Fate/The knight of fafir   作:モブ@眼鏡

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守護の契約

 

 1990年代初頭、秋に入り肌寒くなりつつある日本の地方都市、冬木市でとある戦争が開始された。

 

『聖杯戦争』

 

 どの様な願いでも成就させる万能の願望器たる『聖杯』を求め、七組の魔術師(マスター)達と、その魔術師達によって召喚され契約を交わした伝説上の人物、『英霊』を使い魔(サーヴァント)として使役し、殺し合う。

 

 他の六組の悉くを撃滅し、最後の一組として勝ち抜けば、『聖杯』を手に入れ、願いを叶える権利を得る事ができる、と伝えられている。

 

 冬木の地にてこれまで三度行われた事が確認されているソレは、しかしながらいずれも『聖杯』の力を行使出来た者は皆無であった。

 

 そして、これで四度目。

 

 

 

 ある者は世界平和の為に。

 

 ある者は答えを見つける為に。

 

 ある者は名声を得る為に。

 

 ある者は見返す為に。

 

 ある者は更なるCoolを求める為に。

 

 ある者は始まりに至る為に。

 

 そしてまた、ある者は大切な存在を救う為に。

 

 それぞれがそれぞれの理由を掲げ、この人智を遥かに超越した戦場に足を踏み入れた。

 

 数多の英雄豪傑が集う『聖杯戦争』。その中でも極めつけの存在がこの四回目には現れた。

 

 剣士(セイバー)には名高きブリテンの騎士王、アーサー王が。

 

 槍兵(ランサー)には誉れ高きフィオナ騎士団随一の戦士、ディルムッド・オディナが。

 

 弓兵(アーチャー)には世界の全てを手に入れたバビロニアの英雄王、ギルガメッシュが。

 

 騎乗兵(ライダー)にはマケドニアの大英雄、イスカンダルが。

 

 魔術師(キャスター)には、フランスの聖なる怪物、ジル・ド・レェが。

 

 暗殺者(アサシン)には、歴代の山の翁が一人、多重人格を有したハサン・ザッバーハが。

 

 そして最後のサーヴァント、狂戦士(バーサーカー)には、そのクラスの適正を持ち得ないイレギュラーが召喚された。

 

 これは、始まり(Zero)に進むべき物語から外れた、本来有り得なかった筈の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木の街の一角、何百年も前から存在する、どこか鬱々とした印象を抱かせる館が在る。

 

 間桐邸。

 

 聖杯戦争の基盤を造り出した始まりの御三家の一つであるマキリ家の血を引く一族が住む邸宅であり、その党首である500年を生きる蟲の吸血鬼の魔術工房でもある。

 

 実は、魔術師としての間桐はほぼ破綻している。血が薄くなりすぎたか、はたまた間桐の魔術たる蟲の餌食となった者達の呪いか、何時の頃からか間桐の一族の体から魔術の行使に必要な魔術回路が閉じ、消えていった。現在では立派に魔術師と呼称できる者は党首たる吸血鬼のみである。

 

 今代の間桐は二人いる。片方は全く魔術回路を持っていなかったが、もう片方はかろうじてだが普通程度の魔術回路を保持していた。

 

『間桐雁夜』

 

 終わりかけの間桐に産まれてしまった不運の男は、悍しい間桐の魔術を目にし続け、拒み、逃げ出した。間桐の家から出奔したのである。

 

 そんな彼にも、思い慕う存在が居た。所謂初恋の人、というやつである。そういった人達との繋がりのお陰で、外道の家に産まれながらも、雁夜は普通の人間で居る事が出来た。出来てしまった。

 

 やはりというか、普通の人間に間桐の魔術はどうしても合わなかった。この世の地獄の一端を連想させる光景は、雁夜には受け入れられなかったのである。

 

 出奔から11年。フリーのルポライターとして身を立てていた雁夜は再び冬木の間桐邸に足を踏み入れた。

 

 切っ掛けは、久々に会った初恋の人、葵の言葉だった。

 

「娘が、桜が間桐の養子に出る事になったの。」

 

 悲しげな表情の葵は、しかし雁夜の生家だからと少し安心した様子を見せる。

 

 雁夜の内心がパニックに陥ったのは仕方のない事だった。

 

「(あの地獄に桜ちゃんがっ!?)」

 

 雁夜にとっては、両親を筆頭に数えきれない程の命を喰らった間桐家に時臣が桜を差し出す精神が理解できない。

 

