桜の父親は、遠坂家当主の遠坂時臣だ。聖杯戦争に参加するだろう魔術師のため、ある程度の情報は収集している。
「たしか、貴族ぶってる変なオッサンだったな」
「こらっ、桜ちゃんの父親を変なオッサン呼ばわりしちゃダメでしょう」
「ううん、お父様が変わっているのはホントだよ」
「さ、桜ちゃん?」
「だって、うちは貴族なんかじゃないのに、いっつも『貴族たる者、常に優雅たれ』とか、訳分かんないこと言ってるよ」
「それは間違いなく変人だな」
「そうだよー、だいたい娘に自分の事を『お父様』なんて呼ばせてる人は他にいないよー」
「気持ち悪いオッサンだな」
「そうだよー、それに似合いもしない貴族っぽい服を特注で作らせてるんだよー」
「ナルシストのオッサンだな」
「そうだよー、似合いもしないあごヒゲも伸ばしてるしねー」
「いよいよもって、始末におえんオッサンだな」
「ねえ、話が逸れているわよ」
メアりんが呆れ顔で私達の会話に割り込んでくる。
きっと、放ったらかしにされて寂しくなったのだろう。
ふふ、焼きもちメアりん。可愛いぞ!!
「でも、お父様は変なんだよ」
「うむ、その通りだな」
「もうそれはいいから、話を先に進めるわよ」
メアりんは強引に話を進める。
うむ、メアりんはお姉さんぶりたいお年頃なんだな。
「桜ちゃんがダイアナの妹になる事は、もうこの際だから仕方ないとして、遠坂時臣が素直に了承するかしら?」
「それは分からんな。私が桜を妹にするといっても、桜がリース家を継げる可能性は殆どないからな」
「わたしは、別に家を継ぎたいと思ってないよ」
「そうだな、桜は好きなように生きればいい。身の安全は我が一族が保証する」
「そういえば、桜ちゃんの属性は一体何なのかしら?」
「虚数だって言ってたよ」
「ふ〜ん、そうなのか」
「ふ〜んってあんた、絶対によく分かってないでしょう」
「珍しいという事は分かるが、興味がないからな。リース家が扱う魔術は強化系のみだから、あまり属性は関係ないからな」
「そうね。あんたの一族は究極の特化型魔術師の家系だったわね」
「特化型魔術師ってなあに?」
「汎用性は捨て、一つの事を極めた魔術師だという事だ。我がリース家は強化系のみを極めた。生物としての最強を目指す一族なんだぞ」
「魔術師というよりも武術家の一族よね」
「その通りだ。我がリース家は魔術師に対抗する為に魔術を学んだのが、魔術師としての始まりだと聞いている」
「魔術師に対抗するのに強化系だけで足りるのかしら?」
メアりんは不思議そうな顔になる。確かに多種多様な魔術を操るメアりんにとっては、強化系のみと聞けば弱点が多いように思えるだろう。
「自己に対するあらゆる強化をすれば、攻撃性魔術に対する防御はできるぞ」
「…確かに肉体強化、精神強化、属性強化それ以外にも、神経や内臓の強化等を駆使すれば純粋に魔術に対する抵抗力は上がるだろうけど、そこまでするぐらいなら普通に防御呪文をマスターした方が手っ取り早いわよ」
メアりんが呆れた顔になる。
ふふ、そんな無防備な顔もキュートで魅力的だな。
「そんな魔術なんぞ信用ならん。気での強化と同じように、魔力で自分自身を強化する方がよっぽど信用出来るし確実だろう」
「そうね、考え方は人それぞれだから文句はないわよ。確かに魔術による防御は破られる可能性はあるけど、自己に対する強化魔術を無効化する事は難しいわね。私でも時間をかければ可能だけど、少なくとも戦闘中は流石に無理だわ」
「それって、バリアーを張っても破られるかもしれないけど、自分を強くする事は邪魔されないって事だよね」
「その通りだっ!!流石は私の妹だな。落ち着いたら桜にも強化魔術を教えてやるぞ」
「うんっ、わたしも覚えたい!」
桜が嬉しそうに頷く。メアりんも可愛いが、桜も可愛いな。サクりんと呼ぼうかな?
