私とメアりん   作:銀の鈴

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今回はダイアナ、メアりんの出番が少ないです。


第7話「新たな最強」

それは聖杯戦争が始まる約一年前の出来事だった。

 

間桐の家を飛び出した一人の男が、久しぶりに幼馴染で初恋の女性に電話をかけた。

 

中年の男が頬を赤く染めながらウキウキと電話する姿は、通りすがりの人達を不気味がらせたが本人が気付く気配は全くなかった。

 

「葵さん、久しぶりだね。元気だったかな?」

 

「ええ、雁夜くんも元気かしら? 今も海外にいてるのでしょう?」

 

男は――間桐雁夜は久しぶりの葵の声に興奮しながらも平静を装う。

もっとも中年男がウネウネと身体をくねらせながら電話する姿は、不審者として通報されても可笑しくないレベルだった。

 

「ああ、今回は長引いてるよ。ところで凛ちゃんと桜ちゃんも元気かい?」

 

いつもしている雁夜の挨拶代わりの言葉に葵は何故か言葉を詰まらせる。

いつもなら“ええ、元気よ。特に凛は元気すぎて困っちゃうわ”という返事が予定調和の如く返ってくる筈だった。

 

雁夜は今でも想っている女性の異変に鋭く気付いた。

雁夜は内心では“これは何かあるぞ!ここで気遣えば好感度アップだぜ!”などと考えている事を感じさせない、思い遣りの溢れた声で優しく葵に尋ねる。

 

「葵さん、何かあったのかい? 俺でよければ相談に乗るよ」

 

雁夜の優しい声に促されて葵はおずおずと話し出す。

“雁夜くんは聞いていないみたいね”そう前置きをしてから葵が話し出した内容に、雁夜は愕然としてしまう。

よりにもよって間桐の家に娘を養子に出そうだなんて、雁夜でなくても正気を疑う暴挙だろう。

 

間桐の妖怪ジジイの所業は魔術師業界では割と有名になっており、間桐の家なんぞに養子など今の時代では考えられない事であった。

 

今や世界を股にかける冒険家として名を馳せる雁夜もその出自の所為で各地の魔術師に疎まれ、冒険家としての活動に支障が出る事がある程だった。

 

雁夜は必死に思い止まるように葵を説得するが、葵はというと“あの人が決めた事だから”と悲しい声で繰り返すばかりで埒が明かなかった。

 

「兎に角、俺が日本に帰るまでは桜ちゃんを間桐の家にやらないでくれ!」

 

雁夜は日本に帰郷すべく行動を開始する。

未だに恋心を抱く女性に良いところを見せるために。

 

 

 

 

 

「今日は絶好の陰干し日和のようじゃ」

 

間桐臓硯は間桐邸の裏庭でその本体である虫の身体を露わにしていた。

 

用心深い臓硯ではあったが、月に一度の陰干しは欠かせない習慣だった。

 

「ひょっひょっひょっ、気持ちええのう」

 

臓硯は人の形を模した虫の塊に己の身体をマッサージさせながら先月の件を思い出していた。

 

古き盟約に従い、遠坂の娘が養女として手に入る筈だったのが、何の前触れもなく反故にされたのだ。

 

当然の如く臓硯は猛抗議しかけたが、遠坂の娘を掻っ攫ったのがあの悪名高き“リース家”と聞いては流石の妖怪ジジイも諦めるしかなかった。

 

「はぁ…せっかく良い胎盤が手に入ると思ったんじゃがのう。触らぬリース(脳筋)に祟りなしと言うからのう」

 

ため息をつく臓硯だが、傍目にはウニョウニョと蠢めく不気味な虫でしかなかった。

 

暫くすると玄関の方が何やら騒がしくなっていた。

普段なら人型のみで様子を見に行くところだが、気落ちしていた臓硯はそこまで気が回らなかった。

人型に自分を持たせるとフラフラと玄関の方にと向かってみた。

 

「妖怪ジジイ!居てるんだろう!さっさと出てこいっ!!」

 

玄関で騒いでいるのは何処かで見たような気がする中年のオッサンだった。

 

「はてさて、どちら様でしたかのう?」

 

相手の素性が分からない臓硯は取り敢えず穏便に問いかけてみる。

 

「何を言ってやがる!俺の顔を忘れたのか!」

 

確かに見覚えのあるオッサンの言葉に、臓硯は数百年に及ぶ記憶の海から適合する情報を探り当てる。

 

「そうじゃ、思い出したわ!お主は三丁目のトメさんに夜這いをかけたのが旦那に見つかって袋叩きにおうた源五郎じゃ!お主、生きておったのか。懐かしいのう」

 

臓硯はかつての遊び仲間の思わぬ訪問に、枯れ果てたと思っていた熱い血潮が蘇るのを確かに感じた。

 

「今日はどうしたのじゃ、久しぶりにナンパ勝負にでも来よったか?」

 

