げて呆けた響の前方、両腕に分身体を乗せたネギが、その命を散らした明日菜を抜き去って吼え滾った。

 分かっていた。

 それでも。

 それでも叫び続けると誓った。

 だからこそこの一撃に全てを乗せる。

 明日菜は最初から自分が犠牲になって響に隙を作り出すつもりだった。

 言葉を交わさなくても分かるのだ。

 心を繋いだから分かるのだ。

 だからネギは走る。

 振り返らない。

 振り返ったらきっと泣いてしまうから。

 だから走れ。

 走り続けて。

 この手が届くその瞬間まで――!

 

「術式解放!」

 

 響は足下から脳天まで突き抜ける衝撃に心すら震わした。

 目の前、吐息すら届く距離に立つネギが、右拳に乗せた全魔力と分身体、そして踏み込みの衝撃で放射状に罅割れた大地より得た力を練り合わせる。

 この拳がネギの全て。明日菜が託した想いと、ここまでに自分が歩んだ道のりの重さ。

 きっとその時は短くても、誰よりも早く、速く駆け抜けた想いは本物で、誰にも負けない輝きを魅せているから。

 だからこそ行け。

 走って超えて。

 踏み出せと。

 吼える心が、拳に装填された弾丸を放つ撃鉄と化す。

 

 だから、吼えろ。

 

「雷轟・(アマツ)!」

 

 叩き込まれた撃鉄が、暗黒天体すら貫く流星を生み出した。

 霞んでいた響の視界が全て白に染まる。回避の余裕は何処にもない。白銀の軌跡は、発生した衝撃だけで氷獄の世界を全て破砕し、命を圧縮した人の煌めきは、空を超える。

 誰にも、この一撃を防ぐことは出来ない。ネギ・スプリングフィールドが切り札、雷轟世界の全てを一撃で解放する荒業は、人が人として作り出せる極限の奇跡。

 命の可能性は、曇天の空を振り払い、空に煌めく星々の中へと溶けていく。まるでそれでもと叫び続けたネギと明日菜のように、空を突き抜けて暗黒の海へと躍り出た神秘の描く軌跡は、その輝きを失わないまま突き抜けていき。

 

「ぁ、ぐ……」

 

 ネギの心臓を、響の抜き手は確実に貫いていた。

 

「……あ」

 

 それで、終わり。

 まるで呆気ない。期待した高揚も、待ち受けていた苦痛も何もなく、英雄が凝縮した全てを、道端の石ころを蹴るように斬って、終わり。

 

『強く、なりすぎた』

 

 心には、彼女の言葉が繰り返され続けている。その悲哀に満ちた言葉の意味を、守り続けた宝物を斬ったことで響は遂に理解した。

 誰も、届かない。

 こんなにも疲労した状態ですら、自分は万全の状態で挑んできたネギと明日菜の最大級を容易に抜けてしまった。

 明日菜の一撃は重く鋭く速かった

 ――エヴァンジェリンの放つ怒涛の連撃の一つにすら届かないが。

 ネギの一撃は眩しく暖かく激しかった。

 ――エヴァンジェリンの放った最後の一撃は、それすら凍らせて余りある程冷たかった。

 だから斬れた。

 こんなにも呆気なく斬れて。

 

「あ、あぁ……!」

 

 全てを斬れた。

 何もかもを斬れる強さがあった。

 それでも君は立ってくれた。君達は迷いなく進みだしてくれた。

 だが斬れる。

 容易に斬って。

 

 なら、俺は――。

 

「俺、は……?」

 

 世界を斬った。

 恋人を斬った。

 英雄を斬った。

 己すらも斬った。

 斬られた全てと、斬られた己。

 

 修羅ばらばらばら孤独に立って。

 

 尚も進むか。我が超越よ。

 

「お、俺、は……」

 

 慟哭の意味を、響の両目から流れる涙の理由を誰も察することは出来ない。

 しかし、一つだけ。

 それでもたった一つだけ、確かなことが存在する。

 

「俺は……!」

 

 成長し続ける最強(修羅)よ。

 

「強く、なりすぎた……!」

 

 これがお前の、絶望だ。

 

 

 

 

 

 

【Love is over】

 

end

 




次回に続く。

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