「聖杯戦争・・・どこぞで新手の宗教争いでも起こったのか?」
食後のティータイムを楽しんでいると、メアりんが聖杯戦争の準備がどうのとか言い出した。
「私はこう見えて無宗教ゆえ、その手の話題には疎いのだが、メアりんは宗教争いに興味があるのか?」
「ねえ、ダイアナ。それは冗談なのよね。聖杯戦争を本気で忘れたりなんかしないわよね」
メアりんは憂いを帯びた表情で私に問いかける。
これは下手な返事をしてはいけないヤツだな。答えを誤ればメアりんは拗ねてしまうだろう。
私は灰色の脳細胞をフル回転させて答えを導き出す。
ポクポクポク、チーン♪
よし、答えは得た。
「大丈夫だ、メアりん。私もこれから頑張るから」
「そうよね。いくらダイアナでも忘れたりしな『世界を“メアりん教”で統一してみせればいいのだろう』はあっ!?何言ってんのよ、あんたは!?」
「うわあ、メアりんお姉ちゃんが神さまになるの?」
桜が瞳を輝かしながらメアりんを見つめる。
「うむ。メアりんの慈愛と美貌が世界を覆い尽くし、恒久平和が人の世に訪れるだろう」
「じゃあじゃあ、凛お姉ちゃんに大天使になってもらいたい!」
桜は興奮のあまり、両手をバタバタと振り回しながら私に訴えてくる。
私にとってはクソ生意気な凛よりも桜の方がよほど天使なのだが、ここは私が大人になって桜の気持ちを汲むべきだろう。
「ふふ、仕方ないな。では凛を大天使にしよう。でも、私にとっての大天使は桜なのだから、桜も一緒に大天使になってもらうぞ」
「うんっ、わたしも“メアりん教”の布教を頑張るよ!」
むんっ、と両手を握りしめて気合いを入れる桜は、やはり天使のように可愛かった。
「も、もしかしてダイアナは、私が神を憎んでいるから、逆に私を神に据えることで神への復讐を・・・ハァ、あの間抜け面でそんな事を考えている訳ないわよね。やっぱり私がしっかりしなきゃダメね」
メアりんは遠い目をしながらブツブツと何かを呟いている。きっと私達への感謝の言葉を口にしているのだろう。まったく、私たちの深い関係でそんな事を気にしなくていいのだがな。
「でも、そんなメアりんお姉ちゃんが可愛いと思うの」
「うむ、私も同意見だっ!」
私は桜の言葉に力強く頷く。
何故かメアりんが頭を抱えているが、きっと照れているのだろう。
シャイなメアりんーー可愛いぞっ!!
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時臣side
我が盟友から手紙が届いた。
“かねてからの聖杯戦争においての同盟の件だが、やはり聖職者としての矜持に反する行いは出来ぬ。長年の友誼に応えられぬ私を軽蔑してもらっても構わない。そして、リース家次期当主と聖杯戦争にて敵対する貴殿との絶縁を申し込む私を臆病者と罵って貰っても構わない。私としては、ぶっちゃけ貴殿の正気を疑う。あのリース家と敵対しようなどと。今なら間に合うぞ、棄権をするなら連絡を…”
ここまで読んだ時点で、私は手紙を読むのを止めた。
確かに璃正の言葉は正しいのだろう。
リース家とは魔術の世界に、いや裏の世界に関わる者達から禁忌とされる一族なのだから。
現在では和解したが、かつては魔術協会と聖堂教会の二つを相手取り全面戦争を繰り広げた一族だ。
彼の一族が行使する魔術は一部の例外を除き“強化”のみだ。
そう、“強化”だ。人体を強化することのみに特化した魔術だ。
強化されたリース家の魔術師の戦闘力は、同じ魔術師からみても常軌を逸したレベルに達している。
例えば、全面戦争時代にリース家のたった一人に、それも十代の若者に聖堂教会が誇る聖堂騎士団の精鋭一千名が殲滅された記録がある。
さらに魔術協会には、対魔術師に特化した執行者を含む討伐隊一千名以上が当時のリース家当主にすり潰された記録が残されている。
文字通りの一騎当千。
それがリース家だった。そして現在、リースの名を冠する者は103名を数える。
勿論、リース家に連なる人間はこれよりも多く存在するが、その全てがリースを名乗れるわけではない。
