私とメアりん   作:銀の鈴

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第8話「魔術師殺しと呼ばれた男」

雪深い山奥にその城は聳えていた。

魔術の名門アインツベルンの居城であるそこでは、ある魔術儀式が行われていた。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

朗々と紡がれる呪文に大気は震え、空間には神秘が満ちていく。

 

「切嗣…」

 

そんな儀式を行う夫を心配する妻である、アイリスフィール・フォン・アインツベルンは自分でも気付かないうちに両手を握りしめていた。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

最後の呪文を紡ぐと共に、周囲は光に満たされる。

 

「切嗣っ!?」

 

咄嗟に夫に近付こうとするアイリだったが、それを止める小さな手に気付いた。

 

「お母様、まだ近付いたらダメだよ!」

 

少女の名前は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

アイリの一人娘であり、母親よりもしっかり者と評判の少女であった。

 

「でもでもっ、切嗣が見えなくなっちゃったのよ!!」

 

焦りまくる母親を鬱陶しく思いながらも、ちょっと可愛いかもと感じるイリヤは優しく諭す。

 

「大丈夫だよ。お母様が大好きな切嗣が、こんな事でどうにかなっちゃうわけないもん」

 

「はは、過大な期待は恐縮するけど確かにこの程度でどうにかなる事はないから安心してほしい」

 

イリヤの言葉にアイリが答える前に光の中から男の声が聞こえてきた。

 

「切嗣、無事なのね!」

 

まるでアイリの言葉を待っていたかのように周囲に満たされていた光が収まっていく。

そして同時に鈴を転がしたかのような清廉な声が周囲に響いた。

 

「問おう、貴方が私のマスターか?」

 

 

 

 

切嗣は機嫌が悪かった。

 

召喚したサーヴァントに妻と娘を独り占めされたからだ。

 

「僕の妻子なのに…」

 

窓から外を見てみると、サーヴァントの少女が自分の妻子とキャッキャウフフとじゃれ合っている。

 

「切嗣は来ちゃダメー!」

 

仲間に入ろうとしても愛娘に拒絶されてしまう。なんでも女子会は男子禁制らしい。

 

憎っくきは男子禁制の女子会だ!!

 

彼が呼び出したサーヴァントはあの有名なアーサー王だったが、驚くことにアーサー王は女性だった。

しかも見た目は年若い少女だったのだ。

 

「君の姿は魔術による若作りなのかい?」

 

きっとその一言が余計だったのだろう。

伝説ではそれなりの年齢まで生きていた筈だから、つい聞いてしまった。

 

「……貴女が私のマスターなのですね」

 

アーサー王は、そっぽを向いたと思ったらアイリに向けてそんな事をのたまった。

 

「っ!?…は、はい」

 

しかもアーサー王のキラキラと不自然な程に輝く笑顔に魅了されたかのようにアイリは頬を染めて肯定してしまった。

 

「私のマスターは彼女なので、貴方のようなむさ苦しいオッサンは近付かないで下さい」

 

そう言いながらアーサー王はイリヤを抱き上げると耳元に口を寄せながら甘い声で囁く。

 

「可憐なプリンセスを護る栄誉を賜る機会を与えてはくれませんか?」

 

「はうっ!?う、うん!これからよろしくね、アーサー王!」

 

「ふふ、私の事はセイバーとお呼び下さい。プリンセス」

 

「じゃあ、わたしの事はイリヤって呼んでね!」

 

「はい、イリヤ。私は貴女を守り通すことを誓いましょう」

 

「うんっ、頼りにしてるね。セイバー!」

 

そのやり取りを見ていたアイリが慌てて二人に近付く。

 

「私っ、私の事も守ってくれるのよね!」

 

「マスター、勿論です。この身は鉄壁の盾となり貴女を守りましょう。そして、我が剣が貴女を脅かす全ての敵を屠ることでしょう」

 

セイバーはイリヤを片手で抱き上げたまま、空いている手をアイリの頬に添えると、まるで睦言のように優しく囁く。

 

そして三人は、仲睦まじい家族のように寄り添いながらその場を後にする。

 

「あれ、マスターは僕だよね?」

 

一人残された切嗣の言葉に答えてくれる者はいなかった。

 

 

 

 

アイリの魔術によって生み出された仮初めの命を持つ巨鳥。

大空を舞うその背にセイバーは見事なバランス感覚で直立していた。

 

「これはいいですね。空からの攻撃に使えそうです」

 

「それに見晴らしもサイコーだよ!」

 

セイバーにお姫様抱っこされたイリヤが楽しそうに叫ぶ。

 

「イリヤばっかりズルいわ!私もセイバーに抱っこされて空を散歩したいもん!」

 

楽しそうな二人を地面から指をくわえて見ていたアイリが我慢し切れずに騒ぎ出す。

 

「申し訳ありません。ですが、アイリには魔術の制御をして貰わないといけませんよね」

 

「そうだよー!お母様はそこでは魔術を制御しててよー!」

 

「ヤダヤダヤダーッ!!私も空の散歩をするんだもん!!魔術はイリヤだって制御できるもん!!」

 

薄情な娘の言葉にアイリはバタバタと両手を振り回して抗議の声を上げる。

 

見本のような“大人気ない大人”の姿だった。

 

「もう、仕方ないなぁ、少しだけ代わってあげるね、お母様」

 

流石にいい歳して暴れる母が恥ずかしいのか、イリヤは少し頬を染めながらアイリと交代する。

 

「きゃあっ、凄いわ、セイバー!アインツベルンの城より高く飛んでいるわ!」

 

