空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
空も水ばかり降らせてよく飽きないものである。たまには別のナニカを降らせても罰は当たるまい。空からオタマジャクシが降ったあの日が忘れられない。
気がつくと私は部屋にいた。
私の部屋ではない、どこか現実離れした何処か。私は夢をみているのだろうか。
空想の途中で夢に陥ることなどよくあることだ。そしててこれが明晰夢というものだろうか。やけに感覚がリアルだ。
改めて見るとここはなんて暗いのだろう。明かりは点けられていない。小さな窓から月の光が部屋を照らすことから今は夜中であることが伺える。
しかし不思議だ。暗いのに視えるのだ。そのくせよく見えないのだ。
暗い暗闇であるはずなのに私は暗闇を視ることができる。しかし何故だか上手く焦点が合わず、結果よく見えないのだ。
おかしいのはそれだけではなかった。
身体が思うように動かせないのだ。全体が重く、頭すら上げることすら叶わない。手足は多少動かせるのだがあくまで『多少』であり、顔の前に持ってくることは出来なかった。
鮮明な感触と僅かな視界によると私はベッドの上に寝かされているようである。
「あー…うー…」
ついでに声もろくに出せない。
どんなに声を上げようとしても出るのは舌っ足らずで甲高いうめき声が聞こえるのみである。これは本当に夢なのだろうか、明晰夢とは強く思考することでたちまち目が覚めてしまうものであるはずなのに一向に覚める気配が無い。むしろ私としての意識がここで完全に覚めていくのが感じられる。私は今どうなっているのだろうか。私は甲高いうめき声を上げながら困惑する。
そんな時だ。
「Cum esti? Fiul meu ?」
聞き慣れぬ言語と共に現れたのは一人の女性であった。
月光を想わせるプラチナブロンド、ミルクのような白色の肌、紅玉を血に漬けたかのような赤い瞳。こんな人間を私は今まで見たことがない。とてもじゃないが私と同じ人間とは思えない。
「Mama ta este aici」
そう言うと彼女は私を抱き上げ、そして微笑む。
『Mama』 察するに彼女は私の母親なのだろう。微笑む真紅の瞳には深い慈愛が感じられる。私はここでこれは夢ではないと気付いた。母の慈愛など私は一人しか知らない。
知らないものなど夢に出てくるものか。では此処は本当にどこなのだろうか、私はどうなってしまったのか。事は私の理解の範疇を大きく超えた。
私は思わず見知らぬ母の腕の中で大きく、まるで小さな赤ん坊のように声を上げて泣いた。
泣き止む頃にようやく、私は赤ん坊になっていることに気付いた。
私は赤ん坊として声を上げて泣いた。
その間、母であろう彼女は何時までも私をあやし続けた。それこそ朝日が昇るその時まで。