空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
これが本当なら何故男女別々に呼称を分けたのだろうか、きっと深い意味は無いのだろう。
それと同じ位これも特に大した意味は無いのだ。私の現実逃避の道具に過ぎないのだから。
私は今年大学受験を控える高校生である。
私には父親がいない。中学二年の冬頃に亡くなったらしい。死因はよくわからない。気がついたら逝っていた、そんな感じである。だが私は私が不幸な人間であるとは思わない。父親がいなくても無償の愛を注いでくれる母がいるし大学を目指せるだけの金も一応ある。
私は高校に居場所が無い。運命の悪戯か気の合う友人はできないし、入った部活は部員不足で廃部になるし、クラスメートに話しかけられるときも大抵敬語である。酷い時は初対面の相手に謝られたこともある。
だが私は私が不幸だとは思わない。友人が出来ない代わりに他人との付き合い方がわかった。いるべき場所が無い代わりに迫害される場所も無かった。
友達自体はちゃんといるし、一生の付き合いになるであろう親友だっている。女っ気は皆無であったがそれでも青春と呼んでも良いようなものを過ごせたこともある。
つまるところ私は満足こそしていないがそこそこ納得のいく人生を十七年送ってきている。
それが私という人間の自己評価、自己分析、つまりは自己紹介である。
私には趣味、いや、これを趣味と言って良いのか分からないが兎に角、私には趣味がある。
それは空想、特に夜瞳を閉じ眠りにつくまでの僅かな間に私は空想に思い耽る。それが私の趣味である。
思えば昔から一人の留守番が怖かった時や親とはぐれて迷子になった時、兎に角辛く悲しく寂しい私はいつも空想していた気がする。ある種の現実逃避だったのだろう。
空想は私に非常に献身的である。
空想は私を理想の姿に変えてくれる。世界を悪の魔の手から守り抜く正義のヒーロー。
誰からにも好かれるライトノベルの主人公。全てが私にひれ伏す絶対の支配者。
世界を犠牲に一人の女性を選ぶエゴイスト。
空想は私になんでも与える。私を自由の彼方に解き放つ空を舞う翼。創造神すら恐怖する怪力無双の破壊の拳。どんな女性でも虜にする魅了の瞳。
空想は私を規律とする。
空想の中では私がルールであり、例外は無い。空想の中では誰も私に逆らえず、例外は無い。空想の中では私が運命であり全ての事象は必然である。例外は無い。
あぁ、なんて素晴らしく安定した世界なのだろう。空想が現実になればきっと私は満足のいく幸せな人生を歩めるのだろう。
さあ、今日はどんな世界へ行こうか。今夜も私は考える。全てが理想で構成された夢のような空想の世界を。
私は瞳を閉じる。この現実という名の世界を離れ、旅立つのだ。
そして私は二度とこの世界に帰ることは無かった。
時は九月、明日は丁度高校の文化祭の日であった。
私はこの世界に別れを告げなかった。