やるからには最後までやりますけど。
アリサが極東に来てから約一週間。
レンタも大分馴染み、神機使いとしても風格を持ち始めていた。
アリサは相変わらず馴染めずにはいるが、リンドウに頼まれたことをちゃんとこなすべくレンタは毎日気にかけていた。
「あ、おはよう」
「おー、昨日もお疲れだったなー」
今こうして考えると、コウタと面と向かって話すのは久しぶりな気がする。
そんなことを考えながら、エレベーターのボタンを押す。
「まぁね。
なんでかは未だよく理解してないけど、アリサの事を気にかけてるわけだしね」
「あれ?
理由は聞いたんじゃなかったのか?」
「ああ...そうだったな。
正確に言えば、まだ納得してないって言ったほうがいいかな?
俺なんかよりサクヤさんとかの方が面倒見は良さそうだし、同じ女性だから共感も得られやすいだろ?
それに加えて、俺とアリサの共通点なんて新型同士て事くらいだし...」
「うーん...
まぁでも、リンドウさんが頼むんだったらなんか理由があるだろ!
リンドウさんを信じてる俺の事を信じろ!」
「はは、そうさせてもらうよ。
さて、と...今日も任務だな」
久方ぶりに1番馴染みのある人と話せたからか、レンタの朝のテンションとしては少しだけ高いくらいになっている。
任務やアリサのこと、それ以外の事(レンタが勝手に吹っ掛けたことは置いておく)も含め、レンタにはやることが山積みである。
それでも挫けずに頑張れているのは、自身の目標と周囲の環境によるものだろう。
リンドウやサクヤ、エリックはよく気にかけてくれるし、コウタはどんな時でも気さくにしていてくれる。
この事が、レンタのメンタルを少なからず救っているのだ。
「...ん?」
エントランスに着くと、そこはいつもよりも騒がしかった。
...否、ここ一週間の事を考えると、これが『いつも通り』なのかもしれないが。
「おいおい、そういう言い方はないんじゃないかな。
僕だって華麗に戦っていたんだよ?」
「なんですか、華麗華麗って言ってるだけで、大して役に立っていませんよ?」
「なっ...!
僕の動きが華麗じゃないとでも!?」
「ええ、そうです」
「ぐぬぬ...」
アリサとエリックが言い争いをしている。
ちなみに、この2人が衝突するのはこれで5回目だ。
5回目だが...内容はどれも同じような感じである。
「...」
「なぁ、止めなくていいのか?」
「あれは...いいんじゃ、ないかな...?
う、うーん...」
レンタが酷く悩んだ様な顔になる。
とても失礼な事だが、2人とも同時に絡むとなると非常に面倒な事になるのだ。
片方は自分がいかに華麗で、もう片方がそうでないかを語り、さらにもう片方は自分がいかに洗礼されているかを語り、もう片方はまるで無能というような言葉を発する。
エリックの方は自分に仲良くしてくれているし、アリサの方はリンドウの手前無下に扱う事もできない。
その板挟みのような状況になれば、レンタの兎よりも繊細なメンタルがどうなるかは想像に難しくない。
「...はぁ、止めなきゃダメだよな」
「おう。
頑張れよ!」
ニカっと顔でサムズアップをしながら見送るコウタ。
どうやら面倒ごとはごめんらしい、薄情な友人である。
「あ、あの...」
「ん?
あぁ、レンタクンか。
聞いてくれよ、この子が僕の事を華麗じゃないと言ってくるんだ。
そんな事はないだろう?」
「何言ってるんですか。
この人がダメだからダメだと伝えただけなんです。
私は特に何もしていません、そうですよね?」
「え、えっと...」
レンタの顔が急に青ざめる。
それを見て気を悪くしたのか、2人がさらに詰め寄る。
「まさか華麗じゃないと言うつもりじゃないだろうね?
この子なんかより僕の方が華麗で洗礼されているはずだ」
「寝言は寝て言ってくださいよ。
レンタさん、私の方が優秀で洗礼されてますよね?」
「えーっと...」
「さっきからなんなんだい?
分かりきった答えを躊躇う必要はないだろう?」
「さぁ、どっちが優秀なのか決めてくださいよ!」
「う...後ろ...」
「「後ろ?」」
レンタがエリック達の背後を指差しながら言うと、エリックとアリサが訝しげにしながらも振り向く。
すると、そこには...
「ならばもっと華麗で、もっと洗礼されるように訓練を一からやり直してみるか?
...エリック・デア=フォーゲルヴァイデ、アリサ・イリニーチナ・アミエーラ?」
般若のような形相をしたツバキが仁王立ちしていた。
今度はエリック達が青ざめる番であった。
「あ...こ、こんにちはツバキ上官殿...ご機嫌麗しゅう」
「ほぅ、流石に良いところの息子だけあってそういう
だが...私には意味を成さないぞ?」
「わ、私はただ昨日の任務の指摘をしただけです!
