Blood-G   作:Рей Самар

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蒼穹の月


終焉の時“蒼穹の月"

「...コンゴウ二体の討伐、ですね?」

「えぇ、なんてことはないただの任務よ。

...病み上がりだし、無理はしないような任務がいいと思ってね」

「そうですか...心遣いありがとうございます」

「ふふ、そんな堅くならなくてもいいじゃない」

「す、すみません...

なんか、一週間ぶりだったんでよくわかんなくなってしまって...」

「いいのよ、私にもあったしね。

それじゃあリンドウ、私たちは行ってくるから...アリサをしっかりね」

「へいへい、しっかりやらせていただきますよ」

 

これから第一部隊は、サクヤを隊長としたレンタ、コウタ、ソーマ班と、リンドウとアリサの班にわかれて任務を行う。

レンタは病み上がりということもあり、比較的簡単なコンゴウの討伐任務に当たる、というわけだ。

 

「...おい、レンタ」

「はい?」

「...いや、なんでもねぇ。

久し振りとはいえコンゴウだし、気は抜くなよ」

「...?

はい、わかりました」

 

リンドウの様子に少し引っかかるところがあったレンタだが、深くは追求せずに出撃ゲートへと向かう。

 

...その日の空には、青空の中に月が浮かんでいた。

 

.........

......

...

 

「くたばれっ!」

「当たれ!」

 

ソーマとコウタの連撃により、コンゴウが苦しそうな声を上げる。

銃撃によって片足を引きずりながら移動することを余儀なくされたコンゴウは、悲痛な声を上げながらも必死にその場を離れようと身をよじる。

一歩、また一歩と動く度に鮮血が吹き出し、あたりを汚していく。

そう長くは持たないであろうコンゴウを、レンタのフロレントが容赦なく切り刻む。

 

「ギャァアアアアアアアア!」

「うっさいな...こ、のっ!」

 

更に二、三度斬撃を加えると、今度はその腕の筋肉を引き裂き、自慢の剛腕は全く使い物にならなくなってしまった。

それでもなお生きようと必死にもがき苦しむその様を、レンタはとても冷めたような表情で見ていた。

 

ーこのコンゴウは、一体どれだけの人の命を奪ったのだろう。

その人達も、同じように生きようと必死になっていただろうなー

 

そんなことを考えながらも、余計なことだと頭から振り払い、一気に刀身を頭部に突き刺しトドメを刺す。

数回痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。

 

.........

......

...

 

「ふぅ...結構やれるようになってきました」

「うんうん、最初の頃に比べて凄くよくなってるわよ、あなた。

今じゃすっごく頼もしいわ」

「...まぁ、だいぶマシになってきやがったか」

「へへん、俺だって実力つけてんだぜ、レンタ!」

「そんなのはわかってるよ、コウタだって十分すごいさ」

「おお、なんかこう素直に言われると普通に恥ずかしいもんだな...」

「...気は抜くんじゃねぇぞ。

まだ一体残ってるんだからな」

「はい、わかっています」

「おっし、それじゃあとっととやっちまおうぜ!」

「あんまり無茶はしすぎないようにね」

 

サクヤがコウタを諭しつつ先導していく。

贖罪の街には様々なポイントが存在するが...その中でも特にコンゴウが集まりやすい傾向にある教会へと向かうことにした。

 

...歯車が、動き始める。

 

.........

......

...

 

「...これはいよいよキナ臭くなってきたな...」

 

第一部隊の隊長である雨宮リンドウは、作戦地点をアリサと共に歩いていた。

だが、長い経験の中でも感じたことのないような怪しい空気...

経験によるカンなのか、それともゴッドイーターとして殺気にも似た不穏な空気を察知したのか...

リンドウの神機を持つ手が自然と強張る。

...それは、アリサもまた同様であった。

 

「...」

 

脳裏に写る、医務室のような場所...

その隣に、ある男の姿も思い浮かぶが、それをハッキリと思い出すことはできない...

そして何より、急に浮かんできた人面のアラガミ...

