空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
ある日、次女が何かを拾ってきた。
裏切者を間引いた結果、実質屋敷には私と長女と、そして次女がいるのみになってしまった。
これは良くない。他勢力に舐められるのはもう諦めた。こればかりは時間が足りない、敵対する度に潰していけば数が無くともおのずと攻め込もうとする輩もいなくなるだろう。最近では私の首を狙った者は生きて帰ることは叶わないと言われ始めたのでもうしばらくの辛抱である。
問題は屋敷のことである。メイドすらいない現在、誰がこの屋敷を管理するというのか。
まさか長女に任せるわけにはいかない。既に彼女の負担は相当なものになっている。領土の管理や税収と外で働く者達へ払う報酬との収支決算、そして私と次女の食事の世話までしてもらっている。そこに更に屋敷の家事までやらせる訳にはいかない。しかし現実問題として戦場にばかり身を置いた私は家事がお世辞にも上手いとは言えないし、次女に至っては最近までまともに食事が出来なかったこともあり、とてもではないが家事をやらせる訳にはいかない。下手すれば冗談でなく屋敷が機能しなくなってしまう。
そんな中である。次女が拾い物をしたのは。
この辺りじゃ見ない顔だ。私が言うのもなんだがソレはここら一帯ではまず見られない顔付きをしている。人間でいうところの人種が違うというやつか。
肌はペールオレンジ、所謂肌色を少し日焼けさせたような色で背丈は私よりも少し下といった所か、身にはカーキ色の華人服を纏っていることから南の大陸の生まれだろうか。これだけならそこらの人間と同種とも思えるのだがどうやら違うようだ。何故ならソレの髪は赤いのだ。
ただ赤いのではない、ソレの髪はまさに圧倒的な赤、炎々と燃える紅蓮の炎。とても人間が持つことが出来る色ではない。そして何よりソレは、いや彼女は私を見るや否や私を打倒せんと勝負を仕掛けてきたのだ。やや不意打ち気味ではあったが一騎打ちで挑んできたのは彼女が初めてであったので私は酷く興奮した。
気付けば勝敗が決しても何回も、彼女が音を上げるまで勝負を続けた。
後になって話を聞くと彼女もまた私を葬り去らんとする者の一人であるようだった。
特に組織に属することは無く、私のことを知ったのもつい最近であるらしい。
運の無い女だ。私との一騎打ちを望んだのは感心ではあるが対策も無しに拳一つで挑んでくるとは。吸血鬼の特性を知らなかったのだろうか。
ふと、吸血鬼を知らずに私を知っている理由が気になった。それを察したのか次女が答える。
「お兄様を探してたみたいだったから案内してあげたの!」
さて、彼女をどうしたものだろうか。
普段ならさっさと始末するか味が良さそうならば長女に渡してしまうのだが次女がそれをごねる。どうやら彼女が気に入ったようだ。
私自身彼女を生かしても良いとは思う。知らなかったとはいえ私と一騎打ちをしたのは彼女が初めてであったし案内をした次女に手を出さなかったのも好感が持てる。
しかし仮にも私を屠ろうとした者だ。私の命を狙って生きて帰る者が現れては私の苦労が全て無駄になってしまう。彼女はさっきから言葉を発さずうつむいている。肩の震えが自身の感じている恐怖を露呈している。己の死を悟ったのだろう。
彼女に免じてせめて苦しまぬよう一瞬で逝かせてやろう。その時だった。
「彼女を家に置いておけばいいじゃない」一体何時から見てたのか、長女が言った。
曰く、家に置いておけば生きて帰したことにならない・人手不足が深刻だから働き手に丁度良い・彼女は絶対に裏切らない。とのことだ。
何故彼女が裏切らないのかと問えばそういう運命だからと答える。また女の勘か。
次女もそれに賛同する。二対一では分が悪い。仕方ない。
私は今の今まで震えていた彼女に先の三つの選択肢を選ばせた。
結果として彼女をメイドとして雇うことになった。