 確かに、魔術師としては桜を養子に送る意味がキチンと在るのだろう。しかし、まだ幼く家族との時間が必要な桜が養子に出される事を容認する魔術師という存在に対してヘドが出る様な思いを抱いた雁夜。だが、問題はそこではないと直ぐに思考を再開する。

 

 何故、養子に送る家が間桐の家なのか。間桐の家が地獄なのは己の経験からハッキリ解っている。葵が間桐の現状を知らないのは仕方ない事だとしても、父親の遠坂時臣が娘を養子に出す家の内情を確認しない筈がない。

 

「(まさか、知った上で養子に出したとでも言うのか!?)」

 

 だとすればなんたる悪徳か。自分の娘が喰われるかもしれないというのに、それを容認するのか。そうだとすればもはや遠坂時臣は人間ではなく化け物ではないか。

 

「(いや、ソレどころじゃない。今はどうやって桜ちゃんを間桐の妖怪から守りきるか、だ。)」

 

 間桐の党首、『間桐臓硯』は怪物である。陰湿、老獪、狡猾、それだけならまだ良かった。だがしかし、人から蟲へと変生し、永い時を生きる内にその魂を腐らせ、人食いと化した臓硯は、まさしく吐き気を催す邪悪だったのである。

 

 雁夜は決断した。怪物を倒す。桜を守るにはそれしかないと。

 

 語るに及ばず。無理無茶無謀の三拍子。魔術を忌避し、逃げ出した雁夜ではどう足掻いても勝てない。そんなことは解りきっていた。ならばどうするか。

 

 勝てる存在を持ってくれば良い。その為の知識が、雁夜には朧気ながら残っていた。

 

 聖杯戦争。人智を超えたサーヴァントを召喚し殺し合う闘争。雁夜がまだ間桐の館に住んでいた頃、日々のストレスから目を逸らす為に読み耽っていた蔵書類にあった資料思い返し、同じ人外なら間桐臓硯の打倒も可能である筈だと考えた。

 

 半ば以上が賭けである。そもそも、魔術回路こそ存在するが魔術師ではない雁夜が、英霊を召喚出来るのか。仮に召喚出来たとしても、その英霊が協力してくれるのか。

 

 あまりにも穴だらけな知識と作戦。それでも、雁夜に『やらない』という選択肢はなかった。

 

「大丈夫だ、必ず成功させる。終わらせるんだ、あの地獄を。」

 

 果たしてそれは誰に向けた言葉だったか。己か、犠牲になった者達へか、或いは桜へか。

 

 己が犠牲になるとしても、と覚悟を決めて間桐雁夜は一世一代の代博打に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二度と、その面を見せるでないと申し付けた筈だがの。よくもおめおめと再びこの間桐の館に戻ってこれたものじゃな。雁夜」

 

「今の俺には戻ってくるだけの理由があっただけだ。間桐臓硯」

 

 小柄な和装の老人、しかしその実態は500の齢を数える怪物との相対。肉体を棄て、代わりとした蟲の躯からは隠しきれない腐臭が漂っている。

 

 幼少の頃のトラウマが頭を過る。悍しい蟲の大群に人が犯され、喰われる光景。正しく悪夢としか言い様のない地獄。雁夜は背中に冷たい汗が流れ落ちるのを知覚した。

 

「……フン、まあ良い。蟲の贄となる覚悟が出来たならば入れ」

 

「そいつは困る。俺は叶えたい願いが有ってこんな場所に戻って来たっていうのに」

 

 ピクリと反応する臓硯。叶えたい願い、そんなものがこの家で成就する筈がない。だとすれば、思い当たる事は一つ。

 

「聖杯か、全くもって下らん。魔導から逃げ出した落伍者のお前が、この戦争に加われるわけが無かろう」

 

「そんな事は分かりきっている。俺を捨て石にしろって言ってるんだよ」

 

 裏がある、臓硯はそう断じた。

 

 自らを捨て石に?そんな筈がある訳がない。こいつは何か致命的なモノを狙っている。考えつく事といえば、遠坂からの養子、胎盤にするつもりの少女位の物だが。

 

「なるほどの。遠坂の娘の身代わり、という訳か。さしずめ願い事とやらは娘の解放といった所か」

 

「俺の願いを貴様に話す必要が在るのか?知った所で何の意味も無いだろう」

 

「まったく、口の減らん不良息子じゃわい。それで?まさか自分がそのままの状態でサーヴァントを召喚出来るとは考えておるまいな」

 

 掛かった。雁夜にとっての第一関門、聖杯戦争に参加出来るか、という疑問が解消された。それと同時に、口調から臓硯がサーヴァントの召喚に協力してくれる事もほぼ確定。

 

