私とメアりん   作:銀の鈴

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第6話「聖杯戦争」

深夜の遠坂邸に忍び込む怪しい影。

何を隠そう彼こそは闇夜の支配者と謳われ、時代の流れをナイフ一本で変えてきた伝説のアサシンその人である。

 

「クク、大層な魔術防御だが俺様にかかれば子供騙しに過ぎぬわ」

 

彼の不遜な言葉通りに魔術による複雑怪奇な罠の数々をクネクネと見事な体術で躱していくアサシン。

その動きは正に芸術の域にまで達していると言えよう。

 

そしてその事はパチパチと辺りに響く、彼を賞賛する拍手の音が証明していた。

 

「素晴らしい動きだ。先ほどのステップなどそこらのダンサーなど裸足で逃げ出すレベルだぞ」

 

惜しみない賞賛に気を良くしたアサシンは、さらに身体のキレを増していく。

 

クネクネ、クルリン、ホップステップジャンプ、グルンと回ってピョコン、ペタン、ビッタンコ、ジャジャーンとキメッ!!

 

「ブラボーブラボー、全世界が貴殿のダンスに魅了されることだろう」

 

深夜に行われた舞台に熱狂する観客。たとえその観客が僅か一人だったとしても、アサシンは満足だった。

 

己は最高のダンスを踊りきり、そして惜しみない心からの賞賛を送ってくれる観客。

そこには魅せる者と魅せられた者のみに通じ合う、熱い繋がりが確かにあった。

 

 

ギルガメッシュがネズミ退治という些事の為にその重い腰を上げかけた時、新たな侵入者に気付いた。

 

「ほう、くだらぬ見世物に乱入してくるとは、珍妙な者もいたものよな」

 

「馬鹿な!?アサシンですら侵入に手間取る結界内に一瞬で現れたというのか!?」

 

余裕のあるギルガメッシュとは裏腹に時臣は驚愕に顔を歪めていた。

ギルガメッシュはその様に退屈そうな目を一瞬だけ向けると、ギルガメッシュの宝物で映し出されている侵入者達に視線を移す。

 

「まあ、よかろう。道化共の舞台を見物してやろうではないか」

 

 

演者と観客の心の交流を無粋な声が引き裂く。

 

「笑止、その程度の舞で己を誇ろうなどと、貴様の器の程度も知れようと言うものだ。36番よ」

 

「貴様は17番!俺様のダンスに文句をつける気か!」

 

ダンスの後の握手会やサイン会を行っていた36番の前に彼と似た雰囲気の男、17番が現れる。

 

「おや、新たなダンサーの様だね。彼も貴殿並みのダンサーなのかな?」

 

観客は新たに登場したダンサー(17番)に期待に満ちた目を向ける。

だが36番がそれを否定した。

 

「とんでもない。あやつのダンスなど邪道。基本を無視して本能だけで踊るという、ダンスと呼ぶのも躊躇われる程度のものに過ぎませぬ」

 

「ふん、言ってくれるな。ならば俺も言わせてもらおう。本来、舞というのは魂の表現のために行うものだ。そこに小難しい理論など舞を穢す不純物に過ぎぬわ」

 

「なんだとっ!?この野蛮人め!!」

 

「吠えるな!!この石頭め!!」

 

 

「…時臣よ。我は英霊の座に帰るぞ」

 

「何を仰るのですかっ、王よ!?」

 

「ええい!あの様な道化共と王であるこの我に同じ舞台に立てと貴様如きが吐かすのか!」

 

普段の傲慢で余裕のある態度をかなぐり捨てて、指を差しながら英雄王はがなり立てる

 

ギルガメッシュが指差す先には、17番と36番が観客の提案した“ダンサーなら舞台の上で決着をつけるべし”に従い、雌雄を決する為に汗だくで踊り狂っている姿があった。

 

 

「双方共、見事な舞だ。本能を揺さぶり起こされる原始的で激しい舞、精密で計算され尽くされていながら心に訴えてくる舞、方向性は違えども貴殿達の魂の輝きはしかと私の心に刻まれたぞ」

 

その言葉に二人の魂の表現者達は、深い満足を得た。

 

「クク、俺様のダンスについて来れるとは、貴様の舞も捨てたものではないな」

 

「ふん、貴様のダンスとやらもただの西洋かぶれかと思っていたが、多少は見直す必要がありそうだな」

 

「クク、言ってくれる。踊りながらその西洋かぶれのダンスの技法を盗んでいたのは誰だったかな?」

 

「ぬう、ならば言わせてもらうが貴様とて冷静さが売りのくせに、俺に引き摺られて我を忘れて踊っていただろうが」

 

「ふふ、どうやら二人は良きライバルのようだな」

 

反目し合いながらも、どこか相手を認め合っている二人の様子に、観客は堪えきれないとばかりに微笑を浮かべる。

 

「チッ、誰がこんな奴」

 

「俺とてお前のライバルなどと思われては格が下がるわ」

 

「ふふ、やはりライバルは良いものだな」

 

 

「…出ていくタイミングが掴めぬ」

 

涙目の時臣に拝み倒されて出てきたギルガメッシュだったが、次々と繰り広げられる三文舞台を前に出るに出られなかった。

 

