魂魄妖夢の勇者召喚録 作:鈴水
魔王軍に単身突っ込んでいくのは、半人半霊の庭師だった少女、魂魄妖夢。
おびただしい量のアンデット系のモンスターが妖夢に殺到している。
妖夢は白楼剣を構えて、それを一振りすると、モンスターが刃に触れる前に溶けるように消滅し、昇天していく。
数は万に届くかという軍勢であり、そのまま戦ったのではキリが無いことは妖夢にもわかっている。
敵はアンデットを操るという、魔王軍四天王のひとりであり、個人の能力は低いものの「群」を扱う特殊性と、アンデットという不死性を備える個体が多いゆえに、最も人間に脅威をふるっている相手である。
「スペルカード……」
敵の本体に向け、妖夢は一気に駆けだしている。
楼観剣を片手で抜き放ち、二刀を構えている。
【人符:現世斬】
白楼剣を振るうと斬撃だけが敵へ向かって飛んでいく。
体をひねりながら、今度は楼観剣を自分から円を描くように振り回し、骨の形をしている「スケルトン」と呼ばれるモンスターをバラバラにする。
矢じりのような形で、敵の前衛が崩れていく。
妖夢は己の迷いを断ち切ると、地面を一際強く蹴り、敵将へ向けて飛翔を開始する。
【人鬼:未来永劫斬】
敵将の名前は「アンデット使いのミラ」という、人の女の形をしたゾンビである。
不死を研究し、その果てに魔王に魂を売り、死者としてよみがえった人間の亡者である。
「私を守りなさい、アンデットども!」
焦りながら、そう号令を出す姿は、敗軍の将のそれである。
幾千のアンデットが妖夢の前に壁となるように積み重なり、既に軍勢の体を成していない。
しかし、迷いを断ち切り、ただ矢のように駆け飛翔する妖夢には、そんなのは通用しない。
技としての未来永劫斬は、自らの周囲に霊力による壁を作り、刃を届けるその時まで幾泊かの無敵時間が存在している。
アンデットの群れに突っ込むと、壁は脆くも崩れ去り、体の前に構える白楼剣に触れる前に溶け去っていく。
「そんな……まさか……」
壁の向こう側に立ち茫然と妖夢を見つめているのは、人間の街へ侵略を掛けて来た、狡猾さで有名な魔王軍四天王のひとりである。
個の強さが最弱だと言われようとも、魔王軍の「数」を担当する一翼が消えたとするのなら、それは一つの偉業であると言えるだろう。
妖夢は及び腰になり、逃げようとしているその将軍に対して、白楼剣を投げつける。
それは足に刺さり、刺さった場所から徐々に朽ちていくのが見て取れた。
「お命、頂戴つかまつる」
白楼剣は手放し、手元に残るのは楼観剣の一振りのみとなる。
楼観剣は妖夢の身長と同じくらいの長さがあり、それを斜め上段に構え直す。
左手に持っていた剣を右側に構え、右手を柄のあたりに添える。
「破」
一息、鋭い呼吸とともに、袈裟切りにする。
少し腐った血が返るが、それを気にせずに残心を構える。
三秒が経過し、主が討伐された為に召喚されたアンデット達は一斉に風化を始め、消え去っていく。
地面に刺さった白楼剣を抜き去り、それを逆手で鞘に納める。
楼観剣を血ぶりし、鞘を片手で引きつつ、それも鞘に納めていく。
「まずは一つ」
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これが、魂魄妖夢が勇者として召喚され、丁度一か月後に有った出来事である。
人類は追い詰められており、異世界より勇者の召喚を行った。
その結果、華奢な少女が一人、召喚されたのだった。
最初は皆その実力を疑ったのだが、剣技に優れ、術式にも長けたその姿を見ると、誰もその実力を疑うことはなかった。
「魔王を討伐したら、元の世界に返すことを約束しよう」
妖夢は最初、理不尽に思った。
しかし、異世界の地に召喚され、帰る方法も分からない。
考えて出した結論は「とりあえず魔王討伐」をしようという事だった。
無理に聞き出そうとして、異世界から帰れずにこのままずっとこの世界に居るなんて、それこそ悲劇であった。
主である西行寺幽々子の元へ帰らねばならないから。
一人、王城を出た妖夢は、地図を渡され一般常識の教えを簡単に受けると、ほんの少し旅費を渡され魔王討伐に出ることになった。
その扱いの酷さに苦笑するも、妖夢は異世界で強く生きていく。
腰に白楼剣を差し、背中に楼観剣を吊り下げて、妖夢は異世界で魔王討伐をする。
いつしか妖夢はこう呼ばれるようになる。
強さと、敵を真っ二つに斬り裂く姿から、畏怖と尊敬をこめて「辻斬り妖夢」と。