トリオンエンジニアリング!!   作:うえうら

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一話より三話の方が面白い説ある。


第一部 第一章 八宮隊結成まで
01 面接・内定・副作用


八宮(はちみや)さん、まずは、自己PRをしたまえ」

 僕の目の前で、三人の男性が高価そうな椅子に腰かけている。真ん中に座っていらっしゃる鋭い双眸の持ち主が、界境防衛機関(ボーダー)のトップ、城戸正宗に違いない。向かって右に腰かけている少し胡散臭いというか、ニヒルな感じのオールバックが唐沢克己だと思う。そして、自己PRをするように促した、タヌキ似の壮年が鬼怒田本吉。事前に聞いた特徴と完全に一致している。

 まあ、妹からの情報が正しかったらだけど。

「はい。私は大学で情報工学、主にAR(拡張現実)を専攻しています。卒業研究では、ARによるスポーツへの視覚支援に取り組みました。また、AI研究のサークルで私は潤滑油として――」

「潤滑油は必要ないので、卒業研究についてもう少し話したまえ」

 鬼怒田さんが僕の潤滑油活動(大嘘)の、エピソードの披露を遮った。

 しまった…。いきなり、雲行きが怪しくなったぞ。城戸総司令の眉間のしわが更に深くなった気がする。こんなことしているから、いつまでも無い内定状態なのだ。

 落ち着け。僕の平常心、落ち着け。

「はい。卓球、サッカーへの視覚支援効果を持った、スポーツグラス、コンタクトレンズを作成しました。卓球のARソフトは、リアルタイムで玉の球速、回転、角速度を測定し、プレーヤーにコンマ1秒後の球の座標を知らせ、メモリに余裕があるときは、推奨の返球方法を表示させます。サッカーのARソフトは、空中の定点カメラとリンクさせ、22人の目線や玉の速度、走る速度などを加味して、一秒後のコートの様子を表示することができます。現在は瞬きの回数などで、意思の疎通を取れるように改良している所です。また、これらのソフトフェアは他のスポーツに応用させることができます。卓球のソフトはビリヤード用へと、すぐに転用できました。ただいま、人体工学を現在勉強中でして、野球への応用も考えています。もちろん、ラグビーへの応用も可能です。

 そして、これらの技術を活用し、時間を問わず三門市を守ってくださっているボーダーの隊員の戦力向上、勤務効率の向上に役立てたいと考えています。」

 

 あ、また、やってしまった。喋りすぎた…。城戸総司令の眉間のしわがさっきよりも深い。

 でも、両隣の鬼怒田さんと、唐沢さんの顔は少しほころんでいるようにも見える。妹から内部情報を聞いておいてよかった。

 城戸総司令が履歴書と自分を交互に見やり、鋭い双眸で僕を見つめる。

「希望はエンジニア部門だったな」

「は、はい」

 ふーむと、うなりながら、親指と人差し指で作った円を目のふちに当てているのは鬼怒田さんだ。ユーモアのある方なのかもしれない。

「ほう、視覚支援か。興味深い研究をやっているようだし、うちの部に欲しい」

 ナイスタヌキ!! いや、違う。ありがございます鬼怒田さん。

 これは、願ってもない援護射撃だ。

「あ、あり、ありがとうございます」

 コミュ障という負の側面を見せちゃだめだ。落ち着け、落ち着け平常心。

 

 

 ――コンッ、コンッ

 鬼怒田さんのおかげで和んだ空気をぶち壊す音がした。部屋の向こう側に付けられた扉を開けて出てきた黒髪の美人さんは、面接官の三人にコソコソと内緒話をしている。妹の話を信じるなら、彼女の名前は沢村響子だろう。