その身に流れる血だけでリースを名乗れるならば、これ程までに恐れられてはいないだろう。
リースとは、リースに生まれるのではなくリースに“成る”のだと聞く。
才ある者達が狂気の如き修練の果てに辿り着く境地こそがスタートラインだという。
一騎当千の戦闘力など当たり前、その先にある“何か”に届いた者だけがリースを名乗ることが許されるらしい。
「とはいえ、別に無敵というわけでもない」
そう、決してリース家は無敵ではない。
先に挙げた聖堂騎士団一千名を倒した若者も、その戦いの果てに命を散らしている。
全面戦争終結時のリース家は30人以下までにその人数を減らしていたはずだ。
戦えば傷付くし、傷が深ければ命を落とすただの人間に過ぎない…はずだ。
「いかにリース家といえどサーヴァントの力に抗えるとは思えぬ。抗えぬはずだ。抗えなければいいなぁ」
私はリース家に養子に出した桜のことを思い出す。
実父である私がダイアナ殿を倒したことを知れば桜は悲しむだろう。
だが、私は父である前に魔術師だ。肉親の情などに囚われるわけにいかない。
「お母様」
「なあに?」
扉の外から愛する家族の声が聞こえてきた。
妻の方は魔術師の妻としての心構えは出来ているだろうが、凛には辛い思いをさせてしまうだろう。
私が桜の義理の家族を倒してしまえばショックを受けてしまうだろう。だがこれも魔術師としての宿命として受け入れてもらわねばならない。
「お父様のお葬式には桜を呼んでもいいわよね」
「そうね。ダイアナさんとメアりんさんもお呼びするべきでしょうね」
「うん、桜に連絡して都合を聞いておくね」
「ええ、よろしくね・・・でも、あの人も考え直してくれないかしら?」
「リース家っていえば、もの凄く強いことで有名なのにお父様は馬鹿なのかなぁ?」
「そんな事を言ってはいけませんよ。確かにリース家の方達はお強いですが、別に不死身というわけではないわ、お父様にも・・・きっと、たぶん、おそらく、勝機は・・・ある、あるかしら、あればいいなぁ」
「でも、わたしが聞いた話だと戦いの後に治療が間に合わなくて命を落とした人はいるけど、敵に倒された人は一人もいないらしいよ」
「・・・それは相打ちといってね、きっと倒したことになると考えても間違いではないと思うわ。うん、私はそう信じるわ」
「でもでも、わたしが聞いた話だとリース本家の人に限っていえば、寿命以外で亡くなった人はいないらしいよ。ダイアナさんって本家の人だよね」
「・・・次期当主と聞いているわ」
「お父様って、馬鹿なのかなぁ?」
「凛、こういう言葉があるの」
「なに?」
「“男とは馬鹿な生き物だ”」
「やっぱり、お父様は馬鹿なんだ!!」
・・・・・・・・・・・・
今日はもう休むとしよう。
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ケイネスside
時計塔の一室で、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは呆然と己の手を見つめていた。
そこには令呪と呼ばれる魔術痕が刻まれている。
ケイネスの記憶が確かなら、今の時期に刻まれる令呪は、あのリース家次期当主が興味を示した極東の島国で行われる聖杯戦争によるものだろう。
「そんなものに参加させられてたまるものか!!」
リース家次期当主が旅立ってからの平穏な日々を満喫していたケイネスにとっては、この令呪など呪いにしか思えなかった。
ケイネスは天才と持て囃される己の頭脳を限界まで酷使して、この窮地を脱する方法を考えた。
神秘の塊である令呪を消し去ることは、如何に天才のケイネスといえど不可能だった。
ならば方法は一つしかない。
「よし、他人に押し付けよう!」
降霊学科の一級講師である自分なら令呪を消し去ることは不可能でも譲渡することなら可能なはずだ。
そんな想いで一心に研究を重ねた結果、遂に令呪を譲渡をする術式を見つけ出した。
後は押し付ける相手を見つけるだけだ。