特に何もしていません!」
「ならばお前は5回も先輩に対する敬意を欠いたわけだ。
覚悟はできているんだろうな?」
「え、えーっと...」
「レンタ、お前もお前だ。
自分のするべきことはちゃんとしろ。
そうやってうじうじしているだけでは何も起こらんぞ」
「面目無い...」
「決まりだ。
三人ともみっちり根性を叩き直してやる、付いて来い」
「そんな殺生な!」
「か、華麗じゃない...根性なんて...」
「私は大丈夫ですって!」
「問答無用だ!」
三人が首根っこを掴まれながら訓練所へと消えていった。
その様子を、先程あっさり見捨てたコウタと、いつの間にか観戦していたリンドウが哀れみの目線を送りながら見送ったそうな。
「2人とも後で覚えて...」
「グダグダ言ってないで歩け!」
.........
......
...
夕方。
今日の分の任務は、全て訓練のために費やされてしまった。
すっかり疲弊しきったレンタと、体力的というよりは精神的にやられている2人が座っていた。
「...あなたのせいですよ」
「な、なんで僕のせいなんだ...僕はただ華麗に舞っていただけで...」
「何言ってるんですか!
大人しく指摘を聞いていればこんなことには...」
「2人とも、落ち着いて...」
「聞き捨てならないね!
僕は君に指摘されるような華麗じゃない事はしていない!
断じてね!」
「そこがダメだって言ってるんですよ!
華麗であるかを考えて行動していたら効率の良い討伐は出来ません!」
「いやだから落ち着いて...」
「効率を求めた結果が華麗なる行動なのだ!
僕は間違っていない、僕は美しい!
ボナペティィィィィィ!」
「なんでフランス語なんですか!
しかもそれじゃあ『いただきます』ですよ!」
「あのねぇ...」
「え、えっと...
じゃあビューティフルだ!」
「どこがですか、全ッ然美しくないですよ!」
「いい加減に...」
「僕のどこが美しくないんだ!」
「全てです!」
「なっ...!
そんな事を言う君の方が美しくないね!」
「なんですか、またやろうってんですか!?」
「望むところだ!」
「しなさあぁぁぁぁぁあああい!!」
突然レンタが大声を上げるので、2人はケンカをしていた事も忘れ目をパチパチとさせる。
2人の目の前に居たのは、いつもの物腰柔らかで礼儀正しい彼ではなく、どちらかというと母親のような厳格さを持っている人間であった。
「妹にしても...リンドウさんにしても...エリックさんもアリサも...!
なんでこういつもいつも胃を痛めなくちゃならないんだ...
俺はちゃんと真面目に、平穏にやっていっていきたいだけなのに...!
止めようとした挙句、一緒に訓練させられるなんて...
ますます『ムカッ腹』が立って来たぞ...
なぜ他人のために俺がビクビク後悔して『お願い神様助けて』って感じに胃を痛めなくちゃあならないんだ?
『逆』じゃないか?
どうして、結局誰も話を聞いてくれないのに『下痢腹かかえて公衆トイレ探しているほうがズッと幸せ』って願わなくっちゃあならないんだ......?
ちがうんじゃあないか?
胃を痛めてる俺の代わりにしっかり説教を受けるのは『話を聞かない奴』ッ!
二人の方だァァーーーーッ!」
いつもの彼からは考えられない程の怒りっぷりに、二人は完全に萎縮する。
エリックはともかくとして、高飛車なアリサまでもが怯えている。
(え...?
まさかレンタクン相当怒ってる?)
(えっ、えっ!?
この人って怒るとこんなになるの!?)
「いいでしょう...
二人とも、そんなに華麗で洗礼されたければ俺が『訓練』に付き合いますよ」
「れ、レンタクン!
落ち着いてくれたまえ!」
「『落ち着け』?『落ち着け』と言いましたか?
エリックさんもアリサも、俺が『落ち着け』と言ってただの一度でも落ち着いてくれた事がありますか?
昨日も、一昨日もその前も!
俺の『落ち着け』はことごとく無視してきましたよね!?」
「そ、それは...その...
けど、訓練ならもう終わったじゃないですか!」
「安心してください、そんなに辛い訓練じゃありませんから『落ち着いて』ください」
「...」
結局この後、深夜の0時を回るまでみっちり『訓練』させられたそうな。
.........
......
...
〜おまけ〜
「リンドウさん、コウタ」
「おお、昨日は災難だったなー、逃げちゃって悪い悪い」
「そんな事より、ちょっと訓練所行きませんか?」
「はぁ?
訓練所ってお前、俺は神機使いになって大分経つぞ?」
「そうだ、カノンさんもどうですか?
誤射率下げる訓練でも」
「ぜ、ぜひお願いします!教官先生!」
「うんうん、カノンさんみたいな素直な人だったら胃が痛まなくて済むし、訓練のし甲斐があるなー」
「おいおい、俺は...」
「さて、リンドウさん。
い い で す よ ね ?」
「ちょ、タンマタンマ!
昨日見捨てたのは悪かった、謝るからぁあ!」
「待て、なんで俺まで巻き込まれてんだ!?
あ、姉上を止めなかったことはすまなかったと思ってるが、俺だって姉上には逆らえな...
さ、サクヤぁぁぁあ!助けてくれぇえ!後輩君が怖いぞぉぉお...」
翌日より、レンタの服用する胃薬の量はとても減りましたとさ。
なんかまた番外みたいな感じになってしまいましたね。
レンタクンが暴走しました。
Next→『狼の叫び声』