空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
女心と秋の空とは言うけれど、昔は女でなく男心と秋の空であったそうだ。
男が単純になったのか女が複雑になったのかは分からない。
しかし男女が分かり合えないのは今も昔も変わらない。
自分自身すらも理解出来ないのだから。
ある日、妹が生まれた。
その知らせを聞いた私は母と、妹がいるであろう部屋に駆けつける。母が横たわるベッドの上に小さな女の子がいるのが見える。
母親によく似たのだろう。月の光が宿ったかと思う程に眩しいプラチナブロンド、いや、それに少し青みがかっている。
父親は金髪であったので少し残念そうだ。それでも両親が持つ燃えるような二つの紅玉はしっかりと受け継いでいた。彼女はこれから大層可愛がられて育てられるだろう。現に彼女は両親の慈愛の中で眠っている。
そこで私はふと思った。妹が生まれた今、私のことをどう思っているのか、と。
妹は実に両親によく似ている。対して私はどうであろう、完全に日本人のそれである。
以前にも同じようなことを聞いたことがあったがその時は子供は私一人であったし、優しい両親のことだもしかしたら私に気を遣っての方便で本当は私に対し何か思うことがあるのではないか。
どうやら普段考えていなかっただけで無意識下でかなり気にしていたようだ。一度疑問に思うと抑えられない。
私は思わず声を荒げてしまった。
『何故私は誰にも似ていないのか』
『何故彼女だけは似ているにか』
あぁ、私はなんて下らないことを聞いているのだろう。この世界に来る前の年齢と合わせればとうに二十を超えているというのになんて子供っぽいのだろう。今の身体に精神が引っぱられているのだろうか。
理由など私が一番知っている。私にはいるべき世界と、持つべき親が違うのだ。
この両親の間に生まれただけで実際には赤の他人であり、息子などではないのだ。
だが私が知りたいのはこんな分かりきったことじゃない。もっと簡単で単純なことなのだ。
だが知ったが最後、どうなるか分からない。もしかしたら今までの生活が根本から覆されるかもしれない。
聞かなければ少なくとも上辺だけの平穏を享受できる。だが私の、今の幼くなった精神は我慢が利かない。
『私のことをどう思っているのか、皆とは異質である私に対して思うところはないのか』
聞いてしまった。もう後戻りはできない。
聞いてしまった。
この質問に至るまでに随分と大きな声を上げてきたはずなのだが生まれたばかりの妹は已然起きる様子もなくすやすやと眠っている。
母は黙って考え込むように俯き、父はぴしりと姿勢を崩さずにやはり何も言葉を語らない。
私もまた黙って答えを待つ。
どれだけの時間が過ぎただろうか、とても長い時間が経った気がするが実際には10分もないだろう。
息が詰まる。冷や汗も止まらない。身体は冷たく、手先が震える。
今すぐここから逃げ出したい。だがそれは許されない。私が自ら聞いたのだ、答えを得なければならない。
今や私にとって二人の両親は本来の親と同じくらい大切な存在なのだ。二人のおかげで私は今ここに立って、息をして、生きていられる。二人には深い感謝と恩がある。
だが二人はどうであろうか。今まで私が特に酷い目に遭ったことは無いがそれは二人が優しいだけで実は私のことを疎ましく思っていたのではないだろうか。私が生まれた時はさぞ気味が悪かっただろう。
もしかしたらその時母は不貞の疑いがかかったのではないだろうか。そうだとしたら母は私の事が憎くて堪らないだろう。
あぁ、胸が苦しい。こんなこと聞くんじゃなかった。さっきの私はどうかしていたんだ。
遂に母が顔を上げて私を見る。
「Cine este mama ta? 」
母は私に尋ねる。
「あなたの母は誰ですか?」
私は答える。
母は私に尋ねる。
「あなたの父は誰ですか?」
私は答える。
最後に、と母は私に尋ねる。
「あなたの母と父がどんな人物か分かりますか?」
私は答えることが出来なかった。