空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
涙は人知れず隠しながらに流すものであるというのに。もしかしたらこの世界が空が隠れて涙を流す為の場所なのかもしれない。
私がこの世界に来てから約五年ばかりが過ぎた。
私は目を覚ます毎にひょっとしたら元の、私が本来いるはずの世界、私の部屋に戻るんじゃないかと思ったりしたが、言葉を話せるようになる頃には諦めた。諦めざる負えなかった。
私は生きる為にこの世界について学んだ。この世界はよく分からないことで溢れている。
まず此処は西暦で言うところの1500年辺り、私が生きるこの場所は地図を見る限りヨーロッパの辺りだろう。
私は当初過去の世界に来てしまったのかと思ったのだがどうやら私がいた世界とは根本からして違うらしいことが分かった。何故なら私の知る歴史と大きく異なる点があるからだ。
この世界には人間の他にも知性を持ち、独自の文化を持つ種族がいる。
それだけでも信じられないがその種族もまたぶっ飛んでいる。
悪戯好きな自然の化身である妖精、月夜の下に咆哮を上げる人狼、悪魔との契約で得た魔力で人々に災厄を振りまく魔女、悪魔、幽霊etc…挙げていけばきりがない。まるで空想の世界だ。だが私は信じなければならない。
私もそんな空想の住人なのだから。
『吸血鬼』
それが私の種族名である。
一説には腕力は人間を超え、体の大きさを自由に変え、蝙蝠や狼などの動物、霧や蒸気に変身でき、どんな場所にも入り込むとまで言われる。誰が言ったか『怪力無双、変幻自在、神出鬼没』まさに私達の種族はそれである。
私自身の姿は以前の、かつていた世界の私の幼少期のそれではあったが年月を経る毎に何となく人間ではないことを薄々と感じていたし、日に好かれない体質を知ってからは確信へと変わった。不幸中の幸いと言うべきか私の新しい生みの親となった両親は二人に似てないにもかかわらず私をよく可愛がった。聞くと私が生まれた当初は驚いたそうだがそれでも二人の息子であると私の誕生を喜んだそうだ。人間の出来たと言うか、吸血鬼の出来たと言うか、兎に角両親に恵まれたのは幸いであった。私の生まれた家、言うなれば屋敷、はそれなりに大きな力を持つ一族のようで次期当主として私をよく育ててくれている。自分で言うのもなんだが中々に利発に育ったと思う。
だが血だけは、吸血だけは五年経った今でも慣れない。初めて血を飲まされた時は吐き出してつい泣き出してしまった。今では何とか吐かずに飲めるようになったがそれでも私の見えない所で人間から血を入れる器に移して貰う必要があった。人間から直接などとても出来そうにない。いくら吸血鬼の身であろうとも私の心は人間だ。
吸血に対する嫌悪感は当分消えそうにない。