 この怪物に頼るのは癪だが、そうでもしなければ今まで一般人として暮らしていた雁夜はサーヴァントを召喚などできなかっただろう。

 

「無論だ。魔術に対してズブの素人の俺が五体満足のままサーヴァントを召喚出来るなんて夢は見ちゃいない。……この体に蟲を埋め込め」

 

「正気か、雁夜。確かに刻印蟲を埋め込めば急造の魔術師には成れるじゃろう。しかし、蟲はお前の体を貪り、その寿命を削る。修行を修めたとしてもその命は一ヶ月と持たんぞ」

 

 刻印蟲。肉体に寄生し魔力を喰らい、宿主の存命を発信するだけの最低位の使い魔。一度作動すれば神経を侵し魔力を糧に動き続け、魔力が尽きれば宿主の体を喰らう。また、魔術回路じみた働きをする事もあるという。

 

 当然、そんなものを体に埋め込めば、普通程度の魔術回路しか持たない雁夜の魔力は直ぐに底を尽き、その肉体を喰らい始めるだろう。

 

「何だ?えらく親切に説明してくれるじゃないか。まあ良い、もう覚悟なんてモノはして来てるんだ。やるならきっちりと、な?」

 

「………良かろう。その言葉を忘れるでないぞ、雁夜」

 

 こうして、雁夜の地獄の如き一年間が始まる。蟲に体を寄生され、ひたすら拷問に耐える日々。その体が弱り、壊死していく。

 

 しかし、雁夜は決して折れる訳にはいかなかった。この試練を乗り越えなければ、あの娘は、桜は二度と笑えない。

 

 雁夜が間桐邸に辿り着いた時、桜の拷問は既に始まっていたのである。

 

 精神を破壊され、表情すら凍りついた桜を救いたい。その一心で雁夜は耐え続けた。

 

 初恋の人の娘だから、だとかそんな事は最早関係が無かった。

 

 ルポライターとして世界中を歩いた雁夜は、その最中で家族との愛を知らずに生きる少年少女を数多く見てきたし、時には接する機会もあった。

 

 例えば少年兵、例えば捨て子。愛を知らぬ彼らと接する内に、暖かい感情を教えたいと思った。己が様々な人達に救われた様に。

 

 同じ様に、凍てついた桜の心を溶かし、再び家族皆と暮らして欲しい。雁夜は親の愛を知らぬが故に、桜に父母の愛を忘れて欲しくなかったのだ。

 

 安い同情かもしれない。しかし、雁夜はそこに命を賭ける価値を見た。

 

「(待ってろよ、桜)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雁夜は一年にも及ぶ修行(拷問)を耐え抜いた。右手に宿った聖痕、『令呪』。それは紛れもなく『聖杯』にマスターとして選ばれた証。

 

 そして満を持してサーヴァントの召喚が始まる。

 

 儀式は間桐邸の地下、薄暗い蟲蔵の中心で行われた。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ」

 

 描かれた魔方陣が仄かに光を放ち、大気中のマナがざわつき始める。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 魔術回路が限界を超え稼働し、反応した刻印蟲が雁夜の肉体を貪り回る。

 

 全身から血を噴きながら、雁夜は全霊でもって言霊を発した。

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 陣の発光が激しくなる。全身に走る激痛を、歯を食いしばって耐えつつ、更なる音を紡ぐ。

 

「――――――Anfang(セット)

 

「――――――告げる」

 

「――――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 限界を訴える脳からの信号を無視し、ただ言霊を紡ぐ雁夜。瞳に宿った闘志が燃え上がる。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

 そして放たれる新たな言霊。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 

 指定するのは狂戦士(バーサーカー)(クラス)。魔術師として半人前の雁夜、呼び出されたサーヴァントは当然ステータスの低さに苦しむであろう。臓硯が加える様に命令したそれは、狂化によって無理矢理ステータスを底上げするバーサーカーを召喚するための言霊。

 

 しかし、魔力を並みのサーヴァントの何倍も必要とするそのクラスは、雁夜の寿命を縮めるだけであり、雁夜の苦しむ様を楽しみたい臓硯の悪質な謀だったのである。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 限界を超えても体を動かし続けた代償が此処に来て顔を出す。堅い石床の上に倒れ、思うように体が動かせない。それでも、雁夜は召喚陣の上から眼を逸らす事は無かった。

 

 発光が一際強まり、マナが乱舞する。それが収まると、陣の上から人影がちらつく。段々と光が強さを失い、その姿がハッキリと見えてくる。

 