「あの、桜ちゃん。強化系だけを覚える魔術師なんてリース一族ぐらいよ。普通は強化なんてマイナーな魔術を覚えないわ。嗜み程度に覚えるとしても極める程のレベルまで修行しないわよ。私が基本を一通り教えてあげるから進む道を決めるのは、それからにしても遅くないわ」
「ふふ、メアりんは、桜が私の魔術を覚えたいと言うもんだから焼きもちを妬いているんだな。仕方ないなぁ、メアりんは」
「違うわよっ!!」
私達はこうして遠坂時臣対策を練っていった。
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今日は遠坂邸で桜についての話し合いの日だ。
「本当に付いて行かなくていいの?」
メアりんは心配そうな顔を私に向ける。
ああ、抱きしめたい。抱きしめて安心させてやりたいが…涙を飲んで我慢しよう。
「これは桜を妹にすると決めた私の仕事だからな。それにメアりんの事を万が一にも遠坂に気付かれる訳にいかんだろう」
「現代の魔術師に私の正体を見破られるとは思えないけどね」
「それがメアりんの悪い癖だな。現代の魔術師を下に見過ぎているぞ。たとえメアりんが神代の魔術師だとしても完全ではないぞ。そうだな…例えば今、私がメアりんを殺そうとした場合、メアりんは防げるか?」
メアりんは手を伸ばせば届く距離いる。この距離ならば転移する間も無く屠れる自信がある。もちろんっ!!親友のメアりんにそんな事は絶対にしないけどなっ!!
……まさか真に受けたりしないよね?
「…無理ね、予め準備をしていたのなら兎も角、この距離なら私は何も出来ずに貴女に殺されるわ。ふふ、とはいっても貴女がそんな事をするなんて微塵も思っていないわよ。だからそんな不安そうな顔をしないでよ、言い出したのは貴女の方でしょう」
「私達の愛情は永遠だという事だなっ!!」
「愛情って…せめて友情ぐらいにしておいてよ」
飽きれたようにメアりんはつぶやく。
「ダイアナお姉ちゃん。お父様はぶっ飛ばしてもいいけど、お姉ちゃんはぶっ飛ばさないでね」
桜が心配そうな顔をしている。
ちなみに桜は自宅に戻らずに私の屋敷で暮らしている。
桜には自宅に帰るかを確認したが、私達から離れている間に強引に間桐家へ連れて行かれる事に恐怖心を抱いていた。
私もその事を危惧したから、私の屋敷に住まわせる事にした。
「安心するがいい、私は男女差別も年齢での差別もしない。気に喰わん奴しかぶっ飛ばさんからな」
「その言葉のどこに安心できる要素があるのよ!?」
「ふふ、桜が好きな姉なのだ。私が気に喰わんわけないだろう。なっ、桜!」
「あのね、ダイアナお姉ちゃん。時には忍耐も人生には必要だと思うの」
私の言葉に桜は神妙な面持ちなると、そんな事を言ってくる。
真剣な顔も可愛いぞ、桜。
「あの、桜ちゃん?何だか気になる言い方だけど、桜ちゃんのお姉さんってどんな子なのかしら?」
「構わないぞ、メアりん。うむ、そうだな。桜の姉なら少しぐらい気に喰わんでも我慢しよう」
「あのね、ダイアナお姉ちゃん『少しぐらい』の部分を『もの凄く』に変えてほしいかな」
「桜ちゃんのお姉さんって、本当にどんな子なの!?」
「ふふ、中々に味のある子みたいだな。よかろう、クソ生意気な悪ガキでも我慢しよう」
「ありがとうっ、ダイアナお姉ちゃん!!」
「桜ちゃん…『クソ生意気な悪ガキ』ということは否定しないのね」
そして私は2人に見送られながら遠坂邸へと向かった。
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遠坂邸では、少なくとも見かけ上は冷静さを装った遠坂時臣が1人で待ち受けていた。
うむ。桜が言う通り、怪しげなあごヒゲのオッサンだな。
「奥方が居ないようだが?」
「妻は少々冷静さを失っておりまして、奥で休ませております」
「そうか、情緒不安定な奥方なのだな。お大事に…と言っておこう」
「ぐっ……お、お気を使わせてしまい申し訳なく思います。リース卿」
オッサンは顔を歪ませながらも冷静さを保とうとする。
「それと桜の姉もいないようだが?」
「…凛は少々癇癪持ちでして、今は気が立っているので自室に控えさせております」
「そうか、もう一度お大事に…と言っておこう」
「ぐぅっ……そ、それで、本日お越しになられた用件は桜の事についてでよろしいですね」
「その通りだ。私は回りくどい事が嫌いでね。率直に言わせてもらう、桜は貰うぞ。いいな」
「リース卿はジョークも嗜むようですな。犬猫じゃあるまいし、突然現れて娘を貰うと言われて了承する親が存在すると思いますか?」
「それを桜が望み、私も望んだ。それ以外に必要な事が存在するとは思えんが?」
「桜が望んだと?とてもではないが信じられる話ではありませんね」
「何故そう思う?貴殿は桜を養子にやるつもりなのだろう。既に桜にも伝えているのなら、桜自身が養子先を選びたいと思う事は不自然ではなかろう」
「確かに桜は養子にだす予定です。そして桜にもその事は伝えています。ですが桜はまだ幼い、自分の意思で養子先を選ぶなど考えにくい話です」
「だが実際に桜は選んだ。それが現実だ」
「それを信じろと?桜本人も連れずに来られた貴公の言葉だけで信じろと言われるのですか?」
「そうだ。桜はこの屋敷に戻る事を恐れている。そのまま強引に間桐家に養子に出されるんじゃないかとな」
「……リース卿は桜に何を吹く込んだのですか…桜にとっては魔道の家を継げる唯一のチャンスなのですよっ!!」
私の言葉にオッサンは突然、激昂して怒鳴りつけてきた。
私の顔にオッサンの唾がかかる。
これって、こいつをぶっ飛ばしてもいいよね?
