「ねぇ! テオってば!」
「……」
「テオー? 聞こえてるー?」
「……なんだよ」
チラリと壁にかけてある時計を見れば深夜2時。そんな夜遅くにエフィは俺を起こした。
「眠れないの!」
「……あぁ?」
思わず、エフィの方を睨んでしまう。まさかそんな理由で起こされるとは思わなかったからだ。しかし、エフィも俺の眼光に慣れてしまったのかニコニコ笑って俺にのしかかって来る。
「重い」
「何かしてあそぼ!」
「……寝ろ」
「眠れないの!」
駄目だ。会話が成立しない。
(全く……)
かれこれエフィが産まれてから2年ほど経つが中身はほとんど変わってない。いや1年前、俺が嘘に憑かれてエフィに助けて貰ったあたりから余計、甘えて来るようになった。
「テオってばー」
「はいはい……わかったわかった。じゃあ、なぞなぞ出すぞ」
面倒なのでとびきり難しいのを出してやろう。そして、朝になるまで悩めばいい。
「ばっちこい!」
そんな俺の思惑に気付かず、エフィは『ふんす』と鼻息を荒くして胸の前で両手をギュッと握った。
「問題。嘘は嘘でも食べられる嘘はなんだ?」
「嘘は食べられるよ?」
「人間がだよ。お前は特別」
「むぅ……嘘は嘘だよ?」
「だから、なぞなぞだって言ってんだろ? わかったら起こせ」
そう言って、俺はもう一度、目を閉じる。すぐ近くで唸っているエフィなど無視して。
「ん……」
カーテンから差し込む朝日で目が覚めた。体を起こそうとするも何だか、お腹の辺りが重く感じて首を傾げる。
「すぅ……すぅ……」
視線をそちらに向けるとエフィが俺のお腹に頭を乗せて眠っていた。どうやら、考えている途中で眠ってしまったらしい。
「んふふ」
まだ寝惚けている意識の中、そんな彼女を見ていると幸せそうに笑うエフィ。幸せな夢でも見ているのだろうか。そう思いながら何となく、エフィの頭に手を伸ばして撫でようとしたその時――。
「テオ……大好き……」
――そんな寝言が聞こえた。
「……」
伸ばしかけていた手が一瞬だけ硬直。不意打ちは少し卑怯だと思う。
「はぁ……」
小さなため息を吐き、止まっていた手を動かしてエフィの頭を撫でる。サラサラとエフィの髪の毛が俺の手に絡みついて少しだけくすぐったい。
「……俺もだよ、エフィ」
そして、そう呟いた。
「んゆ? てお、おはよー……」
俺の呟きが耳に届いたのかエフィが目を擦りながら挨拶する。
「お、おう。おはよ」
「ふわぁ……テオ、さっき何か言ってなかった?」
「な、何でもない!」
聞かれたら恥ずかしいので顔を背けながら咄嗟に嘘を吐き、ハッとした。
「むむ? 嘘の匂い! テオ、嘘ついたでしょ!」
そう、エフィは嘘を食べるドラゴンなのだ。いつもなら嘘を吐いても(1年前にエフィに嘘は吐かないと言ったが、エフィ自身、嘘を食べないと生きていけないのでそれは例外)だいたいエフィにはばれないのだが、今回は動揺していたので俺は自分の嘘を嘘と認めてしまっていた。
「お前の朝飯として軽い嘘を吐いたんだよ。ほら、喰え」
「ホント!? わーい、ありがとー!」
ベッドの横に出現した小さな嘘をポカポカと叩いた後、パクリと食べるエフィ。その顔は先ほどと同様、幸せそうだった。
「テオ、昨日のなぞなぞの答えって何?」
もぐもぐと咀嚼しながらエフィが問いかけて来る。
「決まってるだろ? ホラ貝だ」
「んん? 食べられる嘘でしょ? どうして、ホラ貝?」
「嘘は言い換えるとホラと言う。だから、食べられる嘘。ホラ貝」
「えー! わかんないよーそんなの!」
「ほら、もう答えはわかったんだからいいだろ。支度しろ。街を出るぞ」
ベッドから降りて用意しておいた服に着替える。
「ねぇ! 次はどんな街に行くの?」
「さて、どうしようか」
こうして、俺とエフィの旅はまだまだ続くのだった。