「ウェイバー・ベルベット君、君のレポートは読ませてもらった」
ウェイバーは限界まで緊張していた。
もちろんレポートには自信があったが、天才と名高いアーチボルト一級講師に、まさか講義中に名指しで呼ばれるとは思ってもいなかった為だ。
少しは評価されるのか、それとも酷評されてしまうのか、ウェイバーの頭の中は様々な思考がグルグルと回りまくり、混乱の極みに達しようとしていた。
ゴクリとウェイバーの喉が音を立てる。
ケイネスがゆっくりと口を開く。
「素晴らしいレポートだ。既存の固定観念に縛られない全く新しい考え方だ。このレポートは、魔術師の力は積み重ねた年月のみに比例するという凝り固まった思考を打破する切っ掛けとなることだろう」
まさかの大絶賛だった。
「だが、まだまだ検証が甘い点が幾つもあった。私が気付いた点を纏めておいたから目を通しておきたまえ」
ウェイバーは渡される大量の資料を手にしながらも誇らしい気持ちでいっぱいになった。
『アーチボルト先生に一生ついていこう!!』
年若いウェイバーが、単純にそう思ったことは誰にも責められないだろう。
真っ赤な顔で自分の顔を見つめているウェイバーを微笑を浮かべて見つめ返すケイネスが、腹の中で何を企んでいるかなど察しろという方が無茶というものだ。
「聖杯戦争ですか?」
ケイネスの研究室でウェイバーは、極東の島国で行われる魔術儀式について説明を受けていた。
「うむ。本当は私が参加しようと思っていたのだがね。私よりもウェイバー君が参加した方が良い経験になると思ったのだよ」
ケイネスの説明では、聖杯戦争は魔術師本人の実力よりもサーヴァントの比重の方が高く、魔術師は作戦指揮を担うということ。
また、聖杯戦争に勝ち抜けば聖杯が手に入ること。この聖杯とは、宗教的なものではなく、魔術礼装でありウェイバーの研究の役に立つとのこと。
そして、何よりも魔術協会内でのウェイバーの立場を聖杯戦争に参加することで強化する狙いがあること。
これらの利点をケイネスは淡々と説明していく。
「ウェイバー君の研究が如何に優れていようとも、実績のない者の声は届かないのが今の魔術協会という所だからね」
全く呆れ返ると言わんばかりに肩を竦めるケイネスに、ウェイバーは感謝するばかりだった。
これ程までに自分の事を考えてもくれる先生に出会えた幸運を、神に感謝しながらウェイバーは力強く頷いた。
「先生、任せて下さい!必ず聖杯戦争に勝ち抜いてみせます!」
数日後、令呪の消えた手を見つめながらケイネスは微笑んでいた。
「せめてもの感謝の印にサーヴァントを呼ぶ触媒は最高の物を送らせてもらうよ。ウェイバー君」
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ウェイバーside
僕の名前はウェイバー・ベルベットだ。
魔術師の家系としては三代目になるけど、魔術を学び出したのは僕が初めてだから初代と言えるだろう。
おや、初代といっても侮ってもらっては困るよ。なんといってもこの僕は、初代ながらもあの魔術の学び舎としては最高峰の時計塔に入学を許された人間なのだからね。
そして今回は、僕の才能を認めてくれているアーチボルト先生の推薦で、大魔術儀式である聖杯戦争への参加を認められたんだ。
アーチボルト先生からは選別として、サーヴァントを呼び出す為に必要な最高の触媒を頂いた。
これは何としても最後まで勝ち残って、聖杯を持ち帰らなければ、アーチボルト先生に合わす顔がないだろう。
それに僕が聖杯戦争に参加することを知った周りの人達も応援をしてくれた。
普段は他人の足を引っ張ることしか考えていないような連中がこぞって僕の“蛮勇”を讃えてくれた。
確かに聖杯戦争には危険が伴うだろう。だけど準備はバッチリだし、アーチボルト先生からは触媒だけではなく、軍資金もたっぷりと渡されている。
これで敗退するような奴はよっぽどの間抜けぐらいだろう。
僕は輝かしい未来を思い描きながら、極東の島国へと向かった。
次回はウェイバー君の無双が見れるかも!?