「彼が例の……」

「ほう……」

「なかなか面白いですね」

「いいじゃないか。しかしそっちには、やらんぞ」

 ボソボソと話しているが、なかなか全貌は見えてこない。悪い内容ではない気がするけれども、どうしたものだろう。

「八宮さん、君の特技の欄に”24時間働けます”とありますが、これはどう解釈したらいい?」

 これは、唐沢さんからだ。ラグビーに関連させて答えるのだ。

 目の前には内定が見えているのだ。

「は、はい。も、文字通りに解釈してください。御社のため、三門市民のため、24時間、身を粉にして働く決意と体力があります」

「やっぱり彼が例の……」

「なるほど……」

 また、ぼそぼそと話している。不安になるからやめて欲しい。

「もう一ついいかな。君はエンジニア志望だけど、こちらが他の部署を命じたら、そちらの方でも働けるかな」

「は、はい、もも、も、もちろんです。ボーダーのため、市民のため、粉骨砕身、24時間、全力を尽くす所存です」

 コミュ障がばれる、ばれちゃうよ。落ち着くんだ、平常心。

「なるほど、私からは以上です。城戸総司令、最後に何かありますか」

 城戸総司令の目つきが一段ときつくなり、とてつもない圧迫感を覚える。

近界民(ネーバー)とは、私たちにとって何だね」

「は、はい。近界民は私達の敵です。許してはおけません」

 心なしか城戸総司令の表情が和らいだような気も……。妹に聞いておいて助かった。この年になっても助けられるとは、兄として情けない。

「面接は以上だ。帰っていい」

 落ち着け、家に帰るまでが、面接なのだ。最後まで失礼のないようにしないと。

「あ、ありがとうございました。失礼します」

 そうだ、妹にメールを出しておこう、助かったと。

 

 

 

――二か月後――

 

「兄さん、おかえり」

「ああ、ただいま。今日は防衛任務ないの?」

「大丈夫ですよ、フリーのオペ仲間に代わってもらいました」

 大学の研究室から帰ると、妹の(なぎ)が迎えてくれた。凪の顔を見ると無条件で安心できる。コミュ障気質の僕が落ち着いていられる場所は、家族とディスプレイの前だけだ。

 リビングの椅子に腰かけると、凪もテーブルを挟んで向こう側に腰を下ろした。凪の表情はニヤニヤ、ニヨニヨしている。何かドッキリでもあるのだろうか。両目の下に濃いクマを持つ妹がにやけると、正直怖い。

「ボーダーの本部から封筒が来てます」

 そう言って、凪は『八宮(みさき)様』と宛名が書かれた茶色い封筒をテーブルの中央に、そっと置いた。

 ゴクリと、生唾を呑み込み、それを受け取る。

 いよいよ来たか。これを落としたら、とうとう後がなくなる。妹を一人置いて、県外の中小企業へ就職することになってしまうのだ。凪はまだ、高校二年生。母さんのこともあるし、できるだけそばにいてやりたい。

 突き出された封筒には『本人以外開封厳禁』と判が押されており、嫌でも厳かな気にさせられる。ぺりぺりと『封』をはがし、一番手前の紙を一枚だけ封筒から取り出す。お祈りをもらいすぎて、封筒の中のどこに自分の合否が記してあるのかわかるようになってしまった。情けないなあ、僕。

 取り出したA4サイズの紙をまじまじと見る。

 もう一度しっかりと確認しよう。

 僕は騙されない、隅々まで目を走らせる。

 夢かもしれない、再確認だ。

 最終確認、これで大丈夫なら大丈夫。

    ・

    ・

「通ってる……、凪、内定だよ!」

「兄さん、よかったですね。これも私のおかげですね。――って、兄さん手をつかんで、振り回さないでください。外から帰って来たとき、洗ってないですよ」

 おっと、年甲斐もなく舞い上がってしまった。だが、内定の二文字が目の前にあるのだから、凪の手をとるくらい多めに見てもらいたい。全国の4回生の皆様方にはわかってもらえると思う。

「兄さん、いつまで手を握っているんですか。早く洗ってきてください。コミュ障がうつります」

「ああ、すまない、すまない」

 たかが手を握るくらいに、過敏に反応しすぎではなかろうか。それと凪さん、あまり顔をいからせないでください、目の下のクマが濃いのでちょっと怖いです。あと、決してうつりません。