 現れたのは褐色白髪の青年。右腕を鎧で覆う以外は急所部分以外防具は見受けられない、軽装である。腰には、恐ろしく鋭く、圧倒的な存在感を発する光輝く長剣を下げている。さぞや名のある剣なのだろうか、存在するだけでとてつもない神秘が感じられる。

 

 

 

 

 

――――――不意に、青年が雁夜に声を掛ける。

 

「サーヴァント、バーサーカー。聖杯の寄るべに従い参上した。貴方がオレのマスターか」

 

 静かに、しかし強く輝く星を連想させる力強い声。それだけでこの青年が人智を超越した英霊である事が理解出来た。

 

 しかし、これではおかしい。バーサーカーとはクラススキルの狂化によって理性を失っているのではなかったのか。まさか、失敗―――?

 

「―――カカッ、そうか失敗しよったか。やはり落伍者は落伍者らしく無様に地に這いつくばっているべきであったな!」

 

 唐突に出現した蟲の怪物。雁夜の失敗召喚を詰り、嘲る様は悪魔のようですらある。

 

 雁夜は悔しさに塗れた顔で涙を流す。これではいくら英雄の象徴たる宝具が強力でも、クラス補正もなく、ステータスが貧弱なら勝てる勝負も勝てない。

 

 うつ伏せに体を投げ出す雁夜。項垂れた様子が可笑しかったのか、臓硯は更なる哄笑を洩らす。

 

 しかし、その空気を一閃する様に召喚されたサーヴァントが再び声を発する。

 

「今一度問おう、貴方がオレのマスターか」

 

 強い言葉だった。とてつもない威圧感が薄暗い倉を駆け抜ける。

 臓硯が哄笑を一瞬にして止め、辺りに無尽蔵と思える程の数が居た筈の蟲達も、見えなくなっている。

 

 痛い程の沈黙の末、思い出した様に雁夜は応えた。

 

「ああ、俺が君のマスターだ。バーサーカー、短い間だが、これから宜しく頼む」

 

「了解した。こちらこそ宜しく頼む、マスター」

 

 次いで、臓硯を一瞥したバーサーカーは、雁夜に告げる。

 

「マスター、アレは敵か?」

 

 それは、雁夜にとって天啓だったのかもしれない。バーサーカーが、悪夢を終らせる事が出来ると公言したようなものだからだ。

 

 臓硯が行動を開始する。散らばった蟲達を集め、目隠しと言わんばかりに放つ。途方もない数の蟲が壁の様な密度で突進してくる。

 

「そうだ。言っておくが、アレの数は無尽蔵だ。本体を叩くしかない。出来るのか?バーサーカー」

 

 半信半疑ながら口にする雁夜。声色に期待が見える。それに応える様に、バーサーカーが宣言する。

 

「できるさ、なんたってオレは一人じゃないからな。任せたぜ。『千年の魔を終わらせた勇気の士達』(ナイツ・オブ・ファフニール)

 

 これは、バーサーカーの宝具だろうか。新たなサーヴァントの反応が四つ。そのどれもが強大な魔力を伴って顕現する。

 

 蟲の壁が一瞬にして消え去る。蟲達はどれもが細切れに、消し炭に、圧死体に、矢で針ネズミになっている。臓硯はもう逃走して蟲蔵から姿を消していた。

 

 現れたのは生前バーサーカーと共に千年の魔を討ち果たした伝説の冒険者達。

 

「任された。蟲は苦手だけど、蜘蛛じゃないだけマシなのかなぁ。まぁいいや、こういうの(索敵)は得意だしな」

 

 弓をもった青年が応える。

 

「む、マスターさんが瀕死。今すぐにでも治療が必要」

 

 小さな眼鏡の少女が雁夜の体を見て言う。

 

「その前に、今すぐ拾って来て欲しい子がいる。藤色の髪の毛の女の子だ。人質にされる前に助け出さなくちゃいけない」

 

「……その子はマスターにとって大事な人なのですか?」

 

 次いで言葉を発した少女は、育ちが良いのだろうか、どこか高貴な印象を抱かせる。

 

「ああ、この命に代えてでも救うと決めた大事な子だ」

 

 迷いなく答えた雁夜に、少女は微笑みを浮かべた。

 

「ならば直ぐに行きましょう。その子がマスターのことを待っている筈です」

 

「方針は決まったか?なら早く動いた方が良いだろ。殿はオッサンに任せときな」

 

 冴えない印象を受ける男性が言葉を発し、行動が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが桜ちゃんの部屋だ!急いでくれ!」

 