まだまだお主に遅れは取らんぞ!と意気込む臓硯を冷めた目で見ていたオッサンだったが、ハッと我に返り激昂する。

 

「臓硯っ、惚ける気かっ!!」

 

頭に血が上ったオッサンは、臓硯が手に持つ不気味な虫を払いのけて踏み潰すと臓硯の胸倉を掴む。

 

「あっ………………………………………ガクッ」

 

胸倉を掴まれた臓硯は一言声を漏らすと息を引き取った。

 

かつて正義を目指した男の数百年に及ぶ旅路はここで終焉を迎えた。

 

めでたし、めでたし。

 

 

 

 

世界に名だたる冒険家である雁夜が、その卓越した手腕で数百年に渡り間桐家を支配していた臓硯を葬る。

そして実の兄を間桐家より放逐し、間桐家の当主の座を簒奪する。

 

その噂は瞬く間に魔術師業界に広まった。

 

 

 

「クソ兄貴め、金だけ持って逃げやがった」

 

臓硯が急死した事を知った間桐鶴野は、驚くほどの素早さで荷物を整理すると晴れ晴れとした表情で息子を連れて家を出た。

 

鶴野は間桐家の財産の内、現金の半分だけを持って出ていき、その他の不動産等は全て雁夜に譲ると書面を残していた。

それゆえ実際には雁夜の方が得をしているのだが、間桐家の当主の座を押し付けられた雁夜は納得できない。

現金の半分だけでも一生遊んで暮らせるだけの額があるのだから、魔術師の家系などという余計なものはいらないのだ。

 

雁夜も全ての資産を現金化してしまおうかとも考えたが、魔術絡みの危険物もあったため躊躇してしまった。

 

「迂闊に世の中に放っていいもんじゃないしな。どうしたらいいんだ?」

 

色々と悩んだ結果、偶然にも冬木市にバカンスで訪れていた有名な魔術師と知り合うことが出来たため雁夜は彼女に助言を仰いだ。

 

ちなみに彼女は桜を養女に迎えた家の人間であり、妖怪ジジイの魔の手に落ちる前に桜を救ってくれた恩人として、雁夜は好意を覚えていた。

 

まあ、想いを寄せる葵に良いところを見せる計画が達成出来なかったことは非常に残念ではあったが。

 

 

「うむ、魔術師としての素養が乏しいながら、あの間桐臓硯を機転を用いて葬ったのは見事だが、確かに魔術師の家系を継ぐとしたら他家に舐められるだろうな」

 

「ああ、そうなんだ。俺が当主になった途端、怪しい奴等が屋敷の周囲を伺っているしな」

 

歴史の長い間桐家には様々な魔術に関する貴重な品が集められていた。

それを狙う有象無象といえど相手は一端の魔術師のため、雁夜では相手をするには辛いものがあった。

 

「よかろう。貴様には桜も懐いているからな。それに聞けば臓硯を屠ったのも元々は桜を助ける為だというではないか、ならば私が貴様の手助けをするのも当然の事だろう」

 

彼女は“全て任せておけ”と太鼓判を押してくれた。

魔術師の世界には片足を突っ込んだ程度に過ぎない雁夜ですら、彼女の家名を聞いたことがあったので安心して頼ることにした。

 

「ダイアナに全て任せられるなんて、貴方は剛毅なのね」

 

彼女の友人に何故か微妙な顔をされたのが不思議ではあったが。

 

 

 

 

魔術師業界に激震が走る。

 

間桐家当主の座に君臨した間桐雁夜に敵対行為を働いた魔術師達が一夜にして全滅した。

 

大半が有象無象であったが、その中に魔術協会から偵察として派遣されていた封印指定の執行者が混じっていたのが問題だった。

 

魔術協会の面子にかけて間桐粛清の為、密かに数名の執行者が派遣されたが、誰一人として帰らなかった。

 

この事は魔術協会の上層部も知ることとなったが、間桐家当主に魔術協会に逆らう意図はなく、身に降りかかる火の粉を払ったのみと判断された。

 

なおこの上層部の判断には、連絡を絶つ直前に執行者が報告した間桐家当主と親しげに語らうリース家次期当主の存在が非常に強く影響したと思われるが、上層部がリース家を刺激したくない為にひた隠しにした為、誰にも伝わることはなかった。

 

結果、人々は知ることになる。

 

極東の地に最強の男がいることを。

 

普段は穏やかなれど

敵対すれば容赦はなく

その振るう拳は全てを屠る。

 

人々は間桐家当主を畏怖を込めてこう呼んだ。

 

 

 

極東の眠れる獅子(最強の冒険家)”と。

 

 

 

 

 

 




最強の男の誕生秘話の回でした。
ダイアナにとって最大の敵になる…かも?
最強の男は聖杯戦争に参戦するのだろうか!?
次回も頑張ります!
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