コレの正体が何なのかわからず、アリサの表情が硬くなる。

一つがけハッキリとしているのは...このアラガミに対しての、恐怖と憎悪であった。

 

「...どうかしたか?」

「あ...い、いえ、問題ありません。

側面、後方、共にクリアです」

「......そうか、進むぞ」

 

先導を続けながら警戒をするリンドウ。

アリサの脳裏には先程の映像が断片的に流れているが、それが何かまではわからず、無駄な緊張感を身体中に巡らせてしまっている。

 

...そして、標的を探して二人が辿り着いたのは教会(・・)であった。

その更に視線の向こうには...サクヤ達の班員がいた。

 

「なに...?」

 

思わずソーマから困惑の声が出る。

それは、その場にいた他の者も同様であった。

 

「あれ、リンドウさん...なんでここに?」

「...」

「どうして同一区画に二つのチームが...どういうこと?」

 

サクヤがリンドウに詰め寄り、事情を聞こうとするが、リンドウはそれを軽く躱してこの場にいる全員に告げる。

 

「考えるのは後にしよう。

まずは任務を終わらせる」

「...わかったわ。

皆、教会の前を警戒するわよ」

「よし、アリサ、行くぞ」

「...はい」

 

リンドウとアリサが教会内部へ侵入する。

レンタ達はサクヤの指示通りに教会の前を確保し、警戒をしている。

 

「...っ!」

 

甲高い叫び声と共に、青白い女神像のような顔をしたヴァジュラ型のアラガミが現れた。

経験の浅いアリサはともかくとして、ベテランのリンドウでも確認したことのない、所謂新種であった。

...相手の能力がわからない以上、アリサに前衛を任せるのは危険と判断したのか、リンドウが率先して前に出てアリサに対して命令を下す。

 

「アリサ!お前は後方でバックアップだ!わかったな!?」

「...あ...ぁ...」

 

しかし、その声はアリサには届いていなかった。

アリサは大きく目を見開きながら、徐々に後ずさりしていく。

流石に様子がおかしいと感じ取ったのか、新種のヴァジュラの爪を紙一重でかわしながらアリサに叫ぶリンドウ。

 

「アリサぁ!どうしたぁ!?」

「パパ...ママ...やめて...食べないで...!」

 

один(アジン)...

 

два(ドゥーバー)...

 

три(トゥリー)...

 

アリサの脳内に、ある言葉が浮かんでくる。

それを聞いたアリサの様子が、更におかしくなる。

その銃口を...リンドウの元へ向ける程度には。

 

更に浮かぶのは、あったかどうかすら不明の奇妙な記憶...

 

.........

......

...

 

『こう言いながら引き金を引くんだ...

один(アジン)...два(ドゥーバー)...три(トゥリー)...』

один(アジン)...два(ドゥーバー)...три(トゥリー)...』

『そうだよ。

それを唱えるだけで、君は強くなれるんだ』

 

...

......

.........

 

один(アジン)...два(ドゥーバー)...три(トゥリー)...」

 

静かに、銃口をリンドウへ向ける。

目からは既にハイライトが消え失せており、正常な精神状態ではないことは明らかであった。

...すると、

 

「リンドウさん!」

「レンタ!?

なんできやがった!?」

「アリサの様子がおかしかったので...

バックアップします!」

「...わかった、後方支援を頼む!」

「はい!」

 

レンタがやってきて、リンドウの援護をする。

...その姿を見た瞬間、浮かんでくるのはあの言葉。

 

.........

......

...

 

『...リンドウさんがそこまで入れ込むんでしたら悪い子じゃないんですよね』

『あの子のこと、信じてみます』

 

『混乱しちまった時はな、空を見るんだ』

 

...

......

.........

 

様々な言葉が、情景が、人が物が者がモノがものが何かが浮かんで消えて浮かんで消えて浮かんで浮かんで浮かんで浮かんで浮かんで浮かんで

 

「っ!

