ヨーロッパの古い国に、ある魔術を極めた一族がいた。
その魔術とは『強化』魔術師ならば鼻で笑うような基礎的な魔術だが、彼の一族を前にして、そのような愚行を犯す魔術師は…少なくとも魔術協会には所属していなかった。
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私が生まれたのは、歴史だけが取り柄の三流魔術師の家系だ。
魔術師として歴史があるということは、積み重ねてきた神秘があるわけだが、何故か私の家系の魔術は評価されなかった。
とはいっても、魔術界から全く相手にされないわけではなく、代々の跡取りは時計塔への入学を許されている。
私こと「ダイアナ・リース」も、代々の跡取りと同じく、時計塔へと入学を果たして、既に5年ほど神秘の探求に勤しんでいる。
しかし、周囲からは全く評価されていない。
決して、私が無能というわけではないと思うのだが。
何しろこの時計塔というところは、世界の魔術の最高峰といえる場所だ。
無能者が何年もの間、在籍できる場所では決してないのだ。
無能者は容赦なく講師に罵倒され、周囲からの迫害も受けて脱落していく。
この厳しい環境において私は、評価こそされていないが、講師から注意を受けたことさえなかった。
むしろ、色々と気を使ってもらっている。
例えば、厳しいと評判の講師のケイネス・エルメロイ・アーチボルトも、初めて出会ったときから「き、貴殿があのリース家のご令嬢殿、ダ、ダイアナ嬢なのですね。私のことはケイネスと呼び捨てで構わない。で、では急用が私を待っているので、これにて失礼する!」と、気さくに接してくれた。
周囲の人達も、私が歩くと邪魔にならないようにと道を譲ってくれたり、私が話しかけると、直立不動で礼儀正しく応じてくれる。
結局、私は可もなく不可もない、平凡な存在だという事だろう。
魔術師に生まれていながら平凡だというのは、少し残念ではあるが、これが私という人間の器だと思うしかないだろう。
「そろそろ依頼の時間だな。今回は暴走した戦闘用ゴーレムの破壊だったな。毎度の事だが、大した相手ではないのに依頼にするのは何故なんだろうな?」
私は小遣い稼ぎのバイトに向かった。
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「ウォオオオォオオオオォオオオ!!」
凄まじいほどの怒声が、深夜の森を震わせる。
怒声と共に森の一部が、まるでミサイルの直撃を受けたかのように砕け散った。
砕け散った森の木々と共に、黒光りする凶悪な姿のゴーレムが姿を露わにする。
既にその巨体は半壊しており、停止するのも時間の問題かと思われた。
「中々に頑丈なゴーレムだな。私の一撃を喰らって動いてる奴なんて久しぶりだよ」
ゴーレムを追いかけるように現れたのは、一人の女性だった。
月の光を浴び、神秘的な輝きを放つ黄金の髪。血よりも紅く、強い意志を感じさせる赤眼。陶磁器のように白く清らかでありながら、どこか淫靡な匂いをさせる肌。長く細い四肢と、女性として理想的な曲線を描く身体。
百人に聞けば百人が、美人と答えるだろう女性だった。
だが、実際に百人に聞いたとすれば、その答えは違うだろう。
『恐ろしい』
それが彼女の印象だった。
彼女に見つめられていたゴーレムが、最後の力を振り絞り片腕を振り上げる。
「よかろう。最後の勝負をしようか。先ほどは、私の一撃に耐えたのだ。敬意を表し、私も全力を尽くそう」
彼女の言葉に、意志を持たぬ筈のゴーレムが震える。
ゴーレムは、彼女に挑戦する、この一瞬の為に、この世に生まれてきたのだと、思考ではなく存在そのもので理解する。
生物としての極限に挑む。
その栄誉を授かったゴーレムは、その機能を超えた出力で、彼女に最高の一撃を繰り出す。
「がぁああああぁああああああ!!!」
彼女の赤くぷっくりとした女性らしい唇を震わせ、獣のような咆哮が轟く。
彼女の全身から途轍もない闘気と魔力が溢れ出した。
闘気と魔力は混じり合い、彼女の全身を真紅の光で染め上げる。
彼女はゴーレムの一撃を真正面に捉えると、その小さく白い拳を全力で打ち出した。
その瞬間、世界が震えた。
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「聖杯戦争?なんだそれは」
私は、時計塔で耳にした戦争という単語に興味を惹かれた。
噂話をしていた者達は、親切に教えてくれる。
あらゆる望みを叶える願望器。それを手に入れる為に、極東の地で7人の魔術師が殺し合うらしい。
彼らは他にも細々とした事を教えてくれたが、それらには興味が持てずに聞き流した。
「面白い。私も参加するとしよう」
一族の宿痾ともいえる闘争好きな性格の為、私は聖杯戦争に参加する事を決めた。
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日本の地に降り立った私の右手の甲に、痛みと共に妙な文様が現れた。
確かこれは、令呪という聖杯戦争への参加証のはずだ。
これで私は、聖杯戦争に参加する資格を得たということだ。
「後はサーヴァントとやらを呼び出すのだったな」
私は、自分自身の力を試す為に参加するのだから、呼び出すのはキャスター辺りがいいだろう。
自分の配下として呼び出してしまっては、戦うことができないからな。
いや、令呪を使って命令すれば出来るのか?