 雁夜の魔力供給が少なく、ステータスが低いとはいえ、サーヴァントはサーヴァントである。人間を超える速度で壁を粉砕しながら桜の部屋まで辿り着いた一行。

 

「どうやら間に合った様だな。回収して一旦立て直すぞ」

 

 桜は深夜ということもあり、もう就寝していた様だ。

 

 壁を粉砕する轟音で目が覚めたのだろうか、目が擦っている。

 

「状況的にアレに止めを刺せんことが悔しいが、今はマスターの治療を優先させて貰う。異存は無いな?マスター」

 

「問題ない。……ありがとう、バーサーカー。君が、君達が居なかったら俺はほとんど何も出来ずに死んでいただろう」

 

「礼は戦いに勝ってから言ってくれ。それにもう喋らない方が良い。傷に障る」

 

「おじさん、このひとたちだあれ?」

 

「……そうだな、桜ちゃんを助けてくれる正義の味方、かな?」

 

「ふーん」

 

 会話しつつ、桜の心が死にきってはいない事を確認出来た雁夜は、何度目とも知れない安堵の表情を見せる。

 

「ッ!あの蟲達が近づいてきてる。もう移動しようぜ」

 

「あいよ。ならさっさとずらかりますか」

 

「マスター、桜ちゃん、口はしっかり閉じておいてくださいね。少し速いですから」

 

 言うやいなや、雁夜と桜を抱え、一行は間桐邸の外に脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな場所とはいえ、外に比べればマシか。少なくともあの蟲達に見つかるまで幾らかの時間は稼げるだろう。その間にマスターの治療をするぞ」

 

 下水道。深く、いりくんだ構造のそこは、身を隠すにはもってこいだった。刻印蟲が雁夜の体内に存在する以上、見つかるのは時間の問題だが、雁夜の体を処置する時間をさは稼げるだろう。

 

「じゃ、処置を始める」

 

 眼鏡の少女が言う。

 

 何分十分な設備が無い状況での処置だ。バーサーカーの仲間達が携帯している応急用の道具で手術が始まる。

 

 やったことは単純、雁夜の体内の刻印蟲を摘出し、壊死した部分を取り除き、再生させる。それだけだ。

 

 幸運なことに、携帯している道具の中には麻酔も有った。

 

 眼鏡の少女が治療のエキスパートだったことも幸いして、一晩中続いた処置は成功。

 

 また、メディカと言うらしい薬品によって、傷を再生。完璧とまではいかずとも、雁夜は動ける様になった。

 

 左目の白濁や半身不随は設備の問題でまだ治療できないものの、とりあえずの治療は成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下水道から出た一行は、市内の公園で二人で話していた。宝具によって呼び出された者達はすでに帰還している。雁夜は眼鏡の少女から絶対安静を言い渡され、ベンチに横になっている。

 

「バーサーカー、昨日はありがとな」

 

「礼は戦いに勝ってからだと言っただろう」

 

 苦笑しつつ言うバーサーカーに、それでも雁夜は感謝を示した。そして公園のブランコに腰かける桜の様子を眺めながらポツリと呟いた。

 

「なぁ、バーサーカー。あの子は、桜はまだ明るい光の道を歩めるのかな」

 

 どこか後悔が滲んだ表情の雁夜。

 

「それを決めるのは彼女自身だ。端からオレ達がどうにか出来る話じゃないのさ」

 

「そっか、そうだよな。………よしっ!バーサーカー、俺達の陣営の目標が決まったぞ!」

 

 吹っ切れた様子の雁夜、片方の黒い眼は強い光を放ち、輝いている。

 

「そうか、どんなのだ?」

 

「聖杯戦争に勝って、桜ちゃんの幸せを願う。約束したんだ。また家族と一緒に過ごせるようにするって。だから、その力を貸してくれ、バーサーカー」

 

 静かな笑みを浮かべる雁夜。願う物は大切な存在の幸せ。その姿にバーサーカーは己が呼び出された理由を悟る。

 

 それは誓いだった。大切な存在の為にした約束。それこそが、この召喚者との縁だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、きっと会える。それはおじさんが約束してあげる』

 

 

 

 

 

『たとえ人の姿を失っても、キミとの約束を守る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処に、第四次聖杯戦争において、最も異端な陣営が成立する。

 

 片や魔導から逃げ出した落伍者。片や千年封印されていた魔を滅ぼした英雄達。

 

 成した事柄には天と地の差があるが、しかし、彼らは強い絆で結ばれる事になる。

 

 間桐雁夜・バーサーカー陣営、誕生。

 

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