空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
私は幸い先週晴れた日に文化祭が行われた。
クラスメートは皆楽しそうにしていた。これが最後の文化祭だからであろう、思い出作りに全力であった。
私はちゃんと最低限文化的な時間を過ごせただろうか。
結果を先に言うと私は本当の意味で家族になれた。
なんてことはない。私は両親にとって大切な存在であることを再認識しただけである。
母はいかに私が愛されているかをであるかを語った。父はいかに私が期待されいるかを語った。
内容はよく覚えていない。月並みなホームドラマのような台詞だったと思う。それでもよかった。
私は本当の意味で両親の本心を知ることが出来たのだ。こんなにも嬉しいことは無い。
これを機に私はこの世界に生まれた。母は深い愛情の持ち主で父は何よりも偉大である。
私よりも先に可愛い妹も生まれた。
私はこれより『吸血鬼』 となる。
怪力無双、変幻自在、神出鬼没
夜な夜な血を求め人々に恐怖を与える偉大なる夜の帝王。
私には人間であった過去など無く、あるのは吸血鬼としての誇りと家族への深い愛情だけである。
妹が起きたようだ。ぐずる声が聞こえる。私もそれに合わせる。私はたった今生まれたのだ。
生まれた子が最初にすべきことは泣くことただそれだけである。
それからまた五年が経った。
妹はすくすくと育った。彼女は生粋の吸血鬼だからであろう血を与えた時、戸惑いもせず本能に任せ美味そうに血を嚥下した。ただ元が小食なのだろうあまり血を飲まずそれ以上与えると吐き出してしまい、周りを真っ赤に染めた。
私も幼少期はよく血を吐いてしまっていたので両親にあまり慌てた様子は無かった。むしろ当時の私より積極的に吸血したので楽だとまで言った。
妹は私によく懐いた。
前の世界では一人っ子であった私は妹に対しての接し方に酷く悩んだがそんな悩みを打ち消す程に彼女は良い子に育った。彼女はとても大人しい。両親の言う事には絶対に逆らわないし、私のことも「お兄様」と慕ってくれる上に聡明で気遣いも出来る自慢の妹だ。
さっきだって私の為に器に移した血を運んでくれた。今でも人から直接吸血することに忌避感を覚える私になんとも兄孝行な妹である。
私はというとこの家の次期当主に足る存在になる為に奮闘していた。
教養の面に関しては前の世界での十七年のアドバンテージがあったのでなあなあで済ませた。問題は『力』だ。
この世界は実にわかりやすい。『力』だ。強い者が支配し、奪い、喰らい、蹂躙する。有象無象がいくら束になった所で強大な個の前には塵と化す。
ここでは力がルールで、運命で、絶対なのだ。そこに例外などは無い。
さしもの私の十七年であっても戦闘の経験など皆無であった為、一からのスタートとなった。
父は偉大である。
身丈を大きく上回る大岩を軽々と打ち砕き、指先程に小さくなったかと思えば屋敷でも足りぬまでに大きくなってみせ、数多の魔法を操り、圧倒的なカリスマで全てを支配する。誰もが彼を恐れ、畏れて付き従った。誰も彼に逆らわない。私はそんな父を超えられる気がしなかった。
それでも着実に強くなっていく私に母は誉めたて、父はより一層の期待を寄せた。
妹はそんな私のことをまるで自分のことのように喜んだ。
そして私は少しでも早く父に認められんと決意を新たにした。
しかし私は父に一生勝つことはなかった。