もちろん、舞台を壊すことを厭わなければ事は簡単だったが、ここは各陣営のマスター達が使い魔を通して覗いている。

 

王の中の王である我が、ここで空気を読まずに宝具の射出でも行えば『うわー、ダンス談義を暴力で台無しにするなんて英雄王は芸術って言葉を知らない脳筋なんだー』などと言われかねない。

 

それでは王の沽券は地に落ちよう。

 

その時だった。二人の会話は将来の誓いにまで進んでいた。

 

「どちらが先に世界の頂点に立つが勝負だぜ」

 

「ふん、いいだろう。貴様に負けるのは気に食わん。世界の頂点に立った俺の背中を貴様に見せつけてやるとしよう」

 

「クク、それは俺様のセリフだぜ。お前こそ俺様について来やがれ」

 

この瞬間『よしっ、今だ! 』ギルガメッシュは何故かチャンスだと思った。

 

 

「この我を差し置き世界の頂点を語るか、道化」

 

二人のダンサーと一人の観客の前に、黄金の光と共に黄金の男が現れる。

 

その圧倒的な存在感に二人のダンサーが膝を突きそうになるが、舞台の上で、しかも観客の前でそうような無様を晒すことはダンサーとしての…いや、芸の道を歩む者としての矜持が許さなかった。

その時だった、観客が口を開いた。

 

「ふむ、その物腰はただの素人とは思えないな。さぞかし名のある御仁とお見受けする」

 

観客の興味を引いたギルガメッシュは内心『よしっ、流れに乗れたぞ!』とガッツポーズを取る。

 

「ほう、我の面貌を拝する栄誉を受けながら我の名を知らぬと申すのか。その罪、万死に値するぞ」

 

その言葉に観客は興味を惹かれたのか、それまで立っていた建物の陰になった場所からゆっくりと月光の下に進んでいく。

 

「ふふ、万死に値するとは随分と自信家なのだな。だがその自信がただの自惚れとも思えん。ならば私もその自信に見合う返礼をしよう」

 

月光の下、彼女は幻想のように舞い始めた。

 

 

月光に照らされ輝くは黄金の髪。

強い意志を宿す両眼は血よりも紅い。

陶磁器のように白い肌は男の欲望を掻き立てる。

女として理想的な曲線を描く身体と細長い四肢。

 

彼女は魂が命ずるままに舞う。

 

軽やかに舞う彼女の指先の動きひとつひとつにまで、技巧の粋が込められている事に36番は気付き驚嘆する。

 

穏やかに舞う彼女の瞳の輝きの中に、苛烈なまでの想いと狂おしいまでの情熱を感じた17番が息を飲む。

 

王の中の王は、芸の極地といえる舞を楽しげに見やりながら思う。

 

(何故この女は突然踊りだしたのだ!?まさかこの我も踊らねばならんのか!?)

 

王の中の王にダンスの心得などなかった。

 

 

遠視の鏡に映るのは、敵地で踊る自分のマスターであるダイアナの姿だった。

 

「あの馬鹿は何をやってんのよ!?」

 

ダイアナの“偵察してくるから”の言葉に素直に転移させてしまった自分に腹が立つ。

勿論、脱出のために遅効性の転移もかけてから送り出したのだが、タイミングが悪すぎたみたいだ。

 

「まさかほぼ同時に遠坂邸に侵入する奴らがいるだなんて」

 

メアりんが見たところ、遠坂邸に侵入をしてきた二人組はアサシンだった。

なぜアサシンが二人いるのか疑問だが、恐らくは分身する宝具でも持っているのだろう。

互いに17番と36番と呼び合っているからには最低でも36人に分身できると考えて行動すべきだ。

 

何十人ものアサシンに狙われるというのはゾッとするが、分身しているせいかその能力はアサシンだと考えても随分と低く感じてしまう。

 

「ダイアナだったら何十人いようと簡単に縊り殺せる程度でしかないわ」

 

当然だが通常よりも弱体化していてもサーヴァントに生身の人間が太刀打ちなど、それがいかに魔術師であっても“普通”なら出来るものではない。

 

けれどこの程度の“普通なら出来ないこと”を“普通にできる”レベルでなければ、魔術協会と聖堂教会を相手に戦争を起こしながら現代まで“リース家”が存続しているわけがなかった。

 

「群は個に勝るけれど、突出しすぎた個は群を圧倒する。野犬の群れでは獅子には勝てないわ。それよりもあの金色が問題ね」

 

その金色を一目見てからというものメアりんは身体が震えるのを止めることが出来なかった。

 

「 身体能力だけを見れば大したことないけど、あの金色からは底知れないものを感じるわ」

 

神代の時代においてなお魔女と恐れられた自分が、戦わずにしてその存在感だけで絶対に勝てないと理解させられた。

 

黄金の鎧に包まれ黄金の髪を持ち、そして圧倒的な黄金の王威を放つ謎のサーヴァント。

 

だがメアりんは震えながらも愉快そうにその口元に笑みを浮かべる。

 

全てを圧する黄金の王威の前で彼女のマスターは――彼女の親友は楽しげに舞い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり聖杯戦争の幕開けはこのシーンからだよね!

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