「ほう、本人の意思は関係なく、貴殿は桜の未来を決めようというのか?」
「知っているのでしょう!桜の属性は虚数です!魔導の家の庇護下に入らなければ桜に未来はないのですよ!!」
オッサンの唾がまた私の顔にかかる。
よしっ、決めた!次に唾がかかったらオッサンを吹っ飛ばそう!!
「だから私の妹にすると言っているだろう」
「・・・・・・・・・・・・い、いもうと?」
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「それで遠坂氏は了承したの?」
「うむっ、流石は私だなっ!最初は機嫌が悪そうだったが、最後には頭を下げて桜の事を頼んできたぞ」
「貴女、ちゃんと説明はしたんでしょうね?」
「当たり前だ。桜はリース家を継げないが、桜の身はリース家が保証すること。桜の未来に対して最大の支援をする事を伝えたぞ」
「…間桐家を継ぐ事よりもリース家の庇護下に入る事を選んだ。という事かしら?」
「えへへ、これでわたしはダイアナお姉ちゃんの妹なんだね」
桜は嬉しそうに笑う。
うむ!私の妹は可愛いな!!
「そうだっ、これを機会に桜の事をサクりんと呼ぼう!」
「それは止めてあげてっ!?」
メアりんに激しく止められた。
焼きもちメアりん…やっぱり可愛い。
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遠坂side
数日前に行方不明になった娘の桜について話があると、あの悪名高い『リース家』から連絡があった。
リース家といえば、今でこそ魔術協会に属しているが嘗ては全てを敵に回していた一族だった。
『リース家に手を出すな、手を出すのなら縁を切る』
これがいまだに魔術師達の間で伝えられている言葉だ。
この言葉を守らずに潰された魔術師は数多くいる。
恐るべきことに魔術師協会ですらリース家と事を構えた場合は放置する。
あの聖堂協会すら不可侵を貫いているらしい。
そのリース家が桜に目をつけた。
妻は半狂乱になり、手がつけられなくなったため仕方なく魔術で眠らせた。
凛も何を仕出かすか分からないほど興奮したため自室に閉じ込めた。
……一人で相手をするのは怖いが、仕方ないだろう。
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黄金の髪をなびかせて、血に染まったかのような全てを射抜く赤眼を持って、全てを睥睨する女帝。
私の屋敷を訪れたリース卿は、肌が痺れるほどの威圧感を発しながらも静かに語る。
「桜は貰うぞ。いいな」
到底許容できないっ!!
たとえ、絶望を敵にまわそうと許容はできない!できるわけがないっ!!
愛する娘を魔術師の手に渡せとっ!?
その身を魔術の研究材料にさせろとっ!?
リース卿と比べれば遥かに格下かもしれんこの我が身だが、娘を犠牲にするほど落ちぶれてはいない!!
私は激昂する内心を察せられないように細心の注意を払いながらも、何とかこの悪魔を譲歩させる条件を考える。
既に桜の身は奪われているが、交渉に来ているからにはまだ無事の筈だ。
桜に代わるものを提示すれば、桜を返してくれる可能性がある。
…たとえ、この遠坂の全てと引き換えでも構わない。
だが、私は愚かにも気持ちを高ぶらせて怒鳴りつけてしまう。
あの、悪魔の一族を…
桜、お父様は先に逝くね。
「だから私の妹にすると言っているだろう」
死を覚悟した私の耳に聞こえてきたのは、悪魔の…いや、女神の囁きだった。
こうして桜は救われた。
そして、お父様も…
更新は遅いですが、次回も頑張りたいと思います。