いやぁあああああ!やめてぇぇええええ!」

 

銃口はリンドウではなく、天井を貫いていた。

...空には相変わらず、真っ白な月が浮かんでいる。

 

.........

......

...

 

「あなた、一体何を!?」

 

サクヤが物音を聞きつけてやってくる。

だがそこには、リンドウとレンタのいる所へ続く道が瓦礫でふさがっている所と、放心状態のアリサがいるのみであった。

 

「違う...違うの...

パパ...ママ...ごめんなさい...!」

「くっ...!」

 

サクヤが瓦礫に向かって銃弾を撃ち込むが、ビクともせずに瓦礫はそのままでいる。

焦ったように何度も撃ち込むが、結果は同じである。

...その頃、入り口付近では...

 

「マズイ...こっちも囲まれてやがる!」

 

ソーマが悪態を吐く。

二人を囲っているのは、現在リンドウとレンタが交戦している新種のヴァジュラと同じ姿のアラガミである。

だが囲まれているため何もできず、コウタと共に睨み合っているだけである。

...が、そのうちの1匹が隙を見計らったようにコウタを殴り倒す。

 

「ぐっ!」

 

短い悲鳴をあげながら床に叩きつけられるコウタ。

その様子を見て、サクヤが悔しそうな表情を浮かべながらも新種のヴァジュラに対しての銃撃をする。

それを合図にしたかのように、ヴァジュラ達も一斉に襲いかかってくる。

コウタ達も必死に応戦するが、通常のヴァジュラ以上の力を持つそれに押されつつある。

 

「...サクヤ!」

「っ!?」

 

内部のリンドウから声をかけてくる。

まだ斬撃の音が聞こえる所を見ると、どうやら交戦中であることに変わりはないようだ。

 

「今すぐそいつらを連れてとっとと逃げろ!」

「で、でも...」

「サクヤ、これは命令だ。

全員、絶対無事に生きて帰れ!

ソーマ!退路を開け!

コウタとサクヤはソーマの援護だ!」

「いやぁああ!」

 

とうとう抑えきれなくなったようにサクヤが悲鳴を上げる。

その声にコウタは一瞬止めるのと躊躇ってしまうが、しっかりと腕を掴んでからサクヤに叫ぶ。

 

「サクヤさん、行こう!

このままじゃ全員、共倒れだよ!

...レンタ!」

「なに!?」

「絶対帰ってこいよ!

死んだら許さねーからな!」

「はは、それじゃあバガラリーってアニメ、楽しみに待ってるからテレビの画面でもつけて部屋で待機してろよ!」

「...馬鹿野郎!当たり前だろ!」

 

軽口を叩いてはいるものの、コウタの顔は今すぐにでもこの瓦礫を壊して援護をしに行きたいという表情がわかりやすく出ていた。

...コウタとて、レンタやリンドウを見殺しにはしたくはないのだ...

だが、それでもそうせざるをえないことに、コウタの顔が更に歪む。

 

...空の月は、すっかり雲に隠れてしまった。

 

.........

......

...

 

数分後。

 

「はぁ...はぁ...」

「粗方片付いた...か」

「...そうでもないようですよ」

 

レンタが指を指した方向には、漆黒の毛に身を包んだ新たなヴァジュラが仁王立ちをしていた。

その王者たる風格は、まるで先程のヴァジュラ達を殺した粛清をせんとばかりにものであった。

 

「...はぁ...ちょっとくらい休憩させてくれよ...

身体が持たないぜ...」

「さて、と...

リンドウさん、もう少し休憩してますか?

俺は向こうがやる気満々なようなので、もうやりますよ」

「はは、元気があっていいねぇ...

俺だってやるさ...

おい、新入り」

「はい?」

「背中は、任せたぜ」

「はぁ...特別手当貰いますよ」

「...検討しとこう」

 

投げ捨てられたタバコが、静かに跳ねる。

それを背景に、リンドウとレンタは漆黒のアラガミに向かって歩みを進める。

二人の表情には、不思議と迷いだけはなかった。

 

...歯車が、回り始めた。

 




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