うーん。それは馬鹿みたいだから、やりたくないなぁ。
私は、適当に見つけたホテルにチェックインすると、早速メモしておいたサーヴァント召喚の呪文を唱えてみる。
一応、サーヴァント所縁の品というものを借りてきている。メ…なんとかいう魔女の品らしいが、詳しくは興味がなかったから覚えていない。
私が呪文を唱え終わると、光と煙と共に如何にも魔女といった風体の女が現れた。
「貴女が私のマスターかしら?」
「そうだ。私の名はダイアナ・リースという。貴殿の名はなんというのだ?」
「え…?あの、私を呼び出すのに、私所縁の品を使っているわよね。どうして、それで私の名を聞くのかしら?」
「すまない。事前に聞いていたんだが、忘れてしまったんだ。こうして対面して名を聞けば、たまにしか忘れないから安心してくれ」
「たまには忘れるのね」
彼女の呆れた様子に、私は少し慌ててしまう。
「いや、違うんだ。普段ならこんな大事な事を忘れたりはしない。あの時は名前を聞いたすぐ後に、暴走したキメラが襲いかかってきたから、殴り倒した弾みに忘れただけなんだ」
「キメラを殴り倒した?…えっと、貴女は魔術師よね。内包している魔力は、この時代の魔術師にしては群を抜いているし、見たところ魔力制御も完璧だわ」
呼び出した魔女は、えらく私を褒めてくれる。面と向かって褒めてくれたのは、両親以外では初めてかもしれない。
「ふふ、そんなに褒めても出るのはお茶菓子ぐらいだぞ。ほら、食べろ食べろ」
私は、空港で買っておいたお菓子を魔女の前に並べた。もちろん、お茶も忘れずに出す。
「あの、気持ちは嬉しいのだけど、こんなに食べれないわ」
「遠慮ならいらないぞ。甘い物は別腹というのだろう」
「これだけの量だと、お腹も別腹もいっぱいになっちゃうわよ」
魔女は、目の前に山と積まれたお菓子を見て、呆れたように溜息をつく。
「それで、貴女の名前はなんというのだ?」
「……私の名はメディアよ。裏切りの魔女メディア。それが私の名前よ」
「そうか、メディアか。それならアダ名は『メアりん』と『ディアちん』のどっちがいいかな?」
私は、以前から憧れていたアダ名呼びを、この際だから挑戦してみようと思った。
「…………え?」
「だから『メアりん』と『ディアちん』のどっちがいいんだ?それとも他に呼んでほしいアダ名があるのだったら言ってくれ」
「あの…本気なのかしら?」
「こんなことで嘘をつく必要がどこにあるんだ?メアりんは変な事を言うよな」
「ちょっと、まだアダ名呼びを許してないわよ!?」
「タイムオーバーだ。諦めろ」
「そんな!せめてもっと大人っぽいアダ名にしてちょうだい!」
「それなら…メッチョリーナとか?」
「…………メアりんでいいわ」
ククク、なし崩しにアダ名呼びにしてやったぞ。
「それで、マスターの方針はどういったものかしら?」
「私の事は、ダイアナでいいぞ」
「…マスターを呼び捨てになど出来ないわ」
「じゃあ、友達になろう。私の友達、第1号だな」
「マスターと友達にな……貴女、友達が1人もいないの?」
「ああ、何故か私がフレンドリーに話しかけてもダメなんだ。皆んな礼儀正しくは相手をしてはくれるが、友達にはなってくれないんだ」
「そうなのね。なんだか理由は分からないでもないけど。そうね、この聖杯戦争が終わるまでの間なら、私が友達になってあげるわ。私としてもマスターと友好的な関係の方がいいもの」
「よし!これで私達は親友だな!」
「え、親友…?」
「親友の為に絶対に聖杯を手に入れて、メアりんを普通の人間にするぞ!!」
「あの、えっと、なに?」
こうして、私こと『ダイアナ・リース』と『メアりん』の親友コンビは、聖杯戦争に挑む事になったのだった。
当初の目標は、私の楽しい闘争だったが、私の永遠の親友、メアりんの望み(サーヴァントなどという楔から解き放たれ、私と共に人生を送りたいという健気な望みだ!)を叶えるために、私は全力を持って、立ち塞がる全ての障害を粉砕してみせよう!!
「ちょ、ちょっと待ってよ!永遠の親友ってなんなのー!?」
読んでいただきありがとうございます。
聖杯戦争が始まる前のオリジナル主人公と永遠の親友との出会いのお話でした。