 頬をすこし膨らませた凪に踵を返して、洗面台へ向かう。

 蛇口を捻り流水が出るのと同時に、後方から凪の声が聞こえてきた。水力学にのっとって洗面台に反射する水の音が、後方からの空気の振動をかき乱す。

「兄さん、よかったです……」

 何かをかみしめているような、そんな声音。

「ああ、本当によかったよ」

「兄さん、県外ならいくつか受かっていたのに、無理して三門市周辺で探すから」

「いやー、一時はマジで焦りました」

「嬉しいです。お母さんは病院へ行ったきりですし、その上兄さんまでここから離れると思うと、心細くて……」

「大丈夫、大丈夫、なんとかなったんだから。それにボーダーだろ、これなら、今まで以上に凪と一緒にいられるじゃん」

「に、にに、兄さん! 平然と恥ずかしいことを言わないでください」

「そ、その、私もよかったです。兄さんが遠くに行かなくてすんで…」

「あの、兄さんがB級にあがってきたら、その、一緒に隊を組み…なんて」

  ・

  ・

  ・

  ・

 少しの沈黙。

「あ、ごめん。手洗ってる途中でよく聞こえなかった。戻ったらもう一度聞かせて」

「こ、ここ、こここ、このバカにい!!。もう知らない。寝る!」

「夕ご飯できたら、起こしてください。バカ兄さん!」

 ドスドスと階段を踏みしめる音がする。家全体が揺れるほどに、勢いよく閉められた扉の音も。

 凪さん、ごめんなさい。全部聞こえてきました。ゆでだこのように真っ赤になった自分が鏡にいて、とても振り返れなかったんです。チキンな兄を許してください。

 一緒の隊になって、おそろいの隊服を着て、手を取り合って活躍する姿、テレビに映る嵐山隊みたいにね。そんな妄想をしていたら、顔から火がでてしまったんです。チキンな兄を許してください。

 でも、僕はたぶん、エンジニアだしな。おそろいの隊服を着ることはないだろう。そう思うと、すこし、いや、かなり寂しい。

 さて、どうやって、凪のごきげんを取ろうか。コンビニスイーツくらいで手を打ってもらいたいところである。

 

 

 

「兄さん、本当に料理上手になりましたね。オムライス美味しいです」

 スプーンに乗せた玉子とチキンライスをまじまじと見ながら、凪は感嘆の言葉をもらした。この程度で機嫌がよくなるなら、お安いごようである。

「まあ、料理は理系の範疇だからね。むしろ、文系よりも理系なんだ。材料をしっかり量って、時間を計って、フローチャート通りに作れば大抵の料理は美味しく作れるよ。まあ、僕には練習する時間が必要以上に、たくさんあったからね。さて、そもそも、科学というのは台所から始まったと言われていて、その起源は火の起こりまで遡るんだ。料理の基本は熱交換だからね。フライパンも冷蔵庫も、あ、電子レンジは――」

「に、兄さん! コミュ障丸出しですね。私の前でならいいですけど、職場ではやめてくださいね。首にされても知りませんよ。」

 ああ、悪い癖がでてしまった。この癖のせいで面接をいくつおじゃんにしてきたのだろうか。状態異常:コミュ障への憎悪がふつふつと沸く。

 まあ、そんな憎悪も消し飛ぶほどにオムライスはよくできていたわけで、二人そろってあっという間に完食。

「ごちそうさまです、兄さん」

「はい、お粗末さま」

「あ、兄さん。内定祝いにケーキがあります。どうぞ、おめでどうございます」

 目の前に、二つのショートケーキが綺麗に並べられた。これは、嬉しいサプライズである。777(スリーセブン)のシュークリームは明日にお預けだ。このショートケーキにはコンビニスイーツはおろか、一流のパティシエも敵うまい。

「あ、ありがとう」

 たぶん、僕は今、ゆでだこ状態だ。あまり顔を見られたくない。凪はニヤニヤ、ニヨニヨしてるのだろう、まともに顔をみられない。

「じゃ、じゃあ、内定の喜びを噛みしめるためにも内定の通知を見ながら食べようか」

 こうすれば、顔を見ずに済む。コミュ障歴の長い僕は顔を見ずに済ませる101の方法を熟知しているのだ。

 すると、持ち上げた封筒から、ヒラヒラと一枚の紙が落ちてきた。凪がそれを拾う。

「兄さん、これ、『注意事項、熟読されたし』ってあります」

 凪からそれを受け取り、よく読む。

 “熟読されたし”、もう一度読む。

 念のためだもう一度読む。

 くどいぞ、最終確認だ。

「凪、読んでまとめたから、ちょっと聞いててね」

 凪の注意を引いてから、要約して話す。

    

『注意事項、熟読されたし』

・まずは、内定おめでとうございます。

・トリオンに関する機密の漏洩が確認された場合、記憶の封印処置を取ります。

・あなたの面接での言葉を重く受け止め、文字通り、昼夜問わず勤務していただきたいと当方考えております。※勤務体系、給与体系は別紙参照

・本部開発室、トリオン工学事業部、トリガー開発課でのエンジニアリング、及び、防衛任務の職をあてます。

・つきましては、その勤務体系を可能にする、あなたの『副作用(サイドエフェクト)』について説明がありますので、近日中にボーダー本部へお越しください。※別紙のリーフレットをよく読みこんでから来ること。

                ――S県 三門市 界境防衛機関本部 総務第一課

 

 

 

 「に、兄さん!? サイドエフェクトあるの!!??」

 「ボ、ボボ、ボーダーって、ブラック企業!?」

 




長々とすみません。
読んでいただきありがとうございました。
八宮君のうざさは3話くらいから大分改善されます。

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