凄まじく不安定なはずの、魔術の糸で組み上げられた巨鳥を乗りこなす技術は、流石は騎乗スキルBを誇るセイバーといえよう。

 

「もうっ、お母様ってば子供みたいで恥ずかしいなぁ」

 

「いいもーん!私は子供だもーん!」

 

「ふふ、こんな麗しい子供なら私の娘に欲しいですね」

 

「セイバーと親子だなんて……いいかもっ!!」

 

「ずっるーい!!わたしもセイバーの娘になるもん!!」

 

「ダメでーす。イリヤは私の娘だからセイバーの娘にはなれませーん」

 

「うぎぎっ、こんな子供なお母様はやだーっ!!」

 

「我が儘はダメよ。イリヤ」

 

「突然、真面目な顔と声になっても説得力がゼロだよーっ!!」

 

「ふふ、本当にあなた達は仲が良いのですね」

 

「仲良し親子だもんねー!」

 

「こんな子供なお母様なんてやだよー!」

 

着実に絆を深めていくアインツベルン勢に死角はなかった。

 

「いや、僕のこと忘れてないかい?」

 

みすぼらしい男の声は誰にも届かなった。

 

 

 

 

聖杯戦争を目前に控えたある夜のことだった。

暖炉で温められた部屋でいつもの様に寛ぐ三人であったが、アイリの表情が少し固いことにセイバーは気付いた。

 

「緊張しているのですか、アイリ」

 

セイバーの言葉にハッとするアイリ。

 

「そうね。緊張していないと言えば嘘になるわね」

 

もうすぐ聖杯戦争が始まる。

そうなれば生きて帰れる保障などどこにもないのだ。

 

「聖杯としての機能はこの“銀の杯”に移しました。アイリが聖杯戦争に勝ち残れば全てが手に入ります。いえ、私が必ずやアイリを勝ち残らせてみせます」

 

アイリが聖杯だという事を聞きつけたセイバーが、アハト翁にエクスカリバーを突きつけて脅した結果、聖杯の機能は銀の杯に移される事になった。

 

最初は「脅しには決して屈さぬ!」と喚いていたアハト翁だったが、セイバーの「アイリが聖杯戦争の途中で身動き一つとれない状態になっても聖杯戦争に勝ち抜けると本気で思っているほど貴方はアホなのですか!?」この言葉にアハト翁は、ポンと手を叩くとアイリから聖杯の機能を移す事に同意した。

 

「大丈夫だよ、わたしもセイバーも絶対にお母様を勝ち残らせてここに戻ってくるんだからね」

 

イリヤがセイバーの魔力供給を担うことで、アイリは全力でセイバーの補助が出来る。

アインツベルンの魔術は錬金術に特化しており、数々の魔術礼装を始め、切嗣の影響で覚えた電子機器や近代兵器を最大限に有効活用出来ればセイバーの大きな助けになるだろう。

 

「ありがとう、セイバーそれにイリヤ。必ず三人でアインツベルンに戻って来ましょうね」

 

抱きしめ合う三人は、互いを守り合うと改めて誓うと笑顔になった。

 

「では湿っぽい話はここまでにして夕食としましょう」

 

セイバーの言葉にイリヤが率先して食堂へと向かう。

 

「今日はセイバーの好物だから期待してねー!」

 

「イリヤ、そんなに急いでは転んでしまう」

 

「そうよ、食堂へは私が先に行ってあげるからイリヤはゆっくり来なさい」

 

セイバーの言葉に足を緩めた隙にアイリがトテトテーとイリヤを追い抜いていく。

 

「お母様ってばズルいよー!わたしが先に行くんだからねー!」

 

「二人とも待ってください!本当に転んでしまいますよ!」

 

キャアキャアと楽しそうに食堂へと駆けていく三人を物陰から見つめる怪しい男がいた。

 

「僕が君達を必ず勝ち残らせてあげるよ」

 

怪しい男は切嗣だった。最近はめっきりと影が薄くなっていた。何故なら切嗣は令呪を失っていたからだ。

 

セイバーに戦術上の必要性をエクスカリバーを突きつけられながらコンコンと説明されたアハト翁によって、切嗣の令呪はアイリに移植されていた。

そして魔力供給はイリアが行えるようにと細工が施された。

 

「うん、令呪があろうと無かろうと僕がすることに変わりはない」

 

かつて世界中で恐れられた男。

 

魔術師殺しと呼ばれた男は、手の中のファイルを握りしめて決意を新たにする。

 

ファイルには今回の聖杯戦争に参加するだろう人間のリストが挟まれていた。そこには簡単な切嗣のコメントが記されている。

 

1:衛宮切嗣(この僕のことだ!今はアイリと書くべきなのか?)

 

2:遠坂時臣(御三家の一つ。宝石魔術の大家。うっかり病の保菌者)

 

3:間桐雁夜(御三家の一つ。恐るべき魔術師。要注意人物)

 

4:言峰綺礼(元代行者。遠坂時臣の弟子。遠坂との同盟を組んでいる可能性大)

 

5:ウェイバー・ベルベット(時計塔の神童。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの秘蔵っ子)

 

6:不明(候補者なし)

 

7:ダイアナ・リース(ヤバいリース家だ!?サーヴァントだけを狙う!!絶対に近付くな!!この依頼やっぱり降りていい?ダメ?やっぱり…はぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 




魔術師にとっての天敵。
魔術師殺しの切嗣登場です。
純粋な魔術師のメアりんは当然として、ダイアナも魔術師だからきっとピンチだっ!!
そしてっ、最後の参加者は誰なのかっ!!
次回も頑張ります!!


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