空想は運命を弄ぶのか 作:山崎
猫は周りが見えていないのか力の限りを声に変換していた。
しばらくすると私達の視線に気づいたのか急に声を潜め、去って行ってしまった。
きっと恥ずかしくなったのだろう。私にも同じ経験があるからよくわかる。
妹が生まれた。
朝日が昇るまであと少し、空もうっすらと白み始めた頃にその知らせを聞いた。さっき寝かしつけた方の妹を呼ぼうとしたが部屋にいるようにと止められた。
しばらくすると父が小さな赤ん坊を抱いて私の部屋に連れてきた。
今度は父親に似たのだろう髪が金色に輝いている。父のそれよりも黄味が強いその色を称すのならば『黄金の炎』といったところか。両親譲りの二つの真紅の炎もまた美しい。だがどうだろう、父の顔にはおぼろげにも喜びの色が無く、むしろ悲しみの度が強く感じられる。
「Fiul meu …」
父が弱々しい声で私に呼びかける。こんな声を聞いたのは生まれて初めてだ。
「Sotia… lui a… murit」
彼は私に母の死を伝えた。そして彼は腕に抱いた新しく生まれた妹と共に部屋を後にした。
私はそれを聞いて何も言えなかった。確かめる為に動くことも出来なかった。私は父の言葉が信じられなかった。結局、私は次の晩まで眠れずの真昼間を部屋で過ごした。
次の晩、母の死を知ったのだろう。姉となった妹の泣きわめく声が母の部屋から聞こえた。
あぁ、本当に母は亡くなったのか、思えば前の世界ではこの位の歳で父が亡くなっていた。
家族団らんとはこんなにも難しいものであったか、生まれ変わってもまた同じ辛い思いをするとは。
後日、母の葬儀は身内だけでひっそりと執り行われた。埋葬が終わるその時まで私は亡くなった母の顔を見なかった。
父は赤子を抱きながら肩を震わせ、妹は声を上げて泣いた。
私は泣かなかった。
しばらくして父が倒れた。
母が亡くなってから様子がおかしかった。
母の死が余程ショックだったのだろう、日に日に顔色が悪くなり遂に父は倒れた。身体に特に異常は無く、むしろ心の方に問題があるようで、回復の見込みはあまり期待出来そうにない。
あの偉大で誰よりも強かった父も愛する女性の死には耐えられなかったのだ。
父は一日を部屋で過ごすようになった。次女の世話は私がすることになった。
次女は私や長女と違い、とてもわんぱくな性格なようだ。血もよく飲むしよく動く。
おかげで次女から目を離せず大変であったが暗い気持ちを忘れることもできたし何よりも彼女の無邪気な笑顔は少なからず私の心を明るくした。
長女は強かった。
母が亡くなってからは部屋で泣きわめいていたが父が倒れたのを機に平静を取り戻し、また父の世話を誰に言われるでもなく率先してするようになり、最近では家の執務の手伝いもするようになった。実によくできた妹である。
思えば彼女は少し変わったような気がする。心の芯が強くなったというか、大人っぽくなったというか。
逆境は人を強くすると言うが、吸血鬼である彼女にはとびきりであったようだ。まだまだ小さな子供であると言うのに。
力こそ私には及ばないがそれを除けば彼女が我が家の当主